…あれから、どの位経っただろう。 


ボクは、とにかく…人を、町を…求めて、ただ、歩いた。 


歩いて、ひたすら歩いて… 何も考えずに、歩いて… 



…そして… 


気がつくと、ボクは… ベッドの上で、寝ていた。 


「あ… 目が覚めたんですね。 よかった…」 

…聞き覚えのある声。 

「…お久しぶりです。」 

慌てて起き上がると… 目の前には、エーフィさんが居た。 

「あれ…? エーフィさん、たしか…」 

そう、確か… 
…エーフィさんは、メタグロスではなく…フーディンに付いたのだ。 
そして…ミュウツーを引き入れに、洞窟へ行ったはず… 

「…引き返して、来ました…」 

ボクの考えを察したのか… エーフィさんは、答えてくれた。 


エーフィさんの話をまとめると、こうだ。 


フーディンさんの一行は、洞窟へ向かったが… 

洞窟に住む野生のポケモンはけた違いの強さだった。 

アーボックやマルノームなど、タイプの上ではこちらの方が優位だったらしいが… 

それを覆すほどのレベル差があったそうだ。 

フーディンさん以外の人は皆、野生のポケモン達に食べられていった…らしい。 


…仲間達がアーボックに頭から丸呑みされる姿が、未だに頭から離れないそうだ… 



結局… フーディンさんも、メタグロスさんも… 
…どっちとも、間違ってた…って、ことか… 


ボクは暫く、エーフィさんと話をした後…家を出た。 

…エーフィさんが言うには…この町は、戦いから逃れた人達の集まる町らしい。 


戦いに敗れ、逃げ延びて来た人… 

争いを好まず、平和な暮らしを望む人… 

…そして、犯罪の経歴があり、軍に入れなかった人… 


本当に、色々な人が住んでいるそうだ。 


ボクは一瞬…ここに永住しようかと思った。 
…しかし… あの時の“ヤツ”の言葉が、その思考を遮った。 


『…私が狙っていたのは、あなただったのですが…』 


ボクは、もう一度戻り…エーフィさんからお金と食料を分けて貰うと、 

短い礼を言って、そのまま逃げるように町を出た。 


…あの時みたいに… あの三人みたいに… 

ボクのせいで、この町が… 



…考えただけで、恐ろしかった。 


ボクは、また歩きつづけた… 


…何もかも失ってしまった今… 
ボクの唯一の目的は、父を倒す事だった。 


いくら自分の肉親でも… 


…いや、あれが自分の父親だなんて、思いたくなかったのかもしれない。 


とにかく… ボクは、ただひとつの目的を胸に、 

敢えて敵地… ゴースト軍に乗り込む事を決意した。 


ボクはひたすら歩いた。 

前と違い、お金も食料も… そして地図もある。 

…もう、心細くなんかない。 


「待ちな!」 


…急に、誰かに呼び止められる。 


呼ばれた方を振り向くと…  

…そこには、二匹の黒っぽい犬が居た。 


「な… なんだ、おまえら…」 

一匹は小さいが… もう一匹は大きい。 
と言うか、二匹ともどう見てもあくタイプだ。 
ゴーストならともかく、あくタイプになんて… 

「命が惜しけりゃ、有り金全部置いて行きな!」 

「金を全部置いていったら許してやるって言ってるんだぞ!」 

…うぜぇ、この腰巾着が… あ、いや、なんでもないです。 

「ボク… 身寄りなくて。 お金とか取られると困るんで…」 

「関係ねぇよ! 身寄りなんて俺らにもねぇよ!」 

「アニキ…今は関係ないよ、それ…」 


…なんとなく、完全に悪い人達じゃない気がした… 
まぁ、それでもボクのピンチは変わらないんだけど… 


それから… なんとしてもお金を手放すワケにはいかないボクは、 
この二匹のイヌたちと下らない押し問答を繰り返した。 

…しかし… どうやら、向こうもそろそろ我慢の限界のようだ。 

「ぐぅ… ラチがあかねぇ! いくぞポチエナ!」 

「へ? あ、はい、アニキ!」 

…一斉に、ボクに襲い掛かってくる! 

突然の襲撃に身体はついていかず、 
元々強くも無いボクは、ポチエナと呼ばれていた小さい方のイヌに 
いとも簡単に押し倒されてしまう。 

「よぉし… いいぞ、ポチエナ…」 

大きい方のイヌが、ゆっくり近づいてくる。 

…もうだめだ。 こんな事なら最初っからお金を差し出しておくべきだった… 


死んだら、何にもならないじゃないか…! 


「うわ… うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 

ボクは力の限り声をあげる。 

「うわっ!?」 

「う… うるせぇな、クソガキ…!」 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 

力の続く限り… 必死に、必死に… 

…それしか、無かったんだと思う。 

とにかく、必死だった。 

「チッ… ポチエナ、そいつを黙らせろ! 誰か来ると厄介だ!」 

「あ… は、はいっ!」 

ポチエナは、ボクの首を前足で押さえつける。 

「ぁ… ぁぁ…」 

…ダメだ… 




かあさん… 


「…ちっ、これだけしか持ってねぇのか…」 

「苦労した割にはたいしたこと無いですね、アニキ。」 

…あぁ、そうか… お金、取られたのか… 


ボクは… どうなったのかな…? 


…いや… どうなっちゃうのかな…? 


まだ、息はできるみたいだ。 


これから、殺されるのかな…? 


…死にたく… ない、なぁ… 


……。 





………。 





…………。 


「ねぇ…」 


……。 


「ねぇ、起きて…」 


だれかが… よんでる…? 


「起きてってば…」 


聞き覚えのある、声… 


「死なないでよ…」 


…そうだ… 



ボクは、まだ… 死ねない…! 


「あぁぁっ!!」 

…飛び跳ねるように、起き上がる。 


「うわっ!?」 


…そこには… 


「よ… よかった…」 


…見覚えのある、姿が。 


「え…?」 


「どうしたのさ、こんな所で倒れちゃって…」 


聞き覚えのある、声が… 


「…死んだかと思ったよ…!」 



…いつものように、抱きつかれた拍子に毒のトゲが刺さった。 


…ロゼリアが、生きていた。 

ボクは嬉しくて… トゲの痛みも忘れ、 
ただ、ロゼリアに抱きつかれて泣いていた。 



…ロゼリアは… いわゆる、“夜型”だった。 
あの日の夜… どうしても寝付けなくて、一人で外に散歩に出かけたらしい。 

…そして… 予想外に帰るのが遅くなり、帰ってきたときには… 


「本当に… 今の今まで、必死に探してたんですから…!」 

「ゴメンね… ボク、ロゼリアが死んだと思って…」 


…お金は奪われたけど… それ以上に大切なものが、かえってきた。 
それが偶然だったのか、必然だったのかは解らないけど… 


−第三部 完− 


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