最終話 「さくらんぼとプリン」
ピートとタイガーを退けたチチナシはゆっくりと購買部に向かって歩き出す。
そのブラで出来た鞭状の腕が購買部のドアに伸びたまさにその時、絶叫とともに横島が突っ込んで来た。
「うわああああああああああああああああああああああ」
横島の体当たりを受けて購買部の前から10メートルほども引き離されるチチナシ。
その中央に取り込まれている唯の光る目が横島の装着しているブラを認めた。
鞭を獲物に飛び掛る蛇のように操りながら、そのブラを奪おうとするチチナシ。
だが、横島はそれを掻い潜ってチチナシの懐に飛び込む。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
雄たけびを上げながら霊波を込めた右手を唯の方に伸ばし、チチナシの作る瘴気の空間を切り裂き中に踏み込む。
一歩、また一歩。
しかしチチナシもその瘴気空間を密度をあげ横島の侵攻を阻止しようと邪念を強化していく。
拮抗する両者の力。
だがチチナシの念の方がわずかに強力なのか横島の動きが少しずつ鈍くなっていく。
やがて物理的な圧力を感じるまでに高まった念は横島の動きを完全に止めた…。
「横島さん!!活動停止!!そんなっ!!!」
「なんですってぇ!!」
「くそっ!」
「何とかならんのかっ!!」
発令所に響き渡る悲鳴。
(くそっ。体が動かんっ!駄目か…駄目なんかっ!!)
チチナシの瘴気空間の中でもがく横島。その体はわずかずつではあるが唯に近づいていく。
(動け!動け!動け!動け!動けぇぇぇぇぇ!!)
渾身の力を右手に込め、まっすぐに唯に向かって突き出す!!
(動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
その右手の指先がほんのわずか唯の胸に触れた…。
指先から伝わるさくらんぼの感触…。
意識の無いはずの唯の唇が漏らす「あん…」という声。
ポタリ…
横島の鼻から何かが一滴落ち、そこで彼の意識は完全に途絶えた。
「横島さん…活動限界に達しました。意識はない模様です…」
「なんてことだ…」
「うぬ、あれほどの戦士でも勝てんというのか…」
最後の希望を断たれ、暗い空気に包まれる発令所。
「横島君…唯ちゃん…」
「横島さ…ん…」
お互いを抱き合い涙を浮かべながらモニターを見詰める愛子と小鳩…だがその時!!
「ウ…ウ…ウ…ウオォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
人外の咆哮をあげ身にまとわりつく邪念の圧力を物ともせずに横島が動き出した!
その目は赤い輝きを帯び真っ直ぐにチチナシの本体、唯と同化しているコンプレックスを睨みつける。
「よ…横島君再起動!!そんなっ!これはっ!」
「どうしたの?!摩耶ちゃん!!」
「横島君のシンクロ率が400%を超えてます!!!」
「そんなっ!ありえないわっ!!!……って何のシンクロ率?!!」
「わかりません!!!」
「ウオォォォォォォォン」
再度の咆哮とともに横島の体から放たれる夥しい霊気!放たれる圧倒的なエネルギーは横島の纏う拘束具もとい奇跡のブラを粉みじんに消し飛ばした。
「グギャァァァァァ」
(「へあぁぁぁぁぁ」)
自分の目の前で粉みじんに砕け散った乙女の夢に絶望の叫びを上げるチチナシ。
なんか混じった気もするがそれは気にしない方向で…。
「おのれ!!小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
怒りのあまり唯の肉体から半身を飛び出させるコンプレックスだったがそれが命取りとなった。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオ」
横島は霊波を帯びた右手でその頭をがっちり掴むとそのまま隔壁に向かってダッシュする。なすすべも無く唯から引きずりだされるコンプレックス。
横島はコンプレックスと引き離され力無く倒れこむ唯をその場に残したまま隔壁に突進すると、その右手に捕まえていたコンプレックスを叩き付ける!!
「ギャアアアアア」
「オオオオオオオオオオオン」
叩き付けられダメージを受けたコンプレックスを雄たけびをあげて殴りつける横島!!
