第4話 「戦場は校舎!」
横島たちが教室に戻ってみると教室内は異様な有様だった。
机はほとんど片付けられ数台を残すのみ。しかしその机の上にはそれぞれノートパソコンが置かれている。
黒板中央には大型の液晶モニターが設置され、その周囲に4つの中型モニターが配置されていた。
そして教室の床を這う幾十本ものケーブル。
インカムをつけた生徒たちが忙しそうにそれらを接続している。
教室中央に立ち彼らに指示を出している白衣姿の女生徒。
そのてきぱきとした指示により全ての配線が終わると、「設営班長」と書かれた腕章をつけた生徒が白衣の女生徒に敬礼して報告する。
「設営完了いたしました!」
「前回より15秒遅れたわよ。気をつけなさい。司令部要員は配置について」
「配置完了しましたっ!」
それぞれが所定の場所に座ったのだろう、敬礼とともに返答が帰ってくる。
「主電源オン!」
「了解。主電源オン。全システム起動します。」
「システム作動確認!オールグリーンです!」
白衣の生徒の命令に次々と動き出す生徒たち。モニターやディスプレイに灯が入りすっかり発令所へと変貌を遂げた教室内が明るくなる。
その様子をもう何が何やらと言う面持ちで見つめるしかない横島たち。だが愛子はこの異様な光景を気にもせず白衣の生徒に話しかける。
「相変わらず見事な手際ですね。赤城先輩」
「あら愛子ちゃん。ご苦労様。で、除霊委員のボクちゃんたちは?」
あそこです。と戸口で呆けている横島たちを指差す愛子。赤城と呼ばれた女生徒は横島たちの方に近寄ってくると片手を差し出した。
「はじめまして…ね。除霊委員の皆さん。科学部部長赤城律子です。よろしく」
「あ、ども。横島っす…」「ピートです。」「タイガーでっす。」
差し出された手をそれぞれ握り返しながら自己紹介する横島たち。
彼らの思いを代表してピートが赤城という生徒に聞いてみる。
「これはいったいどういうことですか?」
「ああ、あなた方はあんまり学校に来ないから知らないと思うけど、この学校って結構ちっちゃな霊障が起きるのよ。通りすがりの浮遊霊が悪さしたりとか、発散し損ねた煩悩が悪さしたりとか…」
「はあ…」と返事しつつ横島を見ると「ワイは無実やぁぁぁ」と逃げ出そうとして愛子に羽交い絞めにされていたりする。
「あなたたち除霊のプロがいればお任せできるんだけど、居ないこと多いでしょ。だから各部活のエキスパートが集まって出来たのがこのシステムってわけ。」
そう言いながら後ろでノートを操作している生徒たちを紹介する。
「科学部の矢吹摩耶です。」とショートカットの女生徒。
「同じく青場です。」とロン毛の男子生徒。
彼らの後ろにも10名ほどの生徒たちが書類の束とか持って忙しく動き回っている。
その中心にいるのは癖っ毛で優しげな印象の男子生徒。だがその身のこなしは只者でない雰囲気を漂わせている。
横島はその中に体操着のまま甲斐甲斐しく働いている小鳩を見つけた。
先ほどの感触を思い出して密かに鼻を押さえる。
小鳩の向こうには口の周りに髭を蓄えた禿頭の男が座っている。学生服を着ているがどうみても高校生には見えない。
なんとなく彼を見なかったことにしてピートは赤城に聞く。
「しかし素人の除霊は危険ですし違法じゃないですか。」
「ああ、それなら大丈夫。除霊とかするわけじゃないから。あくまでも生徒の安全な避難が目的ね。」
「でもここに霊が来たらどうなるんですか?」
「そのために小鳩ちゃんにも参加してもらっているの。貧ちゃんだっけ?彼って神様なんでしょ。低級の霊とか相手なら結構丈夫な結界張れるらしいのよ。私たちは効率よく生徒たちが避難するのをここで管制しているの。」
「他にも霊の分析とかもやっていますけどね」と矢吹。
「けどさっき愛子サンは戦闘要員とか言っておったんジャが…」
「戦闘班ってネーミングはあくまでリーダーの寺津君の趣味よ。実際は避難する生徒の最前列や最後尾で安全を確保するのが役目ね。ちなみにあそこで戦闘班を指揮しているのが寺津君よ。」
そう言って禿頭の男を指差す。それに気づいた男はイスから立ち上がるとゆっくりと横島たちに近づいて来た。
「お初にお目にかかる。私は寺津と言う。貴公らが除霊委員であるな。」
学生服を着ているにもかかわらずなぜか漂う軍人の雰囲気に飲まれ思わず敬礼してしまう横島たち。寺津も敬礼を返す。
「ふむ。なかなか良い目をしているな。しかも鍛えられた良い体をしている。貴公ら私に命を預けてはみんか?」
