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「心眼は眠らない その23(GS)」

hanlucky (2005-01-09 10:17)
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がはっ!!・・・伊達・はん・・・生きてるか?」
「・・・なん・・とかな」

フェンリルの猛威に直撃した二人。
半死半生ではあるが、なんとか一命を取り留めたようであった。
フェンリルに食われそうになっても命からがら逃げ切る事が出来たようであった。

雪之丞も鬼道も全身から血が流れており、妙神山での修行がなければ間違いなく
今頃はこの世には居なかったであろう。

「まぁ・・こっちは作戦・・どおりやったんや」
「そう・だな。後は横島たちが・・なんとかやるだろう」

雪之丞たちの本来の目的はいかに横島たちの所に近づけずにフェンリルに変身させるか
であった。そうすることによってギリギリまで作戦が気付かれないようにするため
である。

作戦は成功したが流石のバトルマニアも今回はダメージは重かったのか、
体が動かないようであった。それほどまでにフェンリルの強さが異常であった事が
うかがわれる。


ガサッ


「!!!誰だ!!」

突然、茂みから複数の存在が確認される。
雪之丞たちはいくら重傷とはいえここまで接近を許したのを迂闊さを呪う。
虚勢ではあるが何とか相手を威嚇する雪之丞。


そして茂みから出てきたのは―――


――心眼は眠らない その23――


迫り来るフェンリル。
立ち向かうは勇猛なる人狼シロ。

横島はいくら魔方陣等の力を借りたとはいえ4個同時制御は流石に疲れたのか、
その場で膝をつきシロの後ろ姿を見つめていた。

「シロ・・・絶対決めてくれよ、俺に出番を回すなよ。」
『もう少し、マシな応援はないのか?』

美神と西条はすかさずシロの援護のために走り出し、エミも霊体撃滅波の準備を
始める。魔鈴も遠距離攻撃でシロのサポートを開始した。
タイガーは・・・置いておこう。


グォォォォォォォ


フェンリルとシロの距離がゼロになる。

フェンリルは前足でシロを踏みつけようとするが、俊敏な動きでそれを回避するシロ。

この十日間、横島に鍛えられてきたのは伊達ではない。
横島の変則スタイルを相手にしてきただけあってシロは相手がどのような攻撃を
仕掛けてこようが、そう簡単にはやられはしなくなっていた。
ましては一直線で早いだけな攻撃など今のシロにとってはかわすことは造作もない。

「もらったーーー!!」

シロがグレイプニルをフェンリルの首に巻きつけようとしたとき、


ドゴォォォォォ


フェンリルの目から特大の霊波砲らしきものが放出される。


「シローーー!?」

横島は思わず叫んでしまう。

肝心のシロは突然の出来事に慌てるが、今まで横島の変則スタイルに
鍛えられてきたのは伊達ではなくなんとか直撃をさける。

「くそっ!!もう少しでござったのに!!」

かわしはしたが、巻きつけるのには失敗し仕切り直しになってしまう。


ザァァァン


美神が神通棍を鞭状にして振るう。
シロに気を取られていたフェンリルは直撃するも大したダメージを受けているようには
見えない。フェンリルが美神に反撃を加えようとするが、すかさず西条が銀の銃弾を
撃ち美神の脱出をフォローする。


「ええい!!うっとうしい!!お前らはこいつらの相手をしていろ!!」
「ノミッ!?」


フェンリルはそう言い放った後自分の体から巨大なノミを一体出現させる。

ノミは横島の方へ向かってくる。
シロはすぐさま横島に逃げるように叫ぶが、

「げっ!!・・・アレっ!?体がうまく動かん!?」

ここに来て4文字同時制御のつけが回ってきた横島。思うように体が動かない。
その間にも巨大なノミが突進してき迫ってくる。

美神、西条、魔鈴、エミはシロのサポートを行っていたため横島とは大分距離がある。
そのため残っているのは―――


「横島さん!!いくじゃけんのーーー!!」


―――タイガー


タイガーは横島を担ぎ魔方陣のから逃げ出す。
その直後、横島が居た場所にノミが到着した。

(わっしは、わっしは、わっしはついにやったじゃけん!!)

