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▽レス始

「彼が選んだ道−6−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-01-10 13:08)
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「気がついたんですか! 横島さん!!」
「えっ?」

横島の目の前には小竜姫がいた。
傍らにはヒャクメとワルキューレとジークがほっとした顔で横島を眺めている。
何が起きているのか理解できなかった横島は体を起こして、四人の顔をマジマジと見つめた。
そして、一番近くにいる小竜姫の頬に手を伸ばす。
柔らかい感触が横島の手に触れた。
頬から唇になぞるように手を動かし、頭が本格的に混乱しだした。
小竜姫の顔が真っ赤になっていることを気にしてる余裕など横島にはなかった。

「どうなってるんだ? どうして、小竜姫様が此処に?」
「何を言ってるんですか横島さん?」
「一時的な記憶の混濁だろう。」

そう言って心配そうに横島を眺めるワルキューレは横島が生きた時のワルキューレだった。

「どうして?」

疑問の言葉しか口からは出なかった。そんな横島を四人が心配そうに見つめる中、部屋の扉がいきよいよく開いた。

「せんせぇーー!!」
「ぐふぅっ!!」

白い弾丸は横島に飛びつき、涙を流しながら横島の顔をぺろぺろとなめまわす。
それは横島にとって最初で最後の弟子である人狼族のシロであった。
その後ろからは呆れたようにシロを見つめながら入ってくるタマモと涙を浮かべて口を抑えているおキヌがいる。

「ちょっと、二人ともなかに早く入ってよ。後がつっかえてるんだから。」

少し怒ったようにそう言いながら入ってくるのは美神だ。

「み・・・かみ・・・・・・さん?」
「フンッ。おキヌちゃんとシロがアンタの見舞いに行きたいって煩いから来てやっただけよ。」
「凄い勢いで病室まで走ってたくせに、相変わらず素直じゃないワケ。」
「横島さぁーん! わっしはぁ、わっしはぁ!!」

美神の後からはエミとタイガーまで現れ、もはや横島はその様子を呆然と眺めていることしかできなかった。

「僕としては眠ったままでも困らないんだけどね。」
「気がついたみたいね横島君。」
「私が作ったきつけ薬が無駄になっちゃいましたね。」
「横島さん!!」
「ピート君。ここは病室だよ。」
「横島さん。・・・・・・よかった。よかった。」
「小鳩。泣くんや。今は泣いたらええんや。そして明日からは笑顔ですごすんや!」

西条、美神美智恵、魔鈴、ピート、唐巣神父、小鳩、貧乏神までもがぞろぞろと病室の中に入ってくる。

「相変わらずにぎやかな連中じゃのー。」
「横島・さん。気がついて・くれて・マリア・嬉しい。」
「俺のライバルがそう簡単にへばるわけねぇからな。」
「横島君〜。気がついて〜よかったわ〜。」

カオス、マリア、雪乃丞、冥子、病室の中は横島にとって懐かしい面々によって占拠された。
だが横島は皆が傍にいるということが信じられなかった。
そこで横島は体の違和感に気がついた。
アシュタロスの乱によって彼の中に根付いたルシオラの感覚がごっそり抜け落ちているのだ。

「どうなって、どうなってやがる!!」
「どっどうしたんですか? 横島さん!?」
「心配しないで大丈夫ですよおキヌちゃん。3日も意識を失っていたせいで記憶が混濁しているんです。」
「違う! そんなんじゃない!! 俺は、俺は魔族になってアシュタロスの抜けた穴を埋めて魔王になって、それで親殺しを・・・・・・。」
「何いってんのよアンタ。そうならないために竜神王が引退したんじゃない。」
「えっ?」
「そうですよ横島さん。アシュタロスの後継者に貴方を当てるという案もありましたが、今回は天界からもアシュタロス級の竜神王が退陣することでバランスは保たれ、事なきをえたじゃないですか。」

ぐらりと横島の視界がぶれた。
頭部を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃が走る。

「魔族化の件に関しては神魔両者の最高指導者が横島さんの体からルシオラさんの因子を抜いて復活させることで解決しました。横島さんはさっきまでルシオラさんの因子を抜けたショックで眠りつづけていたんですよ。」
「心配したでござるよ先生!!」

絶望が其処にはあった。
横島は言葉で言い表せないほどの衝撃で何も言えなかった。
目の前に広がる光景は、横島が魔王になったという事実を否定していた。
バランスを保つために魔族になり、そしてルシオラを復元した横島。
バランスを保つために竜神王が引退し、最高指導者の手によってルシオラが復活した世界。
目指したものの成功例がそれだった。

「そんな・・・それじゃあ・・・・・・俺は。」

道化ではないか。
世界を破滅へと導いた道化ではないか。
その言葉を口から出すことは出来なかった。
一度口にしてしまえば全てが崩れてしまうような気がした。

「ポチーーー!!」
「横島ーーー!!」

ガシャンと窓ガラスを割ってルシオラとパピリオが飛び込んでくる。
胸に軽い衝撃が走り、そして見たいと願っていた笑顔が其処にはあった。

「全くパピリオも姉さんも落ち着きなよ。」

呆れたようにベスパも病室の中に降り立つ。
完全に、横島の目指した世界がそこに確立した。
横島の心が悲鳴をあげる。
横島は大地が壊れていくような感覚を味わっていた。

