第4話 「八卦衆 散る!」(-『雷鳴落つ!』-)
「さて…とりあえずあの変態どもを何とかしないとな。」
「あ、それなら私にお任せですっ!」
全裸で倒れる三人の変態を嫌そうな目で見ながら呟く横島に唯がシタッ!と手をあげて申し出る。
「あ、ああ、そういや唯ちゃん警察関係だったもな。」
「え、唯様ってこんなにちんまいのに刑事さんでいらっしゃるのですか?」
「「ちんまい」ってのが余計ですしぃ!刑事でもないですけどぉ!警察さんでお仕事させてもらってますう!!……おうっ?!」
素直に驚くアリエスにプンプンと抗議する唯だったが、不意にキラキラと目を輝かせてアリエスが近寄ってきたのもんだから今度は唯が驚いた。
「まあ!でしたら学生刑事さんですのねっ?わたくし本物見るの初めてですわ…」
「話を聞いてくださいっ!!って何してますかっ!!」
唯の抗議などどこ吹く風とアリエスは唯の体をまさぐりだした。
「うきょっ!ち、ちょっとアリエスさん、なんばしょっとっ!!」
「あら?おかしいですわねぇ…」
ザワザワザワザワ
「あきゃきゃきゃきゃきゃっ!!ち、ちょっと、止めてくださいっ!!くすぐったいですっ!!」
「変ですねぇ…盲点をついてこの辺に収納しているのかしら…」
「へあ!ち、ちょっと…ひ、姫様ぁぁ…ああ~ん…さ、先っぽは弱いから駄目ですぅ~」
アリエスにセーターの下から胸に手を入れられて、小指を噛みながら身悶える唯。
「「何をしとるかぁぁぁぁぁ!!」」
「あうっ!」
「うきゃっ!!」
愛子と横島の息のあったツープラトン・ドロップキックを食らってもつれ合ったまま吹っ飛ぶ二人。
「痛いです…忠夫様…ぐっすし…」
「こ、今回は私ぃっ!…悪くないと思うんですけどぉぉぉぉぉ!!」
「「ついでだっ(よっ)!!」」
「えううう…」
再びぴったりと息を合わせて切り捨てる横島&愛子の台詞にまたまたがっくりと崩れ落ちる。その唯の背後には「雪景色の中、煙を吐いてホームから発車するSLと敬礼する駅員さん」という不可思議な心理描写が浮かび上がっていたが…。
愛子はそんな唯を無視してアリエスに向き直った。
「だいたいっ!何をしていたのっ!!あなたはっ!!」
「は…はい…ヨーヨーが無いかと思いまして…つい…」
オドオドと怯えながら答えるアリエスの台詞にがっくりと肩を落とす。
「とにかく唯ちゃん…そこで泣きながら敬礼してないで…することしてくれる…」
「は、はいですっ…」
そしてポケットから携帯を取り出すとどこかに電話しだした。
「あ、もしもし黒岩さんですかぁ…実はかくかくしかじかと言うわけで変態さんがぁ…」
どうやら城南署に電話しているらしい。
やがて電話に向かってペコリとお辞儀して電話を切った唯は横島たちの方を向くとニパッと笑った。
「黒岩さんに電話したらぁ…すぐ来て(ファンファンファンファン!!)…くれるそうです…」
「「もう来たんかっ!!」」
「早いですね~」
驚く横島たちとぼんやりと感想を言う小鳩。
そんな彼らにお構い無しにサイレンの音はどんどん増える。
やがて当たり一帯にサイレンの音が鳴り響くと公園の周囲をパトカーが取り囲んだ。
その数はざっと見ても20台は下らない。その中には紺色のバスなんかも混じっている。
それぞれの車両から降り立つのは完全武装の警察官の皆様。
たちまちのうちに変態どもの周りに出来るのは、ジュラルミンの盾による包囲網とその間から突き出ている拳銃、拳銃、拳銃、ライフル、拳銃、ATM、ショットガン、拳銃の林。
指揮官らしい警官がハンドマイクで叫ぶ。
「動くな!!動くと撃つ!いや、むしろ動けっ!!ピクリでもいいから痙攣しろっ!!!」
(唯ちゃんのパンツを見ただとぉぉぉぉ)
(俺に撃たせろっ!!全弾ありったけぇぇぇ!)
(生きて娑婆に出れると思うなよぉぉぉ!)
(コンクリ抱かせてダイビングさせたろか!ああん?)
