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▽レス始

「EIENN 第9話(GS)」

永久詠美夜 (2005-01-11 00:59)
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『くっそ…』
 ほんの数メートル先で、けらけら笑っている馬魔族。
 なるほど…本気で、前に戦ったオカマ馬と一緒だった。
 服は全身タイツから、見るからにジェントルマンな…オウル卿に似たものを綺麗に着こなしてはいる。
 だが内側から本気で『にじみ出てくる』、中身の…精神面の根性悪さ。
 もっとも、美神さんにあんな事をしている地点でくそ野郎決定なのだが…
『だがやっぱり魔族か…動けねぇな』
 オウル卿のおっさんが、わざと派手なパフォーマンスをして気を引きつけておいて、その間に別方向から自分が美神さんを助ける。
 フォロフスは、その後オウル卿が何とかすると言っていたが…ゴーレムを粉砕できるあの戦闘力なら恐らく…問題ないだろう。
 それに美神さんを救い出せれば、こちらも参戦して全力で戦う事が出来る。
 ここへ付く前にとっさに思いついたという、かなり荒い作戦ではあったが、文殊で『隠』でも使えばかなり成功率は高いと思っていた。
『こいつ、格闘関係にめちゃくちゃ精通してるみたいだ』
 そう……完全に気配も何もかも隠していたはずなのに、すでに相手は反応していた…飛び出したほんの数瞬前にだ。
 自分を狙われたわけではないのだから、一瞬でも油断するかと思ったがそれさえもない。
 ぱっとこちらを振り向かれて、一瞬ではじき飛ばされる。
 間違いなく、オウル卿クラスの体術は持ち合わせているようだった。
『拘束を解くのは…出来ない事もないが…』
 この土で出来た戒めをはずす方法は、いくつかある。
 だがそのどれも『数秒』くらいは掛かってしまう。
 無理をすればたった『数瞬』…だが、それを目の前にいるこの馬は見逃すだろうか?
 答えは『NO』だろう。
 今も講釈をたらたら垂れているが、こちらに対しての警戒は全く解いていない。
 だが…どんなダメージがあろうとも、美神さんを助ける事は出来る…
『けど、あの状態じゃあ助ける以前に…』
 黒い卵…『永炎』に包まれた美神さんの様子は、全く見る事は出来ない。
 だがあの中から助け出すのは、目の前の馬よりやっかいに思える。
 明らかに…馬より強力で、深い『何か』を感じるのだ。
 手を出したら、危険だと思わせるような『何か』が…
『くそっ…』
 周りの状況が、あまりにも不鮮明で手を出せない。
 仮にギャンブルで手を出すにしても、その代償は恐ろしく高い。
『ま、そんな馬鹿な真似は…もうしないけどな』
 ふと一か八かという考えが浮かんだ時、横島はそれを内心『ふっ』と苦笑した。
 もし自分に何かあれば、少なくともシロやタマモ…はちょっと微妙か。
 あとおキヌちゃんや、小竜姫様やワルキューレや…
『もしかしたら悲しまないかも知れないけど…特に美神さんとか。
 あんな思いはしたくないし…させたくないからな…』
『コラ! あたしはそこまで薄情じゃないわよ!
 あ、それと一切表向きには反応しない!!』
 突然…自分の頭の中に響き渡る、響くような声。
「っ…」
 突然声が頭の中に割り込んできた事に驚きの声を上げ掛けた横島は、何とか『ぐっ』とこらえる。
 幸い、フォロフスはまだ講釈を垂れて気が付いていないようだ。
『もしかしてその声…美神さんっすか?』
 頭の中で言葉をはっきりとイメージすると、『そうよ』とすぐに言葉が返ってきた。


