「お言葉ですが…… 私は“裏切った”のではありません。 
 あなたを……“見限った”のですよ。 ……ギラティナ様。」 
「私が貴方に何を望んでいるのか…… まだ解りませんか? 
 それでも貴方はこのムウマージの子供ですか……?」 

――“父”、ムウマージの思惑―― 

「そう、全てに勝る血筋…… 我々ドラゴン族に敵は無いのだ!」 
「……我輩だけではどうしようもない。 
 だが…… 我輩以外ではどうしようも無いと言うのも事実だ。」 

――ドラゴン族と、“ドラゴンキラー”の存在―― 

「大変です! 博物館の化石やコハク達が……うわぁぁぁっ!」 
「立ち上がれ古の戦士達よ! 古代の力を見せ付けてやるのだ!」 

――そして、蘇る“古代軍”―― 

「ボクは……なんて非力なんだ…… 
 ……これじゃぁ、誰の力にもなれないじゃないか……!」 
「強くなるんだ…… ボクは、強くなるんだッ!」 

――彼は幾多の試練を乗り越え、“成長”していく―― 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!! ……身体が…… 身体が、熱い……ッ!」 
「さすが…… 流石は私の子です! 
 私がこの時をどれだけ待ち望んでいたか……! 
 ……さぁ! 貴方の中に眠る可能性を解放するのです!」 
「……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 

――“戦場”は、次のステージへ―― 


「ま…… 参ったなぁ……」 
……ボクは、見知らぬ土地に居た。 
そこはとても汚くて、薄暗い街だった。 

「どうしよう…… 皆のとこに帰れないよ……」 

何故ボクがここまで困っているのかと言うと…… 
習得したばかりだからか、もしくはボク自身が未熟だからか、 
自分の思った場所にテレポートできなかったのだ。 
そうしてテレポートを繰り返す内にPPが尽き……と言う訳である。 

「な、何か怖そうな人ばっかりだよ……」 

前後左右……どこを見ても、悪タイプのポケモンばかり。 
……恐らく、悪軍の本拠地に来てしまったんだろう。 

「い…… いきなり捕まって変な事されたりとか、しない……よね……?」 

やはりあれだけの試練を乗り越えてもボクの怖がりは直らないらしく、 
悪い事を想像しただけで手足ががたがたと震えてきてしまう。 

「……ダメだダメだ、こんなことじゃ…… 
 はやくこの街を抜けて、皆のとこに帰らないと……」 

……ボクはとりあえず、出口を探すことにした。 


――同時刻、ゴースト軍本拠地。 

「全く…… あなた達は何をやっているんですか!?」 
主人公の父…… ムウマージは、 
部下であるムウマとヤミラミを睨みつけながら言う。 

「も、申し訳ございません! 
 ……しかし、これは私ではなく完全にヤミラミのミスで……」 
「お……おいムウマ! お前オレを売る気かよ!?」 
今回の不祥事はヤミラミの所為だと訴えるムウマに、ヤミラミが食って掛かる。 

「だってそうじゃない! 
 アタシはずっと持ち場を離れずに待ってただけなんだから!」 
「お……おい、冗談じゃねぇぞ…… 
 なぁ、ほら……連帯責任とかさ、何か……」 
「嫌よ! 何であたしがあんたのミスで……」 
……ムウマージは、その光景を不機嫌そうに眺めていた。 
それからも二匹の言い争いは続き…… 

……そして、ついにムウマージが口を開いた。 

「そうですね…… ヤミラミさん。 
 今回の件はアナタに責任を取って貰いましょうか…… 
 ……二度目の失敗です。 命は無いと思いなさい。」 


「ひ…… ひぃぃぃぃぃっ!」 
ヤミラミはムウマージの言葉を聞いた途端、 
狂ったように叫びながら逃げ出した。 

「……逃げられると、思っているのですか……?」 
ムウマージは静かに言い……ヤミラミを睨みつける。 
……と、ヤミラミの動きが止まってしまった。 

「う…… 動けねぇ……!」 
……そう、“くろいまなざし”を使ったのだ。 

「さて…… 私の可愛いペットたちがお腹を空かせていましてね。 
 ……たまには新鮮なエサを食べさせてあげようと思うのですが……」 
ムウマージは意地悪そうに言いながら、ヤミラミに近づいていく。 