(私服の唯ちゃん…萌えぇぇぇぇ!!!)
「あああああああ」
ハリウッド映画のような光景に呆然とする横島たちだったが、唯は慣れた?ことなのかニコニコしているし、アリエスはと言えばどっからか取り出した使い捨てカメラで警官の皆さんを激写しまくっていた。
「おや、唯ちゃん。無事だったかい?」
不意に横島たちの背後から唯にかけられる声に振り向くと、警官というよりは小学校の校長先生がよく似合うと温厚な感じの、どっか目の細い狸を連想させるような冴えない風貌のおじさんがニコニコと笑いながら立っていた。
「あ、署長さん!」
「「「署長さん?!」」」
署長は驚く横島たちにニコニコと笑いながら近寄ってくるとお辞儀を一つ。
腰の低い人物のようだ。
「ああ、君たちが唯ちゃんのご学友の方たちですな。わたしは城南署の署長やっとります坂上というものです。うちの唯がいつもお世話になりまして…」
「あ…ども。横島っす」、「愛子です」、「花戸小鳩です」、「アリエスと申します」
にこやかに語りかけてくる坂上に頭を下げる一同、坂上は彼らを見回すと唯の頭をよしよしと撫でた。
「いいお友達ばかりだね。唯ちゃん」
「はいですう。」
「な…なんか孫娘とおじいちゃんって感じですね…」
思わず横島が呟けば、突然クワッと目を見開きその年から想像も出来ない速さで横島の手を握りに来る坂上、なすすべもなく手をとられる横島に坂上は興奮した口調で話しかける。
「実の孫娘に見えるかねっ!!そうかねっ!嬉しいことを言ってくれるねぇ君っ!!」
「は、はあ…」とマヌケな返事を返すことしか出来ない横島の手をブンブンと振りながら「私はまだ孫がいなくてねぇ~」と熱く語る坂上を見て愛子が唯に話しかけた。
「優しそうな署長さんね。」
「はい。とっても優しい人ですよう。」
ほのぼのとした会話を続ける彼らの前に先ほどの指揮官が走り寄ってくると坂上に敬礼しながら報告する。
「強制猥褻犯三名確保しました。いかがなさいますか?!」
坂上は横島の手を放すと指揮官に向き直り、好々爺とした表情のままその右拳をゆっくりと上げ、立てた親指を自分の首にあてるとゆっくりと横に引いた…。
「はっ!」
敬礼し立ち去る指揮官を見送って振り返った坂上の前には、抱き合ってガクガク震える横島、愛子、小鳩と「キョトン」としている唯&アリエスがいた。
「遅くならないうちお家に帰るんだよ~」と車から手を振る坂上やその他の警官の皆様を見送った横島たち…しばし呆然としていたがやがて横島が「バシン」と両手で自分の頬に気合一発!!
「さっ!行くぞ!!」
「そうね…」
「はいですっ!」
「わたくしもお供させていただきますね」
「あ…あの…」
だが小鳩だけは異議があるかのようにその場を動かない。
「どうしたの?小鳩ちゃん」
「いえ…警察にお任せしたほうが…」
問う横島にこれ以上彼に迷惑をかけたくないという思いを滲ませて小鳩が答えるが、横島はその小鳩の頭をポンポンと軽く叩く。
「いや~。あの変態どもはさ…」
「はい?」
見上げる小鳩にニヤリと邪笑を見せて続ける横島。
「この『天』に戦いを挑んだ奴らだからねぇ…これは俺の戦いなんだよ…」
「え?」
「あははは。だから小鳩ちゃんが気に病む必要はないよ。それとも、なんだったらアパートに帰っているかい?」
「は…はい…い、いえ!小鳩もいきますっ!!」
「よし!だったら行こうか!」
その様子を離れたところから見ている少女たちはその胸にそれぞれの感想を抱く。
(まったく…『天』って…嘘が下手にもほどがあるわよねぇ…)
(ほんとーにっ!イヤになるくらい優しい人ですねぇ…タダオくんは…)
(敵地に乗り込む「勇者忠夫様」とそれを助ける妻&二号さんその他…萌えますわね…)
公園を出て歩き出す一同。
半時間ほど歩くと目の前に小さな里山が見えてきた。
先頭をいく横島に愛子が耳打ちする。
「アジトの場所わかっているの?」
「ああ、あそこの山に勝手に穴掘って住み着いているらしい…」
「そ、そう。だったら…」
「山ごとぶっ飛ばして、もしデーターが残っちゃってもつまらんからなぁ…乗り込んで直接消すさ。」
「そうね…」
(ウギョェェェェ!!)
