第3話 「天野 唯、堕ちる…」
「また妖怪が出たんですかいノー」
「とにかく急ぎましょう。」
「そうね。行くわよ!唯ちゃんも!!」
「は、はいですっ。」
「保健室に妖怪…ということは半裸の女子高生が!いかん!!すぐにお助けせねばぁぁぁぁぁ!!!」
ダッシュして消える横島を慌てて追う他の面々。どうやら唯もナチュラルに除霊委員に認定されたらしい。
その様子を「ガンバレよ〜」とハンカチや帽子を振りながら見送るクラスメートたち。
その手馴れた様子からすれば、彼らにとってはさほど珍しいことでもないということか。新聞部の赤井さんはどこからか取り出した「報道」という腕章を右腕に装備した。今週の校内新聞も完売は間違いなさそうだと思いながら。
「ここかぁっ!半裸の乙女たちが危機に陥っている現場はっ!!」
「あ!横島さん!!」
興奮のためか煩悩の力か顔を真っ赤にして、あっと言う間に保健室に到着する横島。
やはり赤いと通常の三倍は早くなるらしい。
保健室前の廊下には放心した様子で佇む体操着の女子高生の皆さん。
煩悩エナジーが体に漲るのを感じながらも、まずは状況把握と保健室に飛び込もうとする。
だが彼が保健室に飛び込むより先に彼に抱きついてくる体操着の少女。
反射的に抱きとめた横島の胸にあたるたゆんたゆんとした感触。
(データー解析…胸部の感触は女性のバスト推定Eカップと判明…検索を開始します…)
脳内でフル活動する煩悩コンピューターは1ミリ秒で正解を導き出す。
「こ、こここ、小鳩ちゃん!」
「やっぱり来てくれたんですね。」
「う、うん、呼ばれたから…それより…小鳩ちゃんもしかしてノーブラ?」
言われてハッと気づき顔を真っ赤にしながらも横島から離れる小鳩、慌ててそのほっそりした腕で自分の体を抱くようにして横島の視線からその見事なバストを隠そうとする。だがそれは自分の腕で自分の胸を押し上げる形となり、逆にその豊かさを強調する結果となった。
「ブフウッ!!」
至近距離からの水着アイドル式バスト強調攻撃に鼻血を吹く横島。
思考回路はショート寸前さ。
「小鳩だけやないでー。見てみい。ここにいるオナゴほとんど全員ノーブラや」
「な、何いっ!!ぬおおお!!ここはヘブンか天国かぁぁぁ?!…って、貧か。何が起きたんだよ。」
「お前って奴は聞きながらもちゃんと他のオナゴ見とるんやなー。まあいいわい。
保健室の中に妖怪が出よったんや。」
「私たちが身体測定していたら、突然、保健室の中にあれが出たんです…。それであの影に触られたらスルッと…その…ブラだけが脱げて…」
一応、除霊委員らしく状況確認しながらも、周囲に素早く視線を巡らし心のマイピクチャにコピー&ペーストを続ける横島に呆れながらも貧が説明し、小鳩も顔を赤らめたまま保健室の中を指差す。横島が保健室の中を覗くと、床一面に撒き散らされた様々な色の布切れ、その名もブラジャーたち。そしてその中央に立つ黒い影が見えた。幸いにも中に取り残された生徒も教員も居ないようだった。
「ちょっと横島くん早すぎよっ!」
「一人で行くのは危険です。横島さん」
「ワッシはワッシはぁぁぁ」
「へう〜。疲れましたぁぁ」
押っ取り刀で到着する除霊委員メンバーたちと唯。
「いったい中で何が起こったんですか?」
「それよりこのオナゴの群れはぁぁぁ」
「あ〜五月蝿い。それより横島君とピート君は中の状況の把握。タイガー君は後方で両者のフォロー。唯ちゃんは女の子たちの保護お願いね!!」
ノーブラの女子高生の集団に理性を飛ばしかかるタイガーを叱咤し、なかなか適切な指示を出す愛子。
「さーいえっさー!!」
敬礼とともにそれぞれのアクションを開始する一同。
だが、自分たちが珍妙な時空に捕らわれ始めていることに気づかなかったことを
彼らはすぐに後悔することになる。
「「フリーズ!!」」
