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▽レス始

「再会。ただそれだけ(中)(GS)」

テイル (2005-01-10 17:13)
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 やっとの事で全裸の美女を落ち着かせた横島は、大きくため息をつきながらお茶を煎れていた。正直彼には全く訳が分からなかった。いきなり兄ちゃん兄ちゃんと泣き出すわ、全裸で抱きつくわ……。そもそもこの美女は何者か。それすら彼にはわかっていないのだ。とりあえずまず話を聞かなければ何も始まらない。
 横島は湯飲み二つを持って美女の元へと向かった。
「ほら、お茶。ぬるめにしといた」
「ありがとう……」
 美女はホットカーペットの上に座り込んでいた。湯飲みを受け取るとき羽織った毛布がはだけ、隠された凶器が見え隠れ。
(ぬおおおおお)
 思わず壁にどかんどかんと頭を打ち付ける横島。
「に、兄ちゃん、どうしたの? そんなことしたら――」
 驚いた美女が頭を怪我するよといいかけ、頭が打ち付けられる度にみしりみしりときしむ壁に、
「……壁、崩れるよ」
 微笑みながら言葉を変えた。
「いや、平気だ。落ち着いた」
 血をだくだく流しながら、しかしその傷がみるみる治っていくのを目にし、彼女は懐かしく思った。そうだ。彼は、横島は、こういう人だった。
 横島は湯飲みからお茶をすすると、さてと、と彼女の顔を覗き込んだ。
「そろそろ事情を説明してくれるかな」
「うん」
 美女はその顔に憂いをたたえ、それでもうなずいた。
「一年くらい前、カイハツってやつが始まったんだ。僕の住んでる山は掘られて削られて、僕は追い出されちゃった――」
 彼女はもともと長野の山奥に今まで住んでいた。しかしそこへやってきた人間の、開発という名の自然破壊に追い出されてしまったのだ。それまでも彼女は人間によって住処を追われることが何回かあったが、その度に余所へ移り住んでいた。今回も何とか腰を落ち着ける場所を求め様々なところを回ったが、なかなかいい場所はない。あったとしても他の妖怪の縄張りだったりして住むことができない。ついに行くところがなくなり、街へとおりたのが半年前。しかし勝手の違う街ではろくな食べ物を見つけられず、かといって妖怪としての能力を使うのは、GSの存在が恐ろしかった。
「あ、兄ちゃんは別だよ。でもやっぱり、子供の頃の記憶が強くて」
 そういって、あははと美女は笑った。
 街では乾きこそ何とかなったが、飢えは辛かった。そもそも人が怖かったから、こそこそと隠れるような生活。惨めだった。それでも頑張っていたのは、会いたい人がいたから。
「階段の裏で力つきて倒れたとき、もう駄目だと思った。でも、僕は助かった。そして助けてくれたのが兄ちゃんだってわかったとき、もう何がなんだかわからなくなって……」
 それで大泣きしてしまったのだと、美女は言った。
「ごめんね。驚かせちゃったよね」
「い、いや、それはいいんだが」
 そう言いながら、横島は滝のような汗を流していた。彼女の話を聞いて、彼はどうしても美女に聞かなければならないことができてしまった。何となく答えが予想できる問いかけ。しかしこれを聞いていいものか――。
「どうしたの?」
「あ、いや」
 未だ涙の跡が残るその顔になおも横島は迷ったが、やはりこれはどうしても聞かねばなるまい。意を決して横島は口を開いた。
「あー、聞きたいことがあるんだけど」
 横島の言葉に彼女が頷く。
「その、会いたい人って……」
「え。もちろん兄ちゃんだよ」
 予想していた答えに、横島はその表情にどんより影を落とした。その顔を見た美女が、不安そうな表情を浮かべる。
「兄ちゃん……もしかして覚えてない、とか……」
「い、いやまて! ちょっとぼけてるだけだそうに違いない。そうだこんな美人を忘れるわけがないじゃないかわはははは」
