第5話 「お姫様の秘儀」
「よくおいでなさいました。地上の人…」
扉を開けると眩いばかりの光が溢れ、横島たちをひるませる。
光の中、床に敷き詰められた赤い絨毯の向こう、玉座と思われる椅子に優雅な様子で腰掛けた美女。淡いグリーンのドレスはV字型に大きく胸元が開いている。
その美女の周りにも女官と思しき美女たちが数名佇んでいる。
「ずっと前から愛して…!!」
飛び掛ろうとする横島を押し止めるように玉座から声がかかる。
「そしてここがあなた達の墓場となります。地上の人たちよ…」
「え?」
「姫様!」
「ちょっとカワ太郎君どういうことなの!」
「よくも我らが四天王を倒してくれましたね。だけどこの私、カッパ族女王「エリアス」を彼らのような小物と一緒にしてもらっては困りますよ…」
そう言って優雅に立ち上がるとその細く美しい指を横島たちに向けた。
愛子や小鳩や唯を自分の後ろにかばい身構える横島。エリアスの次の行動に備えて文珠の準備を始める。
(くっ…残りは二個か…霊波刀とソーサーでどこまでやれる?)
とりあえず守るべき少女たちのために文珠に『護』の文字を再び込めた。
(第一撃を防ぎきって逆撃する。その隙に活路を見出すしかないな…)
横島の目に真剣な光が宿る。カワ太郎は突如として先ほどまでの突っ込み担当少年が発する尋常ではない気迫に驚いた。
それは殺気ではない。この期に及んでカッパ族に対する殺気は向けられていないのだ。
驚嘆すべきことにこの少年が発するのは「守り」の闘気。
これほどの闘気が「守り」に向けられているということが信じられない。しかもそれは自分に対する守りではないのだ。
自分の後ろに居る少女たちを守るべく発せられる闘気。自らの力を誇示するでもなく、単純に発せられる「守りたい」と言う意志の力。
もしこの少女たちに危害を加えてしまえば…それを考えるとカワ太郎の身は我知らずに震えた。
そんなカワ太郎の恐れを知ってか知らずか、エリアスは淡々とした表情のままで横島たちに向けていた指を唇に当てる。
薄いピンク色に彩られた形の良い唇から発せられた言葉は…
「あれ?次はなんて言うでしたっけ?」
そう言うとその手をドレスの胸元に入れた。
小ぶりながら形の良い美乳がチラリと垣間見え横島の霊力がさらに上昇する。
そこから取り出したのは大きく「台本」と書かれた一冊の大学ノート。
慌てた様子でペラペラとめくると、やがて目的のページにたどり着いたのか真剣な様子でしばし黙読。
「あ、わかりました。えーと…「この私をお前たちの血化粧で美しくかざっておくれ!!」…って…皆様どうかなさいましたか?」
「あ…あのなぁ…」
「え…やっぱりNGですか?どうしましょう!悪の女首領ってやったことないもんで…あの…あの…すみませんでしたっ!!」
ペコリと頭を下げる。
「な…な…」
声も無い横島たちに対してカワ太郎がぼそりと告げる。
「姫様は人間界の特撮とかアニメが大好きでして…。一度、やってみたいと常々言っていたんです…」
「そ…そっすか…」
「あ…あの…もう一回最初からやり直してよろしいですか?」
申し訳なさそうに上目遣いでモジモジしながらアリエスが提案するが、横島たちにはそれに答える気力は残されてなかった…。
気を取り直して再び玉座につくアリエス。その前に跪き謁見の姿勢をとる横島たち。
カワ太郎が今までのいきさつを説明した。
「…というわけです。姫様」
「なるほど…こちらの方が「ハイリピドー」の手がかりを持っていらっしゃるとカワ太郎は思うのですね?」
「はい」
「そうですか…」
アリエスは再び指をその唇にあてて考え込んでいたが、横島に向き直ると笑顔と共に彼に話しかける。
「横島様とおっしゃいましたね。たしかに私が見ても貴方からは何かの力を感じます。カッパ族の未来のためにも出来ればご協力頂きたいのです。お願いできますか?」
「はい…俺でよければ是非お願いします!」
「まあ!ありがとうございます。では早速…」
そう言ってパンパンと手を打つと、控えていた女官が恭しく捧げ持ってきたのは先ほどカワ太郎が見せたと同じガラス製の器具。
それを見て横島の顔から音を立てて血の気が引いた。よほど嫌らしい。
カワ太郎がアリエスに進言する。
「姫様。横島殿はそれを使うのはお嫌いのようでして…」
「まあ、ではどうすれば?」
「はっ!姫様。姫様にはカッパ族の王族にのみ伝わるというあの秘儀を使っていただきたいのです。」
言って恭しく頭を下げるカワ太郎だがアリエスの顔はその言葉の途中で見る見る紅潮する。
「え?それは、あの…殿方の…その、前から採取するというあれですか?で…でも…私…その初めてですし…。上手に出来るかどうか…。」
恥じらいのあまりモジモシと玉座の上で身悶えするアリエスの様子を見て横島の中で再度高まる霊力。
愛子は憮然とした表情を隠しもせず、小鳩はそんな横島の様子を悲しそうに見詰めている。唯は口の中で「えうえう」呟くだけ…。
「そ…それに!あ…あの…私…その殿方のその…部分を見たことも無いのに…そんな…」
「大丈夫ですよ。お姫様…」
「え?あの…横島様?」
誰の目にも留まらぬ速さでアリエスの横に立つと、彼女の手を握りキラリと歯を光らせながら優しく励ます横島。
突然のことに呆然としていたアリエスだったが、再びその顔を真紅に染めるとうつむきながら「はい…」と小声で呟いた。
「横〜島〜君…」
奈落から響くかのような声にビクッと反応しながらギギギと振り向けば…。
腕組みをしてこちらを睨んでいる愛子。その目にあるのはまぎれもなく殺気!
