ベロリ・・・グチュッ・・ニチュッ・・ 私は彼の体にゆっくりと舌を這わす。瞬く間に衣服が唾液を吸い、重くなって舌との間に粘っこい糸を引く。 普段ならこんな事はしない。その腕を、足を喰い千切り、その血を浴びるように飲む。続いて肉を少しずつ喰い千切ってその悲鳴に復習の心を躍らせ、人間を貪り喰った。 だが、流石に今回は違った。右目と両後ろ足の切創だ。 あんな大怪我を負い、あの出血量だと、この人間に拾って貰わなければ、いくら私と言えども死んでいた。 さらに十分な量の血液を私に捧げてくれた。お陰で私は無事に回復しここまで育った。 ー人間を喰らわねばならないまでにー 嗚呼、どうして人間を喰らわねば生きられないのか。 「うくっ・・・っ・・」 私の重舌が彼を舐める度に彼は喘ぎ、苦しむ。 グチュ・・ジュルルッ・・グプッ・・ ただ、舐めているだけなのに舌には上品な甘さが広がる。 人間特有の味。その中に私の涙も広がっていた。 私の涙は止まらない。声を上げようとも上げられない。 涙は音もなく、頬を伝うだけ。 ーいつもなら、簡単に人間を殺し、呑み込んでしまえるのにー 涙が止まらなければ、唾液も止まらない。 理性がこの人間を喰らう事を拒んでも、本能はこの人間を喰らいたくて仕方がないと叫んでいる。 私の人間の血と、人間しか受け付けない体を今だけ恨めしく思う。 ー何故・・何故・・何故なのか?ー 「うぇ・・っ・・けほっ・・・な、泣くな・・い、生きるため・・・なん・・だろ・・う・・?」 私の生暖かく、獣臭い唾液を飲んで吐き気を催し、吐き出そうと苦しむ彼は荒い呼吸を続け、片目だけで私を見据え今にも消えそうな声で囁いた。 「だ、ダメ・・っ・・・わ、私は貴方を食べれないっ!」 舐めるのを止め、私は声を絞り出した。 口端からは唾液と食事の腕を舐め取った血が混じった唾液が滴り、糸を引く。 涙がさらに加速した。いくら生きるためとは言え、命の恩人を喰らう事など、私には出来ない。 「ダメだ。俺は今までお前の面倒を見てきた。だから、お前は最後の我儘をしろ・・俺を・・俺を喰いたいんだろう・・・?」 「出来ない!命の恩人をどうして喰らわなければいけないのっ!?」 「生きるためだろ・・?俺の血液だけじゃ、もうその体を維持できないんだろ・・?」 前脚を通して、彼の震えが酷いのは分かっていた。 明らかな虚勢だ。本当は喰われたくないに決まってる。 「だけどっ!」 彼の言うことを完全には否定は出来ない。 もし、彼を喰らうことを止めて生きたとしても、私の体は崩壊してしまう。このまま彼から血液を貰ったとしても摂取量は増え、最終的には彼を殺す事になる。 「俺を喰らえ・・それでお前が長く生きられるなら・・俺はいい。」 どうしてこの人間は・・どうしてそこまで私に自分を捧げる事ができるのだろうか? 大量の血液だけでなく、自身までも何故捧げられるのか? 私はその言葉で踏ん切りがついた気がする。 口元を彼に近づける。 「俺の命・・お前に預けた。」 アグッ・・バクン。 彼の手が私の口元を優しく撫でた。 私は心を鬼にし、彼を咥え、持ち上げる。 口内に引き込みながら何度も咥え直し彼を呑み込んでいく。 全てを口内に引き込んで優しく口を閉じた。 |