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「試しの大地  第2話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-01-12 16:02)
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第2話   「お口にとろける…」


土曜日 千歳空港駐車場


雪代と名乗る女性に案内された駐車場で横島は軽い当惑を感じていた。

「あの?どうなさいました?」

困惑の表情を浮かべる彼におずおずと尋ねてくる雪代に慌てて返事をする。

「いや…雪代さんのイメージに合わない車だなぁ…と」

横島の目の前にあるのは大型の4WD。妙齢の女性が乗るにはふさわしくないように感じる。そんな彼にニッコリと笑いながらも雪代は4WDのドアを開けた。

「あら北海道は雪が多いですから女性でもこういう車を運転している人多いんですよ。内地の方には珍しいのでしょうか?」

「あ、そうなんすか?」

「はい。そうなんです。あ、それと…」

「はい?」

「私のことは「霧香」と呼んでくださって結構ですよ。」

「え?あ、でも年上の女性を呼び捨てするのは失礼っすから…」

「まあ!女性に年のことを言うほうが失礼だと思いますけど?」

悪戯っぽい笑顔をを浮かべながら抗議する霧香に「あ、すんません」と頭を掻く横島。
とりあえず促されるままに4WDの助手席に乗り込もうとするが、ふと大事なことを思い出して立ち止まる。

「あら?どうかなさいました?横島さん」

「あ、いえ…隊長に着いたと連絡するの忘れていたもんすから…。公衆電話どこっすかね?」

「あ、それなら先ほど私が連絡しておきましたわ。心配ありませんよ。」

「あ、そうですか。じゃあいいかな?」

「先生!拙者お腹が空いたでござる。」

いつものように場の空気を読まないシロの言葉に「お前なぁ…」と苦笑しながらも、彼女に勧められるままに助手席に乗り込む。それを見届けて運転席についた霧香が後ろに乗ったシロタマに聞いた。

「キツネさんと狼さんは何を食べたいですか?」

「肉っ!!」

「タマモでいいわ。私はお揚げね…」

「拙者もシロと呼んでくだされ!!」

きっぱりと返事するシロとクールなまま希望を伝えるタマモ、霧香はそんな少女たちに笑顔で頷くと、助手席の横島にも「ご希望はありますか?」と聞いた。

「そうっすね〜。やっぱ北海道ですからラーメンっすかね?」

「あら、北海道でラーメンと言っても色々あるんですよ?」

「そうなんすか?」

「はい。有名な札幌ラーメンの他に、豚骨醤油風味の旭川、魚出汁の釧路と色々ありますわ。」

「あ〜。なんでもいいっす。」

「肉がいいでござるっ!!」

「…お揚げ…」

後ろで再び希望を言うシロタマに横島はもう収集がつかないんやないか?と思った。

「そうですねぇ…皆さんの希望になるべく沿うとなると…」

しばらく考えていた霧香だったが、ポンと手を打つと彼らに向き直った。

「ちょっと遠いですけどかまいませんか?その代わり私がご馳走しちゃいますから!」

「いいっすよ。」、「拙者もかまわんでござる!」、「いいわ」

上手いものがタダで食えるならと速やかに同意する横島とシロタマだったが…


この判断を彼らはすぐに後悔することになる…


土曜日 京都高級ホテル

なんだかんだ言いつつも横島たちのことが気になる令子。
とりあえず宿舎と定めたホテルに到着し、おキヌが入れてくれたお茶を飲んで一息つくと母に連絡してみた。
受付を経てしばらく待たされた後で美智恵が電話に出る。

「あ、ママ。私たちはさっき着いて落ち着いたところ」

(…)

いつもと微妙に違う美智恵の返答に何か嫌な予感を覚える。

「あの…それで横島君たちから連絡入った?」

(…)

「え?わからなくなったってどういう意味よ!」

(…)

「そう…じゃあその片桐って人が探してくれているのね…」

(…)

「え?携帯?あいつそんなもの持ってないわよ!」

(…)

「そんなこと言ったって、あいつに金やったってどうせ…」

(…!)

「はいはい!わかったわよ!!帰ったら早速持たせるわよっ!!」

(…)

「ん…じ、じゃあ何かわかったら連絡ちょうだい!え?仕事は明日だから今日は下調べだけよ…」

(…)


「じゃあママ、お願いよっ!!うん、今日は何時でもいいわ」

(…)

「うん…じゃあまたね…」

ピッと通話を切って考え込む令子におキヌが心配を隠しきれない様子で話しかけた。

「あの…美神さん?横島さんたちに何かあったんですか?」

「ん?あのバカたち迷子になっているんだって…」

「ええぇぇぇっ?」

驚き、ドアに向けて走り出そうとするおキヌを苦笑交じりに令子は止める。

「そんなに心配することないわよ。どうせシロが物珍しくて走りわっちゃってて列車に乗り遅れたとかそんなところでしょ」

「でも…」

「大丈夫…何かあったらママのところに連絡が来るわ。何も無いってのは無事な証拠よ!」

「そうです…よね。」

どこか自分を無理矢理納得させようとしているような令子の言葉におキヌも不承不承うなずく。
令子はそんな彼女と自分に対して気合をいれるかのごとく、宿泊案内に書かれているメニューを指差した。

