そして、さらに時を同じくして…… 



「オラオラ退けぇ! ラグラージ様のお通りだぁッ!」 

……闘技場は、突如現れたポケモンにより……大混乱に陥っていた。 

「な…… 何て奴だ! オレの電撃が……!」 

「ほ、炎も効かんぞ!」 

炎軍と電気軍の戦士達が必死に応戦するが、誰一人としてラグラージには敵わない。 

「どうしたどうしたぁ! 炎軍と電気軍は精鋭揃いって聞いたが……大した事ねぇな!」 

ラグラージはわらわらと集まってくるポケモンをちぎっては投げ、どんどん奥に進んでいく。 

その身体は次々に襲いくる電撃を通さず、うなる火炎をかき消し…… 集まる敵を弾き飛ばした。 


……そして…… ラグラージは、ついに闘技場の中央へと辿り付いた。 



「……!!」 

高台のポケモンのうちの一匹が、はっと気付いたように動き出した。 

「エンテイ様! お逃げ下さい!」 

「おいおい、バシャーモ…… オレらはここに居るから平気だろ?」 

片方のバシャーモと呼ばれたポケモンは必死にエンテイを逃がそうとするが、 
もう片方のポケモンがその行動をバカにしたように言う。 

「平気なものか! ……今からヤツが何をしでかすか、オレには解るんだ!」 

バシャーモが言った時には、既に遅かった。 


ラグラージが、闘技場の中央で…… まるで力士が四股を踏むように、地面を踏み鳴らす。 

……すると、突如周囲の地面が大きく動きはじめた! 


「な…… なんだ、これは…… うわぁぁぁぁぁっ!」 

「……た、助けてくれぇぇぇっ!」 

無数のポケモンが、地面から突き出した岩に串刺しにされ、 
振動によって落ちてきた岩に潰され、そして地割れに落ちていった。 

「くっ…… 遅かったか……!」 

バシャーモは必死にエンテイを支える。 

もう片方のポケモンは、既にラグラージの起こした地震の餌食になっていた。 

「……もう、よい……」 

「……え……?」 

バシャーモは、エンテイの突然の言葉に驚く。 

……そして、地震は……収まるどころか、更に勢いを増していった。 


「い…… 今、なんと……」 

「……もう……よいと、言ったのだ……」 
エンテイはこの状況にも臆せず、落ち着いた口調で言う。 

「そ…… そんな!」 
「……お前はよくやってくれた…… 
 わしは、もう群集のさらし者になるのに疲れたのだ……」 
「……。」 
バシャーモは、黙ってエンテイの言葉に耳を傾ける。 

「バシャーモ…… お前だけでも、生き残れ……」 

「……くっ……」 
バシャーモは、エンテイに向かって敬礼する。 

「……エンテイ様…… わたしは、唯一神エンテイとしてではなく…… 
 一匹のポケモンとして、あなたを慕っておりました!」 

「……ありがとう……」 

……エンテイの流した涙が、地面に落ちた瞬間…… 
バシャーモは凄まじい跳躍力で跳び去り…… 


……そして、高台は崩れ去った。 


「さぁて…… この位でいいかな。」 
ラグラージは、降り積もった死体を見回して言う。 

「それにしても…… 馬鹿だな、こいつらは…… 
 ……炎と電気。 どちらも地面には弱い。 
 オレが来なくても…… 同じ事になってただろうな。」 

「……その通りですな。」 
……と、ラグラージの後ろから大きな鐘のようなポケモンが現れる。 

「お…… ドータクンじゃねぇか。 作戦は成功したか?」 
ラグラージは振り返らずに聞く。 

「えぇ、成功ですとも…… 
 ……ヤツら、わしが炎喰らっても平気な顔してたら 
 耐熱持ちと勘違いして炎を撃ってきませんでしたわ……」 
ドータクンは自慢気に言う。 

「……そうか…… それじゃ、とっとと帰るか……」 

……ラグラージは結局、後ろを振り返る事なく歩いていってしまった。 


「……さて、それじゃぁわしも帰るとしますかな……」 

「う…… うぅ……」 

「……ん?」 
ドータクンは、呻き声を聞きつけて立ち止まる。 

「……おや…… おかしいですな。 
 捕虜は全員逃がしたはず…… 炎と電気の連合軍で、まだ生きている者が居るとは……」 

死体の山に埋まっているのか、下半身しか見えていないが……  
少なくとも、炎ないし電気タイプでない事は解る。 

「……おや…… まだ捕虜が残っていたようですな……」 

ドータクンが助け起こそうと近寄ると…… 突然、ノクタスの身体が宙に浮いた。 

「……な……!?」 

……いや…… 正確に言うと、浮いたのではない。 
ノクタスは、巨大な“何か”に上半身を咥えられていて…… 
……そして、その“何か”が首を上げたのだ! 


「ば…… バカな……」 

巨大な“何か”は、ノクタスを呑み込むと…… 
……今度は、ドータクンに顔を向ける。 

「……まさか…… あの地震で、呼び覚ましてしまったのか……!?」 

ドータクンはゆっくりと後退し、距離を取る。 

……しかし……巨大な“何か”は、ドータクンを獲物と見なさなかったのか、 
そのままドータクンの横をすり抜けて行ってしまった。 

「う…… うわぁぁぁぁっ!!」 

……背後から、ラグラージの悲鳴が聞こえる。 

恐らく、先ほどの化け物に襲われたのだろう。 


「……これは、マズい事をしてしまいましたな……」 

ドータクンは……恐怖のあまり、 
それから数時間、その場所を動く事が出来なかった。 


そして、炎と電気の連合軍の壊滅の報せは瞬く間に伝わり…… 



各国は守りに入り、攻める者は居なくなり、 



世界に一時の平和が訪れた…… 





……かに思われた。 



しかし…… 本当の戦いは、これからだったのだ。 


−第5話 完− 


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