朝……だろうか。 「おい……」 誰かが、ボクを呼んでる…… 「おい、いい加減に起きろ。」 ジュカインさんかな…… 「ごめん、あと五分……」 ボクは甘えた声で言うが……その直後、ボクの体が少し宙に浮く。 「いい加減に起きろ、ガキっ!」 「ひゃぁっ!?」 いきなりお尻を叩かれる。しかも思いっきり。 お尻なんて、父さんにも叩かれた事ないのに…… ……お陰で目が覚めました。 「ったく、これだからガキは……」 あぁ、何度これを言われただろうか。 よっぽど子供が嫌いなんだな、ジュカインさん…… ……そういえば、昨日の騒ぎはどうなったんだろう。 昨日の騒ぎについて…… ジュカインさんはちょっと怖いから、エーフィさんに聞いてみた。 ……なんでも、野生のコラッタが大群で押し寄せたらしく、 それを三匹で必死に追い返していたらしい。 ジュカインさん曰く、たまに食料を奪いにやって来るが 基本的にこの家までは登って来れないらしい。 ……そう言うことは先に言って欲しいです。 「……ガキ、何か言ったか?」 ジュカインさんが後ろからいきなり話し掛けてくる。 心臓が止まりそうになりました。 って言うかまだ何も言ってないです。 「い、いえべつに……むぐっ!?」 否定しようとすると、いきなり口に何かを突っ込まれた。 「……朝メシだ、食っとけ。」 ジュカインさんはボクの口に突っ込んだパンをさらに押し込むと、どこかへ行ってしまった。 やってる事はいじめくさいけど……声のトーンとか、表情とかでわかる。 元々、ボクが相手の気持ちを察知する能力に長けてるって言うのもあるけど…… ……きっと、悪い人じゃないよね。 子供の扱い方が解らないだけ、だと思う。 「ぷは……」 いきなり押し込まれたせいで喉に詰まりそうになったパンをミルクで流し込むと、 ボクは何気なく自分の足元を見る。 「なんだろ…… 写真?」 多分ジュカインさんが落としたものだろう。 そこには、ジュカインさんと…… 「ちっ……」 ジュカインさんが、後ろから写真を取り上げた。 ……ボクは咄嗟に振り向いて、ジュカインさんを見上げる。 「あの、その写真に一緒に写ってるの……」 「オレの……ガキだ。」 ジュカインさんはボクが質問を言い終わる前に答える。 ガキ…… つまり、子供……? 「……生きてれば、お前と同じぐらいかな。」 初めて見た、ジュカインさんの寂しそうな顔…… それにつられて、ボクまで寂しそうな顔をしてしまう。 「ちっ…… シケた顔すんなよ!」 ジュカインさんはボクにデコピンをかますと、写真を持ってどこかに行ってしまった。 ……お願いだから体格差考えてください。 結構痛かったです…… ボクはそれから、ただ家の中でごろごろしていた。 相変わらず日差しは強い…… そう言えば、グラードン討伐隊が結成されたらしい。 本当に討伐できるんだろうか…… 犠牲者が出なければいいけど…… ……と、色々考えてると……窓からいきなり、何かが投げ入れられる。 「なんだろ、これ……?」 ボクはその投げ入れられた物体を手に取り、まじまじと見つめる。 黒くて、丸くて、ヒモがついてて、ヒモの先には火が…… ……いや、どう見ても爆弾だよこれ!? 爆弾! いやボム! いや言い方はこの際どっちでもいいよ! 「う、うわぁぁぁぁっ!!」 ボクは思いっきり振りかぶって爆弾らしきものを窓に向かって投げる。 爆弾らしきものは綺麗な放物線を描き……窓枠に激突する。 そしてそのまま弾性力を利用し……ってうわぁぁぁ! 戻ってきてる! 戻ってきてるってば! あぁ…… 死を覚悟するの、これで何度目だろう。 ……今度こそ、ホントにダメかもしれない…… ……それから、数時間後…… 「……全く、情けないですね……」 誰だろう…… ボクの横に立って、何か言ってる…… 「それでも私の子供ですか……?」 ……あなたの、子供……? つまり、あなたはボクの…… 「うわぁぁっ!!」 ボクは咄嗟に飛び起きる。 ……確かにボクの近くで爆弾らしきものが爆発したはずなのに、 ボクの身体には傷ひとつついていなかった。 「……ようやく、起きましたか。」 そして、ボクの後ろには…… 「と…… 父さんっ!?」 ……ボクの父親…… ムウマージが居た。 「どうしてもあなたに会いたくてね……」 父さんは、見下すようにボクを見て言う。 ……まさか、こんな所で会うとは…… 会って……倒すまで行かなくても、一撃ぐらいお見舞いしてやろうと思ってたけど、 いざ、こうやって顔をあわせると…… 何もできなかった。 