「ええ、私たちはやることやって早く帰りましょ!そのためにはまず腹ごしらえよ!!ここの懐石は美味しいんだから!」

「はい…」

「あ〜もう、そんな顔しないのっ!さ、とりあえず温泉に行くわよ!」

そしてポンとおキヌに宿の浴衣を投げわたし、自分も着替えるべく上着を脱いだ。
適温に設定されているはずの客室の中で、令子の体はかすかに震えたが自分の着替えに集中しているおキヌはそれに気がつかなかった。


土曜日 道央自動車道

高速道路を快調に飛ばす霧香の運転する4WD。
とは言っても法定速度を守った安全運転である。
初夏の北海道の光景が窓の外を流れる。
天気といい、広々とした光景といい、ドライブだとすればかなり快適なものだった。

が、助手席の横島と後部座席のシロタマは心中に沸き起こる違和感を押さえきれないでいる。
たまりかねて横島が霧香に聞く。

「あの…雪代さん?」

「霧香でよろしいですってば横島さん…」

高速を慣れた様子で運転しながら答える霧香に「はあ…」と気の抜けた返事をしながらもとりあえず話を進める。

「えーと…霧香さん?」

「はい?なんでしょうか」

「あの…まだですか?食事する場所まで…」

「ええ、まだもうちょっとかかりますね。」

「そ、そうすっか…」

あまりしつこく聞くと催促しているみたいで格好が悪いと思い、もう少し我慢しようと考え直す横島。

後部座席から聞こえてくるのは…

グーーーーーーー
クウゥーーーーー

何やら風情の無い虫の音。
見れば空腹のためにすっかり意気消沈しているシロと真っ赤な顔でお腹を押さえているタマモの姿。
思わず苦笑を漏らす横島をタマモが睨みつける。

「何笑っているのよっ!」

「あ、いや別に…なんか可愛いなと思って…」

「な?バカなこと言わないでっ!!燃やすわよっ!!」

「バカっ!車の中で狐火だすなっ!!」

腹の音を聞かれたせいか、それとも別な理由か、顔を朱に染めて狐火を出そうとするタマモを慌てて止める。
そんな彼らの様子をクスクスと笑いながら見ていた霧香がとんでもない発言をした。

「ごめんなさいね。シロちゃんとタマモちゃん。もう少しだから我慢してね。そうね…あと300kmぐらいだからね。その代わりお姉さんいっぱいご馳走しちゃうから…」

「「「え゛…」」」

硬直する美神事務所のメンバーたち…

彼らは北海道人の「あと少し」という言葉を舐めていた。
「ちょっと隣町まで」と言いながら100kmを移動する道民にとって「すこし遠い」とはどのくらいになるのか…。

白い灰と化しつつある彼らを乗せた車は道東自動車道への分岐へと入った。


土曜日 都内Gメン本部

デスクに頬杖をついて考え込む美智恵の前にある卓上電話が耳障りな音を立てる。
応答すれば道警から報告であった。
思わず受話器を持つ美智恵の手に汗が滲む。

「はい。美神美智恵です。ああ、片桐さん?本当にごめんなさいね…」

(…)

「え!横島君たちを見た人が見つかったんですか?!」

道警の片桐が千歳空港に問い合わせたのか、とりあえず北海道には無事についていたとの報告に安堵の表情を浮かべる美智恵だったが…

(…)

「はい…「白い服を着た女性と一緒に居るところを見た人…」ですか…」

(…)

「では、その後の足取りはつかめてないってことですわね。」

(…)

「なるほど…車の可能性もあるということですね…」

(…)

「はい。こちらでも調べて見ます。本当にお手数かけましてすみません…」

(…)

「はい。ではまた…」

通話が終わった受話器を電話に戻しながらしばし考える。
だが結論は出そうに無い。
この場で予測してもたいした意味は無いだろう。

「誰かが北海道に行かなきゃないかもね…」

明日以降の予定を思い浮かべながら美智恵は呟いた。


土曜日 夕張

誰が言った言葉だったか「ゴールの見えないマラソンは地獄だ」と言う言葉がある。
横島たちは空腹になる腹を宥めすかしながらその言葉を思い出していた。

後部座席から聞こえてくる色気の無い虫の音は、もはや真夏のセミの声を思い起こさせるレベルに達していた。
さすがにどこかおっとりした雰囲気の霧香も、後部座席で瀕死になりつつある少女たちの様子に気づいたのか、とりあえず一服しましょうと高速を降りて寄った一軒のドライブイン。
観光バスや乗用車が幾台も止まっている。
車から降りた横島たちはとりあえず背伸びをして外気を吸い込んだ。
それで腹が膨れるというわけではなかったが…。

