「気がついたか?」
横島が意識を取り戻して最初に視界に入ってきたのは魔界において岩石人と呼ばれる名前のとおり岩のような皮膚をした魔族だった。
ずきずきと未だに痛む首筋を撫でながらも横島は今の状態を冷静に分析していく。
ざっと見渡した感じでは見慣れた魔界の医療施設であることから、ここが魔界であるということを横島は理解する。
「此処は、どこだ?」
「ほぅ。生まれたばかりだと聞いておったが、言葉を発することが出来るか。」
近年において魔族は生まれるものではなく、造られるモノへとなっていた。
上級魔族などが中級魔族などを作ったほうが強さ、そして知識の教育のことなども含めて手っ取り早いからである。
まぁ、造る事が主流になった最大の原因は己が造り出した魔族には制約を設けることができることが最大のメリットだからだ。
その点において横島の場合は造られたものではなく、生まれたものに分類される。
生まれたばかりの魔族は言葉を発することは当然ながら出来ない。
言葉というものを理解できていないものに言葉を話せというほうがおかしいからである。
故に生まれたばかりの魔族は咆哮をあげ、しばらくの間は獣のように生きなければならない。
言ってしまえば当然の事ながら横島は周りから見てこの時点で異常である。
「此処がどこかだったな。言葉を話せるのであれば、俺の言葉も理解できているのだろうし。」
「理解できている。」
「全く久方ぶりに魔族が生まれたと思えばこのようなイレギュラーか。近々何か起こるのかも知れんな。」
「とっとと此処が何処かを言ってくれないか?」
ドスンッと寝そべっていた横島の腹に岩石人の拳がめり込む。
「黙っていろガキが。此処が何処かなんてお前に聞かれずとも教えてやる。生まれたのであれば言葉よりも先に自分が弱いということを理解するんだったな。」
「ぐっうぅぅぅぅ。」
「生まれて100年もすぎとらん赤子が偉そうな口を聞きおって、俺でなければお前は死んでいるぞ。」
魔族の社会は絶対的な弱肉強食だ。
生まれたばかりの横島は事実上魔界において最も最下位の地位であるのだ。
最下位のものが上のものに対して口を聞くと言うのはタブーである。簡単に言えば黙ってへこへこ頷いていろということだ。
横島は元々魔族になった当初から魔王という最高位だったので、最下位の苦しみというものを言伝に聞いていただけで記憶の隅のほうに追いやっていた。
「此処は魔界軍本拠地だ。」
ドアが開いて横島にとっては馴染み深かった顔が姿をあらわす。
「気がついたようだな。」
「はい大尉。言葉も発し、理解できているようです。生まれたばかり魔界において己がどういう立場にいるのかを理解できていなかったようなので少し躾ましたが・・・。」
「かまわん。こいつはただの赤子だ。躾も必要であろう。」
「お前、いつまで寝そべっている。大尉がお見えなのだぞ。」
横島は岩石人のその言葉にお前が殴った腹が痛くて起き上がりづらいんじゃ! と怒鳴ってやりたいのを我慢して上半身を起こす。
値踏みするようなワルキューレの視線を感じながらも横島は目を伏せつづけた。
「顔を上げろ。私は魔界第二軍所属特殊部隊大尉ワルキューレである。これよりお前を魔界軍参謀ギルミア様の元へと連れて行く。」
「・・・・・・。」
「口が聞けるのだろう。」
「わかりました。」
久しぶりに聞いたワルキューレの声に、久しぶりに見たワルキューレの顔に横島は言葉が詰まっていた。
魔王になったときから、ハルマゲドン末期のときまで自分を命がけで守り、命令したことを必ず完遂した最高の魔族ワルキューレ。
横島は体中を駆け巡る喜びを押さえ込むのに必死だった。
横島はしばらくして魔界軍参謀ギルミアの前に立たされた。
輝かしい黄金の髪にお嬢様を彷彿とさせる縦巻きロール。