 GS美神極楽大作戦
 『エイエン』
 第9話 変わらぬ二人


『何でこんな事できるのか…と、それより無事ッすか?』
 見上げた先にある、魔法陣の中心に浮かぶ黒い卵。
 この声は、あの中から聞こえているのだろうか?
『ええ…と、言いたいところだけれど…』
『ど、どうしたんっすか!?』
 苦笑を交えたような美神さんの声に、横島は内心動揺する。
『身体がおかしいとかそういう訳がどうこう…て訳じゃあないんだけど…その…』
 要領を得ない、言葉自体も微妙におかしい美神さんの声。
 横島は、声を掛けずに周囲の状況を見ながら待つ。
『私さ…もう人間じゃ、ないみたいなのよね。
 解るのよ、私の身体は…もう完全に消えて、今はエネルギーっていうのかな?
 それの固まりみたいな感じ…』
『……』
 どこか呆れたような…もう何か自暴自棄という感じの美神さん。
 自分に向けられている言葉のはずなのに、どこか独白じみているように思えた。
『周りの状況は見えてないけど解るって言うか…まあ、感覚的に解る感じね。
 横島君、私がいなくなってからの状況教えてくれない?』
『え? えっと…』
 いきなり振られた問いかけに、今までただ聞いていただけの横島は驚いたが、すぐにあの後…
 美神さんがさらわれた後の事を説明する。
 神魔界で軍が動き始めている事や、オウル卿がここへ訪れた理由。
 その他諸々…
『なるほどね…オウル卿、いきなり信じるのは無理だけど…ありがたいわ。
 あと、鈴女は無事なの?』
『ええ。 文殊で治療して、今は部屋で寝てると思います』
『そう…』
 ほっと安心した声色で、美神は短く呟く。
『……横島君』
『何ですか?』
 しばらくの沈黙の後、静かに送られてくる美神さんの声。
 これはすごく真剣な話だ…そう感じた横島も、口調を改める。
『今こんな風に話している事からも解ると思うけれど………私は魔族になっているわ』
『そう…ですか』
 頭の中で話しながら、横島は『たぶんそうなのだろう』と、頭のどこかでそう感じていた。
 それが今、美神さんの言葉で肯定される。
 死んでいたりとかそういうわけではなく、目の前に確かに本人はいるというのは解るのに…
 僅かな絶望感と、敗北感が横島を包んだ。
『今はこの…永炎に包まれてるけれど、私の身体は…そうね、卵の中身みたいになってる感じ。
 それで、ゆっくりと手足が出来上がっているみたいなのよ』
『えっと…要するに、お腹の中の赤ん坊みたいな感じですか?』
『そうなるわね。
 それで、あと少ししたら完全に身体の形が出来て