 横島はわざとらしく笑いながら脳味噌をフル回転させた。
 えーとえーと猫又だろ猫又。ね、猫又の知り合いだろ。猫又で思い出すのはやっぱりミイさん達だろ。そう言えばこの猫又ミイさんに似ているな。でもミイさん達は仕事一度かかわっただけだし、それにどう見てもこの美女は、似てるとはいえ間違いなくミイさんじゃないわけで。でも猫又で知っているのは他にはいないし。俺が知ってる猫又はミイさんと――。
 はたと横島は気づいた。まさかそんなことはないだろうと彼女の顔をまじまじと見つめた。猫又で、ミイさんに似ていて、横島のことを知っている。一人だけ、該当者がいるではないか。
「まさかそんなことは……いや、しかし」
 以前もあったじゃないか。そう、シロの時もそうだった。思いこみが目を曇らせ、真実を見ることができなかった。考えてみるとそれ以外の答えはありえない――。
「もしかして……ケイ、か?」
「……やっぱり、忘れてたんだ」
 悲しそうに目を伏せたケイに、横島は慌てた。
「いや、だって、知らなかったし! 前会った時はこんなちんちくりんで、おいらとか言ってたし!」
「うん。いいんだ。たった一度会っただけのことだし。僕の記憶がどんなに輝いていても、兄ちゃんがそうだとは限らないわけだし」
「いや、覚えてる! 忘れてないって。でもお前、変わりすぎだし!」
「そうだね。あれからもう八年経つし、しょうがないよね」
「………」
「………」
「ご、ごめんなさい。正直全然わかりませんでした」
 頭を下げた横島に、ケイはぺろっと舌を出した。
「嘘だよ、兄ちゃん」
 顔を上げた横島は笑っているケイを見て、からかわれたことを悟った。
「おい……」
 苦笑いする横島に、今度はケイが頭を下げた。
「僕も、一目じゃ兄ちゃんだってわからなかった。ごめんなさい」
「い、いや、そんなこと別にいいんだ。俺もずいぶん変わったしな。……服装以外は」
 横島達は互いに見つめ合い、笑った。
「いや、久しぶりだ。それにしても驚いたよ。ケイが女だなんて知らなかった」
「強く育てようって思ったんだって。困難に負けない強い子に。だから男の子のように育てたんだって。母ちゃんが言ってた」
「そうだったのか。……あ、そういやミイさんは元気なのか?」
 思い出したように聞いた横島の言葉に、ケイの顔から笑顔が消えた。
「……ケイ?」
「母ちゃんは、死んじゃった」
「死んだ……?」
 呆然と呟いた横島に、ケイは目を伏せた。ぽつりぽつりと紡ぐようにケイは言った。
「寿命だって、母ちゃんは言ってた。二年前の話、だよ」
 横島の脳裏にミイの姿、声が鮮やかによみがえった。あんなに元気そうだったのに、寿命……。まだ若そうだったのに、猫又というのは急に年をとったりするものなのだろうか。
「だから僕は、独りなんだよ、にいちゃん」
 顔を上げたケイの目は、潤んでいた。
「ケイ……」
「兄ちゃん!」
 ケイがずいっと横島に詰め寄った。はだけた毛布から、今度こそ凶器がのぞいた。
「ちょちょちょ、ケイ! 見えてるぞ!」
 そう言いながら視線をはずせないのは、やはりこの男が横島だからである。
 ケイはそんなことは全く気にせず言葉を続ける。
「兄ちゃん、僕をここにおいてくれない? 行く所ないし、僕兄ちゃんのそばにいたい」
「いや、それは駄目だ」
 即答だった。
「な、なんで!?」
「馬鹿。お前みたいないい女を一つ屋根の下になんか住ませられるか。襲っちまうわ!」
 ケイの顔が朱に染まった。
「いい女……」
「そうだ。お前はめちゃくちゃ魅力的なんだ。自覚しろ。とにかくこのプリンプリンしたものをしまえ!」
 横島の言葉に、彼の視線がどこへ向かっているか気づいたケイはさらに顔を赤くし、しかし隠すどころか完全に毛布を脱いでしまった。そのまま横島ににじり寄る。
「ケ、ケイ。俺の言っていることわかってんのか!?」
