第2話 「伝説の秘宝」
「君たちに名乗る名はないっ!!」
その途端、突然はっきりと見えるようになる男の姿。整った目鼻立ち。意志の強そうな目。キラリと光る口元。かなりの美形だ。
その頭部を覆うはヘルメット。全身もライムグリーン系統のメタリックな光沢を放つアーマーのようなもので覆われている。
カシャという音ともにヘルメットの頬部分から男の口元を覆う金属製のプロテクターが現れる。その形状はちょっとアヒルの口ばしっぽくってなかなか可愛い。
呆然と、あるいはウットリと自分を見る女子高生たちを一瞥したあと、「トウッ!」と掛け声一番、塩素タンクの上から愛子たちの方にジャンプしてくる謎の男。
空中で華麗に伸身二回捻りをきめてプルーサイドに降り立つ。
スタッ
ツルッ
ゴゲン
「ぬおおおっ!!わ、割れるっ!!」
こけた時にぶつけた頭を押さえてのた打ち回る男。
その無様な有様に「ハッ」と我に返る女子高生の皆様。
キャーーーーという悲鳴とともに男にめがけてビート板と塩素玉が降り注ぐ!
「ぬおっ!ま、待ってくれっ!私は怪しいものじゃ…グフッ!…」
数分後、肩でハァハァと息をする女子高生たちの輪の中心にはビート板の山が出来ていた。
「ふむ…ではこの面妖な男が侵入者というわけだな」
通報により駆けつけた加藤がビート板の山から引きずり出され簀巻きにされて転がる男を睨みつける。ふんどし一丁で竹刀を掲げる加藤のパワフルな肉体に頬を染め「キャアキャア」言う少女たち。と、その中心でぐったりしていた簀巻きがジタバタと暴れだした。
「聞いてください!私は本当に怪しいものじゃ…」
「黙れいっ!!神聖なる乙女たちが半裸で学ぶこの場に、そのような奇怪な扮装で侵入する貴様のどこが怪しくないというのだっ!!この加藤、貴様のような変質者と話す舌は持たんっ!!」
そして、ふんどしをはためかせ「ぬうん」と竹刀を振りかぶる。どうやらスイカならぬ兜割りという趣向のようだ。
「ま、待ってくださいっ!!こ、この姿は我らカッパ族戦士の正装です!けっして今流行の「こすぷれ」とか言うものではありませんっ!!」
「何っ?!貴様、戦士なのかっ?!」
「は、はい!!」
「戦士とあれば是非も無い…だが、物の怪ということでもあれば私の権限は及ばぬ。ここは除霊委員の皆に任せるしかあるまい…」
「え゛…」
「すまぬ。愛子殿、ここは私が見ておる故、横島殿たちを呼んできてはくれぬか…」
「あ、はい!」
「私も行きますぅ!」
「あ…あの…小鳩も行きます…」
「私も行きますね!」
とてとてとプールの外に駆け出す彼女らを見送る加藤とスク水女子高生たちプラス簀巻きにされたカッパ?
またまたのシュールな展開に存在すら忘れられている体育教師は一人涙を流すのであった。
再びこちらは『地獄』
「あ〜暑ちぃ…」と木陰で仰向けに寝っころがる横島。タイガーは完全にバテバテで頭に冷やしたハンカチを置き、これまた仰向けに倒れている。
ピートも半分とはいえ吸血鬼、これほどの直射日光は体に悪いのだろう、すっかり元気を失ってうつ伏せに倒れている。そこへ響く女神たちの声。
「横島く〜ん」
「んあ?」と何気なくそちらを見やった横島は「ブファ!」と鮮血を吹いた。
「ああっ!?タダオくんっ!!」
慌てて走りよってくる4人の女神たち。
「ど、どうしたんだ?愛子、唯ちゃん、小鳩ちゃん、と…矢吹さん?」
体を起こし鮮血ほとばしる鼻を押さえながら尋ねる横島の周りに集まるスク水の女神たち。しかしこのアングルは体に悪い。ていうか血流に甚大な障害を発生しそうだった。
「大丈夫ですか?横島さん…」と覗き込む小鳩。横島の目に飛び込む谷間。なんかその山の頂点もスク水の上からわかるほど自己主張してるような…その表情も心なしかいつもより色っぽい気もする。
「ゴフウッ!!」
再度、流血…。
「タダオくんが死んじゃいますよぅ!!」
慌ててその小さい手で横島の鼻を押さえようとする唯。だがその時横島の目に入るスク水の隙間から覗く桃色の突起。
「ブルアッ!」
再々流血…。
「ちょっと唯ちゃん!横島君がまずいってば!」