タイガー今までの出番の無さのうっぷんを晴らすが如く活躍する。
頑張れタイガー、多分これが終わったらまたしばらく出番もないのだから。

このように現在感動で涙を流しながら逃亡中のタイガーであった。


(早く決めねば先生が!!)

シロは横島の姿を確認し、焦り始めた。
あの元気馬鹿が自ら動けなくなるほどの力を籠めて作ったこのグレイプニル。
決めねば、横島の弟子と名乗るわけにはいかなくなる。
早く決めねばすぐにあのノミに捕まるだろう。(この時点でタイガーの信頼度がわかる

だがフェンリルが出す光線、そしてその巨体を生かして戦法に阻まれ、
未だにグレイプニルを首に巻きつけることはできていなかった。
今はただ回避に専念して一瞬のチャンスを狙いすましていた。

「人間ごときが拙者に勝とうと思っているのが間違いだ!!」
「くっ!!精霊石よ!!」


バァァァァン


美神と西条は追い込まれるも精霊石を駆使して危機を脱出する。
エミの霊体撃滅波はまだフェンリルにダメージを与えていたが、
魔鈴の攻撃はフェンリル相手には効果が薄くひとまず横島の救出に向かう。

「このままじゃらちがあかないわね!!シロ!!私と西条さんが囮になるから
 今度こそ決めなさい!!」
「はいっ!!」

美神の掛け声で状況が動き始める。
まずはエミが霊体撃滅波を放ち突破口を開く。

「令子ちゃん!!」

美神と西条がここでフェンリルに向かって真っ直ぐ前進する。
シロは同時に横の林に隠れ機会を伺う。

(これがラストチャンスよ、シロ!!)

歯を噛み締め巨大すぎる敵に立ち向かう美神、西条。


一方のタイガーと横島も巨大なノミに追い込まれていた。

タイガーの精神感応力は相手に理性があってこそ真の効果を発揮する。
本能の塊であるノミには大した効果は得られない。
何より、力の使いすぎでタイガーに暴走されたら目も当てられない状況になる。

「横島さん!!今助けます!!」
「魔鈴さーーん!!」

ここで箒に乗って空中から魔鈴が横島のところで並走する。

さぁここで非情なる決断。

「横島さん、こちらへ!!」
「タイガー、後は頼んだぞ!!」
「あぁーー横島さん、それはひどいんじゃーーー!!」

タイミングよく魔鈴の箒の後ろに乗る横島。
魔鈴は集中し、横島が乗っても落ちないように霊力も出力をあげる。
そして置いてけぼりのタイガー、この後の末路は言わなくてもわかるだろう。

モミュ♪

きゃっ・・・ちょっちょっと横島さん!?そんなとこ掴まないでください!!」
「すっすんません!!(あ〜マシュマロや〜)」

横島が何処を掴んだかは知らないが今ので大分横島の霊力が回復したのは事実である。
魔鈴は咄嗟のことに慌てるが、なんとか体制を建て直し始める。
顔が真っ赤だったのはご愛嬌というヤツだろう。

周りから見たらイチャついているようにしか見えない両者の下で、
タイガーの悲鳴とも雄叫びともいえる声が聞こえたのは置いておこう。

(・・・シロとはまた違った感触や〜。)

この土壇場で何をしているのだろうか?


横島たちの視線の先では、美神と西条がフェンリルに特攻している瞬間であった。

フェンリルはその二人を目から飛び出す閃光で追い返そうとするが
二人は精霊石を盾にさらに突撃する。
シロの姿は見えないが、おそらく何処かで機会をうかがっているのであろう。

