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「EIENN 第8話(GS)」

永久詠美夜 (2004-12-31 22:32)
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『文殊で閃光と爆発を同時に起こすとは…激しいねぇ』

 閃光が走った瞬間、笑いを止めながらフォロフスは僅かに動揺した。

 だが状況を確かめていく内に、すぐに頭が冷え冷静になる。

 同時に爆発もあったようだが自分に危害が及ぶ事もない…

 そう判断し、すぐにスーツの中に手を入れた。 取り出したのは、黒いサングラス。

 格好付け用や、実験で光を伴う事をする時などに付ける物だ。

 いまこの瞬間には、正にうってつけだろう。

 黒い透明な板(ガラスではない)が閃光を遮断すると、モノクロではあるがすべての物が見えるようになった。

 先ほどの爆風で倒れた机に、側に散らばっている研究資料。

 そしてその横でゆっくりと、壊れた土の触手から立ち上がる例の男。

 横島忠夫という…美神令子の事務所で働いているというアルバイトであり、かのアシュタロス事件での最大の功労者と言う事らしい。

 世界有数の霊力を凝縮し利用するアイテムを作り出せる存在…文殊使いだと言う事らしいから、今回の計画では一番警戒しなければならない存在だった。

 だからこそ、この男がいない午前中を狙ったのである。

 その時間帯なら、もし居候しているという人狼やら妖狐がいる位なら問題なく凌ぐ事が出来る。

 とはいえ…

『杞憂だったかも知れないねぇ』

 と、フォロフスは内心苦笑していた。

 なぜなら、今目の前で横島忠夫は『自分のすぐ側で爆発』させるという行為に出たからだ。

 先ほど万全の状態で文殊による加速さえ行ってでも、遅いとさえ思える程だった。

 それが今、自らにダメージを与えて脱出したところで何の力になるだろうか?

