第4話 「激突!四天王−1」
「「「「お兄ちゃん?!」」」
驚愕する横島たち、確かに言われて見ればカワ太郎に似た目鼻立ちをしており、その身にまとうアーマーのような衣服もカワ太郎に似ている。
人間界に行けば町ゆく十人が十人とも美少女というだろう、だが、その小柄な体からはかすかに闘気を発している。
「はい。あの娘は私の妹のカワセです。そして…なんの真似だ。四天王が一人、カワセ!!」
「お兄ちゃんこそ!この城にいきなり地上人を連れてくるってどういうことなのっ?!」
「私は姫様の命を受けてハイリピドーの捜索中だ。その手がかりがこのお方たちなのだ!それゆえ我らが城に招待した。何の異存があると言うのだ?」
「そんな連絡は受けてないわっ!!」
「ぬう…言われて見れば連絡するのを忘れていた!!」
「だぁぁぁ」とこける横島たち。
カワセは勝ち誇ったように腰に手を当て横島たちに指を突きつけた。
「ほら御覧なさい。許可の無いものはこれ以上、この城に立ち入ることを許しません。どうしてもと言うなら…」
「言うなら…?」
固い口調でカワ太郎が問う。
カワセはその彼に勝気そうな笑顔を見せながらホールの一角を指差して叫んだ。
「あそこの窓口でフリーパスポートを買いなさい!!」
「「「有料?!」」」
「小鳩、お金持ってないです…」
小鳩に限らず普通はスク水と体操着で財布を持ち歩く人はいない。
「あら、だったらタダ見しようっていうの?そんなことは私が許さないわよっ!」
冷たく突き放すカワセに唯が両手をブンブン振って抗議する。
「でも〜でも〜カッパさんたちのために来たんですぅ!!」
「きまりはきまりよ。お子様はそんなことも知らないの?」
「へうっ!お子様じゃないですうっ!!」
「その胸で?」
「へあうっ!!…こ…この胸は人間世界では標準の大きさですっ!!」
「嘘言わないでっ!!」
「嘘じゃないですうっ!!」
「だって…後ろの人たち…」
「へ?」と振り向いてみれば無言で首を横に振っている愛子と横島がいたりして…。
その横で小鳩は困ったように微笑んでいた。
その様子にガックリと膝をつく唯。その目から溢れる滝のような涙。
「えうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。まさか仲間に裏切られるとわぁぁ…」
「だってねぇ…」、「いくらなんでもなぁ…」と顔を見合わせて言葉を濁す愛子と横島。
プチッ
再び唯の中で何かがキレた…。
暗黒のオーラをゆらめかせユラリと立ち上がると、前髪に隠された双眸がキラリと光るやカワセを睨みつける。
「ふっふっふっ…とうとうこの天野唯を本気にさせたようですねぃ…」
「な…何よ…」
思わず後ずさるカワセと他のカッパたち…。そんな彼らに暗い笑みを浮かべた唯はゆっくりと右手を上げ、その手のひらを向けた。
「けっけっけっけっ。地獄で後悔するといいですぅ…」
そう言うなりその可憐な口から禁断の言葉をつむぎだす!!
「バルスっ!!」
「アホかぁぁぁぁぁ!!城を崩してどうするっ!!」
ドゲン!!
「あきょっ!!………ぶったぁぁぁ!タダオくんがグーでぶったぁぁぁ!!」
横島の全力突込みを後頭部に受けて愛子に泣きつく唯。
「まあまあ」と唯をあやす愛子はクラスメートと言うよりお母さんみたい。
そんな彼らの方を汗を浮かべながら見ていたカワセがポツリと呟く。
「あ、あぶないところだったわ…」
「危なかったんかっ!!」
「ええ、去年までならね…」
「何やそれはぁぁぁぁ」
「だって今年の流行は動く方だし…」
「あ〜はいはい…」と愛子が力なく突っ込む。すでに投げやりになりかかっているのも仕方ない。
「とにかく敵対行動をとったことは間違いなしっ!!警備の皆さんお願いっ!!」
「イーッ!!」
カワセの号令と共に怪しい掛け声を上げながら襲い掛かってくる警備のカッパたちを遮ぎるようにカワ太郎が横島たちの前に立つ。
「むっ。ここは私にお任せをっ!!」
そして腕を十字に構えると腰を落とし気合の叫びを上げた。
その手から迸る圧倒的な闘気は周囲の水に伝わり、それがカワ太郎の手に収束するとその手の先から凄まじい大渦が放たれる!!
