「あはは…… どうも、こんばんは……」 
……ホントに、そう言うしかなかった。 
さっきの部屋にあった唯一の扉を開けると、そこは…… 
……最初の、処刑部屋だった。 
当然、アーボはまだ居るわけで…… 

「……なんとかして、先に進まないと……!」 
次の扉はもう見えているのに、アーボが邪魔をして通れない。 
倒すしか無いんだろうけど…… また丸呑みにされたら嫌だなぁ…… 
テレポートで逃げられるには逃げられるんだけど、 
あの感触は二度と味わいたくない……って言うのが、正直なところで…… 

……あれこれ考えているうちに、アーボがゆっくりと近づいてくる。 

「まずい…… と、とりあえず一旦逃げ……」 
ボクはドアを開けて、さっきの部屋に逃げようとするが…… 

「あ…… 開かないっ!?」 
押しても引いても、ドアが開かない。 
恐らくオートロック式になってるんだろう…… 

……結局、またしてもアーボに呑まれかける事になってしまった。 


「くっそぉ……」 
また、さっきの部屋に戻ってきてしまった。 
呑まれた後にすぐテレポートしたから、今回はべたべたに濡れずに済んだけど…… 
……それにしてもどうしよう。 その内体力もPPも尽きるだろう。 

「むやみに突っ走るのは危険、ってことだよね……」 
ボクは部屋の中をうろうろと歩き回る。 
何とかしてアーボを倒さなければ先に進めない。 
でも、どう考えても敵う相手じゃない…… 

「わぅっ!?」 
暗かったせいか、考え事をしながら歩き回っていたせいか……ボクは何かに躓いてしまう。 

「いたた…… ったく、一体何…… うわっ!?」 
ほんとに……気を失いそうになった。 
ボクが躓いたのは、恐らく…… 隣の部屋で処刑されたであろう、ポケモンの死体だった。 
まだ腐敗は始まっておらず、ごく最近処刑されたものだと思われる。 
がっちりとした体格からして、格闘タイプのポケモンだろうか…… 

……これだけの大きさなら、いくらアーボでも呑みこむのに時間かかるだろうな…… 

やっちゃいけない事だとは解ってる…… けど、ボクには選択肢が無かった。 


「よいしょ……っとぉ…… 
 ……ごめんね…… ボクに、力を貸して……」 

ボクは扉を開け、そこから死体の上半身を出した。 
……そして、ボク自身は隠れ……アーボが餌に食いつくのを待った。 

死体に対してこんな事をしていいのか、と言う疑問と、 
この逞しい体が呑みこまれるのを見てみたいという好奇心で、 
ボクの心臓はどくんどくんど大きく鼓動していた。 

「あっ……」 

引きずる音を聞いてはじめて気がついた。 
慌てて死体の方を見ると、ゆっくりと向こうの部屋に引きずられている。 
……アーボが餌にかかったのだ。 

「よし…… 今の内に。」 

ボクは死体を丸呑みしているアーボの横を通り抜け、向こうの扉へ向かった。 
……死体さん、ごめんなさい。 そしてありがとう。 
ボクは精一杯、あなたの分まで生きます…… 


……これは予想外だった。 
なんと、向こうのドアには鍵がかかっていたのだ。 

「ど…… どうしよう……」 

ボクはあわてて後ろを見る。 
……アーボは、あの死体を腰の辺りまで呑み込んでしまっていた。 
中で消化されるまで、ボクが襲われる事は無いと思うけど…… 

……それでも、できるだけ早く脱出しなくちゃならない。 

「えぇっと…… 鍵、鍵……」 

鍵を探しながらも……ついつい、アーボの方に目が行く。 
あの大きな身体を丸呑みにできる、伸縮自在の身体。 
上半身を呑み込んだ分、首の辺りが膨らんでいる。 

最終的には、口から出てる下半身も全部呑みこまれて、 
あの膨らみがゆっくり下に移動して…… 

……自分がそうなりかけてたと思うと、考えただけで寒気がした。 
このチャンスを逃せば、後はもう…… 

……ボクは、必死に鍵を探した。 


「えっと…… これかな?」 

ボクは、2つのレバーを見つけた。 
あのドアには鍵がかかっているのに鍵穴が無かった。  
……つまり、何かの仕掛けによって開けると言う事だ。 

「でも…… どっちだろう。」 
……そう、レバーは“2つ”あるのだ。 
全く同じものが2つ…… これはもう、意図的としか思えない。 

「……ん……?」 
二つのレバーとにらめっこをしていると、少し下に張り紙を見つける。 

「当たりのレバーを引くとドアの鍵がはずれ、 
 はずれのレバーを引くと、床が抜けます……」 
床が抜ける…… つまり、落ちて死ぬ? 
要するに、二分の一の確率で…… 

後ろを振り向いてアーボを見る。 
……もう、死体はひざの下辺りまでしか見えていない。 

どうやら、ボクに迷ってる時間は無いみたいだ…… 


大丈夫。 ボクは大丈夫…… 
昔から、運だけは良かったじゃないか。 
根拠は無いけど……きっと、当たりのレバーを引ける。 

「……よし。」 

ボクは、右のレバーに手をかけた。 
心臓はどくんどくんと激しく鼓動し、手はがたがたと震える。 
何度も引くのを躊躇ったけど、引かなければ先に進まない。 

……ボクは、右のレバーを引いた。 
がちゃりと、鍵の外れる音がする…… 

……床は、抜けてない。 

「た…… 助かった……」 

自分ではあまり感じてないが…… 相当、迷ったんだろう。 
……アーボは、死体を完全に呑み込んでしまっていた。 
膨らみが、ゆっくりと下に移動していて……どの辺りに死体があるのか解る。 
それが、やたらリアルで……気持ち悪かった。 

ボクは……逃げるように、ドアを開けて部屋から出て行った。 


「どうなってるんだ、もう……」 

廊下は、まるで迷路のように入り組んでいた。 
しかも、壁や床に血がべったりとついてたり、 
あちこちに骨が転がってたり…… とにかく、怖かった。 

「あら…… 処刑部屋から抜け出したのね?」 
……うしろから、聞き覚えのある声がする。 

「お前は……!」 
ボクは咄嗟に振り返り、確認する。 
……間違い無い。 あの森で、ボクらを襲ったムウマとか言うヤツだ。 

「あの時は邪魔が入ったけど…… ここならその心配も無いわね。」 
ムウマが嬉しそうに言うのに合わせて、あの時の他の三匹も現れた。 

「流石に一体四は卑怯よね。 ……一人ずつ相手してあげるわ!」 
そう叫ぶと、それにあわせて三つの影が消える。 

「アハハ…… まずはボクからかな?」 
……ボクの近くに残ったのは、カゲボウズだった。 

−第九話 完− 


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