横島忠夫は、現在拷問されていた。
「まだ吐かんのかー!」
奇妙にバネやら何やらが飛び出た椅子、それに彼は紐(特殊タングステンワイヤー・処女の髪・蜘蛛の糸・竜のヒゲetc製)で縛り付けられていた。
頭には80年代っぽい洗脳装置が被らされて、そこから電気が流れてきている。
もはや、何を、と言うことすら出来ない。ついでに言っちゃうと回復能力を超えたダメージを受け続け、もうすぐ心臓が止まりそうだ。
ちょっぴり走馬灯っぽく、今日の出来事を思い出す――
――春にしてはやけに寒い今夜。
横島忠夫は最寄の牛丼屋(歩いて6分)で弁当その他を買った。
寒々しきは財布と外気、と言いつつ家まで残り1分時点。
街灯の真下、15,6の白総髪(オールバック)の少女が居た。
街灯を見上げ、黒いコート…いや、マントというべきものを着込んでいた。見た感じでは黄色人種ではない。もちろん黒人でもなく、白人だ。
胸は大きくロリ顔――ぶっちゃけオタクが見たらハァハァしそうな感じと言うか。妹系キャラと言うか。
多少眉は太めで背も低いが十分横島のストライクゾーン。
しかし横島は、性欲よりも食欲を優先させた。
メシメシ、と言いつつ家路を――「っくしゅん!」――少女がくしゃみ。
「大丈夫ですかお嬢さんっ!」
ぎゅば、と急降下中ツバメも真っ青な速度で少女の前に陣取る。袋の中の牛丼はぐちゃぐちゃだが、横島は気にしない。
「私横島忠夫という怪しくない者ですが私の家で一緒に暖を取りませんかいえこれは別に深い意味は無くタダの善意なのですが――がしっ
視界一杯に白い掌。同時に、こめかみに冷たいもの。指だ。
白い掌に、黒いものが浮かび上がる。
魔法陣。それも、少し形は違うが、黒魔法の、雷を相手に落とすときの物だ。
ずっと外に居たのかな、と思うと同時に電撃。そして、暗転。
「兄さーん」
私のアパート(結構豪華だ)から歩いて10分、飛んで2分の所にある兄さんのアパート(ボロい)に私は来ていた。
一人暮らし技能(片付け、自炊、金銭管理)がほとんど無い兄さんの為、わざわざカレーとご飯を持ってきたのだけど――
「兄さーん?」
両手が塞がっているので、影から箒を出してドアを突く。
しばらく叩く…しかし反応無し。
どうにもやな予感が。
――都内マンションで餓死!?高校生、孤立しての――
「ま、まさかね!3日前にも肉じゃが持ってきたし!!鍋返しにきたし!って言うか今日事務所にいたし!」
慌ててそのテロップを頭から追い出す。
間違いなく顔が青い。自覚できるほど、背筋がゾクゾクとする。
確かに嫌いだ。でも、死んで欲しいと思ったことは――あ、あったか。
「ってそうじゃなくて!」
ご飯のボウルを横に置き、影の中をまさぐってこのアパートの合鍵を探し出す。
そこまでやってから、どうせ閉まってないかとドアを開いた。
盗らせる物など無いから、兄さんはいつも鍵をかけていない。
実際にはお金があったりとかもするが、その額は微々たる物。こんなボロアパートに入る物好きも居ないだろう。
キッチン――といえるほど豪華でもないと言うか市販の持ち運びガスコンロ並みにちゃちな台所にカレーの鍋を置き、部屋を改めて観察する。
GS関連の本が万年床の横の小さな本棚にきちんと置いてある以外は全て乱雑に詰まれ、それらの本の中には巧妙に隠してあるが18歳未満は買えない本があって。
押入れの中には服が少々。ビデオがたまに隠してあるが、今回は無い。
枕元にはカップ麺。万年床にはいくらかシミが。
そろそろゴキブリホイホイでも置かなければいけないだろう。
テーブルは現在足が折りたたまれて壁に立てかけられて、テレビデオとか言うテレビは沈黙を保ったまま。
〜そのまま30分が経過〜
いくらなんでも遅い。