手をピストルの形にして黒い影に突きつけつつ叫ぶピートと横島。
だが黒い影は彼らを気にもせず、何やらぶつぶつと呟きながら床のブラジャーを一つずつ取ってはしばらく吟味して放り出すということを続けている。
「何をしてるんでしょう?」
「ぜんぜんわからん。」
「ワッシが精神感応で増幅してみますかいノー」
「ああ、頼む。」
「了解じゃぁ。ぬうううん!!」
タイガーの念により黒い影は次第にはっきりとした形をとり始め、同時に呟きだった声も聞こえ始める。影は細身の女性のようにも見えるが目の部分は爛々と光る空洞があるだけでとてもじゃないが感情は読み取れない。その口にあたる部分が耳まで裂け言葉をつむぎだす。
『あれも違う…これも違うぅぅぅ…』
「何かを探しているようですね。」
「ああ、でもブラジャーあさって何を…」
「文珠で片をつけますか?」
「あ〜。昨日のバイトで使い切った。」
「すまん」と横島。ならば力押ししかない。そのためにはもう少しコイツの正体を見極めようとピートは再びその影に注意を戻す。
やかで全てのブラジャーを吟味し終わったのか、影はその双眸を戸口にいる横島たちに向けた。
一方そのころ廊下では…
愛子の指示を受けてもぼーっとしている唯。その可憐な口に指をくわえてジーッと女子高生の皆さんを見つめている様はお菓子を欲しがる子供のよう。
しかしその目は愛子に近寄る小鳩を見たとたん驚愕に見開かれる。
「愛子さん!」
「あ、小鳩ちゃんと貧ちゃん。」
「私たちも何かお手伝いします!」
「ありがとう。だったら唯ちゃんと一緒に他の女の子の避難をお願いしていいかしら?」
「ハイ!」、「おう!まかしとき!」
「唯ちゃんもお願いね。」
声をかけるが唯から返事は無い。
振り返ってみればいつの間にか廊下の壁に背もたれして三角座りしている唯。
その顔にはブルーの縦線が入りまくり、しかも何やらブツブツと歌っている。
「たゆん…たゆん…やっぱりあれは浮くのかな?お風呂でぷかぷか楽しいな♪」
「唯ちゃん?」
「へ?は、はいぃぃ!」
スタッと立ち上がる唯。だがその顔色は暗い。疑問に思いながらも避難誘導を始めだした小鳩を指差しながら指示を出す。
「小鳩ちゃん。ああ、あの子ね。あの子と一緒に避難誘導とかお願いできる?」
「わ、わかりましたぁ!」
そう言うと生徒たちの方に向かおうとトテトテと歩き出す。
だが保健室の前を通りかかった時、ふと中を覗いてしまった。
唯と影との視線が出会う。
とたんに何かに取りつかれたかのごとくフラフラと保健室に歩きだす唯。
「ちょ!ちょっと!唯ちゃんどうしたの?」
「唯ちゃん?」
愛子や横島の声も聞こえないようだ。
そんな唯に対して影が語りかける。
『我が名はコンプレックス…我が呼びかけに応えし汝の名は?』
「あ…天野 唯ですぅ…」
「コンプレックスぅぅぅ?!いや、だけどあれはもっと違うって言うか、男の怨念から産まれた妖怪だろうが!!」
横島の叫びに唯から視線をはずさぬまま答えるコンプレックス。
『愚かな…劣等感が男だけのものとでも思うたか?…女とて劣等感はあるものよ…この娘のようにな…我はそんな娘たちの念が積もり積もって産み出されたのだ…』
「へうう〜」
目に涙を浮かべ始める唯。その唯に再び語りかけるコンプレックス女(仮名)。
『天使…』
「へあっ!」
『ワイヤー…』
「い、いや…」
『寄せて上げて…』
「いやぁぁぁぁ!!」
頭をブンブカ振って叫ぶ唯にコンプレックス女(仮名)が止めを刺す。
『小さく前へーならえ!!』
「い、いやですぅ…」
泣きながら拒否しつつも唯の手は前ならえの形をとりはじめる。
「ああ、もう許してえぇぇぇ…」
『手のひらに何か触れるか?…』
「い、嫌あぁぁぁぁぁ。言わないでぇぇぇ!!」