 …私は完全に魔族になる』

 沈黙を間に挟んで、美神は吐き出すようにそう告げた。
『美神さん…』
『横島君、手っ取り早く言うわ。
 私は魔族化したら、間違いなく人間界からも…神界からも魔界からも狙われる存在になる。
 だから私は…魔界に行く』
『魔界へ?』
 魔族達の住む世界。 かつて香港であった事件で、魔界の断片をかいま見た事があるが…
『これからどうなるかは、流石に事が大きすぎて予想が付かないけれど…
 少なくともあそこなら、あなた達に余計な迷惑は掛けずに済む…』
 静かに話す美神さん。 それはいつもと同じ、とても冷静な判断だと…一瞬思った。
『だから、事務所は事実上廃止することになるわ。
 後の事はママに頼めば、何とかしてくれると思う…おキヌちゃんやシロタマもね。
 いろんな書類は地下の隠し部屋の奥にある、更に奥にある隠し部屋の下に壁に隠された金庫の中に全部あるわ。
 それと…』
『美神さん……怖いんですね?』
『…!』
 水が流れるかのように紡がれていた美神の言葉が、ふっと途切れる。
 その様子で、横島は確信した…美神さんは、怖がっていると言う事を。
『否定、しないんですね』
『誤魔化すだけ滑稽よ。
 言われて言葉を途切れさせた地点でばれたも同然…ええ、そうよ』
 意外なほどにあっさりと、美神さんは肯定した。
『私だって以前はGSであり、人間よ。
 裏の事情…過去の歴史から、人ならざる者は迫害された。
 それがどれほど恐ろしいかも私は知っている…』
 同族でさえ、僅かな違いで迫害を平然と行う人間。
 さらに種族さえ違えばどうなるか…横島自身も、以前の事件からその事は嫌と言うほど知っていた。
 最近ならタマモ。 金毛九尾
『加えて、そこら中にいる低級魔族じゃないのよ?
 上級…下手をすれば、あのアシュタロス並の大悪魔よ?
 人の世界でそんなのは、いるだけで大騒ぎよ…』
 アシュタロスのように…と、美神はそう締めくくる。
『だから私は…魔界へ行く』
 静かに、でもとてもはっきりとした美神の声。
 テレパシー(だと思う)で、そう感じられると言う事は、発した相手は相当な決意があるという風に考えていいのだと思う。
 ならばこちらも、ちゃんと答えなければならない。
 最初から決まっている、自分の言葉を。
『俺も一緒に行っていいすか?』
『…え?』
『そのまんまの意味っすよ。
 俺も、魔界にご一緒します』
『危険よ』
 怒鳴るでもなく、ただ静かに告げる美神さん。
『今でも一緒だし、そんなの普段でも変わらないじゃないっすか』
『お金もないわよ』
『衣食住…追われるから住はないか。 前記二つがあれば問題ないっすよ。
 魔界で人間のお金使えるかどうかも怪しいですし』
『私はもう…人間じゃなくて魔族よ?』
『今更そんなの気にする基準にならないっす。
 美神さんは美神さんっすよ』
『……』
 水掛けるかのような、空気を震わせない問答。
 横島の答えを最後に、沈黙が降りてきた。
 痛い沈黙…ではない。 むしろ…
『もし何なら、いいましょうか?
 初めてバイト受けた時言った事一通り』
 昔事務所の前で必死になって美神さんに土下座して、仕事をお願いした頃の、『土下座入り』の台詞。
 あれからかなりの時が経ってはいるが、面白い事に今でもすべての台詞を思い出す事が出来る。
 土下座するタイミングもばっちりだ。
『覚えてるわけ?』
 僅かに苦笑のトーンの混じった美神の問いに、横島は『ええ』とすぐに答えた。
 同じように、僅かな苦笑を交えて。
『……横島君、いいの?』
『今更水くさいっすよ美神さん。
 魔界でも神界でもやくざの事務所でも、お供しますよ』
 もし『迷いが全くないか?』と言われれば、「NO」と答えるだろう。
 あの凶悪だが悪いわけでもない両親の事や、四畳半以下のアパートの事。
 隣に住んでる小鳩ちゃんや、学校のクラスメート。 おキヌちゃんや、シロにタマモ。
 他にも大小いろいろな事が、頭の中で渦巻く。
 だがそれは、どんな時でも同じ事だ。
 どんなに『これだ』と決断しても、心の中では迷いが生じてしまう。
 完全にこれだと決められる事など、実際この世の中には殆どないと言っていい。
 だからこそ、その迷いの中から決めた事には覚悟と責任を持たなければならないのだ。
 魔界がまさか安全だとは思わないし、ましてやこれからどうなるかなど解りようもない。
 でも、自分は決めたのだ。
 この人に、ついて行こうと。
『…解ったわ。 でも…』
 ため息を軽くついた後、美神さんは答える。
 姿はやはり黒い卵の中にあって見る事が出来ないが、もし目の前で立っていたなら…
 多分、苦笑して肩をすくめているだろう。
『でも?』
『……給料は安いからね』
 意外な答えにしばらくあっけにとられた横島は、すぐに吹き出す。
 そうしてしばらく笑った後…
『ういっす』
 と、答えたのだった。

