無限の魔人 第十八話 〜龍美の決意〜
「嵐・・・か」
外を見れば激しい雨と風が唸っている。
「界人、何か心配事か?」
龍美が後ろから外を覗き込んで来た。
肩に顔を乗せるんじゃない。
「いや、確か今日は過去から美神美智恵が来る日だと思ったからな」
「気になるのかな?」
ラピスがソファの背に肘を乗せてこちらを見ている。
「どうだろうな・・・気になるって言えば気になるんだが・・俺が手を出す必要も無いしな」
「ならば別に良いではないか、それよりもゲームの続きをやるぞ」
龍美は俺の手を引いてテレビの前に連れて行く。
なんでこの年でゲームなんか・・・いや、何千歳になるか解らんゲーム猿が存在していたな。
・・・妙神山にでも行くかな。
ふとそう思った。
俺の存在を神魔界の上層部はどう思っているのか・・・未だ接触して来ないと言うことは、判断がついていないのか、危険な存在と見なしていないのか、はたまた・・・俺という存在に気づいていないのか・・だ。
考えても解らんな・・・一度行ってみよう、何か俺の「あれ」に関して解るかもしれない。
龍美と俺で格闘ゲームをしていると――――
ブツンッ
―――停電した。
「む、雷が落ちたか」
「これじゃあ、暇つぶしも出来ないね。困った困った」
「周りが見えるか?」
俺は暗闇だろうが文珠があれば見ることが出来る。
「私は元心眼、問題無い」
「僕は暗闇は得意じゃないから見えなーい」
「の割に、見事俺に抱き付いてくれちゃってる訳だな?」
「こわいよー!かいとぉー」
「・・・そんな楽しげな声で言われてもな」
「ラピスその手を放さぬか!」
龍美がラピスを俺から引き離そうとしている。
「良いじゃない、龍美ちゃんもやれば?」
・・・挑発するんじゃない。
「そうか」
反対側が龍美に占領された・・・俺の意思は全く関係ないらしい。
「・・はぁ」
「溜息を吐くほど幸せが逃げるんじゃなかったっけ、界人?」
「そうだったな・・・しかし、いい加減ブレーカーを見に行かないと行けないから手を放してくれ」
「「イヤ(否)」」
「はぁ・・。」
[光]
文珠を出し、文字を込める。
「所で、メドーサはどうしたんだ?」
ふと、此処に居ないメドーサが気になった。
「なんでも、香港に居るらしい勘九郎に計画中止を告げに行った」
「なんだとっ!」
やばい、やばい、メドーサが危険だ!
なんて事だ、こんな事に気づかないとは!
「どうしたのだ、そんなに大きな声を出して・・何か不味いのか?」
龍美とラピスが困惑した様子で俺を見る。
「ああ、メドーサがあの計画を止めるって事は、アシュタロス一派を裏切ると同意だ」
「香港に居るのが勘九郎だけとは限らない、他の魔族が居たりしたら・・最悪殺される可能性がある」
「何を騒いでいるんだい?」
「「「メドーサ!?」」」
「他に誰に見えるって言うのさ?」
あれ・・・なんでだ。
「・・メドーサ、勘九郎に計画中止を告げに行ったんじゃ?」
「ああ、電話を使う為に外に出てたのさ。ここにも電話くらい必要かしらね」
「「「電話・・。」」」
「焦らすな、界人!」
「ほんとほんと! 吃驚したじゃないか」
「いや・・・その・・香港へ行ったかと思って・・・・な」
「うん? 私を心配してくれたのかい?」
「・・ああ、アシュタロス一派がどう動くか解らないからな」
「ふふ、ありがと」
「うわっ!」
メドーサが飛びついてきた。
「こらっ!離れろ!」
「メドーサ駄目だよ、界人は僕のだから」
「誰がお主のじゃ!界人は・・私の」
今現在、俺の両手は龍美とラピスに封じられ、俺の上にはメドーサが居る。
「ふふ、焦った顔も良いね」
メドーサが俺の顔を撫でながら言う。
「いや、そろそろ俺としては離れて欲しいんだが・・・」
「仕方ないね、これで許してあげるよ」
チュ
「――――界人ぉ!!」
「いてっ、抓るな!大体不可抗力だ!」
「五月蝿いっ!」
メドーサとラピスは離れ、龍美と俺が口論する。
「はぁ・・龍美ちゃんは独占欲が強いね」
「全く、あれは一体どういう感情で動いてるのかね?」
「父親として見ているのか、男としてなのか・・・どうなんだろう」
「あんたはどうなんだい?」
「僕? 僕は勿論“男”としてだよ♪」
「おや、ライバル登場って所かね」
「それは龍美ちゃんにとって・・・でしょ?」
「そうさね、私は別に独占なんかしたいと思わないし、神魔族は一夫多妻制が普通だし」
「龍美ちゃんはまだまだ子供だなぁ・・・そう言えば、計画中止を伝えてどうなったの?」
「ああ、勘九郎には伝えたんだけどね、どうやら諦めきれないらしい。」
「それはどう言う事だ?」
「おや、龍美はもう良いのかい?」
「ああ、拗ねちまったからな・・・それより、勘九郎が1人で計画を推し進めると?」
「いや、私がしばらく連絡もしなかったからね。他の魔族が既に行っているらしい」
「つまり、勘九郎は止める気は無く、他の魔族と一緒に原始風水盤を作ると言っている訳か」
「ああ、それとあっちに行っている魔族だけど、どうやら厄介な奴が行ったみたいだ」
