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▽レス始

「再会。ただそれだけ(後)(GS)」

テイル (2005-01-15 11:42)
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「俺みたいな男でも、愛してくれた女がかつていたんだ」
 語り始めた横島を、ケイはじっと見つめていた。横島の遙か遠くを見るような目には今、その女の人が見えているのだろうか。
「優しくて、素直で、俺のことを身体いっぱい、心いっぱいに愛してくれた。いい女だったよ。俺もそいつを好きになって、当時は色々無茶をしたもんさ。……でも、俺はそいつを失った。好きだ何だと言っておきながら、俺はそいつを守れなかった。あろうことか、見捨てたんだ」
 横島が噛みしめた歯が、ぎしりとなるのをケイは聞いた。驚いたような顔をしていたのだろう。ふと気づいたように、横島はケイに笑って見せた。
「もう過去の話さ。もう終わった話。でも、俺の中で完全に忘れ去られちまうようなしろもんじゃない。あの経験は、俺に大切なものを作るにゃ資格がいるって、そう教えたんだ」
 横島は脇に置いていた湯飲みに手を伸ばすと口を付けた。つられたように、ケイも湯飲みに手を伸ばす。中身はすっかり冷めていた。
「大切なもの。大切な人。そう言ったもんをつくるにゃ、そいつを絶対に護ることができなきゃならない。護りきることができなきゃならない。そうでなきゃ、その大切な存在をこの手に抱き留める資格なんざない。そう俺は学んだんだ」
「でも運命はとても残酷で、強大」
「そうだな」
 ケイの言葉に横島が頷く。
「運命はとても残酷で、とても皮肉な演出をしてくれやがる。しかもすこぶる強大で、必死で護ろうとした存在をいともたやすくさらっていっちまう。ほんと腹が立つよな。おかげで俺は今も独りだしよ」
「運命から……大切な存在を護りきることができないから?」
「どうしてもその自信は得られなくて、な」
 そんなこんなで八年という月日が流れてしまった。そう言って苦笑する横島を、ケイは悲しそうな目で見た。運命に勝てない。当たり前だ。運命とは世界そのものと言ってもいい。世界の中に存在するたかが一種族……霊能と言う特殊能力があるとはいえ、同じ世界の中に存在する神族魔族にすら及ばない貧弱な存在が、世界に逆らえるわけもない。
「だからさ、ケイ。俺はお前をここにゃおけないんだ。ここに置いたら俺はお前に手を出しちまう。情けないと思うかもしれないけどよ、自信がある。お前は遊びでいいって言ったけど、そんな事したらルシオラを冒涜することになる。かといって、本気で抱くわけにもいかねえ」
 ケイに本気になる。それはケイをその腕に抱き留めると言うこと。あらゆる災厄を退け、ケイを護ると誓うこと。しかし、それはできない。だって護りきれる自信がないから。
 傲慢な考えだ。もう二度とあんな思いをしたくない。ただそれだけしか考えていない……自分のことしか考えていない、身勝手な考えだ。しかしそう言って横島を一刀両断することが、ケイにはできない。できるはずもない。
「だからさケイ。俺は」
「兄ちゃん。僕、ハーフなんだ」
 ケイは横島の言葉を遮るように言葉を発した。不意とも言っていいタイミングにこれまでとは脈絡もない言葉……横島は戸惑った。
「ケイ?」
「僕はハーフだ。人間と、猫又とのハーフ。母ちゃんは、兄ちゃんも知ってるよね。つまり人間は父ちゃんのほう。父ちゃんは、かつての母ちゃんの飼い主だったんだって」
 横島にとって全くの初耳だ。しかし何故この話をいきなりケイがしだしたのかわからず、その戸惑いは深まるばかりだ。
「でね、普通猫又と人間の間に子供はできないんだ。鬼みたいに、人間の想念が核となっているものならいざ知らず、猫又って猫の化け物だから」
「え、でも?」
「うん。僕はハーフだ。本来交配が不可能な種族同士でも、霊力や妖力を使って子供を産むことは可能になるんだ。でも、それはとても危険なことでもある。力が足りないと、生まれてくる子供や母体に影響がでてしまう。そして父ちゃんは何の力もない普通の人間。母ちゃんも妖怪としてそれほど強力な存在じゃなかった。結果……」
 一気にしゃべって、ケイは口をつぐんだ。視線が泳ぐ。言葉を発しようと口を開き、言いよどんで閉じるという行為を何回か繰り替えした。
 先を促すこともできたが、ケイの様子に横島はじっと黙って待っていた。何故こんな事をケイが語りだしたかやはりわからない。わからないが、ケイにとって重要な何かを語ろうしていることは間違いない。だから、横島はじっと待った。
 やがてケイは意を決したように、横島を見た。その目は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうだった……いや、実際にその目からは、ぽろぽろと涙はこぼれた。
「結果母ちゃんの寿命は、極端に減った。母ちゃんが死んじゃったのは、僕を産んだからだ。僕さえ産まなければ、母ちゃんはもっと長生きできた!」
 目を見開いた横島の前で、ケイはその顔をくしゃくしゃと歪めた。
「母ちゃんが死ぬ前に、教えてくれたんだ。そのことを教えて、大好きな母ちゃんは死んじゃった。僕さあ、死んじゃおうかって思ったんだ。だって母ちゃんが死んじゃった。僕は独りだ。でも母ちゃんは最後まで僕のことを案じてくれてた。そのことを教えてくれたのも、同じ方法でなきゃ僕も子供を産めないから。僕はハーフだから、猫又とも人間とも普通じゃ子供を作れない。だから母ちゃんは教えたんだ。僕に辛い思いをさせても、子供を産める可能性を教えたんだ。だから僕は子供を産んで、そして幸せにならなきゃ。そう思うのに、涙が止まらなかった。だって僕は独りだ。寂しくて寂しくて、悲しくて悲しくて。でも死んじゃいけないんだ。だって母ちゃんの思いを無駄にしちゃう」
 ケイはあふれる涙を拭いながら、声を震わせ、それでもなおしゃべり続けた。
「僕さえいなければって、何回も思った。どうしてこんなことになっちゃったんだろうって、運命を呪った。運命は残酷だ。大切な母ちゃんを、理不尽な理由で奪っちゃった。僕を産んだ。ただそれだけの理由で」
「ケイ……」
「カイハツが始まって山から追い出されて、頼れる人もいなくて様々な場所を転々として。生きていくのが、何度も嫌になった。でもその度に母ちゃんのことを思いだして。そんなある日、兄ちゃんのことを思いだした。本当はそれで街に下りたんだ」
 幼い頃の輝くような記憶。自分と母ちゃんを助けてくれた、彼女の中にとってのヒーロー。どこに住んでいるのかもしれない。会えるとも限らない。そもそも彼が覚えているかもわからない。それでもその記憶の中の存在は、ケイにとってすがるには十分すぎた。
「でも兄ちゃんを探して街を歩いているとき、ふと思ったんだ。怖いって」
 横島と再会して、何もかもうまくいって、彼と一緒にいることができたとする。でも、運命が残酷なことを嫌と言うほど味わったケイは、気づいたのだ。その運命が、再び大好きな存在を奪い去ってしまうかもしれない、と――。
「あんな思いをするくらいなら、大切な存在なんていらない。二度と大切な存在を失いたくないなら、作らなきゃいいんだって、そう思ったんだ」
 横島の身体が震えた。彼はいきなり冷水を浴びせられたような気分だった。
 同じだった。ケイと自分は、同じだ。
「幸せになるためには大切な人を見つけなきゃ。でもそうしたら、またあんな思いをしなくちゃならない。それは嫌だ。だから僕は兄ちゃんを捜すことをやめて、無意味に街をうろつくようになった。もう何のために生きればいいのか、わからなかった。もう何もかもがどうでもよくて……。このアパートの階段の裏で倒れたとき、もう駄目だって思ったのは本当。でもそれよりも、楽になれるんだって思いの方が強かったのも本当。でも僕は助けられ死ななかった。しかも助けてくれたのは兄ちゃんだった」
 ケイは涙を拭っていた手を止めると、横島を見た。その目からは、まだ止めどなく涙は流れていた。ケイの視界はゆがみ、今横島がどんな表情をしているかもわからないだろう。
「兄ちゃんが助けてくれたってわかったとき、僕は思っちゃったんだ。生きたいって。兄ちゃんのそばにいたいって。幸せになりたいって。辛いのも運命なら、嬉しい運命もあるんだって。……勝手な思いだっていうのはわかってるんだ。でも、僕兄ちゃんに拒まれたら、もうどうしていいかわからない――」
 横島は、彼は今泣いていた。本人すら気づかず涙を流していた。同情か、それとも共感か、もしくは両方か。あるいはそのどちらでもないのか。本人すら気づかない涙の意味は、やはり誰にもわからない……。
 わからないがしかし、彼は思わずケイを抱きしめた。力一杯抱きしめた。
 そうせずには、いられなかった。


