「ヒヒ…… 何だ何だ、もうここまで来ちまったのか?」 ……次の部屋で待ち構えていたのは、ヤミラミだった。 部屋は薄暗く…… ヤミラミの眼が、不気味に光っている。 「お前はよっぽど運が良いみたいだな。 そして頭も良くて…… 悪知恵も働く。」 「……全部見てたの?」 「いや…… ここに来た時点でそいつは証明された。 もう気付いてるとは思うが…… オレたちゃみんな、 “チャンスを与えるフリをしてイカサマするように”仰せつかってんだ。 にも関わらずここまで来れたって事は…… な?」 ヤミラミは不気味に笑いながら言う。 「……一つだけ、腑に落ちない事があるんだ。」 「んぁ? ……何だ一体。」 「わからないんだ…… イカサマまでしてるのに、 何でわざわざ全員分の“ゲーム”を用意してるのか。」 当然の疑問だった。 挑戦者……ボクが絶対勝てないよう仕組まれてるなら、 二匹目以降の“ゲーム”は用意する必要なんて無いはずなのに…… 「ヒヒヒ…… 絶対聞くと思ってたぜ。 ……そいつはな…… お前がやってる“ゲーム”っつーのが、 ゴースト軍が昔からやってる“最も残酷な処刑方法”だからだよ…… ……この“ゲーム”は、お前のためだけに用意したんじゃねぇんだ。」 ……なるほど、納得だ。 “勝てば許す”という名目でこのゲームをさせ、 少しの希望を与えておいて…… そして、絶望の淵に叩き落す。 「……最悪。」 無意識に…… 心の底から、そう言っていた。 「ヒヒヒ、最悪か……まぁそうだろうな。 そりゃそうだ…最悪と思えるぐらい残酷な方が、 見せしめの処刑としては効果抜群なんだからな!」 「ヒトの命を、奪うならまだしも…… オモチャにして……無駄に苦しめて…… ……そんなの、許せないよ!」 「ヒハハハハッ! ……許せなくて結構! そもそもお前ごときに許してもらってどうするんだ?」 「……くっ。」 こいつ…… 本当に性格が悪い。 「ヒヒ…… まぁ、もういいだろ? ゲームにも飽きたろ? ……お前がこうしてここまで来てる以上、オレも慎重にならなきゃな!」 ヤミラミはそう言うと、いきなりボクに飛び掛ってきた! 「う…… うわっ!?」 やっぱりボクは非力だ…… いとも簡単に、押し倒されてしまう。 「……な…… なに、するんだ……っ!」 「ヒヒ…… ヒヒヒヒ…… ……お前を食っちまうのさ。 ゲームすらさせねぇ。 ムウマージ様にゃぁお前がゲームで負けちまったって言っとくよ!」 ……卑怯者……! これじゃぁ…… これじゃぁ、今まで頑張ってきた意味が無いじゃないか……! 「くそっ…… ……くそっ……!」 相手は悪タイプらしく、念力も効かない。 何か特別な力が働いてるみたいで、テレポートもつかえない。 この距離からじゃ、シャドーボールも撃てない…… 「ヒヒヒ…… 嬉しいぜ。 こんな美味そうな獲物を独り占めするのは久し振りだ……」 もうだめだ…… そう思った瞬間だった。 いきなり凄い音がしたかと思うと…… 壁が崩れ、何かが飛び出して来た。 「な…… 何……うごぉっ!?」 ……と…… ヤミラミが妙な悲鳴をあげ、それと同時に身体が軽くなる。 「やれやれ…… 何とか間に合ったみたいだな。」 「そうですな…… しかし、メタグロス殿は本当に無茶をなさる。」 ボクの目の前に現れたのは…… メタグロスさんと、 何か大きな鐘みたいなポケモンだった。 「め…… メタグロスさん! 生きてたんですか!?」 ボクはメタグロスさんに駆け寄る。 「あぁ…… 実は炎軍の捕虜になってたんだが、こいつ……ドータクンに助けてもらってな。」 「それから、二匹で組になって各地で捕虜を解放して回っとると言う訳ですな。」 どう言うことかよくわかんないけど…… ボクは助かったんだ。 最初は実感が湧かなかったけど、恐らくメタグロスさんにぶん殴られて、 地面に突っ伏して痙攣しているヤミラミを見て思った。 「さて…… 情報によると、この辺りにエスパー軍の捕虜が監禁されてるらしいんだが。」 