---------------地上50階・オフィスエリア---------------


やや入り組んでいた地下エリアとは違い、
十字の網目の様に繋がった廊下を走りぬけながら精神を集中させ、
この建物の何処かに居るアヤを探していく。

この辺りは廊下も閉鎖されてはおらず、
ビルの社員も避難したのか誰の気配も感じなかった。


「オイ、アヤの位置はまだ判んねぇのか?!」
「ん〜…さっきの竜の魔力が強すぎてアヤさんの波動が感じないんだ…」


レイは建物内に感じる魔力を読み取っていくが、
先程の竜の魔力が周囲に充満し、アヤの波長がかき消されていた。

「クソッ! …ってぇ事はもうアイツ起きちまったのか?」
「かも知れない…あの麻酔弾、本当は人間用だから…。」
「にんっ?!・・・・・んなモンがよく竜なんかに効いたな…」
「あの竜、人間っぽく変異してきたから…もしかして効くんじゃないかと思って。」
「成る程、テメェらしいぜ…ったく。」


二人はそのまま廊下を走り、廊下の角を曲がった・・・・と、


―"バパンッ!"―

「「?!」」


通り過ぎたT字路の壁に数発の銃弾が撃ち込まれ、
二人は瞬間的に引き返して通路の先に銃を向けたその先にーー

「こっちよ!」

「アヤさん?!」
「あ、てめ…! やっと見つけたぜ!」

声で呼ぶより早いと判断したアヤが銃声で二人を呼んだのだった。
3人は一箇所に集まり、周囲を警戒しながらも次の行動を考えていく。

「アヤさん、成果は?」
「私の方は完了。貴方達は?」
「こっちは拙い事ンなった。例の竜が暴走してやがる。」
「暴走? 貴方達の力でも倒せないの?!」
「ん〜・・・・倒す事は出来るけど、アヤさんの力で一旦封印して欲しいんだ。」
「・・・・・OK。貴方がそういうのなら、それが一番良い方法ね。」
「ったく、面倒な事になっちまったぜ……」
「ボヤいても仕方ないよ。 ……あ、これアヤさんの装備〜…」

レイはポーチに入れておいたアヤの装備を取り出し、それを渡そうとした瞬間



―"ゴゴォンーー………"―


『?!』



硬い物が打ち砕かれる様な音と共に建物全体が微かに揺れ動いた。

「……おい、今のぁ……」
「来た、ね………どうしよう…?」


―"ゴゴン………ゴ・ガン…………ゴゴォンッ……"―


二人がため息混じりに呟く間にも音と振動は激しくなり、
次第にその相手が近づいてきたのが分かる。

「決まってるでしょ、広い場所に誘い出すのよ!」

アヤがそう叫んだのと同時に、


―"ガゴォンッッ!!!"―


廊下の突き当たりの壁と床が轟音と共に打ち砕かれ、
数分前に見た時よりも一回り身体が大きくなったドラゴンが穴を上って来た。

「なんだか、さっきより大きくなってない…?」
「んな事ぁ見りゃ分かる! それ以前にドコに誘うんだ?!」
「屋上よ、ヘリポートがあるからそこまで走って!」


―"チャッ、バババァン!    バシュッ!・ヴォゥンーー…"―


アヤが竜に向けてM93Rを撃つと弾が着弾する直前に四散し、
竜の正面に3つの光る魔方陣が描かれた。

「?! 何をやった?」
「魔力反発の障壁よ。あれでも数十秒は足止め出来るわ。」

竜は3人の方へ突進しようとしているが体が磁石同士が反発される様に弾かれ、
魔方陣のこちら側へ通過する事が出来ないでいる。

「さぁこっちよ!」
「オイ、こっから最上階まで走れっていうのか?!」
「今はそれしかないって! ホラ行くよ!」


3人はフロアの隅の廊下を走るようにしながら、
途中アヤが後方に魔弾で障壁を発生させつつ進んでいった。
その間にも前に発生させた障壁が消滅し始め、
通路の壁を壊しながら進む竜の音がフロア全体に振動となって伝わって来る。


暫く進んだ所でアヤが立ち止まり、壁と天井を見比べ始めた。

「ン、何やってんだ…?」
「確か…この辺が…………あった! ゼル、この壁を壊して!」
「ンぁ? まぁ、分かった。」

ゼルのグゥスフォーリを炸裂弾に装填し直し指示された壁を撃ち抜くと、
見た目頑丈そうな壁の一部が派手に崩れ、その奥にエレベーターシャフトが現れた。

「え?! なんでこんな所に…?」
「さっき上層階に行った時、此処と同じ所の壁にエレベーターが有ったのよ。
 コレは非常用だから最上階から地下まで続いてる。
 この中を上れば一気に屋上まで行けるわ。」

