(あの横島という男、資料でもふざけた書かれ方をしていたがそれでも足らないようだな
ああいうムードメーカーは敵にしたらまず最初に殺す必要がある。)
すっかり皆から忘れられているワルキューレはもう一度戦線に復帰しようと、
とりあえず美神の場所に急いでいた。
(しかもあのデミアンの本体を一瞬で見極める霊視だと!!そんなこと今まで神魔族
の誰もできなかった事だというのに!!)
今まで別のビルの屋上にいたがようやく地上に降りる事ができた。
(一昨日の戦いでも何か違うのは感じていた。人間の力を全く認めていなかった私の
意識を変えるほどの男であったが。)
ようやく美神がいるところまで来たワルキューレ。シロが自分を胡散臭そうに見ているが
とりあえずこちらが何もしてこないのを見て敵ではないと判断したのか再び、戦いを
観戦する。
デミアンは鬼道、雪之丞に注意を向けた瞬間、横島の霊圧が上がる。
そして今、横島がデミアンの本体に攻撃を加えるところであった。
(ふっ、コレはもう加勢の必要など何処にもないな)
美神を見てみると、この二日間でお目に見えなかった表情をしていた。
(ほ〜この女もこのような顔ができるのか。)
――心眼は眠らない その18――
現在、デミアンの相手をしているのは雪之丞と鬼道。
横島に対抗心を燃やし強くなっていた二人でさえも美神、西条ペアと同じで
デミアンにダメージを与える事が出来ないでいた。ただ違ったのは、倒せはしないが
負けもしなかった。デミアンの攻撃を二人は巧みに回避し、防御しこれ以上の進行を
許さなかった。ちなみに西条は夜叉丸が保護したようだ。
「ちくしょう!!なんで死なねえんだよ!!」
「ほんまやで、いい加減、僕も疲れてくるわ。」
二人とも愚痴を言っているがまだ十分に余力はあった。
だからといって勝機が見えてこない戦いは非常に消耗が激しい。
次はそう攻めるか悩んでいた時に後ろから声が上がる。
「ふっふっふ、真打ち登場!!横島忠夫参上!!」
『下らぬ事をやっていないで早く伝えろ!!』
横島が到着すると二人は”やっと来たか”という顔をする。
「横島、コイツ攻撃してもすぐ再生しやがる。どうする!?」
「それはだな、アイツの体はニセモノで本物はそこのポケットの中だ!!」
「なっ!!!貴様ーーーー!!」
突然現れたボンクラな男にはあまり見向きもしなかったデミアンであったが、
いきなり図星を差されて慌てる。
「何故、分かったが知らないが貴様を生かすわけにはいかないな、死ね!!」
デミアンは横島に狙いを定める。
「のおっ!!」
『いい加減、真面目にやれ!!』
回避力もGS1の横島。そう簡単には当たらない。
といってもいきなり狙われ焦り始める横島であった。
心眼にも注意され真剣になり始めるが、敵の追撃が激しく回避に専念する。
「こらーー!!雪之丞、鬼道助けやがれ!!とっととあそこのポケッギャーーーー!!」
「今からやるわ、伊達はん!!」
「まかせろ!!」
夜叉丸と雪之丞が一気に距離を詰める。
デミアンは霊波砲を放ち迎撃しようとするが、
「なめるなーーー!!」
ドオオォォン
「はね返すだと!!」
雪之丞の装甲がそれをはね返す。
デミアンが驚いている間に夜叉丸が迫る。
ザンッ
夜叉丸の剣がデミアンの人間部分を横に両断する。
その拍子にデミアンからカプセルみたいのが飛び出てくる。
「ギャーーーーって、それ、それが本体ギャーーーーーー」
『・・・少しはまともに戦おうという気がないのか?』
横島、狙われながらもでてきたカプセルを狙えと指示する。
実は横島が逃げ続けているのは一応作戦らしい(横島いわく)。
名づけて、”自分が狙われている間に頼んだぞ!”作戦らしい。
まぁ逃げ続けるだけならどうにでもなるという考えが横島にあったのかは定かではない。
雪之丞が霊波砲を放ち、カプセルの破壊を目論むがデミアンは仮の体を盾に防ぐ。
「舐めるな!!」
霊波砲を防いだ後、お返しに霊波砲を連続で放つ。
デミアンの砲撃に雪之丞は後退してしまう。
雪之丞が被弾しているがその隙を見逃す鬼道ではない。
デミアンの注意が雪之丞に向いている間に夜叉丸が迫る。
「これで決めや!!」
「人間の分際で!!」
デミアンは横島を置いておき、鬼道と雪之丞に注意を向ける。
鬼道もデミアンの攻撃を集中的に受け後ろに下がる。
だがそれがいけなかった―――
バァァァン
―――サイキックブレット炸裂
「なっなっバ・・カ・・な・この・・私が・」
一瞬自分に何が起こったのか分からないデミアン。いや今も分かっていない。
カプセルにサイキックブレットが直撃し、崩れていくデミアン。
雪之丞、鬼道、西条、美神、シロは何が起こったのかわからなかった。
目の前で突然カプセルが砕けたのを呆然と見ていた。
ただ一人、ワルキューレだけが横島から上昇した霊圧を感じ何をしたのか分かった。
だがそれでも、
(なんだ、あの速さは!?この私がなんとか追える位だというのか!?)
