第3話 「水中の城」
「して、そのハイリピドーとはどのような性質を持つものなのだ?」
「はい、実際にはわれわれカッパ族にも伝承があるだけでして、形、大きさともにわかってはいません。ただ、最近のカッパ学会の研究ではエネルギー体ではないかとの解釈もされています。」
「それはまた雲を掴むような話ねぇ」
「ただ手がかりはあります」
「それはどんな…」
「はい。我々カッパ族は穏やかで欲望も少ない種族です。それ故に生物としては決定的とも言える弱点があります。」
「それは何ですか?」
興味深々といった様子の摩耶。さすがに科学部ということだろう。
「生存に関わる本能が弱いということです。例えば繁殖力とかそれに関わる欲望ですね。我々はそれを「リピドー」と呼んでいます。」
「ちょっと待って!それって人間たちもリピドーって呼んでいるあの本能のこと?」
「はい。おそらくは…」
「えう?「リピドー」って何ですかぁ?」
「リピドーってフロイトって精神分析学者が言い出した言葉でね。平たく言えば性欲のことね。」
「え?でもその後…」
「麻耶ちゃん。ちょっと黙っててもらえるかしら…」
「は、はいっ!」
(愛子さんちょっと怖いです)
いつもの温厚な様子ではなく何かを思いつめた感じの愛子の口調に違和感を感じながらもうなずく。もちろんそんなことはカワ太郎にはわかるわけが無い。
「おおむね、その通りです。しかし我らカッパ族の科学力はそれを他の生物から取り入れることに成功しました。」
「どうやってですかぁ?」
「川で泳いでいる人間からちょこっと頂くのです。」
「そういえばカッパさんって尻子玉を抜くって言い伝えがありますね。小鳩も聞いたことがありますよ。」
「はい。その通りです。しかし近年、川で泳ぐ人たちがめっきり減ってしまって、我々は慢性的な「リピドー」不足に悩んでいるのです。人間たちが川に戻ってくれるようにと色々と手は尽くしてみたんですが…「あざらし」の着ぐるみを着て多摩川で泳いで見たりとか…」
「え〜っ。あれはカワ太郎さんたちだったんですか!?」
「はい」
可愛いもの好きの摩耶ちゃん、今、明かされた衝撃の事実に背後にガビーンという効果音を貼り付けて硬直。
「ちょっと待て。確か尻子玉を抜かれた人間は衰弱して死ぬんじゃなかったか?」
「全ての欲求を抜き取られれば激しい抑うつ状態に陥って死ぬこともありますが、我らはそのようなむごい真似はしません!それは別の「河童族」の仕業です。我らはほんの必要量を頂くだけです。まれに取りすぎることもありますが…命には別状ありません。」
「さらに待て!命には別状はないってことは何かあるんだな!」
「は…まあ…生物としての命には別状ありませんが…取りすぎますと男としては死んだも同然になることが…」
「へう?どういうことでしょうか…?」
ゴニョゴニョと小鳩が唯に耳打ち…フムフムと聞いていたがポンと納得して手を打つ。
「ああ、つまりイン「いかんっ!!」…モガモガ」
慌てて唯の口を背後からふさぐ加藤。心なしか額に汗が浮いている。
「加藤さん、ナイスっす。」
「いや、礼にはおよばん。この娘らに「婦女子の口から聞きたくないトップ3」の単語を言わせるわけにはいかんからな。」
それはともかくと愛子が話を戻す。
「つまり、カワ太郎さんが探す「ハイリピドー」って「凄い性欲」ってことかしら?」
「いや…一概にそうとは…」
「いいえ!きっとそうよ!!だとすればカワ太郎さんが感知したエネルギーも納得がいくわっ!!」
「おおっ!やはり何か心当たりがっ!!」
「ええ!麻耶ちゃんノーパソ持っていたわね。この間の画像出せる?」
「は、はいっ!」
そして摩耶がノーバソを使ってカワ太郎に見せるのは先日の対チチナシ戦で暴走する横島の姿。
「こ、これは…」
絶句しながら画面を見詰めるカワ太郎。
「どうかしら?」
「確かに凄まじいエネルギーですが…これがそうとは断定できません…。」
「けど「ハイ」な「リピドー」と解釈すれば、「凄い性欲」ってことよね。だとしたら横島君が関係してないはずないわよ!」
「愛子…お前、俺を何だと…」
「あら?反論あるの?」
「ううう…」
横島君、立場が悪い。日ごろの行いを考えれば思い当たる節がありすぎる。
カワ太郎はしばし考えていたが…。
「ふーむ…ならばサンプルに少しいただけませんか?帰って研究したいので…」
「全力で断るっ!!」
