唐巣に事情を話し、美神に自己紹介をした横島は黒いワイシャツを脱ぎ、
鞄から学ラン出して着込むと美神に不審な目で見られた。
「ちょっと横島クン。なんで態々違う服を着ていたのかしら?
それに、その姿を見て思い出したけど、さっき不動産屋の前にいたわよね?
中学生の貴方がなんであんな所で物件を見ていたのかしら?」
一度疑問に思った事はとことん知らないと気がすまない美神は、一気に横島を捲し立てた。
これには横島も驚いていた。
あの時代で会った美神は聡明な女性で、大概の事は知っており、
その知識から答えを導き出せる女性だったのだから。
しかし、思い浮かばないのも仕方ないだろう。
この時代の美神はまだ高校二年なのだから、そんな先の事を見通せる目はまだ持っている訳が無い。
さて、こんな馬鹿な行動を取って美神に不審な目で見られた横島は、
この事をどう説明しようか悩みに悩みまくっていた。
「(俺のバカァーーーー!ここで着替えたら疑われるに決まっているやんけーーー!!
マジでどうするぅ~~~!!)」
美神にそう言われて固まってしまった横島を端から見ていた唐巣は、
そんな横島の肩をポンポンと叩いてから口を開いた。
「その事なら私が説明しよう。
さっきも言った様に、不動産屋の方から連絡を貰って廃工場に向かっている途中で横島君に会ってね。
で、彼は霊力無しなら私にも勝つ程の腕を持っているんだよ。
そこで私が廃工場に着くまで様子を見て貰っていたと言う訳だ。
変装をして貰っていたのは、君は行き成り中学生に助けられたと知ったらどう思うかね?」
唐巣に説明されていた美神は、最後に唐巣が言った言葉を聞いて納得した。
横島の腕が霊力無しならば自分の師以上の腕を持っていると今聞いたからこそ、
さっき助けられた事は納得できるが、あの時に知っていればどうしていただろうか?
そう考えた美神は短くもきちんとした答えを導き出した。
「・・・形振り構わず向かって行って、大怪我をしていたかもしれません」
その美神の答えに唐巣は満足そうに頷くと、俯いてしまった美神の肩に手を置いて諭した。
「落ち込む事は無いんだよ?
この世界には、美神君と同じ年頃で私よりも霊力も実力も上の人物だっているかもしれない。
まあ、私自身も見た事は無いがね?
現に横島君は、武術に関しては私より格段に上だしね?」
「はい」
「それに、これはまだ言うつもりは無かった事だが、
才能の面から言えば美神君は私以上だよ?だから、自信を持ちなさい」
「はい!」
唐巣の話を最初は俯きながら聞いていた美神だが、
唐巣の言葉を聞いた美神は段々自信を取り戻して行き、最後は元気に答えるのだった。
そんな師弟のやり取りを見ていた横島は、微笑みながら見ていた。
だが、次に出てくる唐巣の言葉で再び固まってしまうのだった。
「それに、戦い方は横島君が手取り足取り教えてくれるよ」
「はあ!?ちょ、ちょっと唐巣さん!行き成り何を言っているんですか!?」
「横島クン、本当!?」
「そうだね、横島君?」
嬉しそうに詰め寄る美神と、異議は認めないよ?と言わんばかりの眼差しを送る唐巣に、
横島は頷く事しか道は残されていなかった。
「・・・分かりましたよ。
どうやら美神さんは神通棍を使うみたいなので、俺の剣術の基礎を教えますね?