小鳩は両手を前で組み、意識してかそうでないのか胸を強調しながら目に涙をためて横島を見詰めている。
唯は茫然自失といった様子だ。よく見れば鼻からいつもの魂が出たり入ったりしていた。
「い…イヤだなぁ…みんな…ボクはカッパさんたちのことを思えばこそ、この身を犠牲にしようと…」
彼女たちとは目をあわさずに棒読みで言う横島だったが、その言葉にアリエスが感激した。
「まあ!地上の人でありながら私たちのことをそれほどまでに…」
そして顔を伏せしばし考えていたようだが、その顔を上げると決然として言い切る。
「わかりました。私も横島様の思いに報いねばなりませんね。不束者ではありますがよろしくお願いします。」
そう言って立ち上がり深々と頭を下げるアリエス。大きく開いたドレスの胸元が横島の目に飛び込む。そこに見えた美乳とその頂に反応し、頭を下げたアリエスの目の前に突きつけられる横島のキャノン砲。短パンでは隠しようも無い。
「まあ…もう…」
それに気づいてさらに頬を染めるアリエス。ゆっくりと顔をあげ横島を見上げるその目はほんのりと潤んでいた。
「では横島様…儀式の間にご案内いたします…」
「は、はいっ!」
「横島くんっ!!」
引き止める愛子の声に振り返ってみれば、先ほどの殺気はどこかに消え、今やその目に涙を浮かべている愛子。瞳から大粒の涙をこぼしながら祈るように手を組んで横島を見つめる小鳩。右手に逃げないように魂を捕まえつつ悲しみの涙を流している唯がいる。
さすがに罪悪感を感じて硬直する横島。どうやら罪悪感と煩悩が頭の中でせめぎ会いフリーズしかかっているようす。まあ女性に優しい彼ならば仕方ないことだろう。
ここで彼女らを振り切って欲望に走れるような男なら彼女たちの苦労も少ないというものだ。
「あの…皆様どうなさいました?」
そんな彼らを不思議そうに見るアリエスに女官の一人が近づくとこそこそと耳打ちする。アリエスは納得した表情を浮かべると彼らに話しかけた。
「あの…何分にも私も初めてのことですし…よろしければ皆様にもご協力いただけませんか?」
「「「え?!」」」
「なんですとっ!!」
(なんとぉぉぉぉ!初めてで4Pっすか?こんなんありか?マジ?実はドッキリ?)
「「「やります!!!」」」
息ぴったりで帰ってくる少女たちの言葉ににっこりと笑ってアリエスは手を差し出す。
「さあ…横島様。そして皆様も儀式の間に行きましょう。」
儀式の間は城の中心部にある円筒形の部屋だった。
その中央に設えられた円形のベッド。白い清潔そうなシーツがかけられている。
横島はヒートアップした煩悩に半分思考力を奪われ、女官たちが促すままにそのベッドに横たわった。
いつの間にか全てを脱がされたのにも気づいていないほど、彼の脳内は桃色の妄想に埋まっている。
「あの…横島様?どこか痛いとかありませんか?」
アリエスの言葉にやっと我に返る。どこも痛いところは無いが気になることが一つ。
「あの〜。何で俺はベッドに固定されているんすか?」
「安全のためですわ」
「はあ…」
そんな横島の耳元に口をよせアリエスが吐息混じりに囁いた。
「私も初めての体験なので…上手く出来なくても怒らないで下さいましね」
「もちろんす!!」
「では、始めたいと思います。愛子様、小鳩様、唯様。お手伝いお願いしますね。」
「「「はい!!!」」」
(うおぉぉぉぉ。ここは天国か地獄かっ!!お姫様プラス、スク水女子高生たちにぃ…ってスク水じゃねー?)
愛子たちはいつの間にかナース服に着替えていたり…。
(コスプレっ!!しかしスク水のままでもっ!!って気をしっかり持て俺っ!!)