メタグロスさんは辺りをきょろきょろと見回しながら進んでいく。 ……なるほど、それで壁を崩しながらあちこち回ってたのか。 弱点がほとんどない二匹だから出来る荒技というか、なんというか…… 「……ここはボクに任せてください。」 ボクはそう言うと、メタグロスさんから飛び降りる。 ……そして、目を瞑り意識を集中した。 全ての生き物には感情がある。 ボクはその感情をキャッチする能力に長けていた。 捕虜が監禁されているなら、どこかに“感情”が密集する場所があるはず…… ボクはひたすらその“感情”を感じていた。 周囲に意識を張り巡らせ、僅かな感情を辿り…… ……そして、“感情”の塊をキャッチした。 「……ここからまっすぐ…… 突き当たりの壁の向こうです!」 ボクはそう言うと、再びメタグロスさんに飛び乗った。 「ふむ…… まぁ、ここはお前さんを信じるか。」 「そうですな。 では行きましょうか。」 そう言うと、メタグロスさんは再び前進をはじめる。 メタグロスさんが一歩進むたびに、たくさんの感情が近づいてくる。 途中にある分岐点を全て無視して進んでいき…… ……そして、ついに突き当たりまで辿り付いた。 「よし…… ここを崩せばいいんだな?」 メタグロスさんはボクに確認する。 「……はい、そこです。 この壁の向こうから、たくさんの“感情”を感じます。」 ボクは壁を触りながら言う。 「よっしゃ…… んじゃ、ちょっとどいててくれ。」 ボクは言われるままメタグロスさんから飛び降り、 そのまま走っていってドータクンさんの後ろに隠れた。 「さて。これで……通算、200枚目だッ!」 メタグロスさんの凄まじいパンチが、壁を粉砕する。 それにしても200枚目って…… どれだけ無茶して来たんだこの人。 「おぉ……」 「な……何だ、一体!?」 「なに!? 何が起こったの!?」 壁の向こうから、沢山の声が聞こえる。 たくさんの……“希望”という感情が、ボクの中に流れ込んでくる。 ……そこには、死んでしまったと思っていた エスパー軍の仲間たちが閉じ込められていた。 「ふふ、お手柄ですな……」 ドータクンさんがボクに向かって言う。 ……お手柄、か…… 何て言うか、ちょっとうれしい。 「おっと…… そうだ!」 ボクは……捕虜の中から、母さんを探す。 何度も何度も首を左右に振り、メタグロスさんの上に飛び乗って見渡した。 ……でも…… そこに、母さんは居なかった。 それでもボクは、なぜか悲しくなかった。 根拠は無いけど……母さんは必ず生きてる。 そんな気がしたから。 「さぁ、皆さん! 出口は確保しています! 急いで!」 メタグロスさんが叫ぶと、捕虜たちが一斉に飛び出てくる。 そして……ドータクンさんが先導し、メタグロスさんが後ろを守るという形で、 皆で一列になって歩いていった。 「地上だ……」 久し振りの、太陽。 グラードンはまだ退治されてないらしく、日差しは相変わらず強い…… ……でも、あの地獄のような監獄と比べると…… 「あなたは……どうするのですかな?」 いきなり、ドータクンさんが聞いてくる。 「ど…… どうするって?」 何の事だか解らず、首を傾げる。 「そのまま……ですな。 わしはこれからメタグロス殿と共に捕虜を解放して回りますぞ。 そして捕虜達は、テレポートでエスパー軍の本拠地に帰るのですが……」 「ボクは……」 ……そうだ、ボクは…… 「……ボクには、どうしてもやらなきゃいけない事があるんです。 ですから、皆さんとはここでお別れです…… ……本当に、ありがとうございました。」 ボクは深く頭を下げる。 「そうですか…… では、お元気で。」 ドータクンは優しく言うと、メタグロスさんとどこかへ行ってしまった。 さっきまで居た捕虜達も、テレポートが使える人は自分で、 使えない人は使える人にくっついて…… 本拠地までテレポートしてしまった。 ……待っててね、みんな…… 今、帰るから。 −第十一話 完− |