「いくぞ!水中中心拳奥義『水中竜巻ィィィィィ』!!」
「イイーッ」という悲鳴と共に消し飛ぶ警備の皆さん。
横島はとっさに『護』の文珠を発動させて渦の余波から少女たちを守った。
やがて渦が治まるとそこにはカワ太郎と横島たち以外の姿は無かった。
「す…凄い技ですね…」
感嘆する小鳩、横島も頷く。しかし唯は何か納得のいかない表情。
「えう〜でも…」
「何かな?季節外れの養殖鮎っポイ少女よ」
「ムカ…なんかスッゲーむかつきますけど…水がくるくる回るのは「竜巻」じゃなくて「渦巻き」じゃないですかぁ?」
「はっはっはっ。筑波山麓あたりではそう言うかも知れませんね…」
「日本中どこでも一緒やぁぁぁ!!」
汗一つたらしながらとぼけるカワ太郎に横島が突っ込む。
横島君突っ込みキャラ定着か?
「でも妹さんまで吹き飛ばすことはなかったんじゃない…」
「私ならここですっ!」
愛子の当然ともいえる言葉に答えるように近くの柱の一本からカワセの声が響く。
「何っ!!」と見れば、そこには一本の柱に逆さまにしがみつくカワセの姿。
足で柱にしがみつき、その両手をカマキリのようにして身構えている。
「あれは何をやっているんだ?」
柱に逆さまにしがみつく少女の姿に呆然とする横島。それに対して言葉に緊張を含ませてカワ太郎が答える。
「くっ…カワセが本気になったか…。カワセは水中中心拳「水蟷螂拳」の使い手なのです…」
「いや、だから何をやっているんだ?」
「ミズカマキリを知りませんか?彼らはあのように枯れ草などにへばりついて擬態することで近くに来る獲物を捕るのです。水蟷螂拳はそれを元に作られた恐るべき暗殺拳。
近寄るのは危険です!」
「じゃあ近寄らなければいいのよね…」
愛子ちゃんあっさりと解決策提案。皆さん速やかに同意。
横島はカワ太郎の肩をポンと叩く。その声には隠しようも無い疲れが…。
「さあ、行こうか…カワ太郎…」
「え゛…ちょちょっと待ちなさいよっ…」
焦るカワセをあっさり無視する一同。
「で、次はどこへ行けばいいんだ?」
「ああ、あのドアを抜ければ中庭です。そこを通ればすぐに謁見の間です。」
「んじゃ行くか…」
「待ちなさいって言っているでしょぉぉぉ!!」
閉じるドアに向かって柱にしがみついたままのカワセから抗議の声が飛ぶが誰も聞こえてないフリ。ただ唯だけが最後に振り返って…。
ニヤリ…
「あ、あの…ねえっ!待ってってばぁ!!ひどいわよ〜。鬼、悪魔、貧乳っ!!」
四天王の一人、水中中心拳「水蟷螂拳」のカワセ敗北…。
ドアを抜けた横島たちの前に広がるのは、綺麗に整えられた中庭だった。
慎重に中庭を進む一行に突然頭上から男の怒声が投げつけられる。
「待てい!!」
「今度は何じゃいっ!!」
振り仰ぐ横島が見たものは、はるか頭上の水面にスックと立つ細身の男。
カワ太郎と似た格好だがその体は黒をメインとしたプロテクターに覆われている。
「よくぞカワセを倒したな。だがこの「あめん坊弁慶」はそうたやすくはやられぬぞ!!」
「むうっ!奴は!!」
「知っているのカワ太郎君」
「はい。奴こそ四天王ナンバー2、「アメンボ真拳」の使い手です。その拳を極めるためその身をアメンボと同化させた改造カッパです。」
「アメンボさんですか?」
「はい。奴は動くものを見つけたら反応して襲ってきます。その速さはまさに神速!動いてはなりませんっ!!」
「はいいっ!!」
慌てて立ち止まる小鳩だったが、水中とはいえ慣性の法則は存在するわけで…。
プルン…
その豊かな胸は小鳩の意思を無視して重々しく揺れた。
「そこだっ!!」
そのわずかな振動を感知して水面から矢のような速度で襲い掛かってくる「あめん坊弁慶」!!
「小鳩ちゃんっ!!危ないっ!!」
「キャアァ!」
咄嗟に愛子がかばう、横島もサイキックソーサーをシールド状に展開して立ちふさがろうとするが、弁慶の速度はまさに神速!!
