「ほらほら、起きなさーい!」 突然の襲撃。 布団を剥がされ、床を転がる。 ・・・そういえば、漁の手伝いをする予定だったな・・・ そう思い、眠くて動かない体に鞭を打ってフラフラと立ち上がると 「これを着て、社まで行くわよ!」 と、儀式用のような白一色の装束を渡され、着替えると何だか良い感じのフィット感がする・・・。 「ボサっとしない! ほら、さっさと走る!」 そのまま引きずられて山道を登り、神像の前に立たされる。 『っな・・・な、何を・・・』 「ほら、この水を飲んで。・・・それから船着場に連れて行くわ。」 半ば強制的に小さなコップに入った水を渡され、速く、速くと急かされるままにその水を飲み干す。 『・・・っ!?・・・ぅ・・・・・・』 その直後、突然視界が歪み、その場に倒れこむ。 倒れこんだ衝撃で目を閉じると、地面との温度や擦れあう触感があり、痛みも全く無いというのが分かった。 そして目を開けると、変わらぬ風景が視界に入ってきて、そして抱き起こされる感触がする。 「だ、大丈夫?」 心配そうな声が聞こえる。・・・ふらつくわけでもなく、大丈夫と言うと 「そう・・・それじゃ、船着場に行かなきゃね。」 支えを貰い、そのまま港への道を歩く。・・・家々からは漁師であろう人物の姿がちらほらと見え、その内の一人が寄ってくると 「よう、お前さんが今日の漁を手伝ってくれるっつー旅人さんか。 感謝するよ!」 笑顔でそう言って、それからいろいろと話をしているとあっという間に船が多数停泊している港に着く。 「それじゃ、私は帰りますね。 今日は頑張ってください。」 その女性はそう告げると、スタスタと帰っていった。 そしてそのまま船に乗せられ、時間がかかるから一眠りするといい。 と船室に案内されて無理矢理ベットに寝かされる。 それから数分後、エンジンの音が聞こえ、揺れが多少大きくなる。 船が動いたのを確かめるのには十分で、それからゆっくりと目を閉じる。 それを待っていたかのように、ゆっくりと意識を闇に持っていく感覚がする。 ・・・そして、深い眠りに落ちていった。 **************************************** 深い蒼・・・海の中で、一匹の巨大な鮫がが満足そうな顔をしながらその巨体に似合うように膨らんだ腹をしている。 その膨らみは時折弱々しく動き、どうやら食べられた獲物は-生きたまま-呑み込まれたらしい。 恐らくだが、哀れな獲物は消化液でじわりじわりと溶かされている痛みで暴れているのだろう。 その鮫が、暴れる獲物の動きを感じて不気味な笑みを浮かべる。 生かすも殺すも、強者次第・・・弱者は支配され、翻弄される運命なのだ。 それが、自然の掟であったとしても。 そして・・・数分経った後、膨らみは残ったままだが、動かなくなる。 体力が尽きたか、それとも・・・ **************************************** 「・・・ん・・・ぅうん・・・」 目を開けると、蒼い空が視界一杯に広がる。 手を動か・・・そうとすると、身体の後ろで何かに縛られているような感覚がする。 足も同じ、縛られていて自由に動けない状態。 「っ・・・な、なんだ・・・コレ・・・」 身体をくねらせ、何とか抜け出そうとするもののガッチリと縛られていて外すことさえ困難であろうことかと思われた。 「ようやく、お目覚めか。・・・しかし、遅かったな。」 この声・・・あの時の、漁師の声だ。 「っ・・・な、何をしたんだ! コレを外せ!」 叫びながら身をくねらせ、必死に訴える。 しかし、その返答は予期せぬモノであった。 「無理だな。 貴様は生贄になってもらうのだから。」 生贄。 聞いたことがある。 ある種族は神様とやらに同族を差し出し、更なる繁栄を求めるというモノ。 無論、その生贄は同族だけと縛られている訳ではなく無関係の人間を使うこともあるらしい。 ・・・!!! 「ようやく気付いたか。 お前は元々、生贄になる為に住まわせてやったんだからな!」 その声が聞こえた直後に身体が宙に浮き、 ヒュッ・・・ドガッ! 『・・・っぐ・・・!!』 何か硬いモノに叩きつけられた感覚。・・・痛みがゆっくりと身体を伝う。 それから船のエンジン音が遠ざかって行く・・・どうやら、海に浮かぶ小島の上に投げられたようだ。 手足が縛られ、それに加えた鈍痛。・・・ゆっくりと呼吸を整え、痛みが少しずつ消えてきた直後に -貴様が生贄か・・・ふむ、竜人とは・・・珍しい。- ハグッ。 ガガガガガガガッ!! 視界が暗くなり、そのまま岩壁を引きずられて声にならない叫び声を上げながら、一瞬で身体中に冷たい水の感覚・・・海中に引きずり込まれたのだと理解した。 手足が縛られているせいか、ろくな抵抗ができないまま顔を何かで挟まれ、呼吸もし難くなっている。 グニュゥッ・・・ジュブッ、グチュッ・・・ 生々しい音を立てながら、顔を這う生暖かいモノ。 