第5話 「漢の戦い」
「ぎ…牛乳に何の関係があるんじゃぁぁぁ!!」
絶叫する横島をお馬鹿な子を見る目で見詰める赤城。
「そんなことも知らないの?古来、牛乳はおっぱいを大きくする力があるという言い伝えがあるわ。」
「うむ、わしも聞いたことがあるぞ。」と寺津、そして「うんうん」と頷く女子生徒一同。
「でもね…それはただの都市伝説なのよ…」
赤城の言葉にくっと口元を押さえ涙ぐむ女子生徒一同。
「そ…それで…大変なことと言うのは…」
転倒からなんとか復帰しつつ問うピート。
赤城は肩で大きく溜め息をつきつつボソリと言った。
「牛乳はね………飲みすぎるとお腹壊すのよ…」
「むう!それはいかんな!!」頷く寺津。
「アホかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「とにかく一刻の猶予も無いわ。愛子ちゃん指揮お願い。」
「わかりました。赤城先輩。それでは本日、イチイチサンマルより目標を合体妖怪「チチナシ」と命名します。作戦指揮は不肖、この私、除霊委員筆頭の愛子が勤めさせていただきます。」
了解と頷く一同。しかし除霊委員の他の面々は?と言えば…
「何時の間に愛子サンが筆頭ってことになったんですかいノー…?」と不思議がるタイガー。
「あ、あはははは…」と虚ろに笑うしかないピート。
「その命名だけで唯ちゃん泣くぞ…」と考えている横島。
それぞれの目は虚ろな光を発し始め、そろそろ限界が近いことをうかがわせている。
そんな彼らにはかまわず愛子はキッとばかりに画面に目を向けると待機中の加藤に指示を出す!
「加藤君!!そこから購買部までの隔壁を閉鎖しつつ購買部前の廊下まで後退。その後は購買部の前にバリケードを設置して校舎外に退避してっ!!」
「了解した!!行くぞ者ども!!」
加藤の声にオオーッと鼓舞の声を上げる加藤隊隊員たち。
速やかに行動を開始する。
「隔壁ってなんですかぁぁぁぁ!!」
とうとうピート君も絶叫キャラに…。
「いやね。どこの学校にもあるじゃない…火事のときとか…」
「それは防火扉と言うんですっ!!」
その時、加藤から再び通信が入る。
「愛子司令殿!隔壁、バリケードともに処置は完了した。これより校庭に退避し一般生徒の護衛の任につく!」
「ありがと。加藤君。よろしく頼むわね。」
「うむ。加藤。見事である!」
「はっ!司令殿!!閣下!!ありがとうございます!!」
敬礼とともに通信は切れた。
「ともかくこれで少しは時間が稼げるわね。今のうちになんとか対策を考えないと。」
「そうだな愛子君。やはり妖怪本体と天野さんを分離させることが先決だとは思うが…」
愛子の発言を安室も肯定する。
「手はあるわ…ただし一度しか使えないけど。」
「「「本当ですか!!」」」
赤城の言葉に活路を見出す除霊委員たち。そんな彼らを満足げに見やって赤城は続けた。
「ええ。彼女たちの共通の目的は「谷間」よ。それを与えてやればいいのよ。片方だけにね。」
「それは…どうやって…」
横島が聞くがその目は疑惑に満ちている。まあ今までの不条理な展開からすれば無理もない。
「これよ。」
そう言って赤城が取り出したのは燦然と輝く布製品。
「それは…ブラジャー?」
「こんなこともあろうかと科学部の技術力と下着愛好会の英知が産み出した究極のブラよっ!これなら五歳の幼女でも谷間ができるわっ!」
「どんな状況を想定してたんやぁぁぁ!!!!」
再び絶叫する横島、しかし赤城はさらりと突っ込み無視。
「ただ問題があるわ。」
「誰がそれを届けるか…だな。」
腕組みをしながら安室。彼にうなずきを返しながら赤城が続ける。
「そう。ただ置くだけじゃ駄目よ。あの瘴気の中に飛び込んで天野さんに直接渡さなきゃ…。」
「うむ。妖怪と天野という娘との間に利害対立と言う葛藤を引き起こすのだな。」
なるほどと寺津。
「そういうことになります。そしてそれをするのは除霊委員の…」
「ワッシらですかいノー…」
「そ、それを手に持って突っ込めばいいんですか?」
「それだけじゃ駄目よ。実際につけて見せて男にも谷間が出来ることを彼女たちに見せ付けなきゃ意味はないわ。」
呆然…
「つ…つまり…俺らに「ブラ男」になれと…」
「その通りよ」
震える声で尋ねる横島にあっさりきっぱりと赤城。
「横島君!唯ちゃんを助け出したいんでしょ!!もうこれしかないのよ!!」
「そりゃそうだけど…何が悲しくてブラ男なんじゃあああ。そ、そうだ、ピートとタイガーは…っていねえっ!!」