「くっ!間に合えっ!!……って…?」
なんとか立ちふさがり身構える横島だが、いつまでも攻撃は来ない。
不審に思って上を見ると、先ほどの速度はどこへやら、プカーと浮かんでいく弁慶の姿があった。
「何をやっているんでしょうか?」
小鳩の疑問に答えるように再び水面に立った弁慶が叫ぶ。
「くっ。アメンボは深いところに潜るのは苦手っ!!おのれ…なかなかやるな地上人!!正々堂々と水面まで浮いてこいっ!!」
「あ〜もう!!こんなんばっかりかぁぁぁ!!ほらカワ太郎、次行くぞ!次っ!!」
「は、はい…」
そう言って一行は水面で「卑怯者〜」とか叫んでいる弁慶を残して先に進む。
四天王の一人、「アメンボ真拳」の「あめん坊弁慶」敗北…。
「な…なんか…帰りたくなってきたわねぇ…」
「そうだな…」
愛子の言葉に頷く横島、さしもの煩悩もあまりの馬鹿馬鹿しい展開に尻すぼみになってきたらしい。
だがそんな横島たちにカワ太郎の警告が届く。
「油断はいけません。まだ四天王最後の一人が残ってます。」
「いや…もうなんか見切っちゃったし…カッパの城…」
「見切ったとは心外ですね…」
今度は前方、中庭の終点にある豪奢な扉の前に立つ男が一人。
ロン毛金髪のなかなかの美形で青いウエットスーツ状のものを着ている。
だがその体は光沢というよりぬめりに包まれているようだ。
「誰っ?!」と問う除霊委員一同。だか男は彼らを無視してカワ太郎に話しかけた。
「ぬう!貴様は!!」
「裏切りとはいただけませんね、カワ太郎。四天王の一人として情けないとは思わないのですか?」
「私は裏切ってなどいないっ!!」
「ふふふ。ならばこの私、ウミウシ真拳の「海牛若丸」を倒してそれを証明してみるんですね…」
「ちょっといいか?」と何かを完全に見切ったような顔で横島が海牛若丸に問う。
「何です?地上人、邪魔しないでいただけませんか。」
「そうです。これは私と海牛若丸との戦い。横島さんたちに迷惑をかけるわけには…」
「いや…ちょっとした疑問なんだが…お前、ウミウシなのか?」
「そうですが?」
「やっぱり改造されてるのか?」
「その通り!!私はウミウシの力をこの身に宿した改造カッパ!!いかなる攻撃もこの軟体の体には通じません!!」
「ウミウシは海の生き物だと思うが?」
「え゛…」
「真水で大丈夫なのか?」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!真水が染み込むぅぅぅぅぅぅぅ!!」
横島たちの前で七転八倒してのた打ち回っていた海牛若丸だが、やがてその動きもよわまりピクピクと痙攣し始めた。
「やっぱりねぇ…」
「なんか可哀想ですねぇ…」
唯がツンツンと海牛若丸をつつく。そのたびにピクピクと痙攣しているから死んではいないようだが、出来れば早く海に戻してあげて欲しい。
四天王最後の一人、ウミウシ真拳の海牛若丸敗北…
「と、とにかく…これで障害はなくなりました。さあ、謁見の間に急ぎましょう!!」
「お…おう!」
とってつけたようなカワ太郎の言葉にほとんど消えかけた煩悩を奮い立たせる横島。
(謁見の間に行けば、あの綺麗なネーちゃんがぁぁぁ)と考えることで気力を振り絞り最後の扉に向かった。
「さあ、ここです」とカワ太郎に促され扉を開けた横島の耳にたおやかな声が聞こえてくる。
「よくおいでなさいました。地上の人…」
後書き
ども。犬雀です。
あれ?バトル書きたかったのに…。
今年最後の更新でした。(って当たり前ですね。)
では皆様、良いお年を…。
さて次回予告
ついに謁見の間にたどり着いた横島たち。そして彼の前に現れる美女。
横島は一気に大人の階段を駆け上がるのか?そして女性陣はそれを黙ってみているのか?
次回 「お姫様の秘儀」乞うご期待!
>wata様
一般女子にもてさせてあげたいんですけどねぇ…。
ちと危険かと。
>disraff様
ご教授感謝です。今回はゴロがありますのでこのままリピドーでいきますね。すみません。
>紫苑様
小鳩ちゃんは横島ファミリーのメンバーですから…。ええ、そりゃもう常人とは(ニヤリ
>法師陰陽師様
こんな宝でした。ごめんなさいです。しかしてその実体は?
>九尾様
今回はリピドーの正体は明かせませんでした。次回で明かせるでしょうか?実は犬にもわかりません。
>Dan様
いや、アレは注入。こっちは吸入ですから…。って形は一緒か。
>柳野雫様
むごいです。犬も想像するだけでお尻が痒くなってきました。