「魔鈴さんっ、ここで止まって下さい!!」
「えっ!?わかりました。」

上空でフェンリルを見上げる形になった二人。
フェンリルも一応こちらに気付いているようであるが、今は美神たちの相手が忙しく
狙ってこない。

地上では美神と西条が危険すぎる接近戦を開始した。
フェンリルは口をあけ二人を食い殺そうとしている。

「!!!アレか!?」

横島の視線の先にはシロが疾風の如くフェンリルの死角から迫っていた。


ゾクッ


悪寒が走る。

何かを見落としている。

横島は必死に霊視でこの悪寒の正体を探る。


「ダメだ、シロ、読まれてる!!!」


フェンリルは本能的にグレイプニルを恐れたのか、シロからは例え姿を見失っていても
匂いで追いかけ続けた。

すかさずシロの方を振り向くフェンリル。


ガァァァァァァァ


巨大な口を明けシロを飲み込もうとする。
シロとして今更止まるわけにもいかずギリギリのタイミングで回避しようと決める。


サイキックブレットではあの巨体には効果が見込めない。
サイキックソーサーでは間に合わない。


横島は文珠を使おうした瞬間―――


ドカッドカ

ダァァァァン

ドカァァァン


―――何処からか雨のように矢がフェンリルに突き刺さる。


「がはっ!?なっ何だというのだ!?」

フェンリルは矢が飛んできた方向を思わず見つめてしまう。


そう、


ここで初めてシロから意識が外れる。


「もらったーーーーーーー!!!」


そしてその隙を逃すシロではない。


グレイプニルはフェンリルの首に巻きつけられる。


グォォォォォォォォォォ


特大の雄叫びをあげるフェンリル。
だがフェンリルの体は意思に反して全く動かない。


第三段階 グレイプニルをフェンリルに装着―――成功


一同は矢が飛んできたほうを見つめる。そこには、

「父上ーー!!」
「シロよ、美神どのから聞いていたが立派になったな。父はお前を誇りに思うぞ!!」

人狼の里からシロガネ率いる精鋭部隊が援軍として来た。
そしてその集団の中には雪之丞と鬼道も手当てを受けた状態でいた。

「うまくやったじゃねえか!!」
「良かったで、でないと僕らのがんばりが無駄になるとこやったわ。」

その中から長老がでてき、美神に駆け寄る。


「遅くなってしまって申し訳ない。なんとか決戦に間に合ったようじゃな。」
「本当に遅いわね・・・でもおかげで助かったわ。」

フェンリルはその場から身動きがとれずにいたがこっちを見らみ口を開く。

「何故だ、拙者の目的は我ら狼族に自由と野生を取り戻す事なのだぞ。 それを何故邪魔をする!!」
「犬飼よ、我らには我らの掟がある。それを破りし貴様が何を言ったところで
 許される事ではない!!拙者、犬塚シロガネ、貴様に引導を渡そうぞ!!」
「グググ・・・シ ロ ガ ネーーーーーー!!!」

