その頃、時を同じくして…… 


― 炎軍 本拠地 ― 

炎軍の本拠地にある、闘技場での話…… 

観客席に設けられた高台に、三匹のポケモンが立っていた。 

その下にある観客席には、炎と電気のポケモン達が集まっている。 

「唯一神エンテイ様に絶対の忠誠を!」 

「炎軍に逆らう者に絶望の死を!」 

「エンテイ様万歳! エンテイ様万歳! エンテイ様万歳!」 

「炎軍万歳! 炎軍万歳! 炎軍万歳!」 

「唯一神万歳! 唯一神万歳! 唯一神万歳!」 


どうやら、この高台の中央に立つポケモンが 
群集から唯一神と呼ばれ、崇拝されている“エンテイ”らしい。 


「……単純なもんだな……」 

「……ああ。」 

……その両脇にいる二匹のポケモンが、小声で話す。 

「……。」 

エンテイは…… ただ、虚空を見つめるだけだった。 


「見せてやろう、愚かな反逆者達がどうなるか!」 

エンテイの左に居るポケモンが叫ぶと、闘技場のゲートが開き…… 
炎軍との戦いに敗れ、捕虜になった戦士達が入って来る。 

「さぁ、戦え! 奴隷戦士達よ!」 

「生き残れるのはこの中でただ一匹のみだ!」 

エンテイの両脇のポケモンが交互に叫ぶ。 
……それを合図に、闘技場のポケモン達が一斉に動き出した。 


「悪いなネエちゃん! 俺は生き残りたいんだ!」 

一匹のポケモンが、両腕に花束のようなものがついたポケモンに飛び掛る。 
……しかし……次の瞬間、飛び掛ったポケモンは左胸を鞭のようなもので貫かれていた。 

「……それは、私も同じ事だ。」 

毒軍の戦士、ロズレイド。 ……ロゼリアの母。 

……彼女の目は、完全に死んでいた。 


炎と電気の連合軍は草軍と鋼軍を壊滅させた後も侵略を繰り返していた。 
ロズレイドの所属していた毒軍も……先日、炎と電気の連合軍に壊滅させられた。 

炎軍は侵略した国の戦士を奴隷にし、己の国の捨て駒として使い、 
服従しなかった者は、このように…… 

……“見せしめ”として、闘技場で戦わせられるのである。 


「くっ…… これだけ敵が居ると、状況の把握が面倒だ……」 

ロズレイドは注意深く周囲を見回す。 

「……鋼軍、草軍…… そして水軍か……」 

……どうやら、同じ毒軍の戦士は居ないようだ。 

「後ろがガラ開きだぜ!」 

背後から声がする。 

ロズレイドは咄嗟に振り向くが…… 

「く……ッ!」 

一歩間に合わず。  

……つるのムチで脚を取られ、逆さ吊りにされてしまう。 


「お前…… どっかで見たと思ったら、ラフレシアの嫁か。」 
声の主……ウツボのようなポケモンは、 
つるのムチをロズレイドに巻きつけ、動きを封じながら言う。 

「ぐ…… 貴様…… ウツボットか……!」 
ロズレイドは睨みつけながら言うが…… 
しかし、ウツボットはその鋭い眼光には動じなかった。 

「グフフ…… お前、前から美味そうだと思ってたんだ……」 
ウツボットは口を大きく開いた口にロズレイドを運ぶ。 

「南無三…… ここで終わりか……ッ!」 
……ロズレイドが諦めかけた瞬間……  

急に空が晴れ渡り、激しい日差しが差し込んで来た。 

「ぐおっ!? ……な、なんだ……」 
その光にウツボットは怯んだ。 
当然、ロズレイドを放しはしなかったが…… 

……しかし……ロズレイドはその瞬間、勝を確信した。 


「ククク…… はははははははっ!!」 

ロズレイドは、いきなり笑いだす。 

「あぁ……? 何だお前、恐怖のあまり狂ったか……」 

「いや…… 正に恵みの太陽だな…… と思って、な。」 

ロズレイドは余裕の表情で言う。 

「……?」 

ウツボットは一瞬考え込むがしかし、その言動を虚勢であると、 
邪魔が入らない限り、自分の勝利は動かないと信じ込んでしまった。 

……それがウツボットの敗因だった。 


「悪いが…… この勝負、私の勝ちだ。」 

「何をバカな…… お前が炎技でも覚えていれば話は別だが……」 

そこまで言って、ウツボットはついに気がついた。 

……しかし…… その時には、既に遅すぎた。 

「“ウェザーボール”っ!!」 

ロズレイドの目の前に、炎の弾が現れ…… 

「や…… やめ……」 

……ウツボットに向かって、飛んでいった。 


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」 


「……何が“うまそう”だ……」 
ロズレイドは呟きながら、黒焦げになったウツボットを踏みつける。 

「……おいおい…… 死人に鞭打つのはどうかと思うがな?」 
……と、いきなり背後から声をかけられる。 

「む……」 