「え?私、今何か踏んだ?」
足元から沸き起こるくぐもった悲鳴に驚く愛子。
愛子の目の前に土の中から突き出されるのはカメラを持った手。
どうやら地面に潜って盗撮しようとしていたらしい。
(貴様ぁぁぁ。この『地』を踏みつけるとわぁぁぁぁ。退けいっ!!重いわっ!!)
「誰が重いのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
(うぽっ!!痛っ!痛いっ!!やめてっ!!)
愛子の放つストンピングの雨あられを受けて土の中でもがき苦しむ『地』、どうやら潜るといっても表面を土で覆う程度だったらしく、愛子の攻撃をもろに受けているようだった。
「訂正しなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
(うぎょえぇぇぇぇぇぇ!!!!)
そして『地』は抗議の絶叫を上げながら、自分の本体の上からダイビングするという愛子ちゃん捨て身のダブル・ニードロップを股間(推定)に受けて完全に沈黙した。
『地』を倒しぜーぜーと肩で息をしている愛子、それを怯えた目で見つめる他の面々…愛子に体重の話は絶対にすまいと心に誓う。
「ああっ!『地』よぉぉぉぉ!!」
「今度は誰だっ!!」
野太い声にそちらを見れば、緑色のマントを羽織るやたらとごっつい男の姿。
「おのれ…アジトに近づく奴がいると思ってきてみれば『天』ではないかっ!!貴様がここに来るということは『風』も『水』も『火』も皆、敗れたということかっ?!しかも…俺の目の前で『地』まで倒すとはっ!!」
「お前も八卦衆かいっ!!」
「その通り!我は八卦衆が一人『山』!!この先には絶対に行かせん!!」
「やかましい退けぇぇぇぇ!!」
雄たけびと共に放たれた横島のドロップキックを受けてもんどりうって吹き飛ぶ『山』、しかし何事も無かったかのようにムクリと立ち上がる。
「ふふふ…さすがは『天』の横島…その鍛えられた「おみ足」からの「ご褒美」…堪能させてもらったぞ…」
「えう~効いてないですぅ…」
「ち…違うわ…悦んでいる…」
「あ、もしかしたらそういう趣味の変態ですか?」
小鳩の言葉に多分…と言いかけた愛子の前にズズいと進み出るのはアリエス。その目には怒りの光を湛えている。
「アリエスちゃん?」
「下がっていてくださいませ…忠夫様…」
「え?…」
「許せませんわ……このわたくしをさしおいて忠夫様からご褒美を賜るなんてっ!!」
「まてっ!!なんや!その色々と危険な発言は!!」
「行きますわよ!緑魔法の攻撃魔法が壱、「魚手烈闘!!」」
横島の抗議をあっさり無視したアリエスの言葉とともに『山』の足元の土が裂け、そこから噴き出す一筋の水流が下から『山』へと襲い掛かる!!
「何っ!!にょほほほほほほほほほほ」
「へうっ!!あれはっ「魚手烈闘」!!」
「知っているの?!唯ちゃん!!」
「知りませんっ!!」
「だったら黙ってなさいっ!!」
ゴン!!
