ドプッ・・・ゴポォッ・・ 九尾の口内には絶えず唾液、粘液が分泌されていた。 下顎まですでに唾液が溜まっていた。 そんな血生臭く、生暖かい口内で舌の上に俯せになっている。 グチャッ・・ニチャアッ・・グギュゥゥゥッ・・ 唾液の下顎に振り落とされた。 一瞬で体が唾液に浸り、何とか腕を上げれば、太い唾液の糸がドロォッと瞬く間に出来上がった。 そして、息付く暇もなく舌が全身を絡み取って更なる味を絞り取っていく。 グギュッ!・・ボジャッ・・ 「ぅげっ・・」 キツく舌が体を絞め付けると、唐突に緩んで唾液の中に落とした。 落ちた先の唾液がさらに服に染み込みその暖かさを伝えてくる。生暖かい・・いや、少しぐらい熱い? ニチャァッ・・グリグリリッ・・ 今度は舌が掬い上げ上顎の肉に僕を押しつけた。 粘液に包まれた肉と唾液まみれの僕と同じく舌。 摩擦が発生せず、滑る、滑る。 「フフ・・どうじゃ?儂の唾液は極上風呂のようじゃろ?」 極上風呂?冗談じゃない!こんなんなら、まだ黒狼のほうがましだ! 「粘っこい唾液じゃ。気持ちよいじゃろぅ?」 舌の責め苦が終わり、舌が元に戻った。 僕はその舌の上に寝そべったまま動けないでいた。 ゴプッ・・ジュルゥ・・ 粘っこい音を立て、高粘性の唾液の泡が弾けた。知らない間に唾液の分泌が活発になっているようだった。 「・・っう・・げ・・ほぉ・・う・・ぇ・・」 九尾の吐息を吸っては噎せ、その際、唾液を飲み込んで吐きそうになる。 涙目になって・・恐くなった。 この口内は黒狼ではない。九尾だ。 捕らえた獲物を自分の糧にするべく、僕を弄んでいるのだ もうここまで来てしまうと人狼の力でどうにかできなくなっていた。 行き着く先は・・・死。 「どうしたのじゃ?随分とお疲れのようじゃの?」 「・・・・・・・・・・・」 「・・仕上げじゃ。覚悟せい。」 口内が完全に闇に包まれた。光一つ漏れてこない、牙がガッチリと噛み合って光を遮断している。 と、その時、舌と触れ合っているはずの背中に液体が触れた。いや・・腕も・・? そうして、僕は気付いた。 ・・・・唾液の水位がどんどん上がっているのだと。 牙が隙間無く噛み合っているために唾液は外に滴らず、口内に溜まって行く。 ニジュッ・・・ゴポォッ・・・ 「・・!〜〜〜っ!」 あっと言う間に口内は唾液に埋まり、僕の体は粘る唾液の水中で宙に浮いた。 唾液が髪を汚し、耳に侵入、耳を塞ぐ。 鼻は生臭さで一杯。口は閉じたまま呼吸を止める。 こんな所で呼吸なんかしたら溺死できる! そのまま、舌が唾液を勢い良く掻き混ぜだした。 強い遠心力が体にかかり、肺に残された酸素が使い物にならなくなった。 「っ・・ごほっ!〜〜〜!!」 たまらず、本能が酸素を求め、口を開けた。 吐き出された酸素が粘っこい気泡となり、僕の口内に九尾の唾液が勢い良く入り込む。 酸素の残りはなく、もがいている間に多量の唾液を飲んでしまう。 グバァッ!ドチャドチャッ・・・ 突然、視界に光が溢れた。空気も冷たい。 「っ!?う・・げぇ!・・ぇ・・っ・・」 僕は九尾に吐き出されたのだ。大量の唾液・・口内にあった全ての唾液と共に。地面や草達を一瞬で汚す程の量。 唾液が粘り、無数の糸を引く。 そんな事を実感するよりも先に再び吐いた。 九尾の唾液を多量に飲んだために、体が気持ち悪さに支配され、激しい吐き気に襲われる。 涙目で九尾を見上げれば、上顎、下顎、牙の間、口内の肉壁、口に至るあらゆる所からボタボタとその汚らしい唾液を糸を引いて滴らせ、その毛並みを汚していた。 「ヌフフッ・・なんと、惨めで情けない姿じゃのぅ?儂の唾液に包まれ、身動き一つできぬとはのぅ?それでも主は男かえ?」 九尾が声を上げて僕をあざ笑った。 でも、僕は何も出来ない。服が、体がとにかく重い。 九尾の粘る唾液が接着剤のように僕の自由を奪う。 何も出来ない。あとはこの九尾に喰われるだけ・・ 「・・どうしたのじゃ?そのような表情をして?・・そうか、そうか・・儂に喰われるのが恐いのじゃな?」 その口元と僅かに緩ませ、九尾は耳元で囁く。 あぁ・・情けをかけられるなんて・・ ベロリ・・ベロリ・・ 「儂は優しいからの。そんなに恐いならもう一度、主に問おうかの?」 舌が僕に染み込んだ唾液を舐め取る。 「主。儂のものになるのじゃ。儂は黒狼ほど辛くはあたらん。どうじゃ・・?」 僕を労るような、優しく、甘い声。 頷いてはいけない。頷く訳にはいかない。 黒狼との破れない約束があるんだ。 ー儂だけを愛せ。ー ー儂と生涯を共にせよ。ー ー儂を裏切るような事はせぬように。ー だけど、死ぬのは恐い。頷かなければ九尾は僕を丸呑みにし、容赦なく消化し、喰い殺すだろう。 かと言って、約束を破られた黒狼が僕を殺さない保証もない。 「どうしたのじゃ?答えは簡単じゃろ?」 人狼になっても胃袋に収まってしまったのでは歯が立たない。どのみち、他に道はない・・ 「・・・はい・・」 僕はゆっくり頷いた。その一言が非常に重くのしかかった ごめんなさい・・黒狼さん・・・・ 「そうか。なら、儂とも交わってくれるな?」 「・・・はい・・」 もうどうしようもない。悔しくて情けなくて、泣いた。 人狼になっても何一つ変わってなんかいない。 シュルルルッ・・ 「ぇっ・・・」 “フフ・・”と満足そうに笑う九尾。逆さになる視界。 尾によって、逆さ吊りにされたと気付くのに数秒かかった 「そんなに驚くでない。命までは奪わぬよ・・何せ儂の伴侶じゃろう?」 これまでとは一転し、そのドス黒い紅眼で僕を愛おしそうに見つめてきた。すぐ目前で。 僕からは九尾の唾液が体を伝って地面に滴り落ちていった 「じゃが、折角ここまで主をなぶったんじゃ。儂の腹に収まって貰うからの。」 何も答えない。吊り下げられたまま |