 あの妖精を助ける為だったとしても、あっさりと攻撃して殺す事が出来る…

『仕方ない…

 これ以上邪魔になると困るし…』

 閃光の中見える男を視界に入れながら、横島忠夫を確実に絶命させるための一撃を放とうとしたフォロフス。

 だがその動きが、横島の掌にある物を見た瞬間ぴたりと止まった。


 フォロフスが驚愕していたのは、横島の掌にある…一枚の御札。

 閃光の中、手にしていた光を遮る一枚の紙切れなどに驚いた理由。

 それは、『それ』が現れるまでの瞬間を見ていたからだった。


 最初…爆発と閃光に驚いたフォロフスだったが、とっさに格好付け用のサングラスを出して付ける。

 流石に夜使うわけにはいかず付けていなかったが、まさかこのような所で使うことになるとは思わなかった。

 あとは黒の度合いを増やしてやれば、閃光も爆発も全く問題ない。


 掌に、まるで名前に似合った…数珠のように大量の文殊が握られていたのだ。

 それでさえ、まだフォロフスの驚く原因にはならない。

 いかに文殊使いとはいえ、所詮は人間。 反応速度など『文殊を使ったとしても』たかが知れているのだ。

 避けるなり反撃するなり、対応はいくらでも出来る…はずだった。

 だが警戒して見ていた文殊が『変化』を起こした瞬間、フォロフスは目を見開いてしまう。

 掌にあった大量の文殊。

 それがまるで蝋燭の『ろう』のように、どろりと解け…一つの固まりになり…一つの形になる。


 真っ白い、一枚の御札に。


 文殊使いがそんな術を使うなど聞いた事がない…

 目の前で起こってる、明らかに異例の事態にフォロフスは今度こそ本気で動揺する。

 そして思わず叫んだ言葉を終える前に…

 横島忠夫が信じられない速度で肉薄し。

「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 視界が完全にぶれ、身体が中を飛び…

 耳障りな『ミシィッ!』という音と共に、顔全体に信じられないほどの激痛が走ったのだった。


 GS美神極楽大作戦
 『エイエン』
 第8話 白と黒の幕間劇


 クレーターを埋め尽くすような光の本流が収まろうとした瞬間、小竜姫達の耳に悲鳴が響き渡る。

「あれは…フォロフスの悲鳴!?」

 小竜姫の言うとおり…この悲鳴は、あの馬魔族フォロフスの物だった。

「一体何が起きている?!」

 銃を持っていない片手で顔を庇いながら、ワルキューレは叫ぶ。

「光が収まってきたのね!」

 ぎゅっとすべての目を閉じていたヒャクメが、瞼越しから見える光が消えていくのを確認する。

 その言葉通り太陽が出現したかのような閃光が、潮が引くように収まっていった。

「! 横島さん!」

 光が収まってすぐにその場の状況を確かめると、ヒャクメの視界に横島の姿が入る。

 クレーターの底で、先ほどまで触手に捕らえられていたはずの彼は、今仁王立ちで立っていた。

 そしてその目の前には…

「横島の前で倒れているのは…フォロフスか?!」

 庇う腕をどけ、クレーターをのぞき込んだワルキューレの言う通り…

 倒れているのは先ほどまであれほど余裕で講釈を垂れていた魔族だった。

「一体今のは… !!!」

 最後にその場所を見たオウル卿の言葉が、途中で息を飲む音に変わる。

「どうされましたオウル卿?」

 ワルキューレの問いにも、オウル卿は戦慄きくちばしを開けたまま、一点…『横島の上』を見つめたまま何も答えない。

 訝しんで視線の先を追うと…

「!!!!!!!」

 オウル卿同様、ワルキューレも『同じ物』を見て絶句する。

「お二人とも、一体…」

 問いかけようとした小竜姫に答えるかのように、ワルキューレが『その一点』を指さす。

「え…? !」

 そして小竜姫も同様に、その光景に固まってしまう。

 神魔族の3人が驚き、動き止められてしまった『光景』…

 それは…


「んっ…あれ?」

 鈴女は、首を振って目を覚ます。

 真っ先に見えたのは、森の木々とその先に見える夜空。

 自分はどうなったのだろうか?

 あの『くそ馬』に土の蛇みたいな物に捕まって、その後…

「でも…私」

 そこで初めて自分の身体を見るが、特に何かあったわけでもない。

 自分の部屋で意識を取り戻して、急いで『姉』の元へ向かうのだろうと直感した彼らの自転車に張り付いた時と同じ…

「結局、何にも出来なかったな…」

 つい先ほどまでの、自分の行動の結果に頭を振り苦笑する鈴女。

 どんなにがんばっても、あの魔族にパンチの一発さえ当てる事も…愛する人も助けられなかったのだ。

 何処までも深い情けなさ…

『そんな事はないわ』

「いいえ、私は結局何も………え?」

 否定の言葉を紡ぎ掛けたところで…横から聞こえてきた声に、鈴女ははっとなる。

 そこで初めて、自分の足下が『何である』のかも気が付いた。

 先ほどまでいた茶色い地面とは違う…暖かい肌色。

 鈴女は気が付く。 それが掌であると言う事を。

『大丈夫?』

 つい数時間前、チェスの相手をしてくれていた人の手…声であるという事を…

「まさか…」

 上を見上げると、黒い卵の底近くを突き破ってその手は出ている。

 一瞬何がどうなっているのか、鈴女には解らなかった。

 いや…でも『解る』。

 この掌は…今も感じる、暖かさは…


「お姉様ぁ!!!」


 空中に浮かぶ『黒い卵』の下側からすらりと伸びた、一本の右手の上で…

 妖精は、喜びに目に涙を浮かべ名を叫んだのだった。


「さて、結局今回の議題についてだが…他の皆さんは、何か意見はありますか?」

 真っ暗な空間の中初老の男の声が、まるで音楽ホールの中のようにハウリングする。

「良いのでは無いでしょうか?」

 言葉を返すのは、若い男性の声。

 最初の声とは反対側から発せられた、若々しく感じられる

「アシュタロスはもう蘇る事も転生する事もない…となれば、この自体はむしろ歓迎すべき事ですよ。

 7人…まあ人じゃありませんけど、我々はその数だからこそ神界とのバランスが保てていたのですから…」

 今度は若い女性の声。 どこか落ち着いた…だが艶を感じさせるトーンだ。

「だが元人間…それも、あのアシュタロスを倒した相手だぞ?