「めきゅっ!!」
愛子の机突っ込みを受けて崩れ落ちる唯。そんな彼女たちとは関係なく進んでいく事態。水流に尻を攻撃されている『山』が気迫の叫びをあげる。
「この程度で『山』が動くかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ピクリと頬を痙攣させるアリエス、チッと小さく舌打ちする。
「さすがにただの変態ではありませんわね。ならば手加減なしで行きますわ…「魚手烈闘出力全開!!」」
勢いを増した水流に耐えていた『山』だったが…「うおおおぉぉぉ!!」と一声吼えるとドウと倒れ伏した…。幸せそうなやり遂げたような顔で意識を失う『山』を冷然と見つめていたアリエス、ポツリと呟く。
「イきましたか…なかなか手強かったですわね…」
そしてクルリと振り返ると華のような笑顔とともに唖然としている横島に抱きついた。
「忠夫様!!わたくしヤりましたわっ!!」
全身から「ほめてっ!ほめてっ!!」と言うオーラを放ちながら抱きついてくるアリエスを受け止める横島、ついつい彼女の頭を撫でてしまう。その愛撫を受けたちまちハニャーンと蕩けるアリエス。
「むおっ!!『山』よぉぉぉ!!」
「いっぺんにまとめて出てこんかぁぁぁぁぁぁ!!!」
爆音…
能力を出すどころか自己紹介もすまぬうちに消し飛ぶ白いマントの変態、おそらくは『月』…。
「戦力の随時投入…愚かですわね…」
至福の時間を中断されムーと膨れながら『月』を見下ろすアリエスの言葉には容赦が無い。カッパの城での四天王は違うの?と言う当然の突っ込みはおそらくかなりの確率でスルーされるだろうと誰も口に出さない。皆もそろそろ彼女に慣れてきたようだ。
そういえばと愛子が横島に聞く。
「横島君さっきからずいぶん文珠使っているけど大丈夫なの?」
言われて初めて気がついたのか横島も不審な表情を浮かべた。
「あれ?そういえば知らないうちにストックが増えて…」
「カッパ液のせいでしょうかぁ?」
唯の言葉にあいまいな表情で「多分なぁ…」と答える横島だったが、愛子は別の理由に思い当たる。チラッと横目で見れば頬を染める小鳩の姿。
「あの…先ほどから気になっておりましたのですが…」
「何?」
「それって…伝説の「文珠」ですわよね!ああ…やはり忠夫様はわたくしのご主人様にふさわしいお方……忠夫様っ!!「させるかぁ!!」ぐえっ!」
蕩けた表情と潤んだ瞳で再び横島に抱きつこうとしたアリエスだったが、スッと普段のトロさからは考えられない速度で動いた唯にラリアットをきめられて倒れた。
ケホケホと喉を押さえて咳き込むアリエスをほっといて愛子とハイタッチをきめる唯。
額に汗をかきながら横島が宥めようとしたとき、突然、あたりの木立から鳥たちがいっせいに飛び立った。
「来る…」
構える横島の前に現れる二つの人影…。
夏だというのに黄色い覆面と皮製のコートで身を包んだ男と、金糸のような金髪でその引き締まった肉体を白いレオタードに包んだ人物。
発達した胸の隆起もたくましくピクピクと痙攣している。
某魔神が見れば感嘆するであろう大胸筋。まさに究極のビルダー。
その赤い唇から放たれるは悪意に満ちた声。
「おのれ…『天』の横島…よくも我らが「亀甲龍」を…」
「知るかっ!変態ども!!てめーらは絶対に許せんっ!!」
「ふん…貴様なぞこの私が出るまでもないが…ここまで来れたことに敬意を表して私自ら相手をしてやろう。」
「やかましい…『風』が転送したデーターとやらはどこにあるっ!!」
「あ!バカっ…」と愛子が呟く。唯も額に手を当てて「あっちゃ~」と言う顔。
「ふん…この洞窟の奥にあるわっ!我らを倒して手に入れるのだな…さあ、行けっ!!八卦衆最強『雷』よっ!!」
「はっ!お館様っ!!」
「お前は自分が相手するって言うたやんかぁぁぁ!!!!」
「ふん!それは戦略というものだっ!!」
「食らえ『天』の横島っ!!「サンダーボルトっ!!」」
思わずお館様とやらに突っ込んでしまった横島の隙をついて飛びかかってきた『雷』の手が横島に触れる。
バチッ!!
衝撃音とともに横島の体に流れる電流!!
「ぐっ!!」
「横島さんっ!!!!」
小鳩の悲痛な叫びが山に響いた。
後書き
ども。犬雀です。
さて、長々と壊れ続けて来たこのシリーズ、いよいよ次回で完結でございます。
思い起こせば小鳩嬢にスポットを当てるべく書き始めたこの話。
はてさて上手くまとまりますでしょうか?
(ちなみに『月』はスターライト・スコープ装備の夜間覗きに特化した変態でしたが長くなりますのであっさり退場させちゃいました。)
では次回 「大団円?」でお会いしましょう。
>九尾様
あの技はカッパ独自の魔法ですので伝授は無理かと…
>法師陰陽師様
美久かどうかはともかく今回のヒロインは小鳩ちゃんのつもりだったんですが…
>wata様
ご安心を。唯巨乳化は物理的に無理です。w
>紫竜様
押しかけるかもですねぇ~。なんせあの性格ですから…
>紫苑様
キッパリと緑魔法の効果は唯にはありません。あれは自分の姿を変える魔法ですのでw
>Dan様
雷は…何萌えでしょうねぇ…とりあえず発電能力?はあるようです。