「あ、しかしお見受けする限り人間とは思えぬ煩悩の持ち主のようですし、多少頂いてもEDの危険はないと思いますが…」
「多少でも嫌なものは嫌なんやぁぁ」
「どうやって抜くんですかぁ?」
「ああ、それは」
無邪気に聞く唯に答え器用にも簀巻きからヌポっと抜けてくるカワ太郎、そして懐をごそごそしながら取り出したのはガラス製の大きな注射器のようなもの、ただし針はついてない。
「これをですね。肛門にこうズボっと差込みまして…」
「絶対にイヤじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「そ…それは…さすがにムゴイと思うわ…」
愛子も冷や汗をたらして同意。
「ならば前から採る方法もありますが…」
「激しく嫌やあぁぁぁぁ。何が悲しくて男なんぞにぃぃぃぃ」
「いや…それは私には出来ません。前から採取する方法は我が一族では禁断の秘儀でして、使えるのは姫様だけです。」
そう言って再び懐から出したのは一枚の写真。
そこに写るのは年の頃なら20歳程度、金色のややウェーブのかかった髪を腰まで伸ばし、ヘルメットとも見える王冠をかぶった美女の姿。
やや垂れ目がちな目元もそこにある泣きぼくろとともにチャームポイントとなっている。すらりとしたスタイルの中で控えめな胸の隆起がそれなりに清純な色気を感じさせる。
写真をまじまじと見詰ていた横島だが、ふと不自然なほどに丁寧な口調でカワ太郎に話しかけた。
「…カワ太郎君?…」
「はい?」
「このお嬢さんが手でやってくれるのかい?」
「まあ、女官も手伝うでしょうが…」
「ほほう…ちなみに女官というのは?」
「ああ、みな美女ですよ。」
(こんな美女たちが手で煩悩を搾り出してくれるっ!しかも前からっ!!いいか…いいんかっ!俺っ!!こんな爛れた体験でっ!!いやしかし…)
「あ〜。ちなみにカワ太郎君?もしかしたら手以外も使ってくれるとか…?」
「それは…手でうまくいかないなら他のものも使うでしょうが…」
「ブフォッッッ!!」
(手以外…つーことは乳か?小さめとはいえ挟めるのかっ!!!…はたまた口かっ!!この綺麗なネーちゃんがお口でっ!!!)
「あの…横島君…」
「はいっ!横島忠夫。全力でご奉仕させていただきますっ!」
「何の話よっ!そうじゃなくて全部口に出ているわよ…」
「なんとっ!!」
慌ててあたりを見渡せば、「やっぱりエロなのねっ!」とか「ケダモノ並みの煩悩ってホントだったのね!」とか「性欲魔人!!」とか、すっかり軽蔑の目に変わってしまった女子高生の皆様。横島株大暴落。
ギギギギと振り返ってみれば…
呆れたような得心のいったような微妙な表情の愛子。
もじもじと顔を真っ赤に染めている小鳩。でも口の中で「小鳩なら挟めます…」と言っているのは内緒。
摩耶は口元を抑え「く、口でなんて…ふ、不潔ですっ!!」と冷たい口調で決め台詞。
唯は「ふぇ?」といまいちわかってないながらも、親指と人差し指で輪を作って上下するという危険な仕草をしている。
加藤だけは「うむっ!やはり英雄は色を好むか!」と呵呵大笑。
突如、プールに吹き荒れる昭和基地でも観測できるかどうか?というブリザードに耐えかねた横島はさりげない様子を装ってカワ太郎に話しかける。
「や、やっぱり人助けはしなきゃいけないよねっ♪」
「おおっ。来て下さいますか!」
「うん。でもボクはいますぐ行きたいなっ♪」
一刻も早くこの場から逃げたいのがミエミエだ。しかし、この男、それがますます女子高生の皆さんの軽蔑の視線を増やすことになるとは気づいていない。
「なるほど善は急げというわけですね。よろしい。このカワ太郎。全力を持ってカッパの城にご案内いたします。」
「う、うれしいな。早く行こうよ。カワ太郎君♪」
「はい。では…」
そう言ってカワ太郎はプールを指差すと何やら念じだした。
その声に応ずるかのようにプールの水面が盛り上がるとそこに現れたのは金色に光るゲート。やがて重々しい音ともにゲートが開いた。
「ささ。この中に我らがカッパ族の城があります。」
「ああ。でも呼吸は?」
「心配御無用。このゲートから入った者は水の中でも空気と同じように動けます。もちろん呼吸も可能です。」
「そ、そっか…だったら行こうか。カワ太郎君♪」
「はい。では「待って!!」…はい?」
「「「私たちも行くわ(ます)(ますぅ)」」」
呆然としていた除霊委員女子メンバーが名乗りを上げる。
愛子は机を振りかぶりながらカワ太郎に近づくとニッコリと笑う。