 そんな相手を我々の仲間に加えると?」

 女性の言葉をとがめるかのように、今度は少年の咎めるような声が暗闇に響く。

 若々しさを感じさせる声色。

 だがとてもしっかりとしたそこはかとない重厚さと、空気の刃のような鋭さを内包しているような感じがあった。

「まあええやないか。

 なんやかんや言いつつ、わしら結局最初からまともな出会い方しとらんやろ?

 それに…アシュタロスは自分の死を…望んどったんや…」

 少年をなだめるかのような、別な男の流暢な関西弁。

「彼は魔族でいることに耐えられなかった…

 私達には理解できないけれど、本人はきつかったのかも知れないわね…」

「愚かな行為だ…だが、逝けて幸せだったのかもしれないな」

 少年の呟きで、その場にいるのであろう全員が沈黙する。

「惜しい方を亡くしたものです…

 彼はかつての七人が一人、ベルゼブブの後を次いだ最高の悪魔でした」

 真っ先にそれを破ったのは少女の声。 今はいない相手の、微かな名残を惜しむかのように呟く。

 これで、この暗闇で声を発したのは…6人。

「名を継いだ息子が、あの体たらくだったのもあったがな」

 初老の男が、苦笑する。

「結局…今はどうなっているのでしたっけ?」

「確か美神令子の仲間か…いや、本人か? どちらかに倒されているはずだ。

 全く持って情けない…」

 少女の声に、こちらは少年が嘲笑を持って答える。

「まあまあ、お二人さん。

 あんまり亡くなったモンの悪口いうのはやめようや。

 それに…今は別な、それも大切な事があるやろ?」

 関西弁の声に、少年と少女の声はそれぞれ「そうですね」「だな」と、それぞれ納得する。

「ほんまやったらこんな特例そうそう認められへんのやけどな…『彼女』からの立っての推薦や」

 僅かな沈黙の後発せられた『彼女』の名前。

 その言葉に、その場にいるのであろう6人が僅かに動揺する。

「まさか…『彼女』がそんな事を要求するとは…」

「今まででも何度かありましたが、ここまでの事は初めてなのではないでしょうか?」

 少年の言葉を少女が続ける。

「要求やない、これはあくまで『お願い』ちゅうやつや。

 せやから、ワシらこうして集まって会議しとるんやないか」

「美神令子の対処という、本来の集結目的の替え玉としては…面白すぎるわね。

 まるでカクテルがココアに変わったみたい…」

 くすくすと、自分の答えを想像したのか面白そうに笑っている。

「まあいいではないか。

 最悪の可能性…ハルマゲドンさえ起きかねない状況はとりあえず回避された…

 その事は、我々にとっても歓迎すべき事だ」

「そうですね。

 侵略も殺し合いもする気ありませんし、その自体が回避されたのは良いことだと思います」

「我々の本来のあり方としては、相反することにはなるのだがな」

 少年が、憮然と呟く。

「まあ時変われば人…ああ、いや『悪魔』も変わるっちゅうこっちゃろうな。

 さて…とりあえずちゃっちゃと決めようや」

 全員を、関西弁の男が纏める。

「ではまず…レギアタン、答えを」

「私は特に問題ない。

 仲間が増えるのは歓迎だ」

 初老の男の声…レギアタンは答える。

「したら次は…マモン」

「賛成します。 彼女は我々の仲間に相応しい。

 ただ僕の称号と被りそうなのが問題ですが…」

 若い男性…マモンは苦笑する。

「ま、そのあたりは後々折り合い付ければええやん。

 もともと気張って背負う称号でもないし…

 したら次は…ベルフェゴール」

「賛成よ。 

 彼女…私と趣味が合うといいわねぇ…」

 くすくす笑いながら、声に答える女性…ベルフェゴール。

「あー…えっと、あんまりマニアックな趣味見せん方がええで」

 明らかに額に汗を垂らしているのではと思える程の呆れを交えた声に、ベルフェゴールは「大丈夫よ」と笑い返す。