フェンリルはシロガネを睨み暴れようとするが、グレイプニルの拘束からは逃れられず
吼えるだけに終わってしまった。

シロガネはシロの元にいきある刀を渡す。

「父上!?これは八房じゃ!?」
「ああ、伊達どのと鬼道どのを助けた際、傍に落ちていたのだ。この刀を使い
 父の代わりに犬飼を・・・止めてくれ。」

八房が無事なのは犬飼がフェンリルに変身する際まで刀がまだ無事であったからだ。
そしてシロガネは自分の体調では引導を渡す事は不可能だと悟り、娘に託す。

シロは八房を受け取りフェンリルの前で上段の構えを取る。

「犬飼!!お前は拙者、犬塚シロガネが娘、犬塚シロが引導を渡そう!!」
「舐めるな!!小童がーーーー!!」

シロは八房を振り切り、その先から八つの閃光がフェンリルを狙う。


ザザザザザンザンザン


一つでも受ければ致命傷になるような刃をフェンリルは全て直撃する。


だがここで―――


「拙者は歴史を拓くために剣をとったのだーーーー!!!
 こんなところで、こんなところで終わるわけにはいかぬ!!」


バァァァァァン


―――グレイプニルの拘束が破られる。


「「「「「なっ!?」」」」」


フェンリルの圧力がグレイプニルの拘束力の上をいったのだ。
フェンリルは傷つきながらも再び活動を再開した。


『・・・執念』

その敵に心眼は思わず口漏らす。

「これはまずいですね・・・」
「おっおい!!これはどうすんだよ!?」

自分達の策が成ったというのにフェンリルはそのさらに上を言った。

再び動き出したフェンリルは文字通りケダモノの如く暴れ始めた。


ガァァァァァァァ

閃光が飛び出し、回避し損ねた何名かは吹き飛ばされる。

「なっなんだよ、アレ・・・」
「えっ?」

魔鈴は横島の体が震えているのに気付く。

地上では人狼たちが弓を放つもフェンリルは最早我を忘れているように矢が
突き刺さっている事に気付いていないのかそのまま暴れる。

まさしく上空と地上は天国と地獄であった。

シロが八房を振るっているがフェンリルはそのまま突進にする。
そしてそれを回避できずに吹き飛ばされる。

「シロ!!」

美神が神通棍を振るうが、フェンリルに閃光を出され精霊石を使い切っていたため
防ぐ事もできず、直撃し、その場で倒れこむ。

「美神さん!!」

あやうくフェンリルが美神を食い殺そうとした時に西条が駆けつけ
美神を背負い逃げ始める。

エミも、タイガーも防戦することすら間々ならず、後退していく。

「エミさん!!」

フェンリルのその姿はまさしく伝説通りというしかなかった。
雪之丞、鬼道も戦えない自分を苦々しく思っている。

(くっ最悪だ!!まさかグレイプニルの拘束を解くとは、残りの文珠も一つ
 一体どうすれば!?)

心眼は必死にこの状況下を覆す策を考えていた。
現在の残存戦力、周囲の状況、フェンリルの残りの体力。

賢いからこそわかる、この状況で逆転など不可能。

(なんたる失策、どうする!?だったらどうすれば横島を生かすことができる!?)

非情と言われても構わない。心眼はすぐに頭を切り替え最悪、
横島だけでも生かす方法を考えていた。最早この状況で勝利という考えは
消えかけていた。ならばせめて横島だけでも後で恨まれてもいい、
横島だけでも生きてくれればそれでいいと考えていた。

だが、フェンリルは誰一人逃すことを考えていないようだ。

「まずいです、横島さん、しっかり掴まって!!」
「死ねーーーー!!!」

閃光が横島たちを襲う。
魔鈴は咄嗟に回避に移るが、かわしきれず、箒の制御がおろそかになってしまう。

「まっ魔鈴さん、大丈夫ですか!?」
「はぁっくっ!!横島さん、すいません。降ります!!」

魔鈴の肩は赤く染まっていた。横島はすかさずヒーリングをかけるが
高度はそのまま落ちていく。

(ちくしょうちくしょうちくしょう、なんで震えがとまんねーんだよ!!)

ヒーリングをかけながら横島はここ一番で臆病風に吹かれてしまった。
雪之丞と鬼道を粉砕し、そして目の前であの美神までもやられる姿を見てしまったのだ。
なにより鍛え続けた自分の目があの存在を恐れていた。
強さで言えば猿神の方が間違いなく上であろう。しかし今。目の前の敵は殺意、
狂気、憎悪、怨念、あらゆる負の感情を秘めていた。

間違いなく今ここにいる人間や人狼達の中で横島は最もフェンリルの強さを
把握していた。いやしてしまった。だからこそ怖い、あの怨念じみた執念が怖かった。

(なんで、なんで!?許せねえのに、むかつくのに!?)

フェンリルが許せない、でも怖くて動けない。
相手の恐ろしさが一番分かる、だからこそ一番相手を恐れてしまう。
このジレンマを今、横島は味わっていた。


地上に降りれば、半分近くの人狼が重傷であった。人間であれば間違いなく
死んでいる傷であろう。美神、雪之丞、鬼道は一人では歩けないほどの傷。
魔鈴も先ほどの肩のダメージで戦線離脱。タイガーとオキヌは元々戦力外。

(何だよこりゃ?ありえね〜。)

現在は、エミと西条が残った人狼と一緒に足止めしていた。

「せっせんせい。」
「横島どの。」
「シロ、無事でよかった!!おっさんも。」

現実逃避に走ろうとしていた横島にシロとシロガネから声がかかる。
二人共、周りと同じく傷だらけであったがそれでも目は死んでいなかった。

「横島どの、我ら人狼はこれから足止めに向かいますゆえ、その内に逃げてくだされ。」
「へっ!?」
「何、八房があれば多少の無茶も効きます。なんとか夜明けまで耐えますから。
 フェンリルが真の力を発揮できるのは満月の夜、我らが耐えている間に
 そなたたちは今一度、決戦の準備をして欲しい。日さえ昇っていればフェンリルの
 力は半減するといっても過言ではありませぬ。」