そう、横島の手から飛び出した霊気の弾はワルキューレの目ですら霞むほどであった。
その弾丸は見事に標的を砕く。
「ふっやはりこの俺がきめてしまったか。」
『何をバカ言っておるのだ、味方を勝手に囮にしおって。』
意味も無く二枚目風に決める横島、当然心眼から手厳しいツッコミが待っていた。
というかデミアン、本体が現れてから速攻で瞬殺になってしまい哀れ。
皆が大体の状況を察し、鬼道や雪之丞が横島の元に向かう。
シロも横島が倒した事をワルキューレから聞き横島にタックル・・・もとい抱きつきに
いく。
「てめぇ、何おいしいとこもっていってんだよ!!」
「ホントやで、横島はん!!」
「先生〜すごいでござる!!」
口調こそ怒った感じだが、じゃれているようにしか見えない雪之丞と鬼道。
そして尻尾を振りながら自分の目は間違っていなかったと喜ぶシロ。
ここで西条が片足を引きずりながら横島に近づいてくる。
「横島クン、喜んでいる所すまないが、隊員の手当てを手伝ってくれないか。」
「お〜西条、生きていたか。」
すでに”西条さん”ではなく”西条”らしい。
西条に急かされて重体な人、その中でも女性から始めていく横島。
そんなヒーリング中でもお約束で肌を触りまくる横島。
「大丈夫っすか?(ぐふふ、え〜肌や〜)」
「えっえぇ。(そうよね、気のせいよね。)」
女性隊員は横島の真剣な顔に騙され、なすがままにされる。
つまり真剣にセクハラ中の男であった。大したスキルの持ち主である。
そんなセクハラ男に美神がゆっくり近づいてくる。
「こら横島、こっちにも怪我人いるんだから来なさい!!」
と名残惜しそうな横島を引きずり、ワルキューレの元に連れて行く美神。
ワルキューレはパッと見た感じ周りの人達より平気そうに見えたが霊波の流れからして
かなりの怪我を負っていると判断し、治療を開始する。
「ふっまさか人間がデミアンが倒せるとはな、知っているのか?アイツは魔界でも
かなり名の通った魔族だったのを?」
「へっ、そうなんか?」
『如何に弱点を見極める、それがどれほど大事かという事だ。』
というか横島、ワルキューレを見てもさほど驚かない。
挙句の果てにワルキューレまでにセクハラ根性丸出しのヒーリングをする。
・・・横島がヒーリングを覚えたのは間違いだろうか?
ここで恐ろしいのが横島の顔が真剣だから相手が勘違いしてしまう所だろう。
まぁワルキューレの場合横島に触らせようが大して気にしていないが。
さぁここで美神と心眼が何故、横島のセクハラを止めないのか?
実は横島、触れば触るほどヒーリングの出力が上がっているので止めたくても止められ
なかった。仮に止めようとしたらヒーリングまで中断してしまう事になってしまう。
(このバカ者は!!)
(よ〜こ〜し〜ま〜後で覚えてなさいよ!!)
内心はかなり切れていた二人。
横島の未来は決まったようだった。
・・・横島がヒーリングを覚えたのは間違いだろう。(確定
しばらくしてワルキューレへのヒーリングが大体終了する。
「すまないな、この度の任務はお前がいなければ達成できなかった。
何か、私がお前にしてやれることはないだろうか?」
この言葉に硬直する横島。
(この姉ちゃん、確かに魔族だがなんつーええ体しとる。ふっふっふ、こうなったら
今回のお礼はやはり体で払ってもらうのがいちばドゲシッ)
「聞こえてるわよ。」
「あぁいつの間にか声にーーーー!!」
「別に私はかまわんが。強い男に魔族も人間も関係など無い。」
「「『えっ!?』」」
流石、魔族。
事態も落ち着き、オフィスに集まる一同。もうすでに辺りは暗くなっていた。
まずは互いに情報交換を始める。西条はなにやら事後処理が忙しく今はいない。
ちなみに現在、横島はボロボロの姿でオフィスの端で倒れていた。
ワルキューレは結局横島に襲われる事なく魔界に帰還することができたようだ。
「しかし美神さんも大変な事になっていたんすね〜。やっぱあの能力っすか?
