無限の魔人 第十四話 〜天駆ける箒再び〜
「うわあああああああああ、は、速過ぎるよーーー」
「ラピス! もっとスピードを落とすように念じるんだ!」
「ちょっとむりーーーリーーィ(ドップラー効果)」
「かいとおおお、とまらぬうううう」
私とラピスは今空を飛んでいる・・・・箒に乗って。
―――――――――――――――――――
「「「魔法の箒?」」」
その時、私とメドーサ、そしてラピスの声が重なった。
「そ、まぁ取りあえず行くぞ」
ラピスは私の時と同じようにメドーサに服を借り、4人で街へ行った。
[美術館・倉庫]
「おい界人、ここは立ち入り禁止では無いのか」
先ほど明らかに「関係者以外立ち入り禁止」のロープが張ってあった場所を跨いできたのだ。
今更言う事でも無いが、一応言って置く。
「ああ、まぁ盗む訳じゃないし平気だろ。それに、犯罪は見つかってからが犯罪だ」
「「それはどうだろう(ね)」」
メドーサとラピスが声を揃えて言った。
「細かい事は気にするな、ほらこれだこれ・・・まだ此処に有ったんだな、スペイン秘法展まだやってたし」
「まだ有ったんだなって、知ってたから此処に連れてきたんじゃ無いの?」
「いや、無かったらどこに運んだか聞くつもりだったからな・・・まぁ良いじゃないか有ったんだし」
行き当たりばったりで楽天的・・と言うのだろうか、今のところ害は無いから良いが・・。
「では、説明しましょう!これは炎の狐と言って、俗に言う[空飛ぶ箒]。何とこの箒は・・・自らの意思を持っているんだ。そんなにはっきりした意思じゃないから、念じればその通りに飛んでくれる優れもの、中世ヨーロッパ時代に作られた逸品で現存する数少ない内の一本だ」
「それが何故折れておる?」
「それは・・・ちょっと昔に炎の狐が美術館から逃げ出した事があって、その時に横島忠夫を箒が自ら乗せたんだ。まぁ・・・音の壁にぶち当たって折っちゃった」
「「「折っちゃったって・・・」」」
「ま、まぁ過ぎた事は置いといて、この炎の狐を文珠でコピーして龍美とラピスに与えようと思う」
「俺は自力で飛べるし、メドーサは然り。龍美は元から飛べないし、ラピスはばれない為に」
「おーけい?」
「おーけい」「ああ」「うむ」
「よし」
順に頭を撫でなれたが
「や、やめなっ!」
メドーサだけは嫌がっていた。
顔は赤かったので、照れているのだろう。
箒の前に立った界人は、文珠で箒の意識を一旦[取]り[出]し、コピー[複][製]した方を炎の狐に[宿]らせた。
その後箒を2本購入し、もう一度箒の意識を[複][製]してそれぞれの箒に[宿]した。
ちなみに私が乗っている方が本物の炎の狐だ。
文珠でのコピーは完璧なのであまり意味は無い。
さっそく飛行訓練とばかりに乗ってみたのは良いが、これが意外と難しいもので・・・。
「きゃあああああああああああ」
ブフォオオオオオオオオン
「うわああああああああとまってーーーー」
バヒュ ゴォオオオオオオオオン
炎の狐は元気がありすぎた・・・・。
文珠で[姿]を[消]しているので、いくら飛び回っても人にばれる事は無いので安心ではあるが・・・そろそろ「とめてくれえええええ」
「炎の狐が久しぶりに飛べて喜んでるんだろうな」
「あんた、のんびりそんな事言ってて良いの?」
「大丈夫だろ、炎の狐もまさか2度も折れたいとは思わないだろうから」
「なら良いんだけど」
イヤアアアアアアアアア
ビュビューン
「ふふ・・メドーサ、2人が心配か?」
「なっ!か、勘違いするんじゃないよ!私は唯「はいはい、分かってるから・・な?」
「・・・ふん!」
「ところでメドーサ、何か悩み事があるんだろう?」
「・・・ふぅ、あんたには敵わないねぇ」
「自称賢者だしな、それなりじゃないと格好がつかないだろう?」
「ふふ、あんたらしいさね」
とめてえええええええええ
「あの時、倉庫で暴れてたのはやりたくも無い仕事をやらされたから・・・違うか?」
「・・・GS試験の時は別に嫌な仕事って訳でもなかった。ただ、上から命令されるのだけは我慢がならなかった。」
「香港へは行くのか? 嫌な事をやりに」
おろせえええええええええ!