横島からすればそんな事できるわけないとわかっていた。
この人狼たちは元はといえば犬飼は自分達の、身内の恥、人間には関係ない。
だから逃げろといっているのだ。

まだ夜明けまで数時間もある。
それまで耐える事なんて不可能に決まっている。
横島がシロ達に反論しようする前に、

「最早時間がありませぬ。ではいくぞシロ!!」

シロガネは銀の弓を持ち戦場に向かう。

「先生、拙者短い間でござったが本当に楽しかったでござる。
 拙者始めは父上を傷つけた犬飼が許せず、ここまでやってきたでござる。
 でも今は、新しくできた仲間を―――


 ―――横島先生を守りたいのでござる!!


その後、シロは横島が何か言う前にシロガネの後を追う。


「シッシローーー!!」

横島の声が聞こえたのかシロは八房を持っていない手を挙げて合図する。

「あのばかやろう・・・あんな化け物に・・・勝てるわけねえじゃねえか。」

横島が顔を俯かせていると入れ違いで西条とエミが帰ってきた。
魔鈴は美神を、タイガーは雪之丞と鬼道を背負い、オキヌと共に集まってきた。

「横島くん、彼らの言う通りに今は下がるぞ。夜明けがくればフェンリルの力も
 衰える。そこでGメンの全精力をぶつけるつもりだ。」

そう言った後、西条はすかさず衛星対応なのか携帯電話でGメンと連絡を取り合う。

「でもここに残った人狼さんたちは・・・」
「・・・間違いなく助からないわね、仕方ないわけ。」
「!!!」

エミは冷静に事実を伝える。
そしてその言葉に動揺する横島。
西条は皆を急かそうとする。

「?・・・横島くんどうしたんだ?」


”横島どの、もしよろしければ昨晩の話をしてほしいでござる!!”


(・・・シロが死ぬ?)

横島は何を馬鹿な?という顔をする。
そんな事あるわけないという思いが巡る。
恐怖に縛られた横島に冷静な判断を求めるのはあまりにも難しい。


”拙者が強くなるために霊波刀を教えて欲しいでござる!!”


(俺の一番弟子で、俺に似ず直情馬鹿のシロが!?)

認めたくないと思ってもここに残ればどうなるかガキでもわかる。
ずっと逃げる事しか考え付いていなかった横島は歯を食いしばり手を握り締める。

思わず、自分を殺したくなった。


”横島先生の一番弟子でござる!”


(ふざけんなよ!!)

横島の震えは止まっていない。
フェンリルは怖い、だがだからといってこのまま終わってしまえば
もう自分は自分でいられない。シロを見殺しにする。
自分の一番弟子を見殺しにする。そんなとこをするわけにいかない。

震えながらを覚悟を決める横島は心眼に叫ぶ。

「心眼!!もう一つの策、やるぞ!!」
『なっ!?何をいっている第一アレには文珠が足りないといっているだろう。』

いきなりの横島の言葉に慌てる心眼。
心眼としては横島をこのまま無事に帰してやりたいところなのだ。


”先生〜さっきはカッコよかったでござる!!”


現在の文珠は一つ、予備の策を行うには最低2つの文珠が必要になる。

「文珠が足りない?だったら―――」
「うっ!・・・よっ横島くん!?」

横島から巨大な霊気が立ち上がる。
突然に行動に皆が慌てる。
西条に限っては横島の近くにいたためその霊圧に弾かれてしまった。

「―――文珠が足りないていうんなら―――」

急がなければ、シロが危ない。
あんなセリフを最後の言葉にするわけにはいかない。


”先生、拙者短い間でござったが本当に楽しかったでござる。”


「―――今作れば文句ねえだろが!!!」


横島の右手が輝きを増し、その中から文珠が2個現れる。
同時に横島の体が揺れる。それは当然の結果である、強引に文珠を生成したのだ、
どんな反作用が及ぶかわかったものじゃない。

『バカモノ!!無茶をするな。』
「はぁ、はぁ、こっこれでできるんだろ?・・・それにタイガー!!」
「はっはい!!」

すでにキレている横島。
いつもの横島しか知らないタイガーはその豹変振りにビビってしまう。

「シロ!!勘違いすんなよ!!俺が―――」


”横島先生を守りたいのでござる!!”