勝気な吊り目な瞳と好戦的な笑みを浮かべる口。
「そやつが久方ぶりに生まれた魔族かえ?」
「はっ。そうであります。」
「幼くて可愛いのぅ。してワルキューレ、その可愛い赤子をいかにして殺さずにしておいた。」
「この赤子は生まれながらにして高い戦闘能力を保有しており、後の魔界軍の力となると判断したためであります。」
「こんなに可愛らしいのに内には力が眠っていると?」
「そうであります。我々の陰行を見破っていたことからその可能性は高いかと。」
「そなたらの陰行をかえ? それは大いに期待できる要素ではあるのぅ。」
横島は目を伏せることも忘れ、自分が魔界において最下位ということも忘れてギルミアを睨みつけていた。
何故ならばハルマゲドンの際において美神美智恵を殺したのがギルミアであるからだ。
憎しみが溢れでるのを止める事は出来ない。
そしてここで横島はあることに気づいていなかった。
それは魔族になったせいで横島の霊気の源が煩悩から闘争へと移行していたことである。
だからといって煩悩がなくなったというわけではない。
「現に今も霊気が渦巻いておるし、よかろう。ワルキューレ。この魔族についてはそなたに一任する。」
「はっ。ありがとうございます!!」
そう言ってワルキューレは敬礼すると横島に此処から出るように目配せし、デミアンの私室から出た。
そしてすぐに横島の胸倉を掴む。
「貴様。魔界軍参謀のギルミア様に殺意を向けるとは何事だ。殺されても文句は言えんぞ。」
「――。」
ギロリと横島がワルキューレを睨みつける。一度火のついた闘争の火がまだ消えていないのだ。
ワルキューレはそれを感じ取り、横島の体を壁にたたきつけると顔を近づけた。
「貴様は私が一から鍛え上げる。闘争を燃やしたければ強くなることだな。わかったか?」
「・・・わかった。」
手を離され横島はその場に座り込む。
「魔界軍の正式な軍服が後で渡される。その人間臭い服を着替えたら、私のところへ来い。わかったな。」
あとがき
まずは横島君パートです。独自設定がバンバン飛び出した今回。オリキャラも登場で、反応が怖い作品であります。それと書きわすれていましたが横島君の服装は御馴染みの服装です。素っ裸というわけではありませんよ。それと横島君いまだに名前が決まっておりません。
皆、最下位の奴のことなんかどうでもいいって思ってる社会ですから仕方ないんですけど・・・。
ということで横島君の魔族としての名前募集します。
>wey様 初期ワルキューレのあの厳しさで鍛えられますから、それなりの強さにはなるでしょう。
>九尾様 横島君にはこの後いろいろとうごいてもらいます。
宇宙意思になんらかの思惑があればその途中で横島君自身が気づくでしょう。気づかなければ利用されて終わりですけどね。
>ムゲンドラモン様 伊達君と美神ですか。宣言しときますが伊達×美神・伊達×おキヌはありません。
>レイジ様 指摘ありがとうございます。ですが、それが雪乃丞パートの中核を担う予定の個所です。
白龍会。魔装術に関しては後々説明がなされていきますのでお楽しみに。
>KSR様。 ならないです。というよりも美神にママの面影を重ねている時点で恋愛は成立しないでしょう。
>不動様。 改行してみました。どうでしょうか? 読みやすくなったのでしょうか?
>D,様。 ワルキューレは既に横島君を気に入っています。というよりも横島君の無敵の文殊のせいで闘争本能が刺激されてしまっています。強くなった横島と戦いたい。今はそんな感情で動いています。戦いを重んじるワルキューレならではの行動でしょう。
>MAGIふぁ様 横島がどんな位置におちつくのか。それを言っては楽しみがなくなりますので、ご勘弁を。
まぁ、話の流れ具合から推測してみてください。といっても、まだでだしですけどね。