最終話 「大団円?」
「横島さんっ!!!!」
小鳩の悲痛な叫びが山に響いたが、当の横島は多少痛そうな顔をして手を振っているだけ、見れば『雷』も痛そうにしている。
「え?横島さん?」
「あ~痛って~ビリッって来た~。これって静電気?」
「その通りっ!!この『雷』は自在に静電気を発生させることが出来るのだっ!!」
「んなもん誰でも出来るわいっ!!」
「ふん。つくづく愚かな男だな…『天』よ。見よっ!!」
そう吐き捨てるといきなり少女たちの方を向いて着ていた皮コートをバッとはだけた!!
「「「きゃっ!!」」」
咄嗟のことに目を閉じることも出来ない彼女たち、しかし『雷』は再びコートの前を閉じる。
「「「え?」」」
あれ?それだけ?ってな感じで疑問符を浮かべる少女たちの前で再びコートを閉じたり開いたりを繰り返す『雷』。
「何をしているかっ!!」
突っ込みパンチを入れる横島の手に再び静電気の衝撃!
「痛てっ!!」
「ふははは。驚いたか『天』よ。この『雷』がただの露出狂だと思ったか?」
「何?」
「この特注の皮コートは中に毛皮が張ってある。しかも俺の肌着はアクリル繊維、つまりこうして脱いだり着たりすることで俺はどんどん帯電していくのだっ!!これぞまさしく『趣味と実益っ!!』」
「…それで…」
何かを堪えるように下を向いてブルブルと震える横島が声を絞り出す。そんな彼を見て何を勘違いしたのか勝ち誇る最強?の変態。
「くくく、しかも帯電している俺を殴れば貴様も痛い。つまり俺は攻守ともに完璧!!」
「おおっ!!まさしく最強だぞっ!!『雷』よっ!」
「はっ!お館様ありがとうございますっ!!」
「ゴムは電気を通しませんっっっ!!!」
お館様に褒められ感激している『雷』の顔面に横島のドロップキックが炸裂する。
顔に運動靴の跡をつけて吹っ飛び、少女たちの前にコートを肌蹴ながら倒れる『雷』、瀕死の状態からもなんとか立ち上がろうとするが…。
「あら…これは…忠夫様に比べて随分お粗末ですわね…」
何が?
「そ…そうね…1/3ってところかしら…」
ねえ?何が?
「えう…可哀想ですねぇ…」
だから何が?
「え?小鳩も言うんですか?…そ、そうですね。…粗品って感じですね…」
え?小鳩ちゃんまで?
次々と叩きつけられる率直な感想に…『雷』は血の涙を流しながら気絶した。
何気に横島にも別なベクトルからダメージが入ったようだが…。
「ああっ『雷』っ!!」
八卦衆最後の一人を倒されて慌てふためく白いレオタードのマッチョマンに横島はニヤリと凶悪な笑顔を向ける。
「さあ…後はお前だけだな…」
「くっ…こうなったら…全身全霊を込めて謝るのみっ!!」
「待てや…おっさん…相手してくれるんじゃなかったんいっ!!」
「ふっ…笑止…我は先ほど何と言った?『雷』こそが八卦衆最強と…ならば八卦衆でもない我が貴様に勝てる道理がなかろうがっ!というわけで本当にごめんなさいっ!!」
「い…」
「い?」
「逝って来い!大霊界っ!!」
「あきょ~ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
爆音とともに天高く舞い上がるお館様と、巻き添えになって吹っ飛ぶ『雷』…。
こうして稀代の変態集団「亀甲龍」は壊滅し、かって前例の無かった猟奇事件は終結した。
「亀甲龍」のアジトの中で見つけたハードディスクの中には変態どもが集めた様々な画像データーがあった。
とりあえず胸糞悪い思いをかみ殺しながらも、PCに詳しい愛子に頼んで今日の日付の分だけ消去してもらった。
愛子も小鳩のためにとこの嫌な作業をやりとげた。
これで除霊委員たちにとっての問題は解決したことになる。
「亀甲龍」の様々な犯罪行為を暴くのは警察の仕事であろうと、唯が再び連絡しやってきた城南署の皆様が家宅?捜索するのを近くの崖に座ってボンヤリと見ている横島だったがふいにその肩に柔らかな重みが加わった。
同時に背にあたるポヨンとした感触になんとなく後ろを向くべきではないと思ったのか、そのまま前を向きながらも赤面する横島の耳に恥ずかしげに聞こえてくる少女の声。
「横島さん…本当は覚えてらしたんですよね…」
「…!」
返事は無いが彼の体がピクッと緊張することから自分の考えが間違っていないと悟る少女。
そっと横島の耳に口をつける。
「でも…考えてみたら…おあいこですよね。私たち…」
「え?」
そこで初めて横島の口から声が漏れる。
目の前の彼の耳がどんどん赤くなっていくのを見てクスリと笑う小鳩、その耳を甘噛みしながら…。
「お互い見せちゃったんですから…もう遠慮することってないのかも知れませんね…」
「え…えと…小鳩ちゃん?」
小鳩の言葉といつになく大胆な彼女の行動に混乱のきわみに陥る横島の浪漫回路。