「「「厄介な奴?」」」
いつの間にか龍美が俺の隣に来ていた・・・気配が読めなかった。
「ベルゼブルって奴さ」
「あいつか・・・」
「知ってるのかい?」
「ベルゼブルは、元はハエを殺す神として崇められていたが、キリストにより魔に落とされた存在だ。今はソロモン72柱の1柱、正式名称『館の主』そして蔑称『蝿の王』・・・どうやら分霊が香港に行ってるようだ・・確かに厄介だが・・まぁほっとけば良いさ」
「良いのかい、止めなくても?」
「俺は別に正義のヒーローって訳でもないしな・・・人界の魔界化を防ぐだけなら完成間近か、完成後に破壊した方がもう一度やろうとは思わないだろう。」
「そうかい」
メドーサとラピスはあまり気にならないようだが、龍美は・・・。
「界人、何故救える命を救おうとせぬ!?」
小竜姫から生まれただけ有って、正義感が強いようだな・・・困った。
「良いか龍美、俺は神じゃない。大体その神ですら見て見ぬ振りを決め込むような存在だが・・・いや、今は良いか。俺が香港の事件を防ごうと動くとする、するとアシュタロス一派の魔族が俺の存在を消そうと躍起になるだろう、となると俺だけでなく、お前達にまで危険が及ぶ事になる。俺は名も知らぬ存在を助け、お前らが危険に陥るくらいなら手を出したりしない。」
「・・しかし・・・いや―――むぅ。」
少し考え込み奥へ行ってしまった。
「少し言い過ぎたか・・。」
「いや、アレくらいで丁度良いさ―――それよりも、私達を優先してくれるなんて嬉しいじゃないか」
「そうそう♪」
また抱きつかれてしまった。
お・・美神美智恵が来たみたいだな。
出現場所は・・・横島の傍か、やっぱり俺の知る未来とは違う・・。
俺は、未来から来たと思っていたがラピスに否定されてしまった・・・ならば平行世界かと思えばそれもありえないと言う・・・それでは俺は何処からきたんだ?
やっぱり妙神山に行くしかないか・・・問題は行くタイミングだな。
今行っても怪しまれる・・・かといって―――そうだな。
原始風水盤完成間近に行けば小竜姫に恩を売れるな・・そうしよう。
問題はこっちだな。
「メドーサ、俺はブレーカーを見てくるから龍美の方を頼む」
「分かった、任せときな」
「僕は?」
「邪魔しない様にな」
「なんだいそれ!!」
ラピスが睨んでくるが効果は無い。
「はは、怒るな怒るな」
ラピスの頭を撫でてからブレーカーのある所へ向かった。
界人が言った事は正直・・・半分嬉しいと思った。
それは事実だが、罪も無い者の命が散ると知っているのに何もせぬのは納得いかない。
だが、それで私に何が出来るかと言うと・・・何も出来る事は無い。
「うぅぅ、苛々する。」
界人の言った事は人として正しいと思う。
何も好き好んで危険に身を投じる馬鹿者は珍しい。
「やはり納得行かぬ!」
「やれやれ、何を言ってるんだか」
振り返るとメドーサが困った様子で立っていた。
「あんた、界人の言ってた意味分かってるかい?」
「無論だ、要はバレずに助ければ良い」
「・・・・・はぁ。」
「どうした?」
「あんたね、界人が私らを守ろうとしてるのが分からないのかい?」
「そのような事分っておる」
「なら何でそんな考えが出るんだい」
「界人の言う事は解るが、それで納得できるかと聞かれれば肯くことは出来ぬ。」
「・・・さすがは小竜姫の竜気か。」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ、分からないなら良いけどね・・・ふぅ、界人になんて説明しようかね」
メドーサはそのまま戻っていった。
何とかバレずに香港で阻止せねば!
無限の魔人 第十八話 〜龍美の決意〜
end
あとがき
今回は界人君の早とちりと龍美の頑固な所を書いてみましたー。
界人君も完璧魔人じゃないのよっ!ってな訳で、龍美は生みの親の影響大だぞと。
この話が起点になって、ハーピー編、香港編で盛り上がっていく予定です。
次回もどうぞお楽しみに
紅眼の狼でしたっ!
レス返し レス有難うございます!執筆の栄養になっておりますょ。
>法師陰陽師さん
横島君は界人君の介入無く、自力で何処まで強くなるか・・・ちょっと楽しみだったりします。ハーピーはどうなるんだろう〜。
>九尾さん
お察しの通り、今のところ表向きはほぼ「歴史通り」の展開です。これからも少しずつずらして、歪めて、最終的には・・・どうしよう?(え
>コスモプロセッサで『懐かしの敵キャラ大集合』しようにも、み〜んな生きてる>んですもん♪なんなら海の底に沈んでるはずのテレサも探しちゃいません?
テレサが悪役だったなんて・・・可哀想だああああ。
何か徐々に助けたくなってきましたね(何
>紫竜さん
やっぱり表立って介入はなさそうです。界人君は裏で動くのが好きそうです。
参謀とか、軍師とかそんな役どころ。
あと、がんばってください。(え
>柳野雫さん
GSは不思議が一杯。時間移動なんて能力も普通じゃありえませんしね。
なんらかの影響がっ!?