這った後に残る液体は水とは異質の感触で、その生暖かいモノの名残でもあると思われる。 -舌で舐められる感想はどうだ?- そう聞こえた瞬間、自分の頭はこの声の主の口内にあって舐め回され味見をされていたと言う事を理解してしまう。 『っ・・・ぅわぁああああぁ!!』 叫び声を上げ、身体を捩って暴れ、逃れようとするも -無駄な足掻きは止めておけ・・・もう逃げられんのだからな- さらなる絶望へと誘うには十分な言葉であった。 ・・・つまり、自分はこのまま食べられてしまう運命だと決め付けられてしまっているのだ。 ベチャ・・・グニィ・・・ シュルッ・・・ガブッ・・・アグッ・・・ 『んぐ・・・ぅ・・・・・・・っ・・・!・・・ァ・・・・ぁ・・・!!』 舌で舐められ呻いていると、顔に舌が巻きついてゆっくりと口内に身体を引きずり込み、その度に牙が身体に食い込んで痛みが身体を襲う。 -生命力に満ち溢れるその身体が、我の血肉となる事を光栄に思うんだな・・・- 舌が音を立てながら身体を這い回り、唾液が身体に染み付いていき、牙で噛まれて弄ばれたり。 ベロォン・・・ビチャッ・・・ ンググッ・・・グニュ・・・ アギュッ・・・ 気付けば自分の身体は完全に口内に引きずり込まれてしまっていて、 いつの間にか手足の縛めも解き放たれているのにも関わらず、抵抗する気が起きない。 ペチャ・・・ンベロォン・・・・・・ 『っ・・・ぅうぁ・・・///』 身体中を舌が這いずり回る度に喘ぎ声を出し、その感覚に身悶えをして口の中を動く。 時折当たる鋭い牙の感覚にも快感を覚え、何もかもがその巨大な捕食者に捕らわれてから変わってしまったように思える。 -さて、そろそろ呑み込ませてもらうぞ・・・- その言葉を聴いた瞬間、生存本能が叫んだのか、理性が戻ってくる。 しかし、その巨大な舌は喉に向かって獲物を運び始める動作をしている。 『っ・・・くっ・・・!』 口内の粘膜を押し上げようとするが、粘液でツルツルと滑って掴むことさえ叶わない。 覚醒してから感じるようになったのか、暗く、湿った口内の感覚に嫌悪感を覚える。 外から見ると、その巨大な鮫の口部分が異様に膨らんで、時折膨らみから手や足のような形をした出っ張りが小さく出たりもする。 満足そうな顔をしながら、その鮫は口内で暴れる獲物をゆっくりと味わい、呑み込もうとしている。 じゅるっ・・・くぱぁ・・・ その時、後頭部の肉壁がぱっくりと開き、喉への入り口を開く。 『や・・・やめ・・・ンッ!』 舌がよりいっそう激しく蠢き、その顔を喉へと落とし、肉壁が挟み込む。 声はくぐもった呻き声に変わり、手足をバタつかせてもそれを舌が上手に押さえ込み、肩までを喉に収める。 唾液のせいか、スムーズに喉に落ちていく身体をとめることが出来ずに腰・・・そして、足までもを喉に落とされてしまう。 ぐりゅっ・・・きちゅ・・・ ゴクン。 生物の呑み込む力は強い。 抵抗をしたとしても、最早助からない。 粘液と肉壁で構成された、暗い鮫の体内。 唾液にある消化作用か、貰った儀式用の装束は所々に穴が開いている。 ぐるぅぅ・・・・・・ごぷっ。 ぐにゅ・・・っ・・・にりゅ・・・ ごぼ・・・っ・・・ 粘液を大量に含んだそのスポンジのような壁面。 身体が擦れる度に粘液が出てきて、身体を包んでいく。 その粘液が服を溶かし、それでいて身体に纏わりついて痒痛のようなちりちりとした刺激が身体を襲ってくる。 『っ・・・ぅう・・・ん・・・ く・・・ぁ・・・・・・っ・・・・』 -クク・・・もうすぐ、その苦しみから解放してやろう・・・- 口にあったはずの膨らみは、喉の辺りで弱々しい動きを見せながら胴へと運ばれていく。 大きく、新鮮な獲物を呑み込んだことで満足したように舌なめずりをして、光の届かない深海へともぐっていく。 その姿は変貌し、いかにも凶暴そうな姿をしている。 神様・・・ではなく、化け物と呼ぶに相応しい、そんな姿。 不気味に赤く光る6つの眼、背中のヒレは鋭い刃のような形に。 ・・・・・・・生贄として差し出されたのは、適当ではなく・・・選ばれたものだった。 あの嵐は故意に起こし、そして沈んだ獲物を品定めして・・・ 巫女に伝える。 流れ着く旅人を、生贄としろ と。 ぐちゅっ・・・ぐにゅぅ・・・ 消化液を分泌しながら胃壁が身体を弄び、ゆっくりと身体を蝕んでいく。 声を上げる事、ましてや手足の感覚がない状態で悶え、体力を奪われて視界が霞んでくる。 痛みさえも感じなくなり、そして身体の輪郭が崩れ始め、 ゆっくりと目を閉じると、そこで意識は−・・・ その 獲物は美味で、満足し得る物だった。 竜の生命力、そしてその味は他では得られるモノではない、とても希少なものである。 深く、暗い海の底でその魔物は、眠りに付いた。 再び、獲物が来るのを待つ為に・・・ |
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