愛子の叱咤に言葉を返して気づいてみれば、いつの間にか発令所から消えているピートとタイガー。
「まさか!逃げた?!」
「いえ。両名とも「チチナシ」に向かっています!!」
愛子の叫びにモニターを見ながら答える矢吹。
「無茶よ!ピート君、タイガー君!!ブラも無しにっ!」
赤城が叫ぶ。それにかぶせるように青葉が叫んだ。
「「チチナシ」隔壁を突破しました!!」
「何ですって!どうやってっ!!」
「普通に開けたようです」
「あ〜。言われて見れば防火扉に鍵なんかついてないわよねぇ〜」
確かにいちいち鍵がかかっていたら避難のとき困るだろう。
「ピートさん「チチナシ」と接触!」
「ピートぉぉぉぉ!!頼むぅ」
矢吹の声にモニターを見れば「チチナシ」と正対しているピートの姿。
その雄姿に両手を組み祈りを捧げる横島。
彼らが唯を救い出せば自分のブラ男化が防げるとばかりに必死に祈る。
走ったせいか、それとも色々と追い詰められたせいか荒い息を吐きつつピートはその両手を「チチナシ」に向ける。
そしてその手から機関砲のように発射される霊波弾。唯を傷つけないようにと威力を抑え展開する瘴気のみを目標としながら連射する。
「倒れろ。倒れろ。倒れて下さいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
だが、雨あられと叩きつけられる霊波弾はすべて「チチナシ」の障壁に吸収されていく。ならばと速射性より威力を高めた霊波弾へと切り替える。
「負けてられないんです!僕たちはぁぁぁぁぁ!!!」
負けたらブラ男候補に逆戻りだ。
しかし破壊力を増したはずの霊波弾も障壁にわずかばかりの波紋を残すだけですべて吸収されていく。そして「チチナシ」の周りでひも状になりながら旋回していたブラジャーたちが鞭のように唸ると風を切ってピートに襲い掛かった!
「ぐはっ!」
鞭に叩きのめされ廊下の壁に激突するピート。そしてピクリとも動かなくなる。だがその顔に浮かぶどこか安心したような表情。
「ピート君沈黙!生存は確認!!」
「あああ…ピートぉぉぉぉ」
モニター内の惨劇に滂沱の涙を流す横島。対して赤城は冷淡な口調で一言。
「ぶざまね…」
「酷!」
ピートを倒した「チチナシ」は再び移動を開始する。
しかし今度はその前に仁王立ちで立ちふさがるタイガー。
その手には円筒形の金属物体を持っている。
そして獣の咆哮とともに「チチナシ」に向かって突進した。
「ウオオオオオオオ!!」
発令所でその様子を見守っている愛子たち。矢吹が叫ぶ。
「タイガー君突撃します!」
「何、タイガー君の持っているのは!!」
「あれは…スキムミルクお徳用缶!!まさか自爆する気?!」
「自爆ってなんやぁぁぁ」
愛子の疑問に答える赤城の解説に力なく突っ込む横島…。しかし「タイガー君目標と接触!!」との矢吹の叫びに再びモニターを見る。
その手に持った粉ミルク缶を「チチナシ」の障壁に押し付けるタイガー。障壁はその缶を受け入れたかのごとく一瞬緩むがすぐに缶を押し返すがごとく反発しはじめた。
「ぬおおおおっ!!」
渾身の力を込めて粉ミルク缶を押し付けるタイガーとそれをはじき出そうとする「チチナシ」、タイガーの腕の筋肉が膨れ上がる!!
(ワッシが散っても代りがおりますケン…)
タイガーの脳裏に描かれるブラ男となってやっほーと手を振る横島の姿…。
障壁とタイガーの腕力に挟まれてギチギチと不気味な音を立てる粉ミルク缶。
そして「バカーン!!」という轟音ともにモニターは白く染まった…。
「タイガーぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する横島と声もなくモニターを見詰める発令所一同。
やがて白煙がはれるとモニターは粉まみれになって倒れ付すタイガーと無傷の「チチナシ」の姿を映し出した。
「くっ…タイガー君…脱脂粉乳にはほとんど脂肪が含まれてないのよ…」
当たり前なことを真顔で説明する赤城の言葉に沈痛な表情でうつむく一同。
「もう横島君しか居ないわね。」
それらの様子を沈痛な面持ちで見ていた愛子が、残された横島に向かい非情な決断を下した。
「え゛…」
顔面を蒼白にする横島。体も小刻みに震えている。
「横島君っ!唯ちゃんがお腹壊してもいいの?」
「横島さんっ!!」
愛子と小鳩の言葉に唇を噛み、ただうつむくだけ。
その時、青葉の悲痛な叫びが発令所内に響く!