ロズレイドは周囲を見渡す…… 
……どうやら、残っているのは自分の目の前の敵だけのようだ。 

「……俺はノクタス。 あんたは?」 

「……これから殺し合いをする相手の……名前を聞いて、どうする。」 
ロズレイドは飛び退き、距離を取りながら言う。 

「おぉ、怖っ…… 顔は綺麗なのに、勿体無いな。」 

「……黙れッ!!」 

……ロズレイドの言葉が、合図になった。 


「おぉぉぉぉぉぉッ!!」 
ロズレイドは、日差しが強いうちにとウェザーボールを連発する。 

「……随分と危ない嬢さんだ……」 
……対するノクタスは、ウェザーボールをかわすだけで攻撃を仕掛けようとしない。 

「まぁ…… そろそろ、打ち止めだろうがな……」 
そして、空を見上げながら呟く。 

先ほどまで眩しい程に照り付けていた太陽は陰り…… 
……ロズレイドのウェザーボールのPPは、底を尽きていた。 

「く……っ!!」 
こうなった以上、効果抜群の炎技は使えない。 
その上、避けていただけのノクタスに対し…… 

……ウェザーボールを連発していたロズレイドは、疲れきっていた。 


「この瞬間を待ってたぜ!」 
ノクタスは、疲れて動けないロズレイドに向かって走ってくる。 

「し…… しまっ……」 
ロズレイドは避けようとするが……身体が付いて行かない。 

そして、次の瞬間…… ロズレイドの腹に、ノクタスの刺だらけの腕がめり込んだ。 

「がは……っ!!」 
ロズレイドは口から血を吐き、力なく崩れ落ちる。 
……しかし、ノクタスは休む事を許さなかった。 

「おっと…… 悪いが、ここで寝かせる訳にゃいかないな。」 
ノクタスはその刺だらけの腕でロズレイドを後ろから掴み、締め上げる。 

「ぐあぁぁぁ……っ!」 
ノクタスの腕や身体の刺が、ロズレイドの体中に突き刺さった。 
それと同時に、締め上げによるダメージが身体を蝕む。 

「これで…… 終わりだ!」 

ノクタスはそのまま身体を後ろに反り、ロズレイドを脳天から地面に激突させる。 

……ロズレイドは、あまりの衝撃にそのまま意識を失った。 


……それから、どれぐらい時間が経っただろうか…… 

「……おーい。」 

「……?」 

誰かに呼ばれ、ロズレイドは目を開け……呼ばれた方を見る。 

……目が覚めると、そこは広い草原の上だった。 

「……わ…… 私は……!?」 
ロズレイドは慌てて飛び起きる。 

「あ、目ぇ覚めた?」 
……恐らく、彼女を介抱したであろう、 
黄色と黒のポケモンが微笑みながら言う。 

「……すまない。 状況が把握できないんだが……」 
ロズレイドは右手を腰に、左手を額にあてながら言う。 

「……あんた、炎軍の闘技場で戦ってたやろ?」 
「ん…… あぁ、そうだが……」 
「そこを、あの人が空から助けたんや。」 

彼女が指差した方には…… 紅い、両腕に鋏をもつポケモンが居た。 


とりあえずは助かった…… しかし、ここでロズレイドに一つの疑問が生じる。 

「……どうやって…… そして、なぜ私を?」 

……これらは当然の疑問だった。 あの大群衆の中から捕虜を助け出そうとすれば、 
火傷の一つ二つではすまないはずだ。 それを…… 

「方法か、それはな…… 簡単や。 
 まずはラグラージっちゅーポケモンにひと暴れしてもらって、 
 その隙に同じ鋼タイプ仲間のドータクンっちゅーヤツに壁になって貰ってやな……」 

延々と説明する黄色のポケモンに痺れを切らしたのか、 
紅のポケモンが割って入る。 

「次に理由。 それは、あんたが…… 俺の友達の、母親だからさ。」 

「……!!」 

ロズレイドはその返答に驚いた。 



……つまり、それは…… 

自分の息子、ロゼリアが……生きているかもしれない、という事だった。 


「……ほな、行こか。」 
黄色のポケモンが立ち上がる。 

「そうだな。」 
……それに続き、紅いポケモンも立つ。 

「あ…… ちょっと待ってくれ。」 
ロズレイドは、咄嗟に二匹を呼び止める。 

「……ん?」 
「どーしたん?」 
ロズレイドに呼び止められ、二匹は振り向く。 

「……これから行動を共にするんだ…… 名前ぐらい、教えてくれないか?」 
照れくさそうに笑いながら……二匹に聞く。 


「うちはクチートや。」 
「……ハッサムだ。 よろしく。」 

「ロズレイドだ…… ハッサム、クチート……よろしくな。」 
握手を交わすと……三匹は、北の方角へ歩いていった。 

……ロズレイドの目は…… いつにも増して、輝いていた。 

−第4話 完− 


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