コンビニは往復10分、今日は雑誌の発売日でもないし、15分程度で帰ってくるだろう。
ビデオ店はここから10分以上離れた所にあるが、そこは私のアパートの隣。一応覗いてきた。
牛丼屋は歩いて6分。兄さんなら食べるのに10分もかけない。昔から食べるのは早かった。
「…ま、いっか」
待っていたとか思われると癪だ。何か危険な目に会っていても、殺しても死なないからOK。
とりあえず私は、書置きをカレーの鍋に張っておき、それから箒に乗って寒々しい外気を切って飛んだ。
どう、と自分が倒される感触。
「まだ吐かんのか…」
そう言うのは、先ほどの少女。見れば美少女だ。
「俺は…知らねって…」
聞かれた質問には答えが無い。本当に覚えていない。
「覚えているはずなのだ。魂が。あれは魂に衝撃を与える拷問器具、さすがの異常回復を持つお主でもあれは堪えただろうからな。思い出さねばそのうち死ぬぞ」
解らない。
「飯はここに置いておく」
どうして、あんな寒い中待っていたのか――
3日。それだけ経ったが、兄さんは家に戻っていないようだ。
美神さんには言っても大して助けにはなってくれなさそうなので、おキヌちゃんに言ってみた。
「おキヌちゃん、兄さん見てないか、近くの浮遊霊さんに聞いてみてくれない?」
彼女は近くの幽霊に人(幽?)望がある。その辺の弱い妖怪ともつながりがあるそうで、情報屋やったらかなり儲けられそう――私も美神さん化(金銭面)してる気が。気をつけよう。
『え?わかりました、でもどうかしたんですか?』
「いや別に何も」
『はぁ…』
意外と情報は早かった。
私は学校に行っていないので(とっくにアメリカで飛び級卒業済み)朝から事務所に居たのだが、昼前には情報を持った浮遊霊が来ていた。
『変な女の子に連れてかれてるのを見たっス』
と言う左腕の無い球児の協力の元、私は、【存在を気付かせなかった】豪邸へと急いだ。
人払いの結界と言うのは、名の通り人を払う結界。急用を思い出したり、どうにも嫌な予感がしたりと言うものから、存在を感じさせないものまで多種多様。
よく神魔族間戦闘に使われるらしいそれは、人の身では張るのが難しい。
制御がどうしようもなく難しいのだ。それを張る物(例えば天狗の蓑はそこに居ないと感じさせる)もあるが、大抵は人の手には無い。
霊力を漏らさず、人が来ないような効力をかけ、その上でそれを維持。そんなもんやってたら普通は制御しきれなくなって霊力が漏れる。
それを張る相手。ごく、と私はつばを飲んだ。
『蛍さーん!』
後ろから声。予想以上に私は躊躇していたらしい。おキヌちゃんが来た。
「おキヌちゃん…」
『一人で行っちゃ駄目ですよっ!もし変な人に襲われたらどうするんですか!』
――ありえない事は無いけど、おキヌちゃん。何故私を見て震えた。
兄貴か、と気付きつつ、私は言った。
「それじゃ、いつでも逃げていいからね?」
逃げませんと言うおキヌちゃんを好ましく思いつつ、私は白き疾風に命令を下した。
白髪、オールバック、黒マント。
――美神は、その少女に心当たりがあった。
そりゃ、おキヌちゃんやら浮遊霊やらが目の前であーだこーだ言ってればそのくらい美神にも解る。
ゴゼン。GS業界でそう呼ばれる、最強と名高き錬金術師<アルケミスト>。
一説にはあのDr.カオスすら超えたとも言う天才少女。
なんで横島君を攫うのかと思いもするが…自分に害は無いだろうと判断。
とりあえずテレビを付けた。なにか、引っかかるものを感じつつ。
初の前後編です。
短いかもしれませんが、推敲前のストックのあった本体…に繋ぐディスプレイが隠されてしまい、現在母のパソコンから投稿してます。
色々と拙い所もあるかと思いますし、嫌いという人も多いと思いますが、お付き合いください。