「・・・っ・・・う・・・ぅん・・・・・・。」 生きてる。 いや、それよりも視界に入ってきたのは白い天井。 右には海が見渡せる窓、左を見ると片付いた部屋が広がる。 ・・・無論、全く知らない場所である。 どうやら仰向けになってベットに寝かされていたようだ。 ゆっくりと上半身を起こす。やはり見慣れない風景。 ・・・そうだ、俺はあの時高波に飲まれて・・・ 「おっ、目が覚めた? でももう少し安静にしてなよ。」 そこに、見知らぬ人の声がする。若い・・・漁師のような、荒っぽい言葉遣いをするが女性のようだ。 そう言ってからもう一度ベットに俺を寝かせて、献身的な看護をしてくれている。 「三日前、アナタが海岸に流れ着いたときにはビックリしたよ。」 そう言ってこの場所に来た経緯を話始めた。 ・・・彼女の説明をかいつまんで話すと、 俺は三日前にこの島の海岸に流れ着いたらしく、荷物は海の底だろう。 この身一つ以外には何も落ちていなかったと言う。・・・お金も、服すらも。 それに、巨大な歯型が数箇所残っていたらしい・・・。 一応、この村で唯一の医者でもあるというこの女性の家で看病してもらっていたらしいが。 ・・・と言うことは、俺は今一文無し。 この服だって、誰かのお下がりを借りているだけのこと。 これからどうしよう・・・どうせだったら、あのまま海を漂っていた方がよかったのかもしれない・・・ 「・・・今はいいから・・・とりあえず、身体が治ったらこき使うから安静にしてなさい!」 暗い顔をしていたのだろう。・・・そうやって励ましてくれて、気持ちは少し楽になった。 その後持ってきてくれた豪華なご馳走も、お金はいいから気兼ねなく食べなさい と親切にしてくれている。 そんな生活が1週間続いて、俺の体は前より良い肉付きになって、少し肥えた気もする。 いや、それより・・・高波に飲まれた後の【何か】が無くなってる気がする・・・。 意識は飛んだ。・・・それから、ここに至るまでの何かが・・・。 などと食事中に難しい顔をしていたら、彼女が 「ちょっと出掛けよう、気分転換になるかもしれないし!」 半ば強制的に連行されて、島にある山・・・とは言っても登山道は整備されていて、登るのはそんなに苦ではなかった。 と言うよりかは、観光地のような雰囲気がある。 ・・・いや、しかし・・・深く考えれば分かるようなコトを考えさせてくれない間を・・・ 「ほら、着いたよッ!」 突然隣で大きな声が聞こえた。 どうやら目的地に着いたらしい。・・・顔を上げるとそこには港町で聞いたような・・・ 旅人らしき人物や、夫婦のような人たちがその御神体に向かって祈っている。 どうやら、この場所が自分の目的地だったようだ。 つまり・・・ 高波に飲まれた俺は運よく目的地の島に辿り着き、それでいて看病されたりご馳走まで食べさせてもらってた訳か・・・。 なんともまあ、マンガみたいな都合の良い話である。・・・だが、これも自分の運だと言えるのではないか。 まあそんなことを考えながらも、その御神体の姿を見上げる。 水面から飛び上がった巨大なサメのような姿。・・・大きさは10mほどで、雨避けのためかそれを覆うように社が建てられている。 「この神様はね、この島にある御伽噺に出てくる神様なの。」 何か尊敬するような眼差しでその像を見ながら、語り始めるその女性。 -むかしむかし、あるところに小さな村がありました。- 「何か一般大衆にも知られてるような始まり方だな・・・」 そう呟いたのが聞こえたのか、その女性はムッとしてこちらを睨む。 慌てて口を閉じた俺を見ると再び話を続ける。 -その村はとてもびんぼうで、山にいっても山菜は少ししか取れず、海にいっても魚はぜんぜんとれません。 そんな小さな村の海岸にある日突然大きな魚が現れ、村人たちが集まったのを見てこう言いました。 『お前たち。 我の望みを聞けば、その生活から抜け出させてやるぞ』 無論、今の状況を抜け出させてくれるというならば 村人の意見は満場一致。 それを見たその巨大な魚は、 『我を神と崇めよ 社を建て、像を作るのだ。』 その次の日から、社と像の建設が始まったと思うと、山には山菜が溢れるように生え、海では大漁の連続が続いた。 村人達はこれを あの神様のお陰と思うようになるまで時間はかからなかった。 そして、1年をかけて社を建設したときに神様がもう一度現れ、こう言いました。 『その社の神像を護る、巫女を作れ。 さすれば更なる繁栄を・・・』 それから村人はその村一番の美人と言われる女性をその社に住まわせ、すると更に山と海が豊かになった。 この出来事を神降ろし と呼び、この社が存在する意味を未来へと伝えるために残しておく・・・- 「・・・まあ、こんな感じよ。」 話は終わりらしい。 こんなことを話してどうするんだ・・・と、思っていたが、少し興味が湧いてきた。 この話を聞いてから見るこの像は、神々しくも見える。 そう思うことを予想していたかのようにニヤつくその女性。 「さて、そろそろ戻りましょう!・・・明日は、貴方にも船に乗って漁を手伝ってもらうからね!」 そのままズルズルと引きずられて帰路に着いた。 |