時刻は十一時五十五分。
予定した十二時五分前である。
相変わらず銭湯の入り口の様なドアには、今妙神山にいる全員が集まっていた。
神族では、斉天大聖、小竜姫、ヒャクメ。
魔族では、ワルキューレ、ジークフリード。
人間・・・嫌、抑止力である横島忠夫の六人(柱)がいる。
しかし、全員が横島の格好に呆気を取られていた。
横島以外の人は何時もと同じ格好をしているのだが、横島の格好は怪しすぎる。
何処から持って来たのか分からないが、黒のワイシャツにジーンズタイプの黒のレザーパンツ。
更に黒のコート着込み、左手に神龍神刀を提げている。
これでサングラスを掛ければ、立派なマフィアの誕生だろう。
横島が何故こんな格好をしているか小竜姫達が聞くと、
「ん?動きやすいし、コートの裾で敵から身体が見え難くなる。
それに、血が出ても黒なら出血しているのか遠目には分からないからな」
らしい。早い話が、戦闘に特化した横島なりの格好だと言う事だ。
そんな話をしている内に時刻になり、入り口の向こうの場所が変わった。
その世界は何処までも広がる草原だった。
「この中ならば霊力が充満しとるし、生命が溢れておる。
これならば、横島もやりやすかろう?」
「ええ・・・では、行きましょうか」
「「よこ・・っ!」」
「なっ!」
小竜姫とワルキューレが横島に声を掛け様としたが、
既に戦闘モードに変わった横島の雰囲気で話し掛ける事が出来なかった。
神剣の達人である小竜姫と戦闘のプロであるワルキューレは横島の実力に気付いたからだった。
漸く復活したジークだったが、復活した途端横島の醸し出す威圧感に押さえ込まれてしまい、
身体を動かす事も話す事も出来ずに、戦いが終わるまでそのままだった。
草原の空間に入って行った老師と横島は、お互いに距離を取りながら相対していた。
「・・・横島、封印を解く準備は出来たか?」
「ええ。今から二式まで解きます。少し待って下さい。
・・・・・・『我は望む!生きとし生きる物の笑顔を!』」
横島がそう唱えると草原に緑の風が舞う。
『例えこの身が傷付こうとも、全ての幸せを守る!その為の力よ!今此処に現れん!
六式封印、一式二式・開!』
横島が言葉を紡ぎ終わると同時に舞っていた緑の風が横島に纏わり、
肉体と言う殻を覆い尽くすと、その身体を肉体から神体と変換する。
一式を解呪する場合は、刹那が解くだけで可能だ。
ベリアルと戦った時がそうだった様に。
しかし、二式からは違う。
二式からは、想いの篭った言霊を発する事でのみ解呪が可能となる。
それは何故か。
ここで簡単に横島のマイト数をお見せしよう。
但し、これは“人間界”でのマイト数である。例を挙げれば、アシュタロスだ。
彼はヒャクメよりも7桁も霊力が上である。
にも関わらず、横島がルシオラの霊体構造を取り入れた時に掠り傷を負っている。
つまり、人間界では力も4桁程下がってしまい、10万程になってしまうと考えられる。
これは神魔両族に適応される事だと作者は思っています。
それを踏まえてご覧下さい。
一式開放時・・・マイト数:1000~5000(小竜姫等とほぼ同じ)
※霊力を神龍神刀に付与する事で上級神魔とも戦える。
だが、一撃でも貰えば死亡確定。
一式では、1000から5000と差があるが、二式からは確定マイト数になる。
二式開放時・・・マイト数:10000(初期のルシオラ達より少し高い)
※中級神魔の上位体と同じ程度。
一気に上がった理由は、肉体から神体に変換される為。
しかし、地上でなると肉体崩壊を起こす。
三式開放時・・・マイト数:50000(斉天大聖の爺バージョンと同じ)
※上級神魔と同じ程度。但し、今は使えない。
肉体崩壊を起こしてしまうからだ。
追記:若い状態の時は70000マイト。
仙猿から武神になった為、異様に高い
四式開放時・・・マイト数:100000(アシュタロス人間界バージョンと同じ)
※最上級神や六大魔王と同程度。
五式開放時・・・マイト数:200000(両最高指導者と同じ)
※最高神と同程度
六式開放時・・・マイト数:不明(恐らくは究極の魔体と同じかそれ以上だと思われる)
※抑止力完全覚醒状態の為、未だ誰も知らない。
と言っても、この話の舞台は人間界なので、上記は特に関係は無いが・・・。
―――説明終了―――
神体となった横島の背からは一対の黒と白の翼が服を破る事無く現れ、
霊気・神通力・魔力の風が辺りを優しく包み込み、それと同時に横島の身体を覆った。
「・・・お待たせしました。それでは戦いを・・・始めようか」
「これ程とは・・・一万マイトは行っておるの。クックック、これは楽しめそうじゃ」
老師がそう答えると、横島は右足を前に出し右半身になると、柄を右手で握り込むと共に前傾姿勢になり、
飛び込み式の抜刀の構えを取った。そして、左手から神龍神刀に霊力を付与する。
それに対して老師は如意棒を両手で握り、左半身の構えを取ると真直ぐに横島を瞳で射抜く。
数瞬の間二人はその姿勢のまま相対していたが、
二人の間を一陣の風が吹き抜ける事でその沈黙は終わる。
「「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
その叫び声と共に二人の立っていた場所は弾け、二人は一瞬だけ姿を消す。
そして、先程まで二人がいた場所の中間でぶつかり合う!