その手に込められた霊波によって焼かれ悶え苦しむコンプレックスは…。
「ウギャァァァァァァァ」
最期の悲鳴とともに消滅した。
「チ…チチナシ…いえ…コンプレックス消滅しました…」
「な…なんだったのだ…あれは…」
「暴走…そうあれは暴走だ…まさしく何かのエネルギーが暴走したんだ…」
呆然と結果を告げる青場、圧倒的な力を目の当たりにして声を振るわせる寺津、そして直感で核心に迫る安室。
唖然としながらモニターを見詰める発令所のその他の面々。そんな彼らが見守る前で横島はゆっくりと崩れ落ちた…。
「「「横島君(さん)(殿)!!!」」」
横島が目覚めるとそこは見慣れないベッドの上だった…。
しばらくぼーっと天井を見詰めていた横島だが、突然、ガバッと身を起こす。
「唯ちゃんはっ!!」
「彼女なら大丈夫よ…怪我もなかったわ…」
そう言いながら横島の手をやわらかく握ってくる少女。
「愛子…か…」
そしてあたりを見回す。
保健室の入り口のところで横島を守るかのように直立不動で立つ加藤という男。
そのそばで腕組みをしながら感嘆の目で横島を見ている寺津。
誰もが安心するような笑顔を見せている安室。
ベッドの足元には白衣姿の赤城。
その横で目に涙を浮かべ両手で口元を押さえている矢吹。
ベッドの横には横島の手を握ったまま涙を流している愛子と、その二人の手にそっと手を重ねながらやはり泣いている小鳩。その上に呆れたような驚いたような顔で浮かぶ貧がいた。
だが最も気になる人物がいない…。
「愛子…唯ちゃんやピートやタイガーは?」
「ピート君もタイガー君も無事よ…」
「で、唯ちゃんは?」
「唯ちゃんね…意識を取り戻してみんなに「ごめんなさい」って謝ってから姿が見えないのよ…。今、ピート君やタイガー君が探しているわ…。」
「くそっ!」
「横島さん!まだ動いちゃ駄目です!!」
「ありがとう。小鳩ちゃん。でも、もう大丈夫だから…」
「でも…」
あくまでも横島の身を案じる小鳩、そんな小鳩の肩にそっと置かれる手。
「行かせてやりたまえ小鳩君」
「安室さん…」
「これは君の仕事だろ?横島君」
「ええ…これは俺の仕事です…よね?」
「ああ、行ってやりたまえ」
全てを理解しているかとも思わせる安室の言葉は率直にありがたかった。
だから保健室に居る皆に頭を下げる。
「はい…後はよろしくお願いします。」
「ふむ。この寺津。貴公の様な武人の頼みを断るすべは持たぬ。後のことは安心して行くがよい。」
「ははは…俺はそんなに格好いい人間じゃないっすよ。じゃあ後よろしくお願いします。」
自嘲気味に笑いながら、今一度礼をして保健室を出て行く横島を見送る一同。
「やれやれ…本当に凄い男だな。彼は…」
安室の呟きに無言で頷く一同。
「まったくだ。是非とも我が「薔薇の園」に迎え入れたい人物だ。そう思わんか加藤」
「その通りです。この加藤、久々に武人の心を見た想いであります。」
「まあ、研究材料としても得がたい存在よね。」
「先輩っ!」
そして保健室は笑いに包まれた。
校舎裏に放置されている資材置き場。そこにかすかに響く泣き声…
「えぐっ…えぐっ…ひうっ…」
「あ〜やっぱしここに居たかぁ…」
「へうっ?!た、タダオくん?!」
「はいな」
「ど…どうしてここが解ったんですかぁ?」
「いや…猫とかハムスターってさ。怒られたりいじけると狭いところに入り込むだろ?だからここかなぁ…と。」
笑いながら何かの工事の時にそのまま放置され忘れられていたのだろう、そんなコンクリートの土管の中で四つんばいになって泣いていた唯に話しかける横島。
「え…えうぅぅぅぅ」
「さ、帰ろう?みんな心配しているよ。」
「でも…でも…私、編入したばっかりなのにみんなに迷惑かけちゃって…」
そう言ってえぐえぐ泣きながら土管の奥に引っ込んでいく唯。
「誰も迷惑とか思ってないって…むしろ楽しんでいたんじゃないかな?怪我人もなかったし…」
赤城さんなんかは確実に楽しんでいたな…と思う。
「へうぅぅぅぅ…でもぉ…きっとみんな私のこと変な奴って…」
「あ〜。俺も今日知ったんだけどね…。うちの学校ってさ変な奴多いんだよ。会長からして変だしねぇ」
