「大尉。早速新入りの特訓ですか?」
「まぁな。ギルミア様に一任された以上それなりのモノに仕上げなければ面目が立たん。」
「生まれたばかりの赤子ですからね。手がかかるでしょう。私が変わりましょうか?」
「そうだな。考えおくことにしよう。」
ワルキューレは自分の直轄部隊の中においての副長である淫魔リムルと軍本拠地内部の私室でくつろいでいた。
つい先ほどまでは横島の最初の特訓をしていたのでほどよく汗をかいており、気持ちいい高揚感をワルキューレは味わっている。
ワルキューレのそんな様子を見ながらリムルは新米のことを考える。
未だに名前すらない奴を何故其処までワルキューレが気にかけるのかと。
「大尉。新入りは強いですか?」
「弱いな。才能はある。頭もそれほど悪くはない。だが、弱い。」
「才能と頭はあるのに弱いんですか。」
「己の力量をわきまえない力の使い方をしていてな。まず己の力の量とそれにあった攻撃方法を編み出させなければならない。」
ワルキューレの言う通り横島は特訓の際においてすぐに霊気を枯渇するのが当たり前なほどに霊気を一度に使っていた。
だが、それは仕方のないことだった。
魔王としてハルマゲドンの最前線で戦いつづけた横島は手加減という物が下手糞になっていたのだ。
「やっぱり私が面倒みますよ大尉。大尉には仕事が溜まっているんですし・・・・・・。」
「リムル。心配してくれるのは嬉しいが、私を見くびるのは止めて欲しい。それにあいつとの戦いは楽しいぞ。」
「楽しい? 弱いのにですか?」
「力の使い方が極端に下手なだけだ。あいつの戦い方は今まで会ったどの魔族の戦い方にも該当しない。」
そう言ってどこか嬉しそうに笑みを作るワルキューレを見てリムルは横島に対して殺意を抱いた。リムルはワルキューレが好きだ。
魔族は強いものに好意を抱く習性があるのでそこから性別という概念が取り払われるのは良くあることであった。
つまり、リムルはワルキューレの心を一時的にだが占拠している横島がとてつもなく気に入らなくなっていた。
その時の横島はというとあてがわれた雑魚寝部屋で力の使い方について悩んでいた。
サイキックソーサー一つにしてみても霊気を込めすぎて一度しか使えないという不甲斐なさ。
自分の持てる力をサイキックソーサー一つに全て注ぎ込む気はないのだが、慣れ親しんだ感覚で霊気を込めるとどうしてもそうなってしまうのだ。
霊気の扱い方に関しては気がつけば出来るようになったという事が多かった横島にとって操るというのは元々下手だったのである。
「君が噂の新入りだね。」
「?」
悩んでいる横島に話しかける魔族が一人いた。それはボロイ外套を纏った女の魔族だった。
「僕がこの部屋の班長であるレイドル。一応仲間っていう位置付けになるから普通に話してくれて構わないよ。」
「そうか。また喋った瞬間にぶん殴られるんじゃないかってひやひやしたぜ。よろしくな。俺はよこ――。」
「まだ名前はないんだよね。けどそれじゃあ不憫だからどうしようか。」
「人間モドキでいいんじゃねぇのか!」
横島とレイドルの会話を傍らで聞いていた一人の魔族がそう声をあげると周りの魔族が笑い出す。
「もぅっ! ごめんね。君って外見が人間みたいだから。」
「構わない。別に気にするようなことでもないしな。」
そう言いながら横島は宇宙意思の事を考えていた。
何故自分を魔族にしたくせに外見は人間の頃と同じなのだと言うことを、だ。
何か思惑があることは間違いないと横島は思っていた。
そうでなければ消去されたはずの自分が存在しているのはおかしいからである。
「宇宙意思の野郎。」
「えっ? 何か言った?」
はっきり言って横島は宇宙意思が嫌いである。
バランスを保つのが宇宙意思の意向であるならば何故ハルマゲドンを防ぐような風を起こさなかったのかと何度思ったかわからないからである。
禁忌とされる親殺しをしたのも第一の目的は自分という存在を消すためであったが、第二の目的は宇宙意思に対してなんらかの攻撃を仕掛けたかったのもある。
思い出せば思い出すほど横島の中で宇宙意思に対する闘争本能が渦巻いていく。
アシュタロスの乱において宇宙意思が味方をしてくれたことなど横島の頭からはすっぽりと抜け落ちていた。
「きっ気にしてないって言いながら霊気を練らないでよ。」
「えっ? 霊気を練ってたか俺?」
「気づいてなかったの? 周りを見てみなよ。」
横島が周りをざっと見渡すと過半数の同部屋の魔族が戦闘スタイルをとっている。
それをきょとんと眺める横島を見てレイドルは溜息をつくと声を上げた。
「ほら皆。この子、無意識のうちに冷機練ってただけみたいだから構えをといて!」
「ちっ。これだから生まれたばかりのガキは。」
横島はその様子を眺めながら自分の体を不思議そうに眺めていた。
横島は霊気の源が煩悩から闘争に移行しているのに気がついていなかった。
「とっとりあえず君の名前決めちゃおう! んと、何か希望とかある?」
「いや、特に・・・・・・。」
『横島さんはジョーカーですね。一番頼りにならなさそうなのに、いつのまにか皆の中心にいて、状況を覆している。』