「最初はみんなそういうの…でも、一度慣れればあとは何処までも深みにはまる…そんなものよ?」

「さ…さよか」

 それ以上、関西弁の男は「ははは…」と苦笑いするだけで、彼女に追求することはなかった。

「僕もOKだ。 この会議の内容に賛同する」

 咳払いをして気を取り直した関西弁の男が、『次は…』という言葉を遮るように少年がそうきっぱりと答えた。

「ええんか? アスモデウス」

「現在の段階では、良い方向に行くのかはたまた逆に行くのか…

 どちらに転ぶかさえも想像が付かない。

 だから目先の利益……単純に『先』を見ただけならば答えはイエスだ。

 魔界としては、彼女が欠けた七人目となってくれるならそれに超したことはない…」

「したら、賛成ということでええんか?」

 問われ、「ああ」と答える少年…アスモデウス。

「私も賛成します。

 アスモの言うとおり、私達の力となってくれる存在となるならばそれを拒む理由は存在しません。

 それに…」

「それに?」

 アスモデウスの声に、少女は「クスリ」と笑うと…

「彼女とは、うまくやっていけそうな気がするのです」

 と、ころころ鈴が鳴るような声で答えた。

「ルシフェルもOKと…したらワイも賛成やから…

 全員一致やな」


「ではここに、全員の代表として七罪魔王が一人、サタンの名においてこの案を承認する」


 暗闇の中、最後の一人…サタンが声高らかに。

 何処までも…闇に言い聞かせるかのごとく、宣言した


「さて…じゃあこのお茶菓子シュークリームを一口頂くか…」

 しばらくの沈黙の後、初めて口を開いたのはレギアタンだった。

 暗闇で見ることは出来ないが、どうやら全員の前の方にその『シュークリーム』は置かれているようだった。

 レギアタンの言葉に「そうだな」と頷くように他のメンバーが答えると、数瞬後小さな咀嚼音が聞こえてくる。

「ぬぁ?!」

 そしてその更に数瞬の後、全員が異口同音で疑問符を孕んだうめき声をあげた。

「何よこれ、中にカラシが…!!」

 心底からかったのだろう。 小さく「うぅ〜」と呻きながらベルフェゴールは叫んだ。

「おりょ? …しもた! こりゃ今度のパーティ用のいたずらシュークリームや!」

 どうやら仕掛けたのはこの人物らしい。

 手を打つ音と共にそう言った後、大量の水を飲む音が聞こえてくる。

「サタン! 貴様がパーティで驚かせると行っていたのはこれなのだな! …ぐ…くさや臭い」

 最初に叫んだレギアタンのシュークリームには、どうやら『くさや』が入っていたようだ。

 甘い香りを期待して食したら、あの独特の臭みが鼻をつんざく…

 想像するだに、きつかったに違いなかった。

「……」

「だれか、早く水を! ルシファーがわさびシューで口が聞けなくなった!!」

 メンバーの中で唯一沈黙を守っていた…否、どうやらルシフェルは食べたものの所為で『沈黙せざるをえなかった』らしい。

 横にいるのであろう、アスモデウスが「早く水を!」と暗闇の中周囲に叫んでいる。

 それに「よっしゃ任せとき!」と答えたのは、(恐らく事故だろうが)仕掛け人のサタン。

「くろうて道がよう見えん!!」

 魔族も光がないと見えないのか、暗闇の中で『ガコン、バタン』と何度もぶつかる音が聞こえてくる。

「電気を付けろ! …というか何故電気を消す!」

「いやぁ、やっぱり魔族やし暗闇で雰囲気を〜とおもてな」

「だったら薄暗くするだけでも良かったんじゃないの…?」

「…おお!」

 サタンがベルフェゴールの言葉に『ぽん』と相づちを打ったその後…暗闇は再び喧噪で満ちあふれた。

 そして第三者がいたならば「クスリ」と微笑みたくなるようなその空間は、しばらくの間続いたのだった…

 

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