展開についていけない除霊委員男子一同。一方、愛子はちゃっかり小さく前にならえしている。避難誘導を終えて戻って来た小鳩も愛子の後ろで「えいっ」と前へならえ。
「あら。本当に触れるわね。」
愛子の台詞に「本当か?」と横島。
「これでもCあるのよ。」
「私はEですね。」
何気に私って脱げば凄いのよ。と言いたげな愛子とちょっとアピールしている小鳩。
唯はといえば前へならえの姿勢のままでエグエグ泣いていた。
さらに追い討ちをかけるコンプレックス女(仮名)。
『そのまま下を見てみるがよい…』
「嫌ぁ、もう嫌あぁぁぁぁ」
マジ泣きしながらも操られるように下を見てしまう。
『自分のつま先が見えるだろう…』
「へあうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
がっくりと膝をつく唯。その唯に「私は見えないわ」、「私も全然です」という愛子と小鳩の声がさらに追加のダメージをクリティカルに与えてきた。
唯ちゃん轟沈…。
その唯を慰めるように近づくコンプレックス女(仮名)。
『谷間が…』
「谷間がぁ…」
『「…そんなわけで谷間が欲しかったんですぅぅぅぅぅぅう」』
綺麗にハモって横島に訴えかける貧乳二人。
「な、な…」
あまりに謎な展開についていけない横島、ピート、タイガー。
そんな男どもを差し置いていち早く現実に復帰した愛子が叫ぶ。
「いけないっ!唯ちゃんが取り込まれたわ!!」
「なんでやぁぁぁ!!!」
「何を言っているの!あれを見なさいよ!!」
愛子の指す方を見れば影と重なり、その周りに黒い瘴気?を漂わせ始める唯。
やがて床に落ちていた様々な色のブラジャーが引き寄せられるように彼女に集まるとその周囲を回転しだした。
呆然とする横島たちをよそに愛子がその懐からやたらゴッツイ携帯電話を取り出す。
ていうか…軍用無線機?
もう何に突っ込んでいいのかわからない横島たち。
それにはかまわず愛子は無線機のスイッチをオンにすると矢継ぎ早に指示を出し始めた。
「メーデー!メーデー!保健室に妖怪発生!!デフコンレベル5に移行。戦闘要員は装備Bにて所定の位置に集合!保安要員は先生たちと一緒に一般生徒の避難先導実施後待機!!司令部要員は発令所の設営を!!」
たちまち校内に鳴り響くサイレンの音。それと同時に俄かにあわただしくなる校内各所。
その様子を確認するなり横島たちを振り返える。
「一時撤収するわ!!発令所で対策を考えるわよっ!!」
叫んで小鳩に「行くわよ!!」と言うなり駆け出した。
「「「いったいどうなっているんじゃぁぁぁぁ(ですかぁぁぁぁ)!!!!」」」
叫びながら後を追う横島たち。
事態は混迷の度を深めつつあった…。
後書き
ども。犬雀です。というわけで今回は唯いじめ。妖怪コンプレックス女性バージョンでございます。さてさてどうなることやら。
では次回「戦場は校舎!」でお会いいたしましょう。
あ、そうそうメリークリスマスです。(グッスン)
>九尾様
ふふふ。甘いのは苦手でございますな。当面は安心なさっていてくださいませ。
>法師陰陽師さま
プロローグというか初SSでしたので無我夢中でございました。
犬の文体はシリアス、壊れどちら向きかまだ悩んでおります。
今回はオリジナルの妖怪でした。元ネタはもちろん原作でございます。
>極楽鳥様
軍隊風の理由は次回で…。作者ほとんど遊んでおります。
バトル物は平行して書き進めて行こうかなぁと考えております。
>紫竜様
犬は設定が苦手でして…どうしてもご都合主義になってしまいます。
しかし今回は故意というかある意味必然?
>柳野雫様
こんな事件でしたぁ。ごめんなさい。
>wata様
ラブコメですか…ふむ…書いてみたい気もしてきました。もっと甘々な奴を…。
エピローグの結末考え直そうかなぁ。
>Dan様
激しく同意でございます。