「俺は、道化だったのか?」

何かが壊れた。
横島の中でなにかが木っ端微塵に砕け散った。
魔族になれば全ての問題がかたずくと、それしか方法はないと信じていた自分がいた。
違ったのだ。
最善の方法は別にあったのだ。
気づかなかっただけで、確かに存在していたのだ。
涙が零れた。

「どうしたんでちゅかポチ!!」
「あっぁぁぁぁぁ。」
「ちょっちょっと横島!?」

ルシオラを抱きしめる。
涙は止まらなかった。
ルシオラと再び出会えた喜びの涙ではない。
愚かな自分を刻み付けるための涙だ。
すっと横島の指が頬に添えられ、流れる涙を払われる。

「泣かないで横島。」
「ルシ・・・オラァァァ。」
「大丈夫。ここにいるわ。また一緒に夕焼けをみよう横島。」


―――――――――――違う。


ルシオラを抱きしめていた手を解き、ルシオラの肩に手を置いて無理やり遠ざける。

「横島?」
「――違う。」

皆がいる。
皆が笑っている。
認めよう。
ここは横島忠夫の目指した理想に他ならない。
そして、だからこそ違う。
ここは横島忠夫の目指した理想であって理想ではない。

「違うんだ。」

故に否定する。
ここを知った後で考えれば魔族となってアシュタロスの後継として歩いた道は間違いなのかもしれない。
それでも横島は選んだのだ。
魔族となって理想の世界を守って見せると。
例え仲間と呼べた人達と会えなくなったとしてもやっていけると逃げそうになる心をつなぎとめて選び、歩いたのだ。

「そうだ。ここは俺の世界じゃない。」

彼女は夕焼けという狭間の時が好きだといった。
一瞬だとしても美しく輝く時があることはすばらしいと彼女は言った。
横島の歩いた道にもそれはあったのだ。
汚させることなどできるはずもなかった。
魔族となることを選んだ世界でも変わらずに輝いていた彼女達を汚すことなど出来るはずもなかった。
だから、この世界を認めることは出来ない。
結果は破滅だった。
それでも、一瞬でもそこに至る仮定に光り輝いた時があるのであればそれを否定することはできない。

「すまない。すまない皆。」

希望という絶望の中で彼は思い出した。
目の前に勢揃いしている幻想の仲間達に笑いかける。

「すまない。」

さぁっと風に飛ばされる砂のように仲間達が消えていく。
ルシオラも初めから其処にいなかったかのように消えていく。

「――俺は、俺だ。」

いつから自分は魔王などという偽者を必死に演じていたのだろう。
横島忠夫はどこまでいっても横島忠夫でしかないのだ。


ここは幻想。
偽りだらけの世界に彼は偽りの自分を捨てていく。
現実に戻れば此処でのことは忘れているのかもしれない。
それでも魂に刻み込まれた大切なものが目覚めた今、彼は本来の彼へと至る道を歩き始めるだろう。
その歩みは始まったばかり。


あとがき
絶望からの脱出大作戦の今回。魔王となる道を選んだ横島君にとっての絶望は魔王にならなくても大丈夫だったという事だと思ってできたのが今回。対リムル戦は次で最後です。前後編といっときながら中篇をはさんでしまいました。いきなり横島君が絶望から抜け出すのも可笑しな話だと思い、それまでの仮定を書いていると長くなってしまいました。この話を呼んで横島はそんな良い人じゃないと思われる方がいると思いますが僕もそう思います。魔族になることを決断した時の横島君はただルシオラが復活するということと、それで皆とのギスギスした関係が改善されるはずということしか明確に考えてなくて、ここまで深いことはあやふやにしか捉えていなかったでしょう。
魔王になって何年かしてから、あやふやとしていたものを明確に捉えたんだと思ってください。
理解しづらい個所があった場合は指摘お願いします。

>九尾様  魔王だったという慢心で横島君はリムルとの戦いもなんとかなるだろうと思っていたんでしょう。

>星之白金様  未来の横島君の視点での魔族になろうと決意したときの回想です。人間としての戦い方を思い出すのではなく、人間だろうがなんだろうが横島君は横島君ということをまず思い出してもらわないと横島君はずっと間違った認識で戦いつづけることしか出来ません。横島君を襲った最初の壁は『認識』です。リムルの戦い方に関してですが、ぶっちゃけリムルさんは横島君にとっとと死んで欲しいんです。最初の手加減はそういう意味では横島の回避能力を侮っていたということです。

>D,様  横島君がどう変化するのかは次回です。前後編で収めきれなかった僕を許して・・・。

>Dr.J様  提案ありがとうございます。ですが、横島の役目がアシュタロスの後継者であるならば力を持ったままの横島君をアシュタロスの乱の後ぐらいに目覚めさせればいいだけなんですよ。勝手に後継者として扱われますから横島君が。ついでに記憶でも消しとけばそれで万事解決でしょう。

>qwertyu様  頑張りますよ〜!! 感想こそが僕のエネルギーですから。

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