初夏だと言うのに肌寒い空気が頬を刺す。
半袖シャツならかなり厳しいだろう。
美神に言われていつものGジャンの下に長袖を着てきて良かったと心から思う。
だがシロとタマモは空腹プラス薄着のせいか二人で抱き合って震えていた。

「まったく…お前ら、しょうがないなぁ…」

着ていたGジャンを二人にかけてやる。

「先生ぇ〜」と震えながら感激するシロと驚いた顔のタマモの対比が面白いと思っていた時、食べ物を調達に行っていた霧香が戻ってきた。

「お待たせしました〜」

「ああ、霧香さん。すんませ…ん…」

礼を言う横島の言葉が途中で凍りつく…。

霧香の手にあったもの…それはオレンジ色のソフトクリームだった…。

蒼白になる一同に気がつかない様子で、トトトと近寄ってきた霧香は横島たちにソフトクリームを渡す。それを呆然と受け取る横島たち。

「ごめんなさいね。待ったでしょ。これね〜大人気なもんだから人が並んじゃって…」

そう言いながら自分のソフトクリームをぺロリと舐める霧香に礼を言うことも出来ないまま立ち尽くす横島たち。
その手に握られたソフトクリームがプルプルといろんな意味で震える。

「ね、ねえ…ヨコシマ…」

「ん…なんだ…」

小声で話しかけてくるタマモにやはり小声で返す。

「これって…もしかして…嫌がらせかしら?」

「いや…単なる天然だと思う…」

「そ…そうね…悪意は感じないものね…」

「ああ」と頷く横島に「先生!これはなかなか美味しいでござるよっ!」とシロが呼びかけた。

「食っとるんか!」と驚いてそちらを見れば、霧香とにこやかに話しながら旨そうにソフトクリームを頬張るシロの姿。ただしそのカットジーンズの素足の部分には夥しい鳥肌を立てていたが…。
シロなりに霧香に気を使っているんだろうと思い当たり、弟子の配慮を師匠が無にするのも大人気ないとソフトクリームを口にしてみる。
なんというか…旨いには違いないが変わった味だった。

「あの…これって何っすか?」

「ああ、ここはメロンの産地なんです。そしてそれはメロンの果汁を加えて作ったメロンソフトですね。」

鼻の頭にクリームをつけながら答える霧香の姿に、ここにはいない誰かを思い出した横島の顔に苦笑が浮かぶ。

「そういえば、つい最近ここにも魔物が出たらしいんです」

「え?魔物でござるか?!」

驚くシロ。あたりののどかな光景と魔物という単語が結びつかなかったようだ。

「はい。なんでも「ブルァァァ!」とか言って踊りながら、保管庫のメロンを食い漁っていったらしいです。」

「そ…そっすか…」

「はい。でもすぐに居なくなったそうですけどね」

「た…大変だったっすね…」

「そうですね。でも皆が来たときにはもう居なかったそうですから。さ、そろそろ行きましょうか。あとちょっとですから!」

「「はい!!」」

飯までもう少しの辛抱と背筋を伸ばして返事をする師弟コンビ。

タマモはといえば…ソフトを一口舐めては震えるという行為を繰り返し続けていた。

「何をしてるんだ…タマモ…」

「ヨ…ヨコヒマ…ざむい…でも…おいひい…」

「いかんっ!!凍り始めとるっ!!霧香さんすぐに車にっ!!」

「は、はいっ!!」

空腹ゆえに震えながらもソフトを手放せない狐を乗せて車は再び走り出す。


後書き
ども。犬雀です。
さてGS美神のSSと言うよりは、北海道観光ガイドとなりつつある「試しの大地」第2話をお送りいたします。

正直、壊れとこっちの二本立てはキツイです…ついつい壊したくなってあのお方を…。
まあ、なんとか頑張ってみます。

>ムギワラ梟様
はい。雪代が鍵を握っていますです。彼女の正体は…?警官ではないようですが…


>紫苑様
この話で横島たちとシロタマに絆がうまれると良いなぁと思っております。
とくにタマモの心情が変化する予定です。

>九尾様
手がかりは手がかりですが、それを活用できるかどうかは彼らにかかっております。

>某悪魔様
え?犬は犬です。「道産子」なんて、そんなやたらと目の可愛い農耕馬のことなんて知りませんです。はい。(…とトバをかじりつつ…)
実際題名はそのコピーからとりましたけど…。

>零様
雪女…どうでしょうか?秘密です。

>wata様
回想シーンなんかで唯嬢が出るかもしれませんが、現時点では寝てます。

>Dan様
更新遅めになりますがお見捨てなきよう…orz

>法師陰陽師様
はい。彼女がキーマンとなりますです。
今後も精進いたします。

>ユキナリ様
犬はその作品は読んだことないもので…。犬の勉強不足ですね。
今度、読んでみようと思います。(メモメモ)

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