でも小竜姫さまに封印してもらったんじゃ。」
「ワルキューレにも聞いてみたんだけど、知らないって一言だったし、
・・・ふ〜小竜姫に聞いてみようかしら。」
とりあえず神族の知り合いに聞いてみようとする美神。
ここで雪之丞と鬼道がちょうどいいと同行を願い出る。
皆が妙神山に向かおうと乗り気になった時にただシロだけが、
「待って欲しいでござる!!横島どの、犬飼はどうするのでござるか!?」
「あ〜そのことね、Gメンの連中が網を張っているからその内捕まるわよ。」
「「「『なっ!!』」」」
美神の言葉に一同(横島除く)は唖然としてしまう。
それもそのはず、鬼道、雪之丞コンビでやっと互角という所だったのだ。
しかも向こうは霊刀を所持している。ロンドンの事件と同じように人を
切れば切るほど強さが増していく。次に会ったときは前回と同じというわけにはいかない。
皆は人狼の里で起きた事を美神に伝える。
「確かにそれだと一般のGS達やオカルトGメンじゃ役者不足ね。西条さんにも
伝えたほうがいいわね。」
美神は電話で西条に連絡を入れようとする。受付から少しお待ちをと言われて
待っていると西条から声が聞こえる。
「あ、西条さん、実は―――」
『・・・少し遅かったよ。配備していた隊員の殆どから連絡がつかなくってね。
連絡がついた隊員からはワケも分からない内にやられたって。』
西条の報告からオフィスは消沈する。
オカルトGメンにとっては正に泣き面に蜂というところだろう。
責任については副隊長であった西条にも当然かかってくる。
といっても西条ほど有能な人材もいないため懲戒免職といったクビということには
ならないだろうが。
「ふ〜足取りもつかめていないんじゃどうしようもないわね。とりあえず明日朝一で
妙神山に向かうわよ、横島クン、オキヌちゃん。」
シロはあまり納得していなかったが自分の力量から妙神山についていく事を了承する。
鬼道、雪之丞もそれに同行することが決まった。(旅費は美神持ち
何故か、溜まり場になりつつある横島の部屋、シロは事務所に泊まることになったが
鬼道と雪之丞は横島の部屋に直行した。オキヌちゃんは料理を作ってくれるため、
憑いて来てくれた。
現在は横島、雪之丞、鬼道の三人は銭湯にいっていたため、
部屋にはオキヌちゃんと置き忘れられた心眼がいた。
「横島さんて、最近頼りになってきましたよね〜」
『うむ、ワレが師事しているのだ。当然であろう。』
二人の会話の中心は横島。
「はぁ〜心眼さんが羨ましいです。いつも横島さんと一緒でなんでも分かり合ってる
じゃないですか〜。」
『ふっいつも一緒というのは大変なのだが、まぁ本当におもろしいヤツだ。』
オキヌは料理をしながら心眼とほのぼのした会話を続ける。
心眼は横島のことを愚痴りながらも決して不愉快な感じはない。
むしろ横島のことを誇りに思うように語る。
「そういえば、心眼さんって昔は竜神さまだったそうじゃないですか。」
『そうだが、それがどうしたのだ?』
「・・・え〜と、もしかして女性でした?」
『そうだ・・・といっても今となってはあまり関係なかろう。
それにしてもよくわかったな。』
「だって、見てたらなんとなく分かるんです。あっ!!帰ってきたみたいですね。」
横島が帰ってきたみたいでオキヌは料理の仕上げを始める。
(美神さん達が羨ましいです。私たちには・・・もう)
――心眼は眠らない その18・完――
あとがき
あけましておめでとうございます。
これからもこんな作品でよければ読んでもらえるとうれしい限りです。
それにしてもデミアンて、本体は凄く弱いよな〜。
ちなみにベルゼブルの大群は途中でデミアンがやられたのを知り、撤退しました。
須原椎造さま、描き直し、本当にありがとうございました!!
>ヒルデさん
ご指摘ごもっとも、修正しました。