横島とピートの肩を叩きながらとんでもないことを言う。
「ご遠慮します」
「そうか。だが覚えておいてくれ。私はいつでも「薔薇の園」で待っておるぞ。」
「なんですかっ!その「薔薇の園」ってのは!!」
「我らが集う生徒会執行部の通称だ。」
「おっさん!生徒会役員だったんかぁぁ!!」
「…知らんかったノー」
「はっはっはっ。自分たちの学校の生徒会長ぐらい覚えておくのだな。では私は指揮に戻ろう。」
そしてもう一度ピートの肩を叩くと自分の席に戻っていく。
その様子を呆然と見詰める横島たち。
「いったいどうなっているんだよ…この学校は…」
「それにしても霊能のない人たちが戦闘ってのは…」
「まあ、実際には最低限身を守るために戦うことはあるけどね。あくまでも目的は彼らと違って戦闘力のない一般生徒の保護だから」
赤城はそう言うと「これを使ってね。」とやたら未来的なフォルムのライフルを見せる。
「そ、それは何ですか?」
「戦闘班B装備のライフル。といっても中身は水だけどね。」
「水鉄砲かいっ!」
「あら、でも結構、低級霊とかは嫌がるわよ。水とは言っても中身は特別だし…」
「ま、まさか…リトマス紙の色を変えたりする液体とかですか?」
「いいえ。そんなの危ないもの。中身はね。近くの神父さんに清めてもらった聖水が入っているの。」
「まさか…」
「そ、ピート君のところね。」
「あああああああ、やっぱり〜」
何やっているんですか先生〜と心の中で泣くピート。
「園芸部が栽培したお米とか野菜とか牛肉とかと交換で作ってくれるのよ。」
「牛肉の生産は園芸とは言わんわぁぁぁ!!」
突っ込む横島。肩で息をしている。
「保安部と言うのはなんですかいノー?」
「彼らは要所要所に立って生徒を誘導したり、怪我した子を搬送したりするのが役目よ。ほら、彼が保安部リーダーの安室君。」
そう言って今度は先ほどの癖っ毛の学生を示す。
聞こえるような声ではなかったのに、赤城の台詞を受けて片手をあげ、穏やかな微笑とともに挨拶を返してくる安室と言う名の生徒。
異様に感が良いようだ。
「教師は何やってんすか?」
「あら、保安部には先生たちも居るわよ。まあ、これは一種の合同クラブ活動ね。うちの学校は教師が部活にあんまり介入しない主義だし。」
「こんな部活があってたまるかあっ!」
「でも、ほら。うちの学校って部活が盛んだから♪」
「ああああ、もう何が何だが…」と頭を押さえてうずくまる横島。
「まあそんな細かいことはどうでもいいわ。とりあえず妖怪の正体を知るのが先決ね。摩耶ちゃん解析できた?」
「出来ました。」
愛子から情報を聞き取りつつノーパソを操作していた矢吹が速やかに返事する。
「そう。じゃあメインモニターにお願い。」
「はい。メインモニターにデーター出します。」
そこに映されたのはデフォルメされた人とそれを取り囲む二重の円だった。
「解析の結果を説明します。」
ノートを操作したまま解説に入る摩耶。作業していた他の面々もそれに聞き入る。
「ターゲットは天野さんを中心に半径二メートルほどの空間を保持してます。推測ですがこれが実体だと思われます。」
「いわゆる黒い瘴気のような部分ね。元々は何らかの念の集合体ということだったわね。」
「はい。本体がコンプレックスと名乗ったことから「おっぱい欲しい」という念だと思われます。」
「そうか…それが唯ちゃんの貧乳コンプレックスと引き合っちゃったのねぇ」
「なんか…可哀想ですね…」
同情の目で語る愛子と小鳩に「止めを刺したのはお二人では?」と言うべきか迷うピート。逡巡の後、言わないことに決めた。伊達に何百年も生きてない。
「んー。だとするとこのもう一つの輪は何?」
「わかりません。コンピューターでも解析できませんでしたが、効果範囲は学校全域に及んでいます。」
「つまり僕たちも取り込まれているということですか?」
何となく心当たりがある横島だがここは黙っていることにする。すべての行動を「マヌケ」な方向に導くあの時空は体験したものでないと理解はできまい。
それに、すでに事態は横島たちの想像も出来ない方向に動いているのだから…。
「そうなりますね。影響はわかりませんけど…」
「影響ならわかるわよ。」と赤城。
「なんですかいノー」
「さっきから外部と連絡が取れないのよ。校外に出ることも出来ないそうよ。つまりこの学校は完全に孤立したって訳ね。」
「マジっすか?」
