第1話 「アリエス襲来!!」
「あの…横島さん?」
「なんだ…ピート…」
「いえ…ちょっとお聞きしたいことが…」
「聞かんでくれ…」
おずおずと聞くピートに対して横島の態度はあくまでも冷淡だ。
「はぁ…でも…」
「忠夫様?」
「…ああ…今日も暑いなぁ…そう思わないか?愛子…」
「そ…そうねぇ…」
「あの…忠夫様…」
「そういやピート、神父は元気か?」
「え、ええ…」
「ぐっすん…忠夫様ぁ…放置プレーは酷いですわぁ…そういうことはもっとお互いのレベルがあがってから…」
「何のレベルやあぁぁぁっ!!」
横島君負け決定。
「だいたいっ!!なんでアリエスちゃんがここにいるんやっ?!しかもその格好は何っ?!」
ビシッと横島が突きつけた指の先には白い前掛けも目にまぶしい紺系統のエプロンドレスに身を包んで佇むアリエスの姿。
今日はその長い金髪を一本の三つ編みにし、端っこを白いリボンで止めているというちょっとマニアックなもの。頭を飾るレースのカチューシャがまたまたそっち系のお友達の萌え心をくすぐる。
「え?ああ、今日は忠夫様にご奉仕させていただきましょうかと思いまして…だって…」
そう言うと赤く染まった顔を両手で挟んでイヤンイヤンとばかりに身をよじる。
「昨日はお疲れでしたもの…忠夫様ったらあんなに頑張られて…ポッ♪」
チキチキチキチキ…
教室のあちこちから聞こえ始める不気味な金属音。
女子生徒は教室の隅で一塊になってヒソヒソと呟きながら氷の針のような視線を投げつけてくる。
「ああっ!疲れた!疲れましたともっ!!変態の相手はするわ!夜中に働くわっ!!」
「だから平穏な日常が欲しいんやぁぁ」と横島が言うより早くズサッと寄ってきたアリエスが横島の手を取る。
「ですから…今日はこのわたくしが誠心誠意ご奉仕させていただきますわ…ご主人様ぁ…」
「あのなぁ〜」と言いかけてやっと周囲の空気に気づく横島。はっきり言って遅すぎ…。
教室にはチキチキチキと言う音を立てる細長い文房具を持って幽鬼のように立ち上がる男子生徒たちや、今や横島にも聞こえる声で「変態プレーよ…」、「しかも一晩中ですって…」と話し合う女生徒たちの姿。
「ち…ちがうんや…」
青ざめながらも必死に自己弁護を図ろうとする彼の努力もむなしく…。
「もしかしたら…この格好がお気に召しませんでした?…あ、わたくしったら間違えましたんですのね…」
そう言ってアリエスが胸元から取り出したのはネコ耳カチューシャ!!
ぬぽっと装備して一言…。
「忠夫様…ご奉仕するニャン♪」
ゾンビのごとき顔色で襲い来る同級生の波に飲まれた横島の脳裏には…
ネコ耳モード…ネコ耳モード…ネコ耳モード…♪
と言う歌がリフレインする。それは彼が完全に意識を失うまで響き続けた…。
男子生徒の群れに沈む横島と彼を助けようとゾンビどもをかき分けているアリエスを放っておいて愛子は溜め息混じりにピートに聞いた。
「そういえば…タイガー君は?」
「タイガーならあそこに…」
ピートの指差す方を見れば、騒ぎにも加わらずぼんやりと何か考えているタイガーがいた。「珍しいわね…」と考え込む愛子の耳に復活した横島の怒声が聞こえる。
「いい加減にせんかぁぁぁあ!!俺が何したっちゅうやぁぁ!!」
ゾンビどもを吹っ飛ばしてゼーゼーと荒い息を吐く横島を見やり、まだまだ蠢いている男子生徒と隅っこでヒソヒソやっている女子生徒に向けて「ほら!そろそろ先生が来るわよ!!」と彼に助け舟を出す愛子。さすがは委員長系の貫禄かしぶしぶと席につくクラスメートたち。
「助かったよ…愛子」と横島が愛子に向かって礼を言う、となりでペコリと頭を下げるアリエスに複雑な思いを抱きながらも、かすかに頬を染める愛子だがあることに気がついた。
「あれ?横島君…唯ちゃんは?」
「あ〜。あれかぁ…」
遠い目になりながら横島、あっさりと言い放った。
「いくら起こしても起きんから置いてきた…」
「え?」
「そうなんですの…忠夫様やわたくしや小鳩様が一生懸命ドアの前で呼びかけてもウンともスンともおっしゃらないんですのよ…ぷんぷんですわ。」
「ちょっとまずいじゃないっ!!パーフェクト遅刻記録更新よっ!!今からでも電話して起こさなきゃっ!!」
「んー…やっぱし、まずいか…」
「しゃあないなぁ…」とポケットから最近になって美神に渡されたばかりの携帯を取り出す。