ガキィンッ!!
それが合図の如く、二人はそこから動く事無く技を出し合う!
横島が横薙ぎをすると、それを老師が僅かにスウェーする事でかわし、その状態のまま如意棒を突き出す。
その一撃で大岩を軽く砕くだろう。しかし、それを横島は横薙ぎの勢いを利用し半身になって避けると、
神龍神刀を振り下ろすが、老師は如意棒左手で持ち剣戟を滑らせる事で受け流すと、
空いている右手で正拳突きを顔面に放つ。それを横島は首を傾ける事で難なく避け、
右回し蹴りを放つが老師に捕まれ足を捻りながら投げられ折られそうになるが、
左足で身体を空中に浮かし勢い良く身体を回転させる事で脱出する。
しかし、無理に脱出した事で横島の右足は筋を可笑しくしてしまい速さを殺されてしまう。
その為横島は一度距離を取ったが、老師がそれを追い駆ける事は無かった。
二十秒にも満たない戦いだが、その一撃にどれだけの者が耐えられるのだろうか?
それだけの一撃をお互いに放ちながら、攻撃と言う攻撃を避ける。
これが“武”を極めた者同士の戦いなのだろう。
しかし、たった二十秒間の攻防だったと言うのに、横島は肩で息をし始める。
「・・・この空間では三分が限界か。ちっ、俺はウル○○マンかよ・・・」
自分の現状を確認していた横島に老師が話しかける。
「横島よ。出し惜しみしていてはワシには勝てんぞ。何故文珠を使わん?」
「うるせぇ、俺の勝手だろ」
「お主、抑止力になると性格が変わるのか・・・まぁいい、そうか。なら仕方ないの」
「ん?何だ?」
老師の物言いに怪訝そうな表情を浮かべた横島に、クツクツと笑いながら老師は話す。
「何、つまらん事よ。
ただ、まだ人間であるお主と肉体関係を持った小竜姫とワルキューレを
罰さなくてはならなくなっただけじゃ」
「なに!?」
「この戦いで、ワシにお主の力を示して貰えれば抑止力として上層部に報告できるんじゃが、
どうやら無理そうなんでな。・・・言っておくが、最高指導者様達でも抑えられんぞ?」
そう言われた横島は、米神に青筋を浮かべながら笑っていた。
「・・・後悔すんじゃねぇ~ぞ爺ぃ!お望みとあれば見せてやる!
これが、抑止力としての文珠の使い方だ!」
そう言うと同時に神龍神刀を地面に突き刺し、両手に陰陽文珠を創り出し文字を込める。
その文字とは『炎雷』・『招来』!!
