それから暫く、ボクはカゲボウズとにらみ合っていた。 
ボクがこいつに対抗できる技はシャドーボールのみ。 
タイプ的にも、能力的にも……そして技的にも、ボクに勝ち目はなかった。 

「あはは…… 安心していいよ。」 
カゲボウズは後ろに下がりながら言う。 

「ムウマージ様からは、キミに必ず“チャンス”を与えるように……って言われてる。」 
そして…… 壁にあるスイッチをツノで押す。 
……すると、ボクの目の前に二つのダイスが現れた。 
さらに、通路に十三段の階段と壁が現れ…… 壁には、顔のようなものが現れた。 

「勝負はフェアに…… ボクが負けたら、ボクが死ぬようになってるよ。」 
何でこう言うことをするのかは解らないけど…… とにかく、助かった。 
運はいいもんね、ボク…… 

「……それで、どう言う勝負なのさ?」 
「あはは…… うん、ルールは簡単だよ。 
 このサイコロには呪いがかかってて…… 出た目の数だけ前に進んじゃうんだ。 
 そしてあの壁の顔はね……あそこにピッタリくっつくと丸呑みにされちゃいますっ!」 
えーっと、つまりそれは…… 

「……よーするに、先に13を越えちゃった方が負けだよ。」 
なるほど、ルールは理解した…… 

……とにかく……この勝負を受けるしか、ないって事だね。 


「くっ……」 
何でこんなに運が無いのかな、ボク…… 二連続で6なんて。 
お互い二回振って……ボクは12段目、そしてカゲボウズは8段目だ。 
ボクはとりあえず、カゲボウズがボクに向かって投げてきたダイスを投げ返した。 
……どう考えても、嫌がらせとしか思えない行為だ。 

「あはは、どうする? もうボクの勝ちは確定みたいだけど……?」 
ダイスを受け取ると、カゲボウズは嬉しそうに言う。  
後ろの方に居るから顔は解らないけど、きっと勝ち誇った顔をしてるんだろう。 

「まだ…… まだ、勝負はわからないよ。」 
……そう、まだ勝負はわからない。 

「くっ…… お前、生意気だな! 
 まぁいいさ、その分お前が壁に食われるのが楽しみになるもんね……」 
「……ボクの番だね。」 
ボクはカゲボウズを無視して、ダイスを振る。 
ダイスは地面にぶつかって何度か跳ね、勢いが無くなるとコロコロと転がった。 
……そして、出た目は…… 

「な…… い、1ぃっ!?」 
驚くカゲボウズをよそに、ボクは一歩だけ進む。 

「ばかな…… あのダイスは6しか出ないハズなのにっ!?」 
なるほど、やっぱりイカサマだったか…… 
……まぁ、そうでなきゃわざわざこんな勝負するハズないか。 

「……さ、次はカゲボウズ君の番だよ。」 
ボクは……冷たく言い放った。 正直すごく気分がいい。 


「う…… うそだ…… 嘘だぁぁぁっ!」 
カゲボウズは、ゆっくりと階段を上がっていく。 

……出た目は…… 6だった。 

「や、やだ…… やだよ……」 
必死に抵抗するが…… それでも、彼の身体は前に進んでいく。 

「な……なんでさ! ボクは絶対助かるハズなのに! 
 ムウマージ様…… まさか、ボクを騙したっていうの!? 
 ボクを…… このボクを、捨て駒として……!」 
泣きじゃくりながら喚く。 正直うるさい。 
カゲボウズが13段目に来るが……まだ止まらない。 

「いやだ…… 嫌だあぁぁぁぁぁっ!!」 
当然、壁があっても止まらないから壁に身体をくっつける形になる。 
すると……壁についている顔が、口を大きく開け…… 

……そして…… 一口で、カゲボウズを食べてしまった。 
それと同時に、階段と壁は沈んでいき……先に進めるようになった。 

……ボクは、勝負に勝ったんだ。 


「目には目を、歯には歯を…… 毒をもって毒を制す。 そう言うことだよ。」 
多分聞こえる事は無いだろうが、ボクは食べられたまま床に埋まってしまったカゲボウズに言う。 


……そう、ボクもイカサマをしてた。 


あの時…… カゲボウズがボクに投げてきたダイスを、自分の持っていたダイスと入れ替えたんだ。 
そしてカゲボウズのダイスを投げた時…… 念力で操作して、1を出した。 

念力で1を出す方法は、2回目に自分のダイスを投げる時にも試したけど…… 
何か不思議な力で6が出るようにしていたらしく、強い念力を送ってもひっくり返せなかった。 

……まぁ、そのおかげであのイカサマに気がついたんだけど…… 


とりあえず、まずは一匹。 
これ以降もガチバトルじゃなくて、こう言う形式でやってもらえるとありがたいんだけどな…… 


「どうやって勝ったのかは知らねーけど…… 
 お前がここに居るって事は、カゲボウズに勝ったんだな。」 

ゴースト4人組の二番手…… ゴースは、少し驚いた顔で言う。 

「まぁいい、まさか来るとは思わなかったが…… 
 ……オレも、ちょっとしたゲームを用意してる。」 
ゴースはそう言うと、横にある壁に入っていく。 
少しすると、何かが動く音と共に壁に扉が現れた。 