但し、基礎だけです。それ以上は教えられません。
それが嫌なら基礎も教えません!」
横島がここまで強く言う訳は純真に美神を心配しての事だった。
確かに美神程の才能と努力があれば神龍剣の基礎技までは覚える事が出来るだろう。
しかし、それを覚えるまでに美神はどれだけ身体を傷つけなければならないか。
死と隣り合わせでもある習得に失敗した時の事等、横島は考えたくも無かったのである。
美神と唐巣はそんな横島の気持ちが分かる筈も無いが、(思いは口に出さなければ伝わらない)
この横島がここまで強く言うのには理由があると考え頷いた。
さて、美神に神龍剣の基礎を教える事は話が纏まり、残る問題は横島の住居である。
しかし、これも直ぐに解決した。
横島は唐巣のご厚意によって、教会で暮らす事になった。
美神の修行も暫くは基礎体力を横島と一緒に鍛えてからと決まり、
横島は家に帰り横島夫妻と雪菜にこの事を報告すると、
夫妻は息子の手際の良さに感心し、雪菜はこんなに早く決まるとは思っていなかったのか、
横島に抱きついて暫く離れず、煩悩と葛藤する横島がいたとかいなかったとか・・・。
横島の唐巣の所での生活が決まってからの二週間は慌しかった。
先ずは横島の引越しを済ませ、その時に着いて来た雪菜が横島との関係を、
唐巣と美神に『内縁の妻』と自分を紹介して、美神が『何故か』ムカムカしてきて横島に当たったり、
その様子に気が付いた雪菜が美神に牽制して放電現象が起こったり。
美神の学校に忘れ物を届けに行った時に迷い込んでいた、
交通事故で死んでしまった子供の浮遊霊を優しく抱きしめて成仏させると、
その時に浮かべる顔に見惚れていた美神と周りにいた他の女性におもちゃにされたり。
雪菜が横島の弁当を中学に届けに来た時に、雪菜が『忠夫様』と言ってしまい、
担任と友人達(一部女子もいたが)に尋問されたり。
それなりに近かった事が分かった美神が横島を迎えに来て、
この間の女性と今度の女性との関係をまだ尋問されて、美神がこの間の女性と聞いた後、
微妙に不機嫌だったり。
基礎体力作りでランニングしている時に、横島がシロの事を思い出しながら走っていると、
前を走っていた美神が振り返り、それに気付いていなかった横島が美神の胸に突っ込んで殴られたり。
唐巣がやった除霊を無料ではなく、百万は貰うべきだと言う横島の主張を、
唐巣が「神聖な仕事を何だと思っているんだね!」といって跳ね除けるが、
横島が「料金を貰わないでどうやって生活するんですか!金持ちからだけなんだからいいでしょう!」
と言うと、唐巣もこれからは横島も一緒に生活するのだからそれも仕方ないかと納得させると、
美神が心の中で(やっと普通の事務所らしくなった)とか思っていたり。
と、この二週間は忙しい(ある意味女難だが)、の一言だったが、それも段々落ち着いていき、
遂に横島夫妻と雪菜がナルニアに行く日がやって来た。
時間の流れが速いなぁ~~。
空港のロビーで別れの前の挨拶を交わしている横島親子(雪菜含む)と『何故かいる』美神令子。
「じゃあ、忠夫。唐巣さんに迷惑掛けるんじゃ無いよ?」
「分かっているよ、お袋。お袋達も身体に気を付けろよ?それと、雪菜の事頼むな」
「まだお前に心配される様な年でもない。それに雪菜の事も心配するな」
「では、お兄様。行ってきますね。お兄様もお体を大事にしてくださいね?」
その雪菜の言葉に横島は頷き雪菜の頭を優しく撫でる。
撫でられた事で雪菜は顔を赤くするが、横島がそれに気付くはずも無く。
横島の後ろでは美神も自分では良く分かっていないが、
その何とも言えない雰囲気にムカムカしていた。
そうこうしている内に飛行機が出る時間となり、搭乗口に行こうと百合子と大樹が雪菜に言うと、
雪菜は眼に涙を溜めながら横島に触れるだけのキスをすると、微笑みながら百合子達の後を追った。
キスをされた横島はと言うと、ボォ~としながら
「(雪菜の唇、柔らかかったぁ~~)」
と馬鹿な事を考えていた。
(こ、こやつ。あの時代の威厳は何処に行ったのだ・・・)
諦めろ、刹那。この時代の横島にそれを求めても意味が無い。
まあ、少しは成長しているし、真剣になればあの性格に戻るのだが。
さて、そんな様子を見ていて面白くない人物が一人いる。
美神令子だ。
まだ本人は自覚していないが、横島の事を手の掛かる弟の様に感じながら、
何処かで頼りにしている自分がいる事に。
美神がこう思っているのも、最初に会った時に横島に助けられた事が大きい。
それと、神龍剣を教えてくれている時の年上を思わせる雰囲気も相乗効果を発揮している。
「ほら、横島クン帰るわよ!今日も教えてくれるんでしょ!?」
「はっ、はいっ!」
そう言って横島の手を握る美神は頬を染めていたとかいなかったとか。
「(何で美神さん怒っているんだ?)」
(横島、お主それを本気で言っているのか?)
「(ん?刹那は理由が分かるのか?)」
(こ、こやつ。・・・自分で考える事だな(この無自覚女誑しの鈍感男が・・・))
「(んだよ。教えてくれてもいいだろうに・・・ブツブツ)」
刹那がこう言うのにもやはり理由がある。
横島が六女で子供を成仏させた話はしただろう?
その時に浮かべる横島の慈しむ微笑に一目惚れをした女性が何人かいたらしい。
しかし、横島は自分に向けられる好意にとことん疎いと言う特徴がある。
その所為で気付いてはいなかったが。
その後美神は、教会に着くまで横島の手を離さなかったとか・・・。
あとがき
ごめんなさい!!過去編終わりません!!
過去編から、ゆっくりと本編に入る事にしました。
美神の修行と横島の体力作りを書く為に、そうする事にしました。
それに、D,さんの意見の六女のあのイベントもやろうかと考えていますしw
D,さん、貴重なご意見ありがとうございます。
レス返し
D,さん、ジョースターさん、柳野雫さん、大神さん、九尾さん、ありがとうございます。
あと、九尾さん。
それは色々考えているのでお楽しみと言う事で。