陰陽文珠が光を放つと同時に神龍神刀が雷を放つ炎を刀身に纏う。
「さあ、第二ラウンドの始まりだ!・・・小竜姫とワルキューレは絶対に罰させねぇ!!」
この横島の言葉は外界にいる二人には伝わらないが、
その想いだけは伝わり、二人は訳も分からず赤くなっていた。
「ほぉ~、面白い使い方をするの~。しかし、それでワシに力を示せるか?」
「心配するな。期待に副えるだけの業を見せてやる・・・行くぞ!(神速発動!)」
「っ!(速い!嫌、迅い!)」
横島のタイムリミットまで後二分。
「ここからは一方的にやらせて貰う。・・・俺の逆鱗に触れた事を後悔するんだな
霊力の差が関係ない事は知っているだろ?」
神速を使い剣戟を放ちながら言う横島だが、その動きは見えずいたる所から声が聞こえる。
「これが、俺の秘儀『炎雷爪斬舞』だ!」
「ガァァァァァァ!!」
老師は四方八方から斬り付けられる。その斬撃はその名の様に炎と雷の舞の様だった。
その傷は炎によって火傷を起こし、さらに雷によって爛れて行く。
神速を併用しての業だと言うのに、未だに深い傷を負っていない事から老師の力量が分かる。
相手が老師でなければこのまま行けば出血多量で負ける事は必至。
しかし、老師は武に関しては最高クラスである。
その老師がこのまま終わるはずが無い!
「ワ、ワシを、嘗めるなぁぁぁぁぁぁ!!!」
老師はそう叫ぶと同時に如意棒を地面に放ち、岩を巻き上げた事で横島は動きを止める。
神速を使った状態で岩に突っ込めば重傷は免れないからだ。
残り時間三十秒。
「ハァハァハァ・・・まさか、ワシが此処まで傷を負わされるとは思わんかった。
・・・お主もそろそろ限界じゃろ?どうじゃ、最後に最高の業同士で決着を付けんか?」
「ゼェ~ハァ~ゼェ~ハァ~・・・いいだろう。死んでも後悔するなよ」
「お主もな・・・」
「「行くぞ!」」
そう言うと同時に、お互いに再び距離を取ると同時に前に向かって飛ぶ!
「炎雷龍波(えんらいりゅうは)!!」
これは、横島が持つ少ない突撃技の一つ。
文珠を使い、神龍神刀に『炎雷』を纏わせた時のみ使える業。
その姿は炎と雷を撒き散らしながら飛翔する一匹の龍の如し!
「回天粉砕棍!!」
これは、老師の数少ない技の一つである。
『空手に奥義なし』の言葉と同じ様に、老師は奥義と言う物をあまり持たない。
その老師が『技の名』を唱えて放つ技の威力は計り知れない。
この技は身体と腕の捻りを利用し、それと中国拳法の発勁を応用し弾丸の様に如意棒を放つ技である。
その如意棒はまるで小型の台風の如く風を巻き込む!!
「ウオオオオオォォォォォォォォォォ!!!」
「ケエエェェェェェェェェェェェェェ!!!」
炎雷の龍と小型の台風の先が触れ合った瞬間、凄まじい爆発を起こした!
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
この戦いが始まった時から、何も言えずに見続けていた四人の内二人は単純に驚いていた。
その二人とはジークとヒャクメの二人である。
二人は横島がここまで強いと思っていなかった。
ジークは自分よりは強いとは思っていた様だが、老師と対等に戦えると思っていなかったのだ。
ヒャクメは、何故か千里眼で見る横島は今まで同じだった為に、分からなかった。
小竜姫とワルキューレはと言うと・・・悔しかった。唯、悔しかった。
自分達では横島の力になれない事を知ってしまったから。
確かにメドーサ等が相手の場合なら手助けが出来るだろう。
しかし、それ以上になれば逆に足手纏いになると分かってしまったから。
二人は、悔しそうに唇を噛み締めながら未だに爆煙の中にいる二人を見続けていた。
そして、暫くすると煙が晴れて行き、そこには・・・。
二十八話に続く
あとがき~
久々にバトルを書いた~!!難しいけどおもれぇ~~!!
と言う訳で、横島VS老師と最後に小竜姫とワルキューレの心情を書かせて頂きました。
これで、二人がどうでるんだろうな~。
それは次回のお楽しみです。それでは~。
レス返し~
D,さん、九尾さん、Danさん、大神さん、柳野雫さん、AZCさん、紫苑さん、
ありがとうございます。
皆さんいい所突きますね~。まあ、敢えて言いませんけどw
AZCさんへ。
外伝ですか。・・・考えていませんでしたね。(ぉぃ
暴露すると、暴走は話の中でするんでそれまで待って貰うか、
後何人かそう言う意見があれば書こうと思います。
ではでは~。