「……入れってことか。」 
……ボクは迷わず、その中に入っていった。 


「ククッ…… ようこそオレの部屋へ!」 
向こう側の壁から声がする。  
そこにゴースが居るのかな……? 
とにかく、暗くて何も見えない。 

「おっと…… これは失礼。 
 客人を招き入れるには不適切だったな!」 
ゴースの声のあと、一斉に部屋のロウソクに火が灯りはじめる。 

「クケケ…… どうだ、素晴らしいだろ!」 
声のした方には…… 1枚の大きな絵があった。 


「ど…… どうなってるの……?」 

ボクは向こう側の壁に掛かった絵…… 綺麗な風景画に近寄っていく。 
……よく見ると、風景画の中にはゴースが居た。 

「さぁて……ルール説明しなきゃなんねぇかな?」 
ゴースはそう言うと、絵の右の方へ移動する。 
どんどん右へ行って…… ついに、絵から出てしまった。 

「こっちだ、こっち……」 
……と、右の方から声がする。 
まさかと思って右を向くと…… そこにも別の絵があった。 
……まるで、二つの絵は繋がってるようだった。 

「さて…… 周囲を見回せば解ると思うが、 
 四方の壁にそれぞれ1つずつ、合計4箇所に絵がある。」 
そう言われて周囲を見ると……確かに、4箇所に絵があった。 
全てが違うけど……全てが繋がっているように見える。 

「これから、一斉にロウソクの火が消えて部屋が真っ暗になり…… 
 ……そして、暫くするとまた火が灯る。 その間にオレはこの絵の中のどこかに隠れる。 
 したら次はお前の番だ。 4つの絵のうちどれか1つに火をつけることを許可してやる。 
 その絵の中にオレが居ればオレの負け。 もし居なかった場合は……」 

「い…… 居なかった場合は……?」 

「……お前を食ってやる!」 

もう食べられるのは勘弁です…… これは何としても勝たなくては。 


「……さて……」 
ロウソクの火が再び灯り、ボクに視界が戻って来る。 
確率は四分の一…… なんとしてもゴースの居る絵を見つけなければ。 

「火をつけるのはそこにある松明でやれよ。 
 ……ちなみに、周りのロウソクは時間とともに一本ずつ消えるからな。 
 全部消えて真っ暗になっちまったら…… そん時もお前の負けだからな!」 
どこからか、ゴースの声が聞こえる。 
その声を頼りに探そうと思ったが…… だめだ。 
声がどの方向から聞こえてきているか解らなかった。 

「うーむ……」 
ボクは松明を手に取り、四つの絵を見比べる。 
さっきみたいに、正解の絵の中にはゴース自身が居るはず…… 
……しかし、どの絵を探してもゴースの姿は見当たらなかった。 

「ククッ…… どうした? 諦めてもいいんだぞ?」 
また、ゴースの声がする。 

「……諦めるもんか…… ボクは、絶対皆の所へ帰るんだ。 
 あと、ついでに父さんのあのニヤケ顔をヘコませてやるっ!」 
ボクは、自分に言い聞かせるように言うと……もう一度、四つの絵とにらめっこをはじめた。 


「くっ…… ダメだ、わからないよ……」 
最初……絵の中のゴースが本当に動いたと言う事は、 
少なくとも絵の中に居るというのは嘘ではないはずだ。 
絵から外に出ていれば解るはずだし…… 

……だとしたら、今度はどう言うイカサマを仕掛けてきてるんだ……? 

どっちにしろ、残された時間は少ない。 
周囲にあるロウソクは12本…… 30秒おきに、一本ずつ消えていく。 
残っているロウソクの数は5本…… 換算すると150秒、つまり2分半だ。 

「ククッ…… 精々悩むがいいさ。」 
またあの耳障りな声が聞こえてくる。 
本当に、前後左右どこから聞こえてきているか解らない…… 

「ん……?」 
……そこでボクは、あることに気がついた。 
前後左右、どこから聞こえてきているかわからない…… 
……それは、つまり…… 

「……わかった! お前の居る絵は……これだッ!!」 
ボクは…… その“絵”の方に向かって、松明を投げつけた。 


「ば…… バカなぁぁぁっ!?」 
……どうやら、正解みたいだ…… 

ボクの上で、天井にあった“空の絵”が燃えている。 
……そう…… ゴースは、壁にある四つの絵のどれでもない、 
天井に掛かっている絵まで移動していたのだ。 

……そりゃ、どこ探しても居ないワケだ…… 

「あつ…… 熱い……ッ! 
 た、助けて…… 助けてくれぇぇぇっ!!」 
……ボクは耳を塞いだ。 
いくら敵とはいえ…… 自分が助かる為とはいえ、 
誰かの命を奪うのは辛い。 だけど…… 

……ゴースの悲鳴が聞こえなくなった。 
それと同時に、入ってきた扉とは別の扉が開く。 

……もしかして、ゲームのつもりなのかな……? 
だとしたら…… ボクは、ますます父さんを許せない。 

どんな事があっても必ず生き残って、父さんを…… 

−第十話 完− 


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