 そして横島達が声ならぬ声で話している間に、森の中から鈴女が引きずり出されてきた。
『鈴女!』
『あの子、何でここに!』
 横島と美神は、土の触手に捕らえられた小さな少女の姿を見て驚いた。
 事務所で療養しているはずの彼女が、この場に現れたのだから。
『でも何で? 他の全員の気配は手に取るように解るのに、鈴女だけこんなに気配が弱い…』
 卵の中で、美神は姿を見る事の出来ない代わりに気配で周囲を『見て』いるようだ。
 確かに、横島さえも目の前に彼女が出てくるまで、全くその存在を感じる事さえ出来なかった。
 自分はそれほど気配を感じるという事に長けてはいない。
 だが今『目の前』にその本人がいるにもかかわらず、まるでその存在感が感じられないのだ。
 まるで映し出された映像を見るような…
『あいつまさか、文殊を使って…?』
『そういえば、いつだったか横島君から接収した文殊の隠し場所を教えた事があったかも…』
『教えたんすか…
 だとすると、『隠』とかそのあたりっすね』
 心の声は冷静に聞こえはするものの、横島は言葉はおかしいが内心焦っていた。
 今の状況では、彼女を助ける行動に出るのは非常に難しい。
 自分は今拘束されているが、これは手の中でこっそり出した文殊で何とかなる。
 うまく『触手だけを爆破』すれば、抜け出す事はそうそう難しくはないはずだ。
 だがそうなると、どうしても脱出した瞬間の『スキ』が出来てしまう。
 あの馬魔族は変態だが、格闘能力に関して言えば恐ろしく高い。
 その一瞬の隙をつかれたら、彼女を救う事はおろか自分の命さえ奪われかねない。
 だがそんな事を言っている間にも状況は悪くなっている。
 あの変態馬が何をするかは何となく想像が付くが、いくつか浮かぶ映像はどれも最悪のシナリオだ。
 まごついていたら、そのどれかが現実の物になってしまう。
 テレパシー(だと思う)は普通の会話とは違って、かなりの速さで言葉を伝えたり出来るようだ。
 その証拠に、目の前の光景がのろく感じられる。
 数分話していると最初思ったが、周りの動き具合から見て数秒程度しか経っていないらしい。
 もっともその事に最初気が付かなければ、ああして美神さんを説得したり作戦を考えたりなど出来ないのだが…
 だがゆっくりとはいえ、『時』は『動いている』。
 いくら遅いからと言って、いつまでも目の前の状況が『最悪のシナリオ』に向かう時を無限に伸ばしてくれるわけではないのだ。
 時間は、あまり無い。
『横島君、私これから何とか身体の一部だけ形作ってみる』
 いちかばちかやってみるかと考えた矢先、美神さんがこの上なく真剣な声でそう語りかけてくる。
『出来るんすか?』
『うまくいけば、片腕だけは何とかなりそうなの。
 いろいろやってるんだけれど、イメージすれば何とか身体の一部は形作れるみたい。
 それだけだと意味無いけれど、永炎…だっけ。
 これが身体を包んでいるから、手だけを伸ばしても身体が地面に『グシャ』っていかないと思うのよ』
『永炎、使えるんすか?』
 やはりオウル卿の言っていた通りに、美神さんを主にしているのだろうか?
『んー、使えるというか…例えば大きなマントを動かしているみたいな感じね。
 もしくは布団にくるまってる感じ。
 扱えていると言えばそうなんだろうけど…』
 どうやら、ある程度永炎の制御は出来るようだった。
『まあおかげで…今のアメーバみたいな私の姿、見られずに済むしね』
 黒い殻の中は見えないので想像するしかないが、確かに『どろどろ』だか『ふにゃふにゃ』な姿を見られるのはきついだろう。
 特に美神さん…女性にとっては。
『何とか腕だけを殻から伸ばすから、横島君はあの馬に『こっちへ鈴女』を投げるように仕向けてみてほしいの』
『例えば…わざと『鈴女を美神さん…その周りを包んでる永炎にぶつける気か?!』とかですかね?』
 言われて、頭の中で真っ先に浮かぶイメージを心の声にしてみる。
 この時頭のイメージは送れ無いだろうかと思った。
 だが向こうからは何も見えず、目の前の馬野郎と鈴女の姿しか見えない事から声しか送れないのだろう。
 そもそも、見えている映像の中にイメージが写ったりするのだろうか?
『そうそう、そんな感じ』
『でも…そんな事であいつうまく動きますかね』
 イメージした映像があまりにも滑稽だったことから、横島は軽く眉をひそめ不安の表情を作る。
『というか、あの馬それをするつもりみたいだから。
 だからそれ以外の行動を起こさないための、安全のための誘導ね』
 むしろ最初から目的の行動を取るから、『それ以外のイレギュラーな事をされないための保険』と言う事なのだろう。
『了解っす。
 じゃあそっちに鈴女がいったら…』
 かなり荒い作戦ではあるが、これ以上考えている時間はなさそうだ。
 目の前で、こちらの会話など全く気づかずに、馬男…フォロフスは鈴女を捕らえている触手を動かしている。
『任せておいて。