『小竜姫様。それって俺のことけなしてるんスか? それとも誉めてくれてるんスか?』
『これでも誉めてるんですよ。貴方のような存在は貴重ですからね。』
そう言って笑った女性がいた。そう言って自分を頼りにしてくれた女性を助けることが出来なかった。
フラッシュバックのように横島の脳裏に映像が流れる。
一番最初に自分に対して期待してくれた彼女。守りたいと思っていたはずなのに守れなかった彼女。
横島忠夫が横島忠夫と名乗れない以上、名乗る名前など決まっていた。
師匠が授けてくれたもう一つの名前が・・・・・・。
「ジョーカー。」
「ジョー・・・カー?」
「そうだ。ジョーカーだ。俺のことはジョーカーって呼んでくれ。」
「うん。わかったよジョーカー!!」
そう言って微笑むレイドルに笑い返しながらも横島は手を差し出す。
「よろしくな。レイドル。」
「・・・・・・そっか。知らないんだったよね。僕の体はこんなだから握手はしないほうがいいよ。」
外套の下からのぞいた手には呪が刻まれていた。
「僕の体には呪いがかけられているんだ。僕に触れるとその触れた人がどこにいるのかとか、そのラインを通してその人の体を操ったりとか出来ちゃうから僕とは握手しないほうがいいよ。」
そう言って悲しそうにレイドルが顔を伏せたときには横島はレイドルの手を握っていた。
驚いたように顔を上げるレイドルに横島は笑ってみせる。
「別に気にしねぇよ。俺達、仲間なんだろ?」
「うっうん!!」
魔族にとって他人に弱みを握らせるというのは愚の骨頂である。
実際遠巻きに見ている魔族たちは横島のことを阿呆と思って見つめている。
だが、横島にとってはそんな視線などどうでも良かった。
横島は体が魔族になろうが、やはり横島なのだということだ。
差別とは無関係な人、横島のかつての友人の一人が横島のことをそう評したように・・・・・・。
ある日の雪乃丞。
「あんた。やる気あるの?」
「なんだよ美神の旦那。」
「あんたのやってることはね! ただ霊気をまとって霊的物質に触れるようになっているだけなの!! わかる? あと私を旦那と呼ぶな!!」
「なっなにがいけねぇって言うんだよ。」
「霊的物質に触れるようになるのなんて初歩中の初歩!! 霊気に霊的物質を破壊する攻撃的な要素を含ませなさい! ってか、含んでなさい!!」
雪乃丞はバイトに雇われた後、早速オフィスに通されそこで霊気の修行をさせられていた。というよりも、美神がGSを目指しているんだからなにかできるんでしょうね? と聞いてきたので任せろといわんばかりに霊気を纏って見せたのだ。
「こんなんでGSになろうなんて、呆れるわ。あのね、伊達君。霊気って言うのはいろんな要素を持っているの。攻撃的なものもあれば、回復、防御的なものにまで多種多様なのよ。はぁ、普通なら感覚的にこういうのはわかってるはずなんだけど・・・・・・。」
美神の瞳が語っていた。あんた才能ないんじゃないのと。
だが美神は見落としていた。本当に雪乃丞に才能がないのであれば霊気を纏うことなどできないということを。
霊気を発しているのではなく停滞させ纏う。
後々この才能が最高の威力を発揮することを美神はまだ知らない。
あとがき
オリキャラ二名追加。ついでに霊気に関しての独自解釈を+。そして雪乃丞の分かりきった伏線を配置。
魔界パートの方が人気があるようで、だがそちらだけ書くというわけにもいかずに最後のほうに少しだけ原則パートをプラスしてみました。如何だったでしょう。
原作パートに人気がでれば逆転することでしょう。
ちなみにレイドルについては後々物語に絡んでくる重要キャラですので注目しといてください。
>突発感想人ぴええる様 よこっち。よこっちですか。
師匠が授けてくれたもう一つの名前が・・・・・・。
「よこっち。」 「よこっ・・・ち?」 「そうだ。よこっちだ。俺のことはよこっちって呼んでくれ。」「うん。わかったよよこっち!!」
駄目だ。シリアスによこっちは無理だ。
>D,様 横島育成byワルキューレ始まってます。というか、ここまで全てが魔界の初日なんですよね。時間的に言うと。今日は休んで明日からとは言わないのが魔族の掟(笑) シビアな世界です。
>九尾様 当初はシグマにしよっかなぁ~と考えていたんですがnacky様の理論武装にやられました。
>ジョースター様 今の横島君を表すと精神は未来の横島君、外見は漫画で御馴染みの横島君、体はこの世界での横島君である魔族ということになります。
>MAGIふぁ様 横島サイドでしばらく話は進みそうです。で、次に原作パートの人骨温泉編ですかね。
>nacky様 nacky様の考えてくださった名前を使わしていただきました。ありがとうございます。理論の裏付けなしにいきなり名前をポンッと出すと違和感が出ると悩んでいたのでとても助かりました。
>紫竜様。 デビルワードも考えたんですけど、横島君は立場上呼び捨てで、そしてプラス怒鳴られまくる予定なので文章を脳内変換して音声をつけた際に違和感のない、ある意味怒鳴りやすいジョーカーを使用しました。
魔界軍入隊といってもまだひよっ子です。しばらくは魔界軍としての活躍はないでしょう。