 夜も更けて、彼らはホットカーペットの上に寄り添っていた。猫の姿に戻ったケイを抱きしめるようにした横島と、本当に久しぶりに、心の底から安心して眠りにつくケイが、そこにはいた。


 あとがき

 「再会。ただそれだけ」とは、どうやら「ケイとの再会。だからといって特に何もなし。ただそれだけ」という意味のようですな(他人事かい)。
 二人はこうしてともに暮らすことになりましたが、特に男女の関係云々と言うことはありません。ただ同じ傷を持った二人が寄り添った、と言うところまでがこの話です。いやあ、二人のこの先に幸あらんことをって所ですね。
 とりあえず予定が狂いまくったこの作品、最後にやろうとしていたことはできたのでまあいいかな。


>hanlucky様
 ケイ、暴走……したのかわかりませんが、見事横島城は落城しました。

>九尾様
 ミイさんの寿命による死は、こんな裏がありました。

>リーマン様
 この作品は、原作終了後八年が経っております。結局あのときの傷で大切な人を作れなくなった横島と……って感じです。ちなみに18禁は……どうしようかなw

>wey様
 この先ケイが横島の心を埋めることができるのか。それは……作者にもわかりません(おい)

>雪朗様
 なんだかとってもケイがかわいく仕上がりました。嬉しいイレギュラーですな。

>柳野雫様
 あの物語をケイが受け入れると言うより、横島がケイを受け入れる……と言った感じになってしまいました。ははは

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