それから、少し後…… 

……悪軍本拠地。 ……ボクの話。 

「……成る程、それでお前のようなヤツがここに迷い込んだのか。」 
「はい…… ごめんなさい、ご迷惑おかけします。」 
……ボクは、ある親切なポケモンに保護して貰っていた。 

「いや、別に構わんのだがな……」 
まだ名前も聞いてないけど……声とかからして、多分メスだと思う。 
……何でこう言う喋り方してるのかはよくわかんないけど。 

「えっと、お世話になります。」 
ボクは深々と頭を下げる。 

「小さい割に礼儀正しいヤツだな……気に入った。 
 ……我輩はマニューラと言う。 ……お前は?」 
お姉さん…… マニューラさんは、ボクに目線をあわせて言う。 

「あ…… えっと…… 
 ……ラルトスって言います。」 
ついつい目線を逸らしながら、慌てて答える。 

「そうか、ラルトスか…… 
 ……それじゃ、宜しくな。」 
マニューラさんは優しく言うと、頭を撫でてくれた。 
……悪タイプと言っても、皆が皆悪いポケモンってわけじゃなさそうだ。 


次の日の朝…… ボクはマニューラさんの家の掃除をしていた。 
マニューラさんによると、あるポケモンに頼んで 
ボクの仲間の居場所を突き止めて、最終的には 
そこまで送って行ってくれるらしい。 
おまけにその間、食事とかは面倒見てくれるそうだ。 

……だから、せめて何かお役に立たないと…… 

「うぉっ、誰だお前!?」 
……いきなり、後ろで声がする。 
「……どうしたニューラ、不法侵入者か?」 
マニューラさんがそれを聞いて入って来る。 

「あ…… アネさん、何スかこいつ……?」 
ニューラと呼ばれた黒猫は、ボクを指差しながら聞く。 
……声とかからしてこっちもメスなんだろうけど、 
何だって二匹してオスみたいな……まぁなんでもいいか。 

「あぁ、ニューラには言ってなかったかな? 
 そいつはラルトス。 暫くの間我輩が面倒を見る事にした。」 
「ふぅん…… ラルトス…… ラルトスねぇ…… 
 ……ん? ラル…… ……ちょ、ちょっとアネさんっ!」 
ニューラははっと何か思い出したように言うと、マニューラさんを引っ張って行く。 
そして、別の部屋で何やら話し始めた。 

「……何話してるんだろ……」 
ボクは気になりながらも、ただひたすら掃除を続けていた。 


そして…… 
マニューラ宅。 ボクが知らない間の話。 

「それは本当か?」 
マニューラは難しい顔をしてニューラに聞く。 

「ええ、本当ですって! 
 何したか解りませんが、あいつの首には結構な額の賞金が……!」 
ニューラは先ほど街でバラまかれていたビラを見せながら言う。 
……そこには、ラルトスの写真と賞金の額…… 
そして、ゴースト軍の紋章が印刷されていた。 

「ふむ…… どうやら本当のようだな……」 
眉間にシワを寄せ、マニューラは暫く考える。 
ニューラはその様子を固唾を飲んで見守った。 

「……よし、決めたぞニューラ。 
 我輩はあの子を守ってやる!」 
「えぇぇぇぇっ!?」 
マニューラの決断に、ニューラは相当驚く。 
それもそのはず、賞金首を庇うと言う事がどう言うことかは 
考えなくてもすぐに解る事だ。 

仮にそれがバレた場合、自分達まで 
賞金稼ぎの標的になってしまう事は避けられないだろう。 


「ニューラ…… 知っての通り、我輩は一度言い出した事は変えん。 
 ……どうしても嫌なら……命が惜しいと思うなら、 
 今すぐここを出て行き、ほとぼりが冷めた頃に帰ってくるといい。」 
マニューラはニューラの頭を撫でながら言う。 