数十回のコールのの末、やっと電話に出る唯、その声はいまだに寝ぼけ声…。
「もしもし唯ちゃんか?」
(…は〜い〜天野唯ですぅ…おかけになった番号は…くー…)
「唯ちゃん!!」
(ここは…警察じゃないですよぅ…)
「いいから起きろっ!!」
(くー…)
「あかんわコリャ」と匙を投げかける横島にアリエスがおずおずと提案した。
「あの…忠夫様?わたくしでしたら起こせるかも…」
「え?本当?でも今朝は駄目だったんじゃないの?」
愛子の問いににっこりと笑って「今朝は声が届いたかどうかもわからなかったものですから…」と答えるアリエスにじゃあ頼むわと電話を渡す横島。
受け取ってすーっと大きく息を吸ったアリエスは電話に向かい…
『♪起きろっよ。起きろっよ。皆、起きろっ!!起きないと貧乳さんがまた縮むっ!!!』
ドングワガラガラ
いっせいにコケるクラスの全員。電話の向こうでも…
(へあっ!!!…お?!(ドングワラン)……えうううう〜)
どうやら完璧に起きたらしい。
「流石はカッパ族先祖伝来の目覚まし歌…効果抜群でしたわね…」
(そ…その声はっ!!アリエスさんですねっ!!なんでタダオくんの電話からっ!!)
アリエスは抗議の声を上げる唯に対して冷淡に一言だけ告げる。
「文句は時計を見てからおっしゃったほうがよろしいと思うんですけど…」
(え?…ぎにゃぁぁぁぁぁ!!ち、遅刻ですうっ!!)
「では…お待ちしておりますわね…」
ピッと電話を切って横島に返す。その目はキラキラと輝き、またまた体から吹き出る「ほめて!!オーラ」だったが…横島は呆然としているだけだった。
「あの…忠夫様…もしかしてお気に召しませんでしたか?…ぐっすん…」
「あ〜。そんなことはないよ…」
「…ああ…忠夫様ぁ…くえっ!…」
そういいながらアリエスの頭を撫でてやる…ハニャーンとしなだれかかるアリエスだったが愛子に襟首を掴まれて引き離された。
「はあ…でもこれで唯ちゃん遅刻確定よねぇ…」
「そうですね。」
しみじみと同意しあう愛子とピートに愛子に襟首を掴まれていたアリエスが再提案!
「あの…でしたら…わたくしに代返させていただけませんか…一度やってみたかったんですのっ!」
「いや…代返ってもその格好じゃすぐばれるだろ…」
「そうよね〜」、「そうですねぇ…」と異議を唱える除霊委員の一同にたいしてアリエスは動じもせずにピシッと指を掲げた。
「大丈夫ですわ…緑魔法で唯様に変装いたしますから…」
「出来るんか?」
「はい…ではいきますっ!」
言うなりアリエスの体が輝くと白い裸身が露になる。そしてすぐにその身にまとわりつくのはセーラー服。
ブバァァァア
たちまち周囲の男子生徒たちから吹き上がる真っ赤な間欠泉。
机に突っ伏す男子生徒たちなど見向きもせずに誇らしげな様子のアリエスだった。
「どうです…忠夫様…」
「いや…確かに…服装はこの学校の制服だが…」
「髪の色が金のままですし身長も…」
「それに…「「「胸が…」」」
変装したはずのアリエスの胸は先ほどのメイドさんの時より明らかに増えていた。
まるで「期間限定25%増量」といった感じに…。
「髪の毛はですね…これをかぶれば大丈夫ですわ…胸は小さく出来ないものですから…」
そう言って胸の谷間からカツラを取り出してヌポッとかぶる。
(小さく出来ないって…さっきより増えているじゃん)
(わざとですね…)
(そうね…)
小声で囁きあう除霊委員にはかまわずにやたらと嬉しそうなアリエス。
「さあ…そろそろ先生がおみえになりますわっ♪」
妙にルンルンした様子で席に着くアリエスに促され彼らも運を天に任せて席に着いた。
やがてガラガラと教室の戸をあけて入ってくる相沢先生、教壇に立ち教室をぐるりと見回す。
机に突っ伏したままの男子生徒たちの群れとコミカミに汗を貼り付けて作り笑いをする女子生徒に不審な思いを感じた相沢先生の目線がある一点でピタリと止まった。
やがてゆっくりと頭を振ると、ノロノロとした動作で出席簿を開く。
緊張が高まる教室、相沢の点呼をとる声とそれに弱々しく答える声が続き、そして…。
「あまのゆいくん…」
とうとうこの時が来たぁぁぁと一気に高まる教室の緊張。
それを崩すように響くはマヌケな声。
「へう。あまのゆい、きていますわピヨ♪」
「おお。あまのくん、きょうはちこくしなかったんだね…えらいぞ…」
「へう。あまのゆい、うれしいですわピヨ♪」
(ピヨ♪って何やぁぁぁぁ!!)