「ム…… ムウマージ様! 何もそこまで……!」 
「……あなたが代わりますか?」 
ムウマは止めようとしたが…… ムウマージに言われ、素早く首を横に振る。 

「素直で可愛いですね……。 
 ……そうです。 それが正しい選択です。」 
ムウマージはそう言うと、何やらブツブツと呟きはじめた。 


「な…… なんだ、こりゃぁ……」 
……ヤミラミの近くに、大きなサイコロが現れる。 

「そこには私の可愛いペットの名前が書いてある面が5つ。 
 ……そうでない面が1つありますね?」 
「た…… 確かに。」 
ムウマージに言われ、ヤミラミは、手にとって確認する。 

「……今からそのダイスを振りなさい。 
 何も書いていない面が出た場合は無罪放免……クビにするだけで許してあげましょう。 
 ……ただし、それ以外の場合…… 出た面に書いてあるペットのエサになって貰いますよ。」 
震えながらダイスを確認するヤミラミを後目に、ムウマージは楽しそうに言う。 

「ヒ…… ヒヒッ…… 
 ……ムウマージ様…… 何も書いてない面が出ればいいんですね?」 
「ええ、何も書いてない面が出れば許してあげますよ。」 
ムウマージの言葉を聞いた瞬間、ヤミラミはまず“助かった”と思った。 
……なぜなら、彼はダイスにおけるイカサマのプロだったからだ。 
狙った面が出るように細工する事など、彼にとっては造作も無い事だったのだ。 

「そ…… それじゃぁ、振るぞ……!」 
ヤミラミは笑みを浮べ、ダイスを放った。 
ダイスは床に落ちると音を立てて転がり……  
……そして、名前が書かれていない面を上にして止まった。 


「や…… やった……!」 
ヤミラミは思わずガッツポーズを取る。 

「フフフ…… 良かったですね。」 
ムウマージはヤミラミに対して微笑む。 

「む…… ムウマージ様……! 
 ……お、オレは、これで放免ですよね……?」 
「……何のことです?」 
ムウマージは微笑みながら言う。 

「へ……? いや、だって……」 
上手く喋れなかったのか、ヤミラミはダイスを指差す。 

「ええ、ダイス…… 一番良い面が出ましたね。」 
ムウマージの微笑みが、徐々に黒い物に変わっていく。 

「な…… 何も書いてないですよね!? 
 何も書いてない面が出れば許してくれるって……」 
「……ちゃんと見ましたか? 右端とか……」 
「みぎ…… はし……?」 
ヤミラミは言われるまま、ダイスの右端に目をやる。 

「……何と書いていますか?」 
ムウマージは楽しそうに聞いた。 

「ぜ…… ……全員……」 
ヤミラミの身体が、凍りついた。 


「そ…… そんな! そんなの……! 
 ……だ、騙したな! 騙しやがったなぁぁぁッ!!」 
ヤミラミはムウマージに殴りかかろうとするが……体が動かない。 

「いえ…… 私の言葉を思い返してみてください? 
 ……ダイスを出した時、私はこう言いました。 
 『そこには私の可愛いペットの名前が書いてある面が5つ。 
 ……そうでない面が1つありますね?』と。」 

「そ…… そうです、確かにそう……」 

「そして……ルールを説明する時はこう言いました。 
 『何も書いていない面が出た場合は無罪放免』と。」 
ヤミラミは一瞬、ムウマージが何を言っているのか理解できなかった。 

「……私は『そうでない面』とはいいましたが、 
 『何も書かれてない面がある』とは言っていませんよ……? 
 ……そう言う訳です。 それじゃぁ約束通り…… 
 私の可愛いペットたち、“全員”のエサになって下さい、ね。」 