「……。」 
ニューラは黙って下を向く。 
そのまま暫くの間、沈黙が続き…… 

「いや…… 俺、アネさんに付いて行きます!」 
……そして、何かを決心したように頷くと、 
ニューラは顔を上げてそう言った。 

「……よく言った、ニューラ…… よく言ってくれた! 
 それでこそ我輩の一番弟子だ……」 
マニューラはニューラを抱きしめ、頬擦りしながら言う。 

「や…… やめてくださいよ、そんな……」 
ニューラは嬉しそうな顔をしながら照れくさそうに言う。 
……しかし、言ってから多少後悔したのも事実らしい。 

何せ、これから二匹がやろうとしている事は、 
どこの馬の骨とも解らない輩の為に命を賭けるにも等しい行為だったからだ。 

「よし、それじゃぁ早速……」 
……マニューラが言いかけた瞬間だった。 

「う…… うわぁぁぁぁぁっ!!」 
向こうの部屋から、悲鳴が聞こえてきた。 


……ここから、ボクの話。 

「た…… 助けてぇっ!」 
ボクはいきなり後ろに現れたポケモンに捕まっていた。 
必死に足をばたつかせるが、とてもじゃないけど力じゃ敵わない。 
「どうした、ラルトスっ!?」 
マニューラさんが血相を変えて走ってくる。 
「フン、厄介な奴が来たな……」 
ボクの後ろにいる……つまりボクを捕まえているポケモンは、 
マニューラさんの姿を確認して愉しそうに言う。 

「き…… 貴様! 貴様は確か……!」 
マニューラさんもそのポケモンを確認し、驚く。 
「な…… なんだお前! 何者だ! 賞金稼ぎか!」 
今度はニューラが走ってくる……と同時に質問を浴びせる。 

「賞金……? フン、馬鹿馬鹿しい…… 
 ……何者か? ……そうだな、教えて置いてやろう。 
 私は戦うためだけに生まれてきたポケモン……ミュウツーだ!」 
戦うためだけに……? ……ちょっと意味が解らない。 

「くっ…… 貴様! 目的は何だ!」 
「……無駄話はこの位にしようか。 
 悪いが、少しの間このガキを借りるぞ!」 
マニューラさんが叫ぶが、ミュウツーはそれを無視し…… 
そして次の瞬間、目の前から二匹が消えてしまった。 

……いや、正確に言うと…… 二匹の目の前から、ボクらが消えてしまったんだ。 


それから、どれぐらい時間が経っただろうか…… 

……ボクは……暗い洞窟の中で、 
何故か全身を縛られて、天井から吊るされていた。 

「フン…… やっと起きたか。 
 あの程度の催眠術でここまで眠るとは、軟弱なヤツめ……」 
ミュウツーは、やっと目が覚めたボクに対して不機嫌そうに言う。 

「……まぁいい、これでお前に群がってくる奴等を退治しなくても良くなった。」 
そう言うと、さっきまでボクに向けていた手を下ろす。 
……そして次の瞬間、何かがボクに向かって近寄ってくる。 

「うわっ! な、なに、これ……!?」 
その何かはばさばさと羽ばたきながらボクに近寄って来て…… 
ボクの所までたどり着くと、ボクにぴったりくっつき、 
その鋭いキバをボクの身体につきたてた。 

「う…… うあぁぁぁっ!? 
 痛い…… 痛いよぉぉっ!!」 
ボクはあまりの激痛にわめき始める。 
……ボクの血が、どんどん吸い取られていく……! 


痛い…… それで、気持ち悪い……! 
血を吸い取られるってのはこう言う事なのか……! 

「……フン…… 喚いている暇があるなら 
 お前の“念力”でそいつを追い払えばいいだろう。」 
ミュウツーは、その光景を横目で見ながら冷たく言う。 

「そ、そんなこと言われても……くぁぁっ!? 
 ……えぇいっ! こうなったらヤケだっ……!」 
ボクは意識を集中させ…… 
ボクの血を吸っているポケモンに、必死に念力を送り込んだ。 

……と、如何した事だろう。 
急に解放され、痛みが引いていく…… 
……と同時に、ポケモンは地面に落ち、そのまま動かなくなった。 
良く見ると、地面には同じ姿のポケモンが大量に落ちている。 

「こ…… これ……」 
「そうだ……さっきまで私がその“ズバット”達を 
 お前の身体に近寄る度に念力で落としていた。 
 ……これからはお前がそれをやるんだ。 
 嫌なら全身の血を吸い取られて死ね。」 
ミュウツーはそう言うと、そのまま目を瞑り…… 
……そして、何と話し掛けても返事をしてくれなかった。 