(耐えるのよっ!!横島君っ!!)
(あの女性には唯さんがああいう風に見えているってことでしょうか…)
「さ、さあ…きょうもいちにち、みんなべんきょうガンバろうな…」
額からダラダラと汗を流しながら棒読みで相沢先生がHRを進めていた時、廊下を爆走してくる足音が聞こえたかと思うと教室のドアがガラっと開き、小柄な女子生徒が頭に寝癖をつけたまま飛び込んできた。
だが、いつものごとく二歩目で何かにけっつまずき、しかしそのコケル勢いまでも推進力に変えて相沢先生の足にしがみつく。
「先生ぇ様ぁぁぁぁ!!どうかお慈悲をぉぉぉぉぉ!!!」
相沢先生に必死に懇願するその姿は紛れも無い天野唯…。しかし、唯の予想に反していつもなら必ず来る相沢先生必殺の梅干が今日はなかなか来ない。
「う?」と見上げれば、自分を宇宙人を見る目で見ている相沢先生。
「へう?先生?」
「誰かね君は?」
「えうぅぅぅ〜。天野唯ですうっ!!」
「はっはっはっ。ばかをいっちゃいけないなぁ…あまのくんならほらそこに…」
「う?」
「へう。あまのゆい、ですわピヨ♪」
「え?」と自分の席を見ればそこに座る女子生徒の姿。
思わずふらふらと近寄っていく唯。
「その…髪、その服…、そしてその『胸』…あ、あなたはもしや…」
ゴクリと唾を飲んで見守るクラスの皆さんと相沢先生。
やがて唯は「偽・天野唯」の前にたどり着くとビシッと指差して叫んだ!
「ドッペルゲンガー!!!!」
「何でだっ!!」
相沢先生のジャンピング・ニー炸裂!
「めきょっ!!…先生っ!何しますっかっ!!」
「やかましいっ!あれのどこがドッペルゲンガーかっ!!本人が聞いたら気を悪くするぞっ!!暮井先生に詫びてこんかっ!!」
「だっ…だって私にそっくし…おうっ?!」
相沢先生に後ろ襟を持たれ猫の子のように吊り下げられ、どういうつもりか招き猫のように手を顔の横で握り「ニャー」と鳴きながらも「偽・天野唯」の前にずずいと突きつけられる唯。
「見ろっ!あの『胸』(ニャッ!)、どこが同じかっ!『胸っ』!!(ニッ!)、全然違うだろうがぁ〜『胸えっ』!!(ニュゥゥゥゥゥゥ〜)」
場合によってはセクハラ発言のオンパレードともとられかねない相沢先生の突っ込みだが、他の生徒もさすがに腹に据えかねたのか「うんうん」と頷くのみ。
そしてゼーゼーと疲れた様子の相沢先生にポテリと落とされたまま「よよよよよ」と泣き崩れる唯に「偽・唯」が語りかけた。
「これで…わたくしが「真・天野唯」とハッキリしましたのね…」
泣き崩れていた唯はガバッと顔中に涙を散らして「真?天野唯」を睨みつけると「ふふふ」と不気味に笑い出す。思わず窓際に避難するクラスメートたち…もっとも男子の大部分は机に突っ伏したままだが…。
「ふふふ…誰かと思えば…アリエスさんでしたか…」
(今頃気づいたんかいっ!!)と心の中で突っ込む一同。でも声には出さない。だって怖いし…。
「くくく…この天野唯をここまでコケにしてくれるとは…覚悟は出来ているんでしょうねぃ…」
ユラリと立ち上がる唯から立ち上る黒いオーラ!しかしそれに負けじとばかりアリエスからも緑色のオーラが立ち上る。
その濃さは霊能のない一般生徒たちにも見えるほどだ。
「あら…わたくしと闘う気ですの?」
二人の間に散る火花!