止めに入る愛子だが心の中は(唯ちゃん…ここに来る間に肩紐ずらしたわね…)と唯の策を完璧に見破っていた。
(しまったぁぁ…パーカー脱いでくればよかったぁぁ)と後悔するももう遅い。ならばと…
「もう、しょうがないわねえ…」
横島のそばに腰を下ろすと優しく流血する彼の頭をその膝に乗せた。
スク水女子高生の生足膝枕という最強技に意識を手放しかける横島…。
奥手な摩耶にはこれを破る大技を出せるはずも無く、オロオロと首にかけていた白いタオルで横島の顔をパタパタと仰ぐだけ。しかしその意外とムッチリした太股を間近に見た横島は(ぬおおおおお、これはこれでぇぇぇぇぇぇ)と声にならない絶叫を上げている。
とにかく4人の少女たちの繰り出す攻撃の破壊力は強力だった。
横島たちから離れたところに居た他の男子生徒たちでさえ…
鼻から盛大に流血する奴は当然、「あ、あは、あ〜ひゃっひゃっひゃっひゃ〜」とトーンの狂った笑い泣きする奴や、ただでさえ猛暑の中で脳貧血気味だったところに急激に下半身に血を集めて勃ちくらみを起こし倒れていく奴だとか、次々と倒れていく友を抱きかかえ「衛生兵!衛生兵ぇ〜!!」と錯乱する奴らで阿鼻叫喚の地獄絵図。
まさに死を運ぶワルキューレの女神降臨といった図である。
「と…とにかく…何があったんだよ…」
このまま出血すればいかに自分でも致死量を超えると、横島が必死に理性をかき集めて聞けば「ハッ」と我に返った死の女神たち。
「あ、そうだったわ。あのねプールにカッパが出たのよ!!」
「そうなんです。横島さん。それで加藤さんが呼んでいるんですよ。」
「カッパぁ?んなもんなんでプールに…」
「でもでも、本人さんはカッパって言ってましたぁ〜」
「ただの変態ではないと思われます。」
「あ〜しゃあないなぁ…行くかぁ……っ!!」
そう言って立ち上がろうとした横島だが、そのコメカミにでっかい汗を浮かべたまま硬直する。
「どうしたのよ?横島君?」
「う…う…」
「何?はっきり聞こえないわよ。」
そう言って耳を横島の口元に近づけるべく体を倒す愛子。
「「「あーっ!!」」」
絶叫する小鳩たち。
「え?何?」
「愛子ちゃん、の、のせてますぅぅぅぅぅ!!」
「ず、ずるいですっ!!」
「不潔ですっ!!」
「え?」
下を見れば愛子の胸をおでこに乗せて幸せそうに失神している横島。
「きゃあ。もう横島くんたらエッチねえ」
何か棒読みに驚く愛子だった。
(愛子さん…狙ってましたね…)
(えう〜えう〜えう〜)
(こ、小鳩ならもっと…)
小休止
「う…」
「あ、タダオくんが目覚めましたぁ」
「ここはどこの天国じゃあぁぁぁぁ!!」
「ちょっと大丈夫?横島君?」
「あ、ああ、なんとか…」
「じゃあ早く行くわよ!!」
「んあ〜。先に行っててくれ…」
「なんで?」
「心の準備が…」
(勃っているから立てないとは言えんし…タダちゃんピンチっ♪)
「いいからっ!早くっ!!加藤さんに怒られちゃうわよっ!!」
加藤と聞いてなんとなく落ち着きを取り戻す横島の股間。
「あれ?きゅうにシューッってなっちゃいましたね。」
「気づいていたんかいっ!!」
聞き捨てなら無いことを言う小鳩に叫ぶ横島。
「え?いえ!そんな…小鳩はモッコリとか…知りません…」
「だってねぇ…」
慌てる小鳩と淡々と愛子。
「へう?」と天然な唯と、顔を朱に染めながら小声で「不潔です…けど」と呟く摩耶。その手にはまたまたデジカメがあったりした。
「とにかくいくわよっ!」
「お、おう…」
愛子の号令とともに駆け出す少女たちに続き、わずかに腰を引きながら走り出すも、人として大切な何かを失った気がする横島であった。
後には、血の泥濘の中でのた打ち回る男子生徒と完全に血の気を失って倒れるタイガー、「ま、待ってください…」と言いながらもがくピートが残された。
「で、コイツがカッパというわけですか?」
「うむ。本人はカッパ族の戦士と名乗っている。確かに眼光は戦士のものだが…何故、婦女子のプールに現れたかはわからん。」