「はぁ…… はぁ…… 
 ……これで……何匹目だろ……」 
あれから大分時間が経ち…… ボクは、かなりの数のズバットとを落としていた。 

「ねぇっ…… ミュウツーさんっ…… 
 トイレいきたいよぉっ…… 降ろしてぇっ……」 
「……私にかけないようにそのまますればいいだろ。 
 嫌なら膀胱炎なり何なりなって勝手に死ね。」 
……どうやら、簡単には降ろしてくれないらしい。 

「……はぁ……」 
ボクは深いため息をつくと、次に迫ってくるズバットを落とそうとする。 
……が、技が出ない! 

「み……ミュウツーさんっ! 
 技が出ないです! 技が出ないですっ!」 
ボクは必死に訴える。 

「何だ、他の技を使えばいいだろ。 
 嫌ならそのまま何もせず潔く死ね。」 
……が、ミュウツーはいつもの調子で突っぱねる。 

「ボク、攻撃技は念力とシャドーボールだけで…… 
 でも、どっちも使い切っちゃったんで……あぁぁっ!?」 
言っているうちに、ズバットがボクに噛み付いてきた! 


「ふぅ…… 仕方ないな…… 
 ……どうしても死ぬのが嫌なら、死ぬほど叫べばいいだろう。 
 もしかしたら何とかなるかもしれんぞ。」 
ミュウツーはそう言うと、両手で耳(らしき場所)を塞ぐ。 

……もう、こうなったら仕方ない…… 
ボクは思いっきり深く息を吸い込んだ。 そして…… 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 
……本当に、死ぬほど叫んだ。 

すると……なんと、さっきまでボクの血を吸っていたズバットが 
急に苦しみ出したかと思うと、地面に落ちて動かなくなった! 

「こ…… これ…… 
 ……これって、一体……?」 
ボクは何がなんだか解らず、震えながらミュウツーの方を見る。 

「……ふん、やはりな…… やはりそうだったか。」 
いや、お願いですから一人で納得しないで下さい…… 

「知りたいか? なら教えてやろう。 
 ……今の技は“ハイパーボイス”。 
 本来なら、どうあがいても貴様には覚えられん技だ。」 
……ボクには、ミュウツーの言葉の意味が理解できなかった。 


「はいぱー…… ぼいす…… 
 ……本来なら…… 覚えられない……?」 
ボクはミュウツーの言葉を咀嚼する。 
……でも、いくら考えても答えは出てこなかった。 

「そうだ。 なら何故使えたと思う?」 
……そんなの、解るわけない。 

「……教えてやろう。 それはお前が……」 
いやだ…… 聞きたくない。 
……ボクの本能が、そう叫んでいた。 

そして…… 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 
……気がつくと、再び“ハイパーボイス”を出していた。 

「くっ…… こ、このガキ……! 
 ……クソっ、私ですら手に負えんか……!」 
ミュウツーがボクに向かって右手を突き出す。 
そこから、何か光線のようなものが放たれ…… 

……それから先、どうなったかは覚えていない。 


……気がつくと、ボクはさっきの洞窟とは違う場所に居た。 

辺りを見回す。 ……見覚えがある。 
ここは……マニューラさんの家だ! 

「おい、大丈夫か……?」 
「……お前、玄関先で寝てたんだぞ?」 
マニューラさん達が、心配そうにボクを見ている。 

……夢……? 

「それにしてもミュウツーのヤツ…… 一体何がしたかったんだ……?」 
ニューラは難しい顔をして呟く。 ……ミュウツー……? 
……って事は、夢じゃない。 ……だとしたら、ボクは…… 

「まぁ、いいじゃないか……こうして無事に帰って来たんだ。 
 ……一応、お前の仲間の場所は調べておいた。 
 だが……とりあえず今日はここで寝ていけ、明日出発にするぞ。」 
マニューラさんはそれだけ言うと、ボクの肩を叩いて隣の部屋に行ってしまった。 

……また、皆と会える…… 
本当なら、嬉しくてたまらないハズなのに…… 

……なぜか、心から喜べなかった。


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