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▽レス始

「彼が選んだ道−7−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-01-11 21:52)
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レイドルにとって横島は初めてといってもいい自分という存在を受け入れてくれた存在だ。
だから、横島の絶望にまみれた悲鳴を聞くのは辛かった。
出会ってほんの数時間しかたっていないというのに横島はレイドルに少なくない影響だけを残して消えようとしている。
リムルは悲鳴をあげつづける横島をしばらくは眺めていたが、興味が尽きたのか視線をそらし修練所を後にしようと歩き出す。
周りで見ていた魔族も横島の敗北が確定していたので少しずつ帰り始めている。
その横島の悲鳴に変化が混じったのはリムルが後一歩で修練所の外に出るというときだった。
ドンッという破壊音が響き、リムルは迫り来る殺気に慌ててその場を飛びのく。
飛来した何かは修練所の扉を吹き飛ばし、驚いた顔で見つめるリムルと視線を合わせる。
横島だった。
瞳に理性はなく、本物の生まれたばかりの魔族のように獣のような咆哮をあげる。

「――何故? 精神が破壊されているはずなのにどうして闘争が生きているのです!?」

リムルの目から見て横島は未だに精神破壊からの呪縛から逃れてはいない。
それでいて闘争を燃やすのはリムルが今まで精神破壊を使用してきたどの魔族とも当てはまらなかった。
泣きながら絶望に許しを願うか、
叫び声の最後に心が壊れ生きる屍になるか、
発狂して笑い続けるか、
そして絶望に食い殺されるかの四パターンしかリムルは知らない。
横島から湧き上がる闘争はもはや殺意にまで昇華され、理性無き獣として横島を操る。
精神破壊のせいで横島の中の憎しみを止める関門は壊れかけていた。
横島は与えられた絶望を憎しみへと変えているのだ。
世界が憎い。敵が憎い。そしてなにより己が憎い。
感情のおもむくままに横島は文殊を発動させる。
それは双文殊ではなく、横島が人間だった頃に愛用していた一文字しか刻むことの出来ない文殊。
刻まれたのは『速』の文字。

「ガァァァァァァァァァァァァア!!」

栄光の手を振り回しながら横島は突き進む。
大地は削り取りながら進んでくる横島に最初は驚いていたリムルも場馴れしたもので冷静に対処する。
直線的に進む横島を笑みを浮かべながら余裕で避ける。
だがその体には栄光の手が絡みついていた。
栄光の手は横島の意思によってその姿を変えて、主の要望をかなえるために動く。
横島が思ったのは唯一つ『敵を逃がすな』である。

「くっこのっ!!」

リムルが精神破壊の魔眼を再び使用するが横島には何の効果もなかった。
横島はただ一心に闘争に火をつけた敵へと向かっていく。
いつしか栄光の手は漆黒へと色を変えていた。

「ほぅ。文殊。それに瘴気で構成された技を使うのかえ。」

レイドルは背後から聞こえた声に慌てて振り返る。そこにはギルミアが微笑を浮かべて立っていた。
慌てて敬礼をとるレイドルを横目で一瞥した後にギルミアは横島とリムルの戦いに目を戻す。

「絶望に飲まれながらも牙を失わぬか。面白い赤子よのぅ。」
「ぎっギムリア様。二人を止めてください。これはもはや模擬戦ではありません! このままではジョーカーが!!」
「この試合がもはや模擬戦などというものではないことぐらい我にもわかっておる。しかしまぁ、この戦いを止めるというのは無粋なものよ。」
「そんなっ! ギルミア様!!」
「――レイドル。黙ってみておれ。善き戦いではないか。魔族としての血が騒がんか。」

レイドルはしばらく訴えるようにギルミアを見ていたが、それに意味が無いという事を悟ると視線を横島の戦いに戻す。
風となって横島を切りつけようとするリムルとそれを文殊によって防いでいく横島。
文殊は霊気を圧縮して道を作り、本来ならば難しいはずである霊気の操り方をひどく簡単なものにしてしまう兵器である。
人間だった頃は大量生産ではなかった文殊だが、魔族になったことで基本的な霊気の貯蓄量が上がっている横島は文殊の大量生産を可能にしている。
そしてそれは全てのものにとって天敵とも呼べる戦い方を実現させた。
相手の動きを止める。防御障壁を取り払う。自分の攻撃力を上げる。
文殊によって横島にとって都合のいい空間が形成されていく。

「こんなっこんな奴に!!」

リムルの顔に初めて焦燥の色が浮かんだ。有利であった戦況がことごとく覆されていく。
そしてリムルの目の前で四つの文殊が輝いた。
『一撃必殺』
リムルにとっての絶望の文字が光り輝いていた。

「こんな奴にぃぃぃ!!」

リムルの霊気が命の危機に関して瞬間的に増大する。
それは文殊による体の停滞を解き放ち、防御障壁を止めていた文殊をも吹き飛ばす。
だがそんなことをしたところで振り上げられた必殺の力を宿した漆黒の霊波刀の前には意味はなかった。

「ジョーカー駄目!!」

リムルの鼻の先で横島の霊波刀が止まった。
レイドルによるラインを通しての強制介入だ。
単純な能力でいえばレイドルの方が横島より断然上なので容易に横島の体を支配下におく。

「レイドル。そなた・・・・・・。」
「これはもはや魔族の誇りある戦いではありませんギルミア様。それに、模擬戦なんかでリムル様を失うのは得策ではないと判断します。」
「リムルなどではなく、あの赤子。ジョーカーを守りたいのであろうレイドル。」
「・・・・・・。」
「最初から言葉を理解し、文殊を使用。そして瘴気を操る。」