優しく笑う。
「それにさ。失敗したらいっぱい謝れって教えてくれたのは唯ちゃんじゃん…」
「へう〜。」
「さ…いこう。みんな待ってるよ…」
「あ…あの…」
土管からもぞもぞと顔だけ出しながら唯。その顔はすすと泥と涙でまだら模様になっていたが横島は素直に可愛いと思った。だから優しく、ちょっとだけ笑いを含んで聞く。
「どうしたの?」
「あ…あのですね。ここでずっと泣いていたら…足がしびれちゃって…」
「はいはい。」
そして唯の前に背を向けてしゃがみこむ。
「へ?タダオくん?」
「おんぶしてあげるよ。さ、行こう…」
「は…はいっ!!」
泣き笑いに返事をしながら横島の背にのそのそと乗っかってくる。
「よっこいしょ」と立ち上がる横島、その彼におずおずと唯が聞いてきた。
「あの…ですね…」
「ん?」
しばし躊躇した後…
「タダオくんもやっばり大きくてたゆんたゆんが好きですか?」
「たゆんたゆん…って…」
後頭部に汗を浮かべる横島、しかしやがて笑顔とともに…
「俺はプリンも好きだけど、さくらんぼも好きだな。」
「へう?」
「あははは。さあ行くか!」
いきなり走り出す。その彼の背の上で怖いのか、きゃいきゃいと騒ぐ唯。
こうして事件は終わった…。
横島たちが去った校庭の隅の土管…その影から砂を吐きつつ現れた新聞部の赤井さん。
「ふふふ…スクープってのはね。事件が終わった後にこそ転がっていたりするのよね…」
この週の学校新聞は未曾有の売り上げを見せた。
都内某所
川岸に佇む男。
「間違いない…あれこそ我らが求めた力…」
そう呟き男は再び闇にその身を隠した。
別な場所
暗い室内で幾人かの人物が話し合っている。
「お館様…」
「何か?申してみよ…」
「はっ…あの裏切り者の周りにまた…」
そういって壁の一部に映し出されたのはいつ撮ったのか唯の写真…。
暗闇の中からあがる「おおっ」という感嘆の声。
「いかがなさいますか?」
「ふむ…急くな。いま少し様子を見るのだ…」
「ははっ」
「ふふふ…今に思い知らせてくれわ、裏切り者め。くくく…はははははは」
哄笑…。
後書き
はい。今回を持ちまして「除霊委員の身体測定」全巻の終わりでございます。
犬としてはバトルシーンの練習作的な意味合いもあっんたんですがまだまだですな。
次の目標はバトルと15禁。ますます精進いたします。
ところで皆様にご相談なんですが…。
犬はタグとか使うの下手なもので、なるべく使わないで書いているんですが、やっぱり使った方がいいもんでしょうか?どちらが読みやすいですか?よろしければご意見くださいませ。
とにかく今後も精進いたします。
>眞戸澤様
最初はナイチチと言う名前だったんですが、ゴロがいいのでチチナシに…。
でもこっちの方が良かったと思ってます。
>Dan様
どんどん補完してあげてくださいませ。
>法師陰陽師様
幻覚攻撃…きっぱりすっぱり忘れてました…。その手があったかぁ〜。
>まさのりん様
ええ。まさしく彼こそ漢の中の漢です。寺津さんも惚れるわけですな。
>極楽鳥様
「唯を食ってる」ってのも考えましたが…18禁はまだまだムリそうです。
>柳野雫様
この学校は今後とも利用させていただきます。奇人変人学校って好きなんですよね。
>HAL様
ニヤリ
>紫竜様
実は「豊」「胸」で大胸筋が発達しちゃうという落ちを考えていたんですけどね。
個人的に逆三角な唯を想像するのがきつくって没となりました。
>九尾様
犬の書く横島くんは文珠の使い方が下手なんです。犬のせいですが…。
女性化はいつか使って見たいネタです。
>wata様
犬も低脂肪乳は好きですよ。
>見習い悪魔様
ご教授ありがとうございます。チチナシ強かったのか弱かったのか…。
>そかんしゃ様
下着愛好会はイリーガルな組織です。表向きは包装紙愛好会と言う名前です。
「中身より包装が大事!」が合言葉です。会員はみな下着をつけてます。ってアレ?
>T城様
新型ブラ…吹っ飛んじゃいました。泣きながら破片を集める唯ってのもいいかも。
>シシン様
横島君活躍できたでしょうか?
>MAGIふぁ様
そういう小ネタに笑っていただけると作者冥利につきますです。