「って言うか…… こ、ここ、どこっ!?」 父さんに気を取られていて気付かなかったが…… ……ボクは、そこがジュカインさんの家でない事に気がつく。 多分、あの爆弾は殺傷するためのものじゃなくて 気絶させるなり眠らせるなりする為のもので…… ……そして、ボクはそれをくらった後に誘拐されたんだろう。 「ここは…… ゴースト軍本拠地にある処刑室です。」 言われてみれば…… すごい血の匂い。 しかも、処刑道具や拷問器具がたくさん置いてある…… ……ボク、どうなるんだろう…… 「……不安そうな顔をしていますね。」 父さんは、怖がるボクを嘲るように……楽しそうに、言う。 「何のつもりなの? こんなところに連れて来て……」 ボクは…… 怖がってないフリをして、父さんを睨みながら言う。 「フ…… 少しは成長したようですね。 昔は少し脅かしただけでピーピー泣いてたのに……」 少し嬉しそうに言う父さんに、ボクは戸惑いを隠せない。 「ねぇ…… 父さんは、一体何がしたいの……?」 ……心からの、疑問だった。 「何がしたい……? そうですね……」 父さんはそう言うと、壁についているレバーを下げる。 「……今はただ、あなたの憎しみの対象になりたいですね。」 ……上から、何かが落ちてくる。 紫色の、太いホースのようなそれは…… 落ちてくるや否や、ボクに巻きついてきた。 「な…… なに、これ……っ! ……父さん…… ボクを、どうするつもり……っ!?」 必死に抵抗するが……とても敵わない。 ボクは逃れる事を諦め、必死に父さんに問い掛ける。 「どうする…… ですか。 ……出来ることなら…… あなたを強くしたい、ですね。」 父さんはそれだけ言うと…… 闇に溶けるように、消えてしまった。 「とうさんっ……! 待って…… 待ってよっ!」 ボクの叫びも虚しく…… 父さんが、ここに帰ってくる事は無かった。 落ちてきたもの…… それは、野生のアーボだった。 アーボはボクの身体に巻きつき、締め上げる。 「うぐ…… くる……しいっ……」 苦しい…… そして、熱い。 ……今度こそ、本当の本当に死ぬと思った。 「あぐっ……」 ボクが弱ってきたところで、締め上げる力が弱くなる。 ……もしかして、ボクを弱らせるだけで殺さないようにしてるのかな…… 父さんの僅かに残った“やさしさ”に期待するが……しかし、それは見当違いだった。 ……アーボは……あろうことか、ボクの頭にかじりついて来たのだ! 「ま…… まさ、か……」 予感は的中した。 ぬちゃぬちゃと不快な音を立て、ボクの身体はアーボに呑み込まれていく。 首の辺りまで呑みこまれて、息ができなくなる。 必死に足をばたつかせるが……当然、吐き出してくれる筈も無い。 ただ、怖かった。 ……確実に、死の匂いがした。 「んむ……ぅっ……」 アーボは……小さなボクの身体を、ゆっくりゆっくりと丸呑みにしていく。 ……まるで、ボクに死の恐怖を存分に味あわせようとしているみたいだった。 呼吸は完全に出来なくなり、足をばたつかせる力も無くなった。 ……そして…… ボクの身体は、完全にアーボに呑みこまれてしまった。 ボクは…… 死を目の前にして、もがく事も出来ないで…… ……ただ、静かに…… しかし、強く…… 生きたいと、思った。 薄れ行く意識の中で…… 生きたいとだけ。 ただそれだけを、強く思った。 ……突然、身体が浮くような感じがした。 すると……さっきまでの息苦しさと、生暖かい感じがなくなった。 何が起こったのか、ボクには理解できなかった。 ボクは暫く、横になって考えていた。 体中がべたべたに濡れているのも気にならなかった。 そして…… 考えているうちに、ある結論に達した。 「テレポート……」 ……それしかなかった。 アーボの体内からテレポートで脱出したのだ。 ボクは自分の中でそう結論付けると、そこから起き上がる。 「……ここはどこだろう……」 早く、皆の所に帰らないと…… ボクは、額に手を当てて……もう一度、テレポートを試みた。 「……あれ?」 ……また、同じ場所に戻ってきていた。 どうやら……ここの外へは、テレポートできないようになってるらしい。 「ズルはだめ……って、ことか……」 ボクはテレポートを諦めると、横に置いてあったタオルで身体を拭いた。 ……まずは、なんとしてもここから外に出ないと…… −第八話 完− |