ギルミアはそう呟いて憎々しげにレイドルを睨みつけるリムルを見る。
そしてレイドルの強制介入に抗おうとする横島に目を移す。

「貴重ではあるが、暴走するような部下はいらぬでなぁ。」

殺せとリムルに命じようとした時、横島に変化が起きた。
禍々しい瘴気が消えうせ、その瞳に理性の色が灯り始める。
それは横島が絶望の魔眼に打ち勝ったことを意味する。

「くっくくく。あはははははは!! 面白い。面白いぞ!! 絶望を退けおったか!!」

ギルミアの目に映っていた横島は、精神が破壊されただの獣同然に本能のみで行動しているようにしか見えていなかった。
ギルミアの中ではレイドルと口論するよりも前から精神破壊を受けた横島は殺す予定であったのである。
その予定を自らの力を持って退けた横島。
なんというイレギュラー。

「リムルよ。退くのじゃ。模擬戦は終わった。」
「まぐれ。まぐれに違いないわ。」

精神破壊の魔眼をうちやぶられたことがショックなのかリムルは打ち破られたという現実を認めたくはなかった。
だがそんな考えもすぐに振り払う。
自分の魔眼は打ち破られた。軍人たるものどんなに認めたくない事実であろうとも目を背けることは許されない。

「――誇りなさい。私の精神破壊の魔眼を打ち破ったのは貴方が始めてよ。」
「ジョーカーです。」
「・・・・・・ジョーカー。貴方の名前は絶対に忘れないわ。」

リムルの中では精神破壊を破られた悔しさと横島を殺せなかった悔しさがあわさり、憎しみにも似た感情が蠢いていた。
もはやなにも語ることはないといわんばかりに横島に背を向け立ち去るリムル。
そのリムルが修練所を立ち去るのを見届けてから横島はその場に倒れこんだ。
霊気はもはやほとんど残っていなかった。体力なんてモノは完全にゼロだ。

「ったく、なんで俺がこんな目に・・・・・・。」

悪態をつきながらも口元に浮かぶ笑みを横島は抑えることは出来なかった。
胸の中で熱く煮えたぎる何かが気持ちよくて、横島は笑みを浮かべたまま意識を失った。


ある日の雪乃丞

「美神の旦那!!」
「だんなって言うなぁーーー!!」
「ごふっ。」

注意されていたにもかかわらず美神の事を旦那と呼んだ雪乃丞に肘鉄を叩き込むと美神は次言ったら殺す、という眼差しを向けながらソファーに座りなおす。雪乃丞も初日の修行のときに殴られまくったせいで耐性がついたのか痛そうな顔をしながらも美神に再び話しかける。

「いきなり肘鉄はないだろぉ。」
「うるさい。何か言いに来たみたいだけど何?」
「そうだ! これを見てくれ!!」

雪乃丞はつい先ほどできたモノを美神に披露する。雪乃丞の握り締めた拳を霊気が覆っている。それは攻撃的要素を含んだ霊気を含んだボクシンググローブだった。

「へぇ。器用ね。」
「これでなら霊を払えるぜ!」
「器用は器用だけど、アンタ馬鹿?」
「ばっ馬鹿だと!」
「霊気の操り方も上手く出来ていないくせに拳に霊気を集中してるから、その他の部分を覆う霊気が薄くなってるじゃない!!」
「それがどうしたって言うんだよ?」
「霊的守護が薄くなってるということは他人よりもダメージを多く受けるって事よ!!」

そう美神が言った後、雪乃丞は不敵な笑みを浮かべる。

「それは攻撃にあたらなかったらいいだけだろ。」
「・・・・・・ったく。一度痛い目に会わないとわからないのかもしれないわね。」

美神は次の依頼場所で出現するといわれている幽霊が悪霊だったら、雪乃丞をぶつけて己の欠点を自覚させようと決めた。

「上手くいけば私は何もしなくても良いし・・・・・・。」


あとがき
原作パートを少なく削るのは難しい。ってか、魔界パートも原作パートも一応プロットは全て出来てまして、魔界パートを主にしている場合は原作パートのプロットの重要な部分だけを抜き出して書いているんですよね。おかげで多少展開が無理やりなところが多数。
さて、次回は人骨温泉編です。実は言うと人骨温泉編にも原作パートと魔界パートが存在しています。
原作パートは雪乃丞とおキヌちゃん出会う。魔界パートでは横島君の暗躍。
ここでどちらの方が楽しみか皆さんの要望を聞かして下さい。

>S様。  よろしいですよ。自分が作り出したキャラが違う人の手によってどう動くかというのは楽しみですから。

>Dr.J様  ネタバレで裏設定をがーーと言ってしまえば疑問は解決すると思うんですけど、そうすると面白くないんでまぁ徐々に種明かしをしていきます。

>九尾様  挫折しても諦めずに前を向く、というのが僕のヒーロー像なので横島君にはそういう存在になってもらおうと頑張っています。
しかし横島君は癖のあるキャラですから僕の思ったとおりに動いてくれるとは限りませんけど(笑)

>D,様  原点に気がつきましたが精神破壊の最中に思い出したことなので横島君は断片的にしか覚えていません。精神破壊って言うのは頭の中を好き勝手にかき回されているのと同じですからね。

>qwertyu様  すいません。対リムル戦は精神破壊による横島君の暴走で終わりました。昔の戦い方を思い出すのではなく、今の自分にあった戦い方を横島君にはしてもらいました。暴走していたとはいえ、自分にあった戦い方をしたわけですから魔王だった頃の癖は横島君の中から消えているかもしれませんね。

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