「「チチナシ」バリケード突破しましたっ!」
「まさか18個もの特殊装甲を一撃でっ!!」
「ただの机やんかぁぁぁあ!!」
驚愕する赤城の台詞にまたまた突っ込む横島、しかし赤城はその突込みを再び無視すると横島に向き直る。
「そんなことよりっ!もう時間がないわ。お願いよ。横島君。」
「貴公だけが頼りなのだ。頼む。」
「僕からも頼むよ。横島君…」
赤城の、寺津の、安室の、そして他の面々により横島の周囲に高まる無言の圧力…。
やがて…
「ぼ…ボクがいきます…いえ…行かせてください…」
心が折れたのか血の涙を流しつつ頷く横島。その言葉に活気づく発令所。
「摩耶ちゃん。横島君への装着お願い!」
「はい!では失礼しますね。」と顔を赤らめながら横島に近づく矢吹。
「わ、私も手伝いますっ!」慌てて駆け寄ってくる小鳩。
二人で協力してブラの装着を始める。
反抗する気も失せたのかされるがままになっている横島の上半身を摩耶と小鳩が裸にした時、引き締まった無駄のない筋肉とその身に刻まれた無数の戦歴が顕わになった。
それを見た発令所にあがる驚きの声。女子生徒の中にはポーッと顔を赤らめながら横島を見つめるものもいる。寺津と安室も驚きを隠さない。
「おおっ!只者ではないとは思っていたが…よもや、これほどとは…」
「まさに戦士の体だな…」
「装着完了しました。」
どっか潤んだ眼差しで横島を見ながら矢吹が愛子に告げる。小鳩は顔を真っ赤に染めて声もなく上半身裸の上にブラを装着した横島を見つめているだけ。
「ありがと。矢吹さん。小鳩ちゃん。横島君準備いい?」
「…もう好きにして…」
虚ろな表情のまま答える横島、やがて踏ん切りがついたのかその目に決意の色が満ちる。
「横島君…」
声無く見詰める一同を見返すと横島はゆっくりと戸口に歩き出し、振り返って「出る」と一言だけ言うなりダッシュで走り出した。
「うおおおおおおおおおお!!」
今、最後の戦いが始まる…。
後書き
なんつーか、ごった煮ですな。大目にみてやってください。今回、さりげなくフラグを一本立ててみたりして…。元ネタはもちろんあのエピソードです。
では調子に乗って次回予告
チチナシに突っ込む横島。だがその圧倒的な力の前には横島の力さえも届かない。
絶望に包まれる発令所。
しかしその時、奇跡が起きる!!
次回 『除霊委員の身体測定 最終話』「さくらんぼとプリン」乞うご期待!
>wata様
ごめんなさい。今回も唯嬢は不発でございました。次回は出します。ええ必ず。
>法師陰陽師様
書いている犬もシリアスだかなんだがわかんなくなってたりして…
>紫竜様
基本的に科学部は自給自足のようです。あと園芸部も
>MAGIふぁ様
装備があれば戦えると思います。核バズーガとか(おいおい)
>九尾様
でかい方のコンプレックスですか…それも面白いですね。次で使えないかな?
>ncro様
牛乳信仰は赤城さんに一言で否定されてしまいました。でも犬の周りには信じている人結構居ます。いもお…ゲフンゲフン
>梶木まぐ郎様
やはり名前ありませんでしたか…情報感謝いたしますです。
>シシン様
犬も通ってみたかったです。文珠で豊胸は…無くしたときが可愛そうですよねぇ。
と言いつつアイディア帳にメモメモ
>通りすわり様
シャアさんは考えましたけど、なんか世界を終わらせちゃいそうなので今回は没になりました。(それを言ったら閣下もか…)
>極楽鳥様
名前まで考えたキャラは再登場させようかなぁ〜なんて考えてます。
でも閣下も加藤もまた出したいなぁ。
>HAL様
今回、彼らの役を除霊委員のメンバーにやってもらってます。
閣下と唯ちゃんにはフラグは立ってません。(閣下はどうか知りませんが…それも面白いかも…メモメモと)
>kk様
ごめんなさい。今回は仮面の人とか出ません。犬としては逆襲あたりのコンセプトでキャラをもらってます。今回はエ〇ァ中心ということで…。