 だんだんと体を反らしていった横島は、ついにはケイに押し倒されるような体勢になってしまった。奇しくも最初と同じような体勢だ。しかし意味合いは全く違う。なぜならケイは正真正銘、横島を押し倒している……。
 横島の身体は固まった。そんな横島の顔を上からじっと見ながら、ケイは言った。
「……いいよ」
「へ?」
「いいって言ったんだよ兄ちゃん。僕、兄ちゃんになら……」
 横島はあんぐりと口を開いた。
「いや待て。ちょっと待てっ」
「だって兄ちゃんは、僕の初恋の人なんだもん。兄ちゃんになら何されてもいい。だから、だから僕をここにおいて……」
 ケイはゆっくりと、顔を横島に自分の顔を寄せていく。
 横島はパニックに陥った。
「いや、だって。ほら、子供できたら困るだろ? な?」
「兄ちゃんとの子供なら、僕嬉しいな」
「そういうことでなく!」
「大丈夫。兄ちゃんが望まない限り妊娠しないようにできるから」
「あああああ。いや、まて、そうだ。いいか、襲っちまうってことは、欲望に負けたってことだろ。ケイのことを好きならともかく、今の俺じゃ遊びになっちまう。だから、な!」
 ケイの動きが止まった。横島がほっとしたのもつかの間。ケイは一回だけ喉を鳴らすと、はっきりと言った。
「いいよ、遊びでも。だからここに置いて欲しい」
 それを聞いた横島は慌てて言い返そうとし、ケイの目に追いつめられたような光を見て、真顔になった。横島とケイの視線が交錯する。じっと見つめ合う二人。沈黙がぼろアパートの一室に落ちた。
 やがて横島が口を開いた。
「あのさ、俺の職場の除霊事務所に置いてくれるよう頼んでみるよ。毎日のように顔出すから、滅多に会えないって事はない。それじゃ駄目か?」
 ケイの顔がゆがんだ。
「やだ……。ここが、いい」
「そりゃ、駄目だよ」
 横島はケイの背中に手を回すと、身を起こした。
 毛布を拾うと、ケイの身体を包むよう羽織らせる。
「お願いだよ兄ちゃん! 迷惑なのはわかっている。でもお願い。なんでもするから!」
「そうじゃない。そうじゃないんだ。……ケイをここにおけない理由が、あるんだよ」
 そう言うと横島は笑って見せた。今にも泣き出しそうなその表情に、ケイは開きかけた口を閉じた。
 横島の脳裏に、ある女の顔が浮かんだ。彼女を失って久しいが、その笑顔は今もなお横島の中に息づいている。そしてその笑顔が、横島の胸を締め付け、そして責めさいなむのだ。
 それは横島がかつて経験した、魔神との戦いの際育まれた物語。
 かつて愛した女と、その女に愛されたかつての自分の物語。


 あとがき

 どうも、テイルです。もうちょっと早く投稿したかったんですけど、どうにも予期していた方向とは全く違った方向に物語が進行し、ちょいとばかり四苦八苦。
 そもそも「再会。ただそれだけ」という表題は、「ケイとの再会。ホットカーペットの中横島と二人でぬくぬく。ただそれだけ」の略だったんですよねえ。

 なんでこうなるんだろ……?


>ろうた様
 予想通りあのこだったりします。猫、で連想するのがミイとケイ以外なくて……。

>ムゲンドラモン様
 実は小鳩嬢はすでに引っ越しており、現在このアパートにいません。ので、乱入はありませんが……おもしろそうなのでifでも書いてみようかなって気にちょっとなってたり。

>雪朗様
 感想ありがとうございます。雪郎様と間違えそうになったのは秘密です。

>九尾様
 あはははは。
 ……本当にifでもやろうかなってかんじですね。

>Dan様
 獣系は確かに性徴……もとい成長が速いですが、このケイは人間と同じように成長しております。

>紫竜様
 ケイが女って設定は確かに多くありますね。もはや王道、かな。

>リーマン様
 ……やっぱり、ifを書くしか! つーか、書きたくなってまいりましたマジで。

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