「―――俺が守ってやる!!」
『ふっ本当におぬしというやつは・・・』
「やれやれ、君ってやつは・・・」

西条は呆れたような喜んでいるような顔をして携帯をかけなおす。

「―――そうだ、目標を倒す算段がついた。至急こちらに救護班を送ってくれ。」
「西条・・・」

連絡を終えた西条はいつも通りの嫌味な笑顔でいう。

「さぁもう体力的な面を考えたら僕とタイガーしかサポートできないけど、
 ・・・十分だね?」

横島はそれに答えず、戦場に駆け出した。
西条はやれやれといった感じでタイガーと共に追走する。

(あの馬鹿・・・がんばりなさいよ)
「横島さん・・・なんかカッコよかったです」
「ええ、シロちゃんが羨ましいですね。」
「おたくの横島、何か悪い物でも食べたの?」

女性陣は横島の豹変振りに様々な反応を示す。
そして雪之丞と鬼道は、横島と共に戦える西条とタイガーを羨ましく思っていた。


グガァァァァァァ

暴れ狂うフェンリル。
そのおかげもあって理性がしっかりあった時より少しは攻撃がかわしやくなっていた。

「はぁ、はぁ、シロまだいけるか!!」
「大丈夫でござる!!」

八房を持っているだけあってシロは他の人狼より被害が少なかった。
対するシロガネは病み上がりということもあってかなり危険な状態になっていた。

(次が限界か・・・)

決して弱音を吐かず他の人狼たちを引っ張る。
だが体は正直で次フェンリルの攻撃をかわしたあたりで限界を迎えるだろう。

シロは前衛で懸命に八房を振るう。

ザザザザザザン

直撃しているのだ。
直撃しているのにフェンリルには、狂った獣は止まらない。

またもや閃光がとんでくる。
それをシロは確実にかわしているがシロガネは爆発の余波に巻き込まれる。

「父上ーーー!!」

あのシロガネがやられた。
それは人狼たちの士気に大きな影響を及ぼし始めた。

シロも一瞬の気の緩みを疲れフェンリルの前足で蹴られる。
血反吐を吐きながら飛ばされるシロ。

(せっせん・・せい)

今度ばかりは心が折れ始まる。

横島と出会ったからからは毎日が慌しかった。
犬飼の脱走、父親の重傷、魔族との死闘。
妙神山での横島の覚醒、十日間の修行。
犬飼の2度の奇襲、横島に胸を揉まれた事。

その全てが今は懐かしく愛しい。

(最後に・・・もう一度・・)

そして今夜、フェンリルとの激戦。

(・・・なんで?なんで?)

そして今、横島の顔が目の前に、存在する。
決して幻ではなくはっきりと横島がいた。

「大丈夫か?シロ。」
「せっせんせーーーーー!!」

泣きじゃくり横島に抱きつくシロ。
フェンリルが傍にいるというのに抱きあう二人。
西条がニヤリとしていたが今回だけはほって置こう。

「せんせい、せんせい、せんせい!!」
「そうだ、俺はお前の先生だぞ!!そこで俺の戦い方よく見とけ!!」

緊張の糸が切れたのか、なき続けるシロ。
横島はシロの頭を撫でて、立ち上がる。
フェンリルを見るたびに膝が震える。

(こえーけど、こえーけど、これならどうだ!!)

体言う事効かない?
だったら強引に効かせるまでだ。


《勇》

―勇気―


横島の震えが止まった。
自分の感覚を確かめる横島。
フェンリルを睨みつける。

「よっ横島クン!?珍しくいい顔じゃないか。」

思わず西条は驚く。
タイガーも目を点にしていた。

『ではいくぞ、タイミングを誤るな!!』
「「「おうっ!!」」」

心眼の号令をきっかけにタイガーが精神感応力を開始する。

心眼はイメージを伝達し始める。

ここで横島はフェンリルの前に飛び出る。


ガァァアァァァ


横島に標準をつけたのか、フェンリルは口を開け食い殺そうとする。


――サイキックモード発動 & リミッター解除――


遥か彼方、北欧にヴィーダルと呼ばれる神がいた。
ラグナロクの際、ヴィーダルはオーディンすら食い殺したフェンリルに戦いを挑む。

見事、フェンリルを倒したヴィーダルは後世で様々な二つ名で呼ばれることになる。
その中の一つに

”鉄靴の所有者”

