「はぁ…」
「ど、どうしたんだね美神くん?」
唐巣は動揺していた。さっき美神がいつになく落ち込んだ様子で教会にやってきてから、ずっと動揺していた。
だって美神くんだよ?あの美神くんが落ち込んでるんだよ?何があったのか……聞くのが怖いじゃないか!
誰に対してかは解らないが心の中でそう言い訳しつつも、師匠として、神父として聞かないわけにもいかない。いい人唐巣神父は勇気を振り絞って話し掛けた。
「実は…人がいないんです」
「人?誰のことだい?」
美神の言う人とは、助手のこと。洋の東西を問わず様々な道具を使いこなし、時にはフツーでない使用法まで心得ており、己の霊力を道具を通して発揮するタイプの美神にとって、助手というか荷物持ちは絶対に必要だった。
まず最初、荷物持ちに宣伝効果と自分の事務所のセールスポイント『美女が華麗なテクニックで除霊します』のアップを狙ってモデル事務所に人材派遣を依頼した。結果は――
「美少年モデルでも、体力のあるスポーツマンタイプに来てもらったんですけど…霊能が無いとやっぱりダメで」
「そりゃそうだよ。というか、素人を現場に連れて行くのはハンデでしかないよ?」
現場近くに結界でも張って、そこに道具と一緒に篭ってもらって必要なときに渡してもらえれば素人でも良かったかもしれない。だが美神は毎回結界を張るようなコストは払いたくなかったし、毎回そんな事が出来るような現場ばかりでもない。
「それでその辺も理解した上で、荷物持ちをやってくれるって言って来たバイトも雇ったりしたんですけど…」
「すぐに逃げたんだね?」
「ええ……3日と持たずに」
言うまでも無いかもしれないが、これは横島タイプのセクハラ目当ての小僧達。しかし横島ほど耐久力も生命力も煩悩もない彼らに、あの過酷な職場が務まるだろうか?いや、勤まるまい。
「この間の韋駄天の時みたいに、いつも先生に一緒に来てもらうわけにもいきませんし」
「ああ。すまないが私にも色々とやらねばならん事がある」
ちなみに、その韋駄天は唐巣らに「ヨーロッパの方に世界最速のユーロスターという列車がある」とそそのかされ、日本を旅立っていたりする。一応、現場から追い払ったという形で除霊は成功……なんだけど、なんだかなぁ。
きっと、今ごろあちらの新聞やニュースはIDATENの事で持ちきりだろう。
「先生……私、少し疲れてきちゃった…」
しおらしげに唐巣に美神が小さな声でそう言った途端、教会の扉が勢い良く開かれた。
バターン!!
「話は聞かせてもらったワケ!」
「エミくんっ!?」
登場するは小笠原エミ。彼女はここに妙神山への紹介状を求めて来たのだが、美神のこんな台詞を聞いては黙っていられなかったようだ。
「令子!安心して引退するといいわっ!後の事はみ〜んな私に任せてっ!」
「あのね…私、疲れたとは言ったけど、引退なんて一言も…」
ため息混じりに、更に疲労感を漂わせて美神が反論するも、エミは聞いてもいない。
「いやっよく決心したわ令子!安心してま〜かせてっ!必ずアンタが咲かしたのよりも、でっかい花を咲かせてみせるワケッ!見事な、大輪の花を!!」
「ちょぅっと、待てい!!」
ここで唐巣が横から入った。例によってモードが切り替わってしまったようだが、初見のエミは気付けない。
「花を咲かせる………………それはいい!だが!咲かせたのなら…実は!?」
「「実?」」
いきなりそんな事を言い出す唐巣に戸惑うエミと美神。花っていうのも比喩表現だし、そんな事を言われても、という感じだ。
「実って…何?お金?(ピク)収入?(ピクリ)顧客の数?(ビクッ)長者番付のランク?(ビクビクッ)」
エミが一応思いついたものを列挙する。その一つ一つの単語に、美神がピクリ、ピクリと反応してその度に生気が蘇っていく。
「そういう――目に見えるものではなくて!損とか得とかの問題ではなくってだ!!
何のために花を咲かせたのだ!?実をつけるためではないのか!?」
「だから実って何よっ!?」
エキサイトしていく唐巣と、それに逆切れ気味にツッコむエミ。その横では「そうよ!実(お金)の為に私は!」と美神が立ち直ってたりするが、今はそんな事知ったこっちゃない、と2人は盛り上がり続ける。
「実は実だよ!花を咲かせたら実を作る!そしてその実の中にこそ種子がある……!
花はいつか枯れ果てるが!再びまた芽吹かずにはいられない強力な種子!!それが大自然のサイクル!!」
「う……種子…」
「そう種子だよ!そいつが無ければ咲いても散るだけ!どんなに大きく咲いても、一世代限り!!」
「一世代限り…」
「また次の作品に取り掛かる時には、別のところから種を探してこなければならなくなる!!」
「たっ確かに!!」
今なにが流行ってるとか……!
こんな2匹目のドジョウはどうだとか、
誰かが切り開いたブームの尻馬に乗ろうとか……
俺は…
俺の作品は……
「遺伝子組み替えSSだったのかっ!?」
「なにいってんのよ、えみっ!!そもそも『にじそうさく』できゃらとせっていは、もともとかりてるんだから!すとーりーやおちをぱくらないかぎりは、おおめにみなさい!!」
色んな意味でヤバいエミの発言にひらがなツッコミ&必死のフォローを入れる美神。うん、彼女が正気に戻っていて良かった…
「わ…わたしには令子の仕事を奪う資格は無い…かも…」
「だからそもそも引退しないって言ってんでしょーが。いいからアンタ今日は帰んなさいよ」
「そうするわ…」
よく解らないが、ノリで落ち込んでしまったらしいエミは美神に言われるがままに帰っていった。
今回、なんか危険だが心しておかねばならないような話だったが…
銀河の歴史がまた1ぺぇじ
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