「さぁ、アルを逃がすなら今なら逃してあげてもいいけど、どうかしら?」

ライラは二人の獣人に向き、不機嫌そうに尾びれを地面に叩きつけながら言う。

「いくら龍族といっても、武器も持たない雌が俺達に勝てるのか……?」

「へっ!兄貴がそう言ってるんだ!お前こそ、その『ご馳走』を渡したらどうだ?」

ライラは龍族と知っていながらも、物ともしない二人を呆れてしまう。
……本当の龍族の恐さを知らないばかりに……。

「もう逃がさないから覚悟しなさい……」

ライラは静かに言う。すると、ライラは上着を脱ぎ捨てると、身体が大きくなっていき……全長30mはあろうかという水龍へと変貌した……!

「兄貴……聞いてないっすよ……!」

「ただの竜人じゃないのかよ……!!」

「二人とも……覚悟はよろしくて……?」

ライラは二人に向かって勢いよく、食らい付いた……!


「「ぎゃぁああ……!!」」

「……!?」

森中に響き渡る悲鳴。アルはその叫び声に慌てて立ち止まる。

「ライラ……さん……!?」

その悲鳴に不安になったアルは、慌てて来た道を引き返す……。

「な……なに…あの生き物……」

アルの視界には巨大な生き物が先程の二人を口の中に収め、暴れる様子を楽しむかのようにゆっくりと上を向いていく……。

「ゴクリ……!」

巨大な生き物の喉をその身体からしたら小さな膨らみがゆっくりと落ちていき……静かに身体の中へと消えていった……。

「ラ……ライラさんも食べられちゃったの……?」

アルの力では、あの巨大な生き物を倒すどころか、今の二人を助けることもできない。
アルは近くの木のうろの中で見つからないことを願いつつ……隠れることしかできなかった……。

「ふぅ……獣人を呑み込むのも久しぶりね……。まぁ、私に歯向かったのだから、大人しく私の糧になるのを待つことね……
とりあえず、アルを探しましょうか……」

ライラはフワリと姿が縮んでいき、収まった獲物を強調するようにでっぷりと膨らんだお腹を擦りながらアルを探しに歩き始める……。

「アル、どこにいるの……?」

「ライラさん……!」

余程恐かったのか、アルはライラの足に抱きつき、離れようとはしない。

「あらあら……もう追い払ったから、心配しないで……」

「でもっ!あの二人がおっきな生き物に食べられてっ……」

「……!?」

ライラはアルが何に怯えていたのかを悟る……。一人で逃げていたからじゃない。二人が食べられたからじゃない。……巨大な自分の姿に怯えていたのだと。

「アル……少し疲れたのね。今日は少し寝なさい。ご飯は後で私が用意しておくわね……」

「う……うん……」

ライラはアルをそっと胸に抱き上げ、まるで子供を眠らせるようにゆりかごのように少し揺れながら子守唄を唄う……。
水龍の子守唄は綺麗な歌声であり、世界ではよく知れ渡っているが、聞いて眠ってしまったら最期……目覚めた時は水龍の腹の中という。
子供であるアルは知らないが、ライラも心を開きつつある今となっては掟として食べる気にもなれない……。

「今はこのお腹の中の二人を消化するほうが先ね……。
私もアルと一緒に寝ますか……」

ゆっくりと洞窟へと入り、アルを抱くように、ライラも眠りに着いた……。

 

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