「ええ。デフコン5の発令は、速やかにオカGに連絡をとるということでもあるわ。けど学校の電話も生徒の携帯も外部とは通じないのよ。内部は大丈夫なんだけどね。」
「ああ、保安部も何度か試しているんだが無理だった。内部同士では通じているから電波障害とかではないだろう。」
いつの間にか近くに来ていた安室が赤城の後を引き取る。
「つまり何らかの霊障ということですか?」
「そうね。仮定だけど…。あの妖怪はコンプレックスと名乗ったのよね?」
「そうっす」
「コンプレックスってのは人には知られたくないものよ。だから情報の拡散を防ごうとしている。そのための一種の結界ね。そしてもう一つ…。」
「ああ、この学校の中で何かを手に入れるつもりだろう。」
モニターを見詰め考えつつ安室。
「それは何でしょうか?赤城先輩…」
「あら愛子ちゃんたちは聞いているはずよ。彼女たちの望みをね。」
「谷間…ですか?」
「正確には谷間を作ることが出来るブラね。これだけ女子生徒が居ればそういうブラをつけている人がいても不思議じゃないわ。しかも今日は身体測定日、誰もが1センチでも稼ごうとしている今なら…」
赤城の台詞にギクッと反応する数名の女子生徒と愛子。
どうやら愛子ちゃん、ちょっと上げ底だったらしい。
「それをつけている女生徒が狙われる…と言う事か。」
「ええ。でも妖怪は天野さんを取り込んだ後、保健室から動いていないわ。」
「つまり彼女が妖怪の「ブラ奪え」という欲求と戦っているということだな。」
淡々と話を進める赤城と安室。その連携に淀みはない。
「おそらく…ね。彼女は優しい子なんでしょ?」
赤城に問われ頷く除霊委員一同。
突然、モニターの一つが警告音とともに、後ろに流した長髪を一本まとめ、その風貌と鋭い眼光で侍の雰囲気を持つ一人の男を映し出す。
「こちら戦闘班。妖怪監視任務中の加藤隊である。目標が動き出した。これより映像をまわす。」
そして画面に映し出されたのは保健室からゆっくりゆっくり歩み出てくる唯。
その周囲には黒い球体が形成され、今や二本の帯と化したブラジャーたちがその周りをジェット気流のように高速で回転している。
「これは!天野さんが負けた?」
「違うな。攻撃的なプレッシャーは感じない…。別のところで利害の一致を得たということだろう。」
「摩耶ちゃん。モニターに校内図お願い!」
「はい!校内図出します!」
映し出された校内図をしばし無言で見詰める赤城。
「そうか!わかったわ!!妖怪の目的が…」
「赤城君、それはどこかね。」
加藤の報告を受けて近づいてきていた寺津が問う。
「購買部よ…」
「なんで購買部なんジャろ?」
「わからないの!購買部にはあれがあるのよ!!」
「「あれ」とは何ですか?」
「牛乳よ…」
だああ〜とずっこける横島、ピート、タイガー。
そんな彼らを気にも留めず赤城はモニターを見詰め深刻な表情で言う。
「彼女が牛乳と出会ったら…大変なことが起きるわ…」
後書き
ども。犬雀です。今回、除霊委員は突っ込み要員でした。
何か書きにくいなぁと思ったら、犬は横島君の学校の名前を知らないんです。
それはともかく、次回予告とはっちゃけてみたり…。
唯救出のために非情の決断を下す愛子。そして妖怪との戦いで次々に倒れていく除霊委員。絶体絶命の危機の中で横島が覚醒する。
次回「漢の戦い」乞うご期待!
>wata様
横島くんは乳の大きさは気にしません。間違うかどうかは今後の展開で…(邪笑)
>紫竜様
唯嬢には厳しいですよねぇ。除霊委員は彼女を救えるんでしょうか?
>九尾様
乳首…解決のキーでございますな。もしかして展開読まれた?(ギクギク)
>法師陰陽師様
この学校は部活動が盛んな学校だそうです。生徒会もしっかりしてるとの情報です。
>Dan様
色々なコンプレックスがありすからねぇ。今回は貧乳コンプレックスということで。
>極楽鳥様
軍隊式は生徒会長の趣味でした。ごめんなさい(平謝り)
横島君は唯嬢のコンプレックスを晴らせるでしょうか。多分大丈夫だと思います。
>黒川様
テーマソング…いいですね。何か考えましょうか。犬は書いている時は有線聴いてます。こんどリクエストしてみようかな?
>シシン様
前例のあの彼女よりさらに「貧」な設定ですので…。まあ、横島君は気にしないでしょうけど。
>MAGIふぁ様
確実なのは20年前でも平均よりはるかに下ということです。
諦めきれないのが人生って奴で…。
>柳野雫様
迫るのも面白いですねぇ。考えてみます。