除霊委員たちはと言えば…
(アリエスちゃんて服変えると性格かわるんか?)
(そ…そうみたいね…)
(何か唯さんが増えた気がしますね…)
と、なすすべもなく話し合うだけ…。
やがてアリエスの背後に澱んでいた緑色のオーラは一つの形を作り始めた。
そこに現れたのは絵本などでよく見る河童の姿。
緑色の体に頭のお皿がプリティだが、その目は鋭く、眉も太くて精悍な顔つきをしている。割れた腹筋がたくましい。
「ふふふ…わたくしの「すたー・かっぱー」は機械よりも正確に動けますのよ…」
だが、唯の方でも漂っていたオーラがあちこちに集まり始め、数十体に及ぶ小さな三頭身の唯を作り出す。
そのどれもが手に大きなストローを持ってキャイキャイと騒いでいる。
「けけけ…私の「のーばすと」にその無駄にでかい乳を吸い尽くされるがいいですぅ…」
「いきなり訳のわからん能力に目覚めるなぁぁぁぁ!!!!」
「あきょぉぉぉぉぉ!!!」、「え?あひゃぁぁ!!」
横島のミサイルキックは机に突っ伏していた男子生徒ごと、唯とアリエスとをまとめて吹っ飛ばした。
阿鼻叫喚の修羅場と化した教室で、一人その騒動に加わらず何やら考え込んでいたタイガーだったが、突然立ち上がると過激な突っ込みで二人をぶっ飛ばした横島にづかづかと近づいていく。
「お、どうした。タイガー?すっかり影が薄くなってたから気づかんかったぞ…」
ゼーゼーと息を荒げながら笑いかける横島にタイガーは真剣な眼差しを向けると、ズザっと土下座して叫ぶ。
「横島さんっ!!ワッシと本気で戦ってつかーさいッ!!!!」
「「「「はあ?」」」」
教室は一転して静寂に包まれた…。
後書き
ども。犬雀です。
今回は皆様の暖かいお言葉を受けまして「除霊委員の強化合宿」をお送りいたします。
が…いつもいつも拙作にレスを頂く皆様に感謝の意を込めまして、妙神山編にタイガー編をちょこっと混ぜちゃいました!!(ああっ!石を投げないでっ!)
今回の話では横島が北海道で手に入れた新しい力の片鱗が出てくる予定でございます。
これで壊れとシリアスが上手くまとまるか?はたまたどっちつかずになるか…。
また除霊委員はいつになったら妙神山に行けるのか?
様々な課題を残しつつ見切り発車いたします。
では…今回もよろしくお願いします。
>初めての名無し様
ありがとうございます。今回混ぜましたが話数は減らさない予定ですので…。
>九尾様
いつもいつものレス感謝であります。
姫様は最初の設定から服装で微妙に人格が変わるという予定でございました。
でもランダムってのも面白かったかな?
>wata様
今回は微と巨の競演となりました。さて…妙神山ではどうなりますか…多分「微」率が高まるかと…
>紫苑様
編入ですか…うーむ…姫様も仕事がありますので…考えて見ますです。
>梶木まぐ郎様
警察は忙しいはずなんですが…署長さんが猫っかわいがりしてますので…。
フアンクラブも健在のようですし…。
>法師陰陽師様
今回は妙神山編になりましたがちとタイガーからみのシリアスを混ぜて書き直すことにしました。ご容赦くださいませorz
>極楽鳥様
パビリオと小竜姫様は当然からんできます。ニヤリ
愛子は…今回の話で動きます。どう動くかは今のところ秘密ですが。(バレバレ?)
>柳野雫様
フアンクラブは依然として城南署にあります。会長は…実はあの人です(笑