プールにつき、女子高生の皆さんの姿態に血を吹きそうになりながらも、なんとかこらえて問う横島に加藤は重々しく答える。
風にはためく六尺ふんどしが、いい塩梅に横島の煩悩を散らしてくれるので比較的冷静に話せるのだ。
ふむ…と考えてカッパに近寄る。
「で、そのカッパが何でプールで変態行為を?」
「変態行為ではないっ!申し遅れたが私はカッパ族の戦士、水中中心拳継承者「カワ太郎」と言うものです。って…人の話を寝ながら聞くのは失礼ではないですか?」
「寝てたんやないわっ!なんだっ!その名はっ!!その格好なら普通は「ケン」とか「レイ」とか「ロム」とかそういう名前だろうがっ!」
「しかしこれは親からもらった名だし…」
「そうよ。横島君。そんなこと言ったら可哀想よ。」
「愛子もコケとったやないかぁぁ!」
「てへ♪」と舌を出す愛子、横島はとりあえず気を取り直してカワ太郎に向き直る。
「で、そのカッパが何のようだ?」
「うむ。話せば長いことですが、私たちカッパ族は古来よりある秘宝を探していたのです。」
「秘宝って宝物ですか?」
「ええ、我らカッパ族の伝説に「その秘宝を手に入れればカッパ族の繁栄は約束される」とあります。しかし、その秘宝は今まで手がかりも何もなかったのです。」
「ふーん。カッパのお宝ねぇ…。どうせキュウリとかなんだろう?」
「違います!確かにキュウリも宝ですが、その秘宝、いやエネルギーと言ったほうがいいか、それは我らを救う鍵となるものなのです!」
「ほほう…それとプールになんの関係があると…」
半目で睨む横島。
「実は我らの姫様が予言なさったのです。「近々、秘宝の手がかりが得られる。」と。それで姫様の命を受けて私が地上に来たのですが、先週ですか、この近辺で膨大なエネルギーが発生したのを感じたのです。」
「あ!それって…」
「ちょっと摩耶ちゃん!シーよシー!!」
指を口に当てて愛子が摩耶に合図するが隠し事があるのはバレバレである。
「何か心当たりがあるんですかっ!!」
「いいえ?!無いわよね〜摩耶ちゃん…」
「は…はいい」
「んで?」
「あ、ああ、それで探し回って先ほどこの学校の前に来たときにこのプールから珍妙な桃色エナジーが発生したのを感知したものですから…何かの手がかりかと」
「へうっ!」
「何か心当たりが?」
「な…無いですぅ。ね。小鳩ちゃん!」
「え、ええ。小鳩も知りません…」
手をパタパタ振りながらごまかす唯と頬を染めてとぼける小鳩。
これまたバレバレ。
「ふむ…そのような物がこの学校にあるとは聞かぬ話であるが…その宝は何というものなのだ?」
加藤に聞かれたカワ太郎が答える。
「はい。その秘宝の名は…」
息を飲む一同…。
「ハイリピドーと言います。」
後書き
ども。犬雀です。今回は加藤さんにも出撃してもらいました。
タイガーとピートは一回休みでございます。
さて次回は「水中の城」。
伝説の秘宝「ハイリピドー」とは何か?それはどこにあるのか?
横島と除霊委員女性メンバーの活躍。ご期待ください。
>ゆーき様
はい。あの方がモデルです。でも、カワ太郎はかなりへっぽこですが…。
>法師陰陽師様
横島は気づかないってのがポイントですね。今回の話でまた横島ファンが増えるんでしょうか?
>九尾様
貧乳の必殺技。唯嬢に伝授いたしました。さっそく使ったようです。
>wata様
横島と唯のからみですか。次話「除霊委員の休日」(仮)では多くなるかなぁ。
頑張ります。今回は愛子嬢にスポットを当てようかと考えてます。
>Dan様
唯と小鳩ちゃんは絡めやすい気がします。凸凹コンビとか(邪笑)
>伏兵様
言われて見れば唯という名前は貧乳設定が多いかも…犬の最初の設定では逆だったんですが巨乳にジャーマンはきついかと思って貧になっちゃいました。
>見習い悪魔様
光画部は存在します。戦いとは関係ないので本作ではまだ登場しませんが…。
革命部は…どうでしょう。ある意味、「薔薇の園」が革命部と言えばそうかも…
>柳野雫様
横島君人気は維持できるんでしょうか?なんか雲行きが怪しくなってきました。