ヤミラミには、何か言い返す気力すらも残っていなかった。 
あるのは絶望と、死に直面する恐怖のみ…… 
……皮肉にも、それは……彼が捕虜を処刑する時に、 
捕虜に与えていたものと同等、いや、それ以上のものだった。 


……左右のオリが開き、5匹のポケモンが入って来る。 

「あ…… あぁ……」 
そして……彼らは、怯えるヤミラミを見つけるや否や、 
一斉に飛び掛り……むしゃぶりついた。 

「あぁぁ…… あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 
肉が裂かれる音が、血が啜られる音が、 
骨が砕かれる音が、そしてヤミラミの断末魔が、部屋中に響き渡る。 

「……さ、行きますよムウマ。 
 あなたもああなりたくなければ……」 
ムウマージは後ろを向き、先ほどからずっと 
目を瞑って震えているムウマを流し目で見ながら言う。 

「あ…… う……」 
「いつまでもそうしているなら先に行きますね。 
 ……あまり長居していると食べられますよ?」 
ムウマージはそれだけ言うと、部屋から出て行ってしまった。 

「ま…… 待ってください……っ!」 
ムウマはあわててムウマージに付いていく。 


……それから少し後。 

ゴースト軍本拠地……王の間。 

ムウマージは、ゴーストの王……ギラティナの前に跪いていた。 

「ムウマージよ…… 
 ダイヤ、クラブ、ハート、そしてスベードの座を纏める 
 ジョーカーの座であるお主が……」 
「……纏める立場だからこそですよ。 
 能の無い部下は必要無い。 それだけです。」 
ムウマージは、全て言い終わる前に答える。 
原因はその答えか、それとも話の途中で答えた事か…… 
……ギラティナは、それに対して渋い顔をする。 

「しかしお主…… あそこまで惨い事をする必要もあるまい。 
 ……何なら、今からわしがお前を食ってやろうか……?」 
ギラティナはそう言うと、その大きな口でムウマージの頭を軽く咥える。 

「……下らない冗談は止めて頂きたい。」 
「つまらん奴め……」 
ギラティナは不機嫌そうに言うと、ムウマージを放す。 

「それより…… “ヤツ”はどうなんだ。 
 やはり我等ゴースト軍の脅威となり得るか……?」 
ギラティナはムウマージに顔を近づけ、小さな声で聞く。 

「ええ、“彼女”は……幼い頃に、“例の放射能”を浴びました。 
 ……今はまだ成長段階で効果は現れていませんが、 
 進化さえしてしまえば、凄まじい力を持つようになるでしょう。」 
ムウマージは、さらに小さな声で答えた。 


「おのれ…… また厄介なものを作ってくれたな…… 
 ……お前の配下でも成果が上がらないとなると、 
 やはりジャックの座を向かわせるべきか……」 
ギラティナは難しい顔をしてぶつぶつと呟く。 

「……そうですね……それは賛成です。 
 “彼女”の元にジャックの座を刺客として送り込むべきでしょう。」 
ムウマージは少し下を向き、無表情で答える。 

「しかし……」 
ギラティナは、更に難しい顔をする。 

「……どうしました?」 
それに対し、ムウマージは首を傾げて聞く。 

「お前の部下との戦いで、“ヤツ”は相当“経験値”を得ている筈…… 
 ……仮にジャックの座を倒してしまえば……」 
「……それは万が一にも無いでしょう。 
 先ほどから申し上げているように、“彼女”はまだ成長段階…… 
 ましてや、直接使っている訳では無いのですから、 
 “P.A.R.”の効果も完全には現れていない筈です。」 

「……ウム…… しかし、万が一やられた場合 
 我が軍にとっては大きな痛手になるな…… 
 “ヤツ”のことだ、またどこかで仲間を作るか解らん。」 
「……それでは私に案があります。 
 我が軍の力を使わず、“彼女”に仲間が出来るのも阻止できる案が……」 
ムウマージは妖しく笑いながら……しかし、真剣な目でそう言った。 

−第十二話 完−


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