という二つ名が存在した。

ヴィーダルがフェンリルを滅ぼした時、フェンリルを倒すためだけに作り上げた
魔法の靴をはいていた。その靴でフェンリルの下アゴを踏み砕いたのが致命傷になった
とも言われている。


《鉄》《靴》


横島の足が見たことも無い幻想的な靴に包まれる。
心眼は見事、魔法の靴をイメージしきったのだ。

迫り来る巨大なアゴ、しかし今こそが最大のチャンスでもある。
敵の最大の武器であり、最大の弱点でもある場所が迫ってくるのだ。

ここで横島はGS試験の際、勘九朗の角を折ったときと同じように足に全ての
霊波を集める。


「せんせいーーー!!」

後ろからシロの声がクリアに聞こえる。


「よく見とけよ。」


全ての霊波を足に集めた結果、

今の横島の脚力は人狼すら超越する。


ズァァァァン


目前まで迫ったフェンリルの牙を掻い潜り、


「うおぉぉぉぉぉ!!」


フェンリルの下顎を蹴り飛ばした。


グァァァァァァ


今まで何度、八房を受けても倒れなかったフェンリルが崩れる。

横島もその場で倒れそうになりフェンリルの下敷きになる瞬間、


「今回は貸しにしておくよ。」


西条が絶妙なタイミングで駆け寄り横島を肩を貸して脱出する。
何が貸しなのかは全く分からないが。

倒れこんだフェンリルは光に包まれていき、最終的には犬飼の死骸が残っていた。

「犬飼・・・」

その死骸を見たシロガネが何を思ったのかわからない。


心眼が当初、二段構えで考えていた策は、

グレイプニルでの拘束で倒せるならそれでよし。
かりに破られてもヴィーダルの靴を使用すれば史実通りの結末が迎えられると
踏んだのである。これは因果関係によってフェンリルにすれば逃れられない
現実なのであろう。

もちろんこの策は横島の文珠があって初めて成すことが可能というのを忘れては
いけない。


「んっ?どうやら、救護部隊が来たようだね。急いで人狼の皆さんも処置しなければ
 いけないし、横島くん。そこにいるシロくんと仲良く帰ってきたまえ。」
「何言ってやがる、西条!!」

西条を追いかけようとするが、文珠の効果が切れたのか途端に足が震えだす。
霊力も残っておらず、ヒーリングをかけることもできなかった。
そのまま地面に倒れこむ横島。

(はぁ〜疲れた・・・もう寝よ)


Gメンの連中は続々と到着してき、重傷者などはその場でヒーリングを受けつつ
病院に運ばれていった。その中には美神、雪之丞、鬼道、シロガネの4名も入っていた。


こうして、この長い満月の夜の戦いは終結した。


フェンリル討伐に乗り出した人間も人狼も奇跡的に死者がでる事はなかった。
屈指のGS、圧倒的な回復力を誇る人狼。彼らだからこそこの天災とも呼べる
出来事を土壇場で防いだのだ。

横島忠夫は後に様々な二つ名で呼ばれることになるが、
今宵、手に入れた二つ名はこう呼ばれる。


――魔狼殺し――


――心眼は眠らない その23・完――


あとがき

まずはこんな長い文章を読んでいただき本当にありがとうございました。
分割しようかと思ったんですがやっぱり一気にフェンリル戦を終わらせました。
なんか原作より格段に強くなったフェンリルでしたがどうでしたか?

ヴィーダルがフェンリルに致命傷を負わせた場所や、やり方は
いろいろな説がありますが、自分は有力な説の一つと思われる
靴で下アゴ踏み砕く事に決めました。

そして靴を予測できた皆様、おめでとうございます!!
それにしても予測した皆様が凄いのか、作者が浅はかなのかどっちなのだろう?

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