 永炎の中に引き込めば、鈴女は守れるから』
『解りました。
 じゃあ俺は…あの馬鹿馬をぶん殴ります』
『ちょっと! 何馬鹿な事言っているの。
 貴男は、あの馬のクルミおつむが余計な事を考えさせないようにすればいいんだから!』
 確かにその通りだ。
 抜け出した瞬間を狙われたりして、むしろこちらの方が分が悪い。
 想像出来る攻撃を避けられたとしても、魔族相手に例え『文殊』を使ったとしても一撃与えられるかどうかも怪しい。
 人間である横島では、明らかに魔族であるフォロフスに対して無力であるとしか考えようがない。
 …だが。
『……手はあるんです。
 それを使えば、『確実に』あの馬の面に一撃たたき込めます。
 …もしかしたらですが、倒す事もできます』
『そんな手があるの?』
 それは…彼の戦いで二文字の文殊を作り上げられるようになってから…
 再びそれを作り出そうとした行程の中で、偶然生み出された『モノ』。
『言葉で説明する暇もないですから、実際見てもらえば変わると思うんすけど…文殊より、遙かに強力なモノです。
 …俺を信じてくれませんか?』
 最後に一言、『お願いします』と言葉を締める横島。
『……解ったわ。
 でも、後でちゃんと説明してもらうわよ』
『解りました』
 了解を得た横島は、すぐに目の前のフォロフスの言葉を読み取り出す。
 あの言葉を入れるタイミングを掴むために。
『今だ!』
 横島はフォロフスの言葉を聞いて、わざと鈴女と黒い卵…美神さんと永炎を大げさに見比べ…
「お前……まさか鈴女を彼の黒い卵にたたき付ける気か?!」
 と、自分でもわざとらしいと思える程の台詞を叫んだ。
 だが当のフォロフスは、まるでお茶の間バラエティの三流悪人のごとくそれを真に受けた。
『うわ、わかりやす』
『目的が目前になって我を忘れてるというのもあると思うけど…ほんとに』
 横島と美神は、その様子に心の声でそう感想を述べた。
 そして…
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
 触手がスナップを利かせて鈴女を、『美神さん』の方へと放り投げた!
「鈴女君!!」
「鈴女ちゃん!!!」
「鈴女!!」
「危ないのね!!」
 全員の悲鳴が聞こえる中、横島は掌に作った文殊を発動させる。
 一つは『爆』。
 ただしちょっと作りを変え、『触手だけを爆発』させるという風にしてある。
 そうしなければ、自分が触手ごと粉々になるからだ。
 無傷というわけにもいかないが…
 そしてもう一つは…『閃』。
 フォロフスや、ワルキューレ達への目くらましだ。
 馬野郎に対しては、攻撃されるスキを作らないため。
 そしてワルキューレ達に対しては…これから使う『モノ』の存在を隠すためだ。
 正直な所、この事件さえ無ければ誰にも教えるつもりは無かったのだ。
 美神さんに絞られるとかそんな理由ではなく…そのおぞましいまでの『強力な力』を、別の誰かに知られないために。
 最初作り出された『それ』を使った、あの時からそう決めていた。
『でも、それは誰かを助ける時に隠すほどのモノじゃない!』
 もしそうしてまで使わず隠してしまえば…もう自分は、美神さん達の前に立つ資格は失われる。
『もう誰も、俺の前で死なせるかよ!!』
 心が燃え上がるのを感じる。
 僅かに、表にそれが溢れているような感じさえする。
『行くぞ馬野郎!!!!!!』
 心の中で叫んだ横島は、手に持った文殊を発動させた。
 強い衝撃、信じられないほどのまばゆい光が目の前を覆い尽くす。
 思ったより弱いが、やはり身体の痛みは相当なものだった。
 だが身体の拘束は、予定どうり外れた。
『すまん、ヒャクメ』
 百の目がある彼女には、この閃光はきついだろう。
 猫のようなヒャクメの悲鳴に内心謝りながら、身体の痛みを押して見えないために多少ふらつきながらも立ち上がる。
『何となくだけど、あの馬野郎の感じだけは解るな』
 だが視覚以上の感覚はわからない。 視覚に頼って生きている以上、それは仕方がなかった。
 次に横島は、掌に意識を集中させる。
 見えない目に現れたのは、小さな玉の感触。
『そいでもって、これを…』
 次々と現れる玉の感触と共に、身体に倦怠感がほんの僅かだが襲ってくる。
『よし…』
 ある程度の数が、掌に感覚として存在する以外の物を含めかなりの数になった事を確認した横島は、更に意識を集中しイメージする。
 例えるなら、いくつもある星々が一点に集まるかのような映像を…
 するとイメージに合わせるかのように、文殊達が掌に集まるかのような感覚が伝わってきた。
『そうだ、集まれ!!!』
 心に同調するかのように、まるで銀河が渦巻くかのように大量の文殊達が集まるイメージ。
 同時に掌から文殊の感触がゆっくりと消え、代わりに『更に強い何か』が現れるかのような感覚を感じ出す。
 そして横島のイメージの中で…
『…出来た』
 すべてが一点に、集まった。