そんな横島の妄想さえも吹き飛ばす感覚が突然下半身でこれでもかと自己主張しているキャノン砲で沸き起こる。
(にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!この感触はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
首をもたげて見ればキャノン砲をそっと握り締めるアリエスの左手。
そしてその顔がゆっくりとキャノン砲に近づいていく…。
(うおぉぉぉぉぉ!!!耐えろ横島忠夫っ!!まだ発砲するのは早いっ!!)
ズブリ!
「はうっ!!」
突然、キャノン砲に走った激痛に慌てて股間を見れば…。キャノン砲に差し込まれている一本の管。
【尿道カテーテル】
外尿道口から膀胱まで通す管のこと。またはその術式。膀胱炎の治療などで用いられる。古代ギリシャにおいてカ・テーテルが体内の毒を抜くときに使ったのが起源と言われている。
(民○書房 仮定の医学)
「ギニャァァァァァァァァァァァ!!!」
こうして悲しすぎる事件は終結した。
追記1
横島から採取された煩悩?はカッパ族のラボに運ばれ分析されることとなった。
検査の結果が出るのは一ヶ月ぐらいかかるらしい。
「何かわかりましたら、お伺いしてご説明させていただきますね。」と頬を染めながら言うアリエスの言葉は気絶した横島に届いていたかどうか?それは愛子たちだけが知っている。
追記2
カッパの国から横島たちが戻って数日後、学校新聞にカワ太郎の事件が載った。その記事の中で「横島忠夫。常人の数十倍の性欲!」と書きたてられ、横島のフアンはずいぶんと減ったようだ。その日、記事を読んだ女子高生たちの冷たい視線を受け、いつぞやのバレンタインの時のように校舎の裏でエグエグ泣く横島が目撃されることとなった。
学校の廊下。
そこに窓を背にして佇みながら学校新聞を読んでいる新聞部の赤井久仁子。横島のクラスメートでもある。
小馬鹿にしたような視線の先にあるのはカワ太郎事件の記事。
そんな彼女には話しかける声は科学部の赤城であった。
「あら、あなたは新聞部の赤井さんね?」
「あ、赤城先輩。こんにちは。私に何か御用ですか?」
「いいえ。特に無いわ。ただ…」
「ただ…何です?」
「ええ。ちょっとね。あなたらしくない記事だと思ってね。」
そう言って横島の記事を指差す。赤井はその言葉に動じた風もなく、ただ幾分苦々しい口調で言う。
「ああ、これですか。これは私の書いた記事じゃないですよ。私この日は休んでましたから…」
「あら?そうなの?」
「ええ。こんな二流記事書くなんて私のプライドが許しませんから。」
「二流?」
「三流はデマを書き、二流は事実を書く。そして一流は真実を書く。誰の言葉かは忘れましたけどね。」
「事実であっても真実ではないと?」
「それは先輩もそう思っているんじゃありませんか?」
「どうかしらね?でも…あなたが部長になれば新聞部も面白いのにね。」
「部長とかそういうのに興味ないんです。現場が好きですから。」
「ふふふ。あなたらしいわね。じゃあこの記事の補足はしないのかしら?」
「それは彼女の望むことじゃないと思います」
「あら…優しいのね。」
「私だって女の子ですから…」
「そうね。」
「先輩はどうするんですか?」
「私?私はこれから仮説を確かめにね。」
「そうですか…。それじゃあ私はこれから部活があるので失礼します。」
「ええ。頑張ってね。」
「はい。先輩も…」
別れる二人。赤城はしばらくその場に立ち止まっていたが再び廊下を歩き始めた。
真実を見極めるために…。
後書き
ども。犬雀です。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
横島君にとっては相当ムゴイ結果になりました。
正月早々何を書いているんだ自分!と思いつつ…。
尿カテで何をとったとかは気にしないで下さい。あくまでもアレはカッパの緑魔法です。儀式ですから…と苦しい言い訳。
さて次回は最終話 「秘宝の意味」お送りします。ではまた。
>伏兵様
カッパ族の兵士は弱点だらけって気がします。でも犬は水生生物好きなんですよ。今もザリガニ飼ってますし。
>法師陰陽師様
おっしゃる通り普通のカッパの方が強いです。まあ姫様がああいうノリですので…。
>黒川様
見破られましたか。姫様は唯と同類でした。海牛若丸はおっしゃる通りの存在です。
横島君とまともに戦ったらフラグが立ったかも知れません。
>九尾様
もともとカッパの世界と唯は相性がいいのかも知れません。
頭が固いのも考え物ですな。
>紫苑様
姫様…フラグ立ったんでしょうか?犬としてはまた出したいキャラでもありますけど。
>wata様
四天王は弱いです。おかしいなぁ〜当初の予定ではバトルになる予定だったんですけど。いやマジで。
>Dan様
彼ら改造カッパはエリート扱いですから…。ちなみにカワ太郎兄妹は改造カッパじゃないですから強いと言えば強いです。