「それに…横島さんと私って結婚したことありますものね…だったら小鳩はちっとも恥ずかしくなんかありません♪」
「え?え?」
「クスッ…横島さん覚悟してくださいね。小鳩は本気ですから…」
「あの~おっしゃっている意味が解らないんですが…」
「もう!横島さんたらっ!!」
鈍いにも限度があるだろうと怒った顔のまま、それでも彼の耳に今まで口に出せなかった一言をささやく…。
ブシッ…
鼻から噴き出した横島の萌え血は10メートルにわたって拡散し、後から到着した鑑識の五郎さんに殺人事件か?と思わせ慌てさせた…というのは別な話。
一方、取り残された娘っ子たちはと言えば…
「…愛子ちゃん…」
「言わなくてもいいわよ…唯ちゃん…」
「あの…お二人とも口から何を出されているんですの?」
「「砂糖よっ(ですっ)!!」」
「まあ…人間って色々なものが出せるのですのね…」
感心しながらも自分も出せるだろうかと考えるアリエスだったが、横島に甘えている小鳩を見るとなんか胸がモヤモヤしてくるのだけは理解できた。
「ここは…やはり正妻として邪魔するべきですわねっ!!」
「うん!そうしましょったらそうしましょっ!!」といそいそと彼らの方に向かおうとするアリエスの前に、右手を高々と天に掲げ袖を捲り上げる唯が立ちはだかった。
「ひっ…ま、またラリアットですのね…」
先ほどの荒技を思い出し涙目になるアリエスにニッコリと黒い天使の笑みを浮かべる唯。
「違いますぅ…」
「え?」
「今度のは…「「クロスボンバー!!」」
「あ゛うっ!!」
前後からの衝撃になすすべも無く沈没するアリエスを見下ろす二人の黒い天使たち。
「まったく…知らないの?「人の恋路を邪魔する奴は貧乳に蹴られて死じまえ」って言葉を…」
「そうですよ、アリエスさん…この場は小鳩ちゃんに…えう?」
「さて…そろそろ帰りましょうか。でも、帰る前にどっかでご飯でも食べていきたいわね♪」
言ってスタスタと歩み去っていく愛子。
後に残されたのは…
あっぱれな気絶顔をさらしているカッパのお姫様と、「えう?えう?」と首を傾げ続ける唯だった。
まあ何はともあれ一件落着。明日からはまたいつもの学校生活が始まるのだ。
「さ、小鳩ちゃん!横島君!!どっかでご飯でも食べて帰りましょ!!」
「はいっ!!」、「おっ!そうだな!」
「除霊委員の日曜日」 完
………「わ、私の引越しはぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!」
おまけの1
その夜、横島の隣の部屋に突然、城南署による家宅捜索が入った。
立ち入り禁止のテープの外から何事かと見守る近所の方々の前で次々とダンボールを運ぶ警察の方々、どういうわけか交通課の人とかも混じっていたが…。
見る人が見れば気づいただろう…ダンボールの移動方向が通常と逆であるということに…。
家宅捜索が終わったあと、「どうもですぅ~。今度、いっぱいシュークリーム持って行きますね~」と手を振る少女と手を振り返す警察の方々、そして「ホンマ!すんませんっ!!」と頭を下げるバンダナの少年、その彼に寄添うかのように立ちながら一緒に頭を下げる少女の姿が目撃されたが、結局、近所の人には何の捜査だったかはわからずじまいだった。
おまけの2
次の日、横島の部屋の下に住む非合法な自由業の人がいきなり引越ししたそうだ。
彼の下に空き部屋が出来たことが今後どんな波乱を産むのか…それは誰にもわからない。
後書き
ども。犬雀です。「除霊委員の日曜日」これにて完結でございます。
えー。犬の最初の予定としまして「唯」、「愛子」、「小鳩」のそれぞれにスポットを当てた話をやっておきたいと言うのがありまして、その最後にあたる「小鳩編」が本作ということになります。
学校をメインとした話ですので大きな事件は起こしづらく(大きいとGメンとかが出てきますので)、かつ日常的な話から逸脱しないように(どこが?)と作ってきましたがいかがでしたでしょうか?
犬にとりまして皆様のレスが大変参考になりました。ありがとうございました。
なお本作で登場しましたアリエスですが、今後は準レギュラーとして唯とのボケキャラ争奪戦のライバルとなる予定でございます。(ちなみに18禁的なハーレムはまだ考えておりません…はい。)
さて次話ですが…ピート編の「除霊委員の吸血鬼退治」(ちょっとシリアス)、タイガー編の「除霊委員の猫ちゃん騒動」(半分くらいシリアス)、妙神山編の「除霊委員の強化合宿」(ほとんど壊れ)と三本ほどストックがございます。
もし読みたい話があれば教えてくださいませ…。(どれも見たないわっ!!って言われたらどないしよ…orz)
ではでは…また次作で。