『横島君…それって』
 信じられないと言わんばかりに、美神さんのテレパシーが聞こえてきた。
『説明は後っすよ。 それじゃあ…』
 横島はそう言うと、掌に現れた『一枚の御札』を握りしめる。
 すると、目の前の光景がいなり『開けた』。
 今まで真っ白で薄目さえ出来なかった世界が、普通に目を開けていてもはっきりと見えるようになる。
 まぶしくもないどころかまるで穏やかな昼のごとく、クレーターの縁で顔を塞ぐ全員の姿…
 こちらを見て驚きの表情を浮かべう馬の面…フォロフスの姿もはっきり見る事が出来る。
 そして……それらの動きはまるでスロー再生の用に遅く見えていた。
『目標確認…くらいやがれ馬野郎!』
 そう心で叫び拳を握りしめると、一気に身体を動かしてその馬に飛びかかる。
 身体にまるで水の中を動くかのような抵抗を感じながら、ゆっくりと目の前に近づいてきた馬の面に、限界まで振りかぶった拳を突き出す。

「美神さん、お願いします!!!!」

 恐らく動き出したであろう美神さんにそう叫んだ瞬間、掌の拳に衝撃が走り…
 目の前で馬の顔が蛇腹(じゃばら)のように、スローモーションでつぶれていった。

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