「駄目って言わないわよね。」
「は、はいっ!是非、ご一緒にっ!!」
「ちょっと待て!危険だろ!!」
ビビるカワ太郎と反対する横島だが…
「私たちは除霊委員よ。除霊委員は一心同体なのよっ!それが青春というものよ!!」
愛子ちゃんヒートアップ。タイガーやピートが忘れられている気もするが…。
「そうですっ!私も行きますぅ。」
「小鳩もついていきます!」
愛子に負けじと同意する二人。こうなれば横島には拒否するという選択肢は選べない。
しかし念のためにとカワ太郎に聞くことにする。
「危険はないんだろうな。」
「大丈夫です。それより早くしないとゲートが閉じます。」
「あら、だったら急ぎましょう。行くわよ。横島君!!」
言うなりゲートに飛び込む愛子。慌てて追う横島たち。彼らがゲートに飛び込むのを確認して最後にカワ太郎もゲートに消える。
後に残ったのは冷たい空気を漂わせるスク水女子高生たちと、ふんどし一丁の男子高生。
だが摩耶だけは何かを考え込むような顔でノーパソの画面を凝視していた…。
カッパ族の世界は幻想的な光景だった。
自分の頭上30メートルほどのところに水面が見えることから、ここが水中であるということは理解できるが、横島たちはほとんど水中に居るという違和感が無い。
地上と違うのは先ほどまでの猛暑が感じられずに心地よい温度に変わっていることぐらいだろう。
足元を見ても水草なのか緑色の芝のようなものが一面に広がっている。
川底とはとても信じられない。一種の異空間のようなものかも知れなかった。
5分ほど、カワ太郎の話では上流に向かって歩いていった先にその城はあった。
西洋の城郭を思わせる石造りの城は水にゆらめく光の中に淡く虹色に輝いていた。
その城の前にある大門の前に立つカワ太郎。大きな声で城に向かって叫ぶ。
「四天王が一人、カワ太郎。姫様の命を果たし、今、帰参した。門をあけよ!!」
数刻の間を空けて門が開く。さあどうぞとカワ太郎に導かれて門を潜る横島たち。
入ってみればそこは豪奢なつくりのホールだった。
正面にはカスケードがあり、さらに入り口からそこまで続く回廊には天に昇る竜の彫刻がされた柱が何本もある。
人間の世界でいえば、これ一本だけでも億では効かないだけの金がかかるであろう。
愛子も唯も小鳩もただただ圧倒されるばかり。
だが横島はその柱の影に不穏な気配を感じた。カワ太郎も何かを察したようだ。
「誰だ!!」
身構えつつカワ太郎が叫ぶ。横島も霊波刀を発動させ臨戦態勢に入る。
柱の影から現れたのは深緑の甲冑身を包みに三叉の槍を持った一団と、カワ太郎に似た雰囲気を持つ少女だった。
「ここを通すわけにはいきません。お兄ちゃん!!」
「「「「お兄ちゃん?!!」」」」
後書き
ども。犬雀です。今回はちょいと横島君の妄想がエロっぽいので15禁としてみました。あいかわらずぬるいですね。
さて、リピドーの解釈から始まって愛子嬢暴走気味です。何か思惑があるんでしょうが気づきかけているのは、今のところ摩耶だけかな?
どうなりますやら…
さて次回
横島の前に立ちふさがるカワ太郎を兄と呼ぶ少女。
さらに現れる水中の敵たち。横島はこの危機を乗り切って煩悩を解消できるのかっ!?
次回「激突!四天王−1」でお会いしましょう。
>法師陰陽師様
ロム兄さんは格好いいですが、カワ太郎は…。ハイリピドーは愛子解釈で「凄い性欲」となりました。嫌な宝だ(苦笑)
>紫苑様
初めましてです。今後ともご贔屓ください。
原作河童ってと思っていたら…出てましたね。サイボーグ河童が。すっかり忘れてました。しょぼーんです。別物と思ってください。
>空牙様
マシ○ロボは意識してますが…決め台詞だけ借りたような。フアンの方々ごめんなさいって感じです。ジェ○トとかも出てないですし。今後も頑張ります。
>九尾様
愛子解釈のリピドーだと真顔で予言はきついでしょうね。さて真実はいかに?
>wata様
すんません。すっかりロム兄さんのイメージ台無しにしてしまってます。
なんとか萌えの部分も増やせるかな?
>ケルピー様
困ったもんです。ワルキューレさんなら銃を乱射してしまうかも…。
犬もこんなプレイして…ゲフンゲフン
>柳野雫様
コンプレックスにとりつかれてから唯嬢、一皮向けたようです。
>伏兵様
鋭い読みです。ちょっと焦りました。
>裏のF様
いきなしバレちゃいましたね。一応もう一工夫するつもりです。