「どうしようかね・・・神族が嫌で魔族になったのは良かったんだけど、魔族の連中からは元神族ってだけで睨まれちまってね、自棄になってたってのもあるのさ。」
「だからあんな変な事をしたのか?」
「ああ、唯の嫌がらせさ・・・私の嫌いな竜神族のお嬢さんが困った姿を見たかったからね。必ず出て来ると思ってたし」
「気は晴れたか?」
かいとおおおおおおおおぉぉぉ
「いや・・・虚しくなっちまったよ。なにやってんだろうね・・・私は。」
「神界にも魔界にも居場所が無いなら、ずっと人界に居れば良い。俺も龍美もラピスも居るしな」
「それに・・・どんなに強い奴も孤独には勝てないし、泣きたくなる時もある・・俺もそうだったからな・・・だから、泣きたい時は泣いたって良いんだ」
「・・は!この私が泣く・・だって? 舐め・・るんじゃ・・な「よしよし、もう大丈夫だ。もう1人じゃないから、我慢する事は無い。俺が居てやるから・・な、少なくとも今は・・・泣いても良いぞ」
「っ・・・く・・・う・・ぅ・・・うぁ・・あ・・・」
押し殺した泣き声が界人の胸の中から漏れ出る。
「ああ、よく1人で頑張ったな・・・偉い偉い・・・もう大丈夫だ」
トン トン とリズム良く背中を叩き続けながら、頭を撫でている。
「ぅ・・ぅぅう・・あ・・・く・・ぁ・」
トン トン トン
太陽が西に沈んでいく。
トン トン トン
その様子をメドーサを抱きしめたままの界人は見る。
トン トン トン
彼は思う。
トン トン トン
昔の自分は何て狭い範囲でしか世界を見ていなかったのかと。
トン トン トン トン
こんなにも苦しんでいたメドーサを・・・・。
だが、彼は後悔はしない。
そう、決めているから・・・。
「わ、悪かったね・・・見っとも無い所をみせちまって」
眼が赤くなっているメドーサが言う。
「見っとも無くなんて無いさ、それに、格好良いだけのやつなんてどこにも居ないんだからな」
「いつかあんたが泣きたくなったら、こ、今度は私の胸を貸してやるよ!」
メドーサが身を乗り出し。
スッ
「あ」
唇に触れるだけの柔らかい口付け。
すぐに離れてメドーサは界人の瞳を覗き込んだ。
その時、彼女の沸立っていた心は急速に静まっていった。
彼の瞳には深い悲しみと、嘆きが映っていたから。
(何て瞳をしてるのさ・・・悲しみと深い・・絶望・・?)
「・・しまった」
「ぇ?」
「いや、なんでもない・・・さぁ、そろそろ2人が戻ってくる」
彼の呟きはメドーサには幸か不幸か聞こえては居なかった。
踵を返し、二人を迎えに行く彼の背中は何者も近づけぬ迫力があった。
彼は何れ消える。
この世界でも謎が解けなかったら。
それが100年の後に・・・魔族の長い寿命では、彼が消える瞬間に立ち会う事になるだろう。
彼は初めて彼女の好意に気づいた・・・いや、以前から気づいていたのかもしれない。
だが、無意識にそれを拒絶していた。
何れ来るだろう別れが・・・両者の心に少なくない傷を残すのだから。
彼は何年たっても心弱き[人]であった。
臆病で、けれども強くあろうと願い続け・・・人としての心を守る為に・・・。
(いつかあんたのあの瞳を・・・いや・・)
1人メドーサは思う。
いつの間にか心が軽くなっていた。
彼の背負う物はわからない、唯・・・共に居たいと願った。
黒に空が染まる時、飛ぶ事に満足したのか、2本の箒は主人を解放した。
その後、彼女達はあまり箒に乗りたがらない。
彼の苦悩を知る者は未だ居ない。
無限の魔人 第十四話 〜天駆ける箒再び〜
end
あとがき
この十四話は自分でも好きな話です。
界人とメドーサが二人きりでの会話・・・燃えました!(え
只今20話製作中。徐々に執筆スピードが低下しています。困った困った。
レス返しー 沢山の感想有難うー
>デモンさん
初めましてー。
いえ、寧ろデモンベインって何ですか? というレベルです。w
>法師陰陽師さん
いずれ違和感が違和感で無くなり、元の感覚が逆に違和感になることでしょう(?
>ROM者さん
わざわざご指摘ありがとうございました。
>夢現さん
デモンベインってどの辺りがそれっぽいですか?
ゲームなのは分るんですけど・・・アクション?
私は今全然ゲームやってないんで・・・情報誌も読みませんし・・流行遅れでごめんなさい。
>無貌の仮面さん
>なんかメド丸くなってきましたねぇ。性格が。
元に戻ってきたのか、界人君に影響され始めたのか・・・まぁ悪い変化では無いと思いますので・・・うん。
>リョウさん
そうかもしれません、私もそう意識して読み返したら「渚君じゃないかっ!」って感じでした。少しずつ、徐々に違和感が無いように修正を入れたいと思います。
・・というか、どこのキャラも全部似たようなものかなーなんて開き直りつつ有ったり・・・。
>九尾さん
炎の狐、こうなってしまいました。
ビュンビュン飛び回って楽しそうで良いかな・・・ダメ?w
>でぃおさん
初めまして〜。わざわざすいませんでした。
でぃおさんの作品は楽しく読ませてもらってましたので、名前が被ったのはそのせいかと思われます。
これからもお互いがんばりましょうー
>ジョースターさん
すいませんが、脳内変換で頑張ってください 僕→私
“僕”は1つの罠でしたが、今から変える事は出来ないです。
>柳野雫さん
界人君は人生経験豊富な自称賢者ですので、きっと父親役も果たしてくれると思います。がんばれ界人君!
>通りすわりさん
1発キャラだったラプラスをレギュラー化、これから性格が決まっていくでしょう・・・その内ナイスキャラ化を目指したいと・・・ふふ。