シャフトの中を覗くとエレベーターは稼動してない様子で、
上の方から微かに風の音の様なものが聞こえてくる。

「上るって……映画みてぇにケーブル切れってぇのかよ。」
「それ位じゃエレベーターは落ちないわ。レイ、アレをお願い。」
「んぅ、またぁ…?」
「あ? 又って〜……まさか…」
「? 何、そのイヤそうな顔は…?」

「「なんでもない・・・」」

二人の態度にアヤは怪訝な顔をするが、
すぐさまシャフト内に魔力壁を張り空中を歩けるようにし、その中央に立った。

「二人共早く、もう弾も少ないわ。」
「いきなり現れて好き勝手言ってくれるネェ〜…」
「今はボヤいてる場合じゃないでしょう?! それより…レイ、早くして頂戴!」
「むぅ〜…分かりましたぁ……」


レイは渋々と魔力壁に乗り、両手の銃に魔力を込め出した。
それに合わせて残りの二人もレイの体にしっかりと掴まり、上昇の準備をする。

「レイ、スピードの調整は私がするけど、ある程度加減はしてね。ゼルもお願い。」
「あ?…ったく、分かったぜ…。」
「了解〜。それじゃ……」


二人が頷くと同時にフロア内に聞こえる轟音が近づいていき、
開いた穴正面の通路に竜が姿を現した。

「グルオォォッッ!!」

―"…バシュゥ………ヴォゥン…"―


竜が3人目掛けて突進してくるのを見ながら
レイは両手の銃に魔力を集中させ………


―"ドゴ!・・・・・"―

―"チャッ、ヴァゴォォンッッ!!!"―

竜の頭が壁の穴に入った瞬間にレイはトリガーを引き、
撃ち出された爆風で竜を吹き飛ばすと同時に3人の体を持ち上げーー

―"ガチャッ・ドゴゴゴゴォンッ!"―

ゼルがシャフトの天井を打ち砕き、勢いをつけたままビルの上空へと飛び上がり

―"ポゥ・・・・・ヴァヒュンッ!"―

上昇速度がゼロになった瞬間アヤが魔力を凝縮した衝撃波を掌から撃ち出し、
適度な反動を作り出して3人の体をヘリポートの中央へと導いた。


「・・・・っと! ふぅ……何とかうまく行ったね。」
「えぇ…にしても、良く私の考えてた事が分かったわね?」
「勘だ勘。 テメェらは行動が読み易いんだよ…。」
「それはゼルの方が一番読み易い行動パターンだと思うな……」


レイは軽く伸びをしながらヘリポートの下を覗き込んだ。
地上にはビルの周りに複数の車や大勢の人が集まっているのが見え、
上空には警察や取材のヘリが飛び回っているのが分かる。


「……なんだか人が集まってきてるね〜…」
「ん? じゃ、此処でアイツを仕留めねぇと拙いか…」
「まぁ、彼も私達と離れたくないみたいだし…相手してあげましょ。」

アヤが言うと同時に先程通り抜けたエレベーターの穴から轟音が聞こえ、
次第にその音が近づく様に大きくなって行き………


―"ゴゴッ・・・・・・・ゴガァァンッ!!"―


3人が開けた穴を更に広げ、竜が巨体を現した。

「さっき、結構爆風を当てたのに・・・全然効いてないね……」
「だな…。で、俺達ぁどうすりゃ良いんだ?」
「貴方達は竜の注意を逸らして。最低でも奴に3箇所、私が弾を撃ち込むまではね…」
「分かった…んじゃ、かますぜレイ…!」
「OKッ!」


レイとゼルは同時に竜の左右に回りこみ、竜の体に掌打を打ち込んで竜の気を引き、

―"バァン!   バスッ、ヴォゥン・・・!"―

それと同時にアヤが竜の胴体に拘束魔術の弾を撃ち込むと
着弾部分から光が発生し、竜の体に文様のように伝わって行った。

「よし・・・・次はこっちだッ!」

―"バッ、ガガガガガガガァンッ!!"―
    ―"ヒュッ、 ガス!・ドゴッ!"―

「グガゥッ!」

ゼルの声と共にレイが上空に飛び、竜の頭上を横切りながら弾丸の雨を浴びせ、
それと同時にゼルが竜の足を払う様に回し蹴りと尾撃の2連打で竜の体勢を崩させた。


―"タッ・・・・ザッ。"―
         ―"バァンッ!"―

「ガッ! グオアァッ!!」


その隙にアヤが一瞬で竜の右後方に回り込み、
竜の腰辺りに弾を撃ち込むと同時に向きを変えて竜の左後方にいるゼルの方へと走り、

―"ブォンッ!!"―

「フッ…!」    ―"タンッ・ヒュ・・・・・ザスゥー…ッ!"―

アヤ目掛けて薙ぎ振られた竜の尻尾を側宙で回避してそのままゼルの横へと着地した。

「後一つ、バックアップ!」

「「了解!」」

アヤの指示と共にゼルとレイは竜の正面に走り、
レイは竜の足元に・ゼルはその手前に位置取り攻撃を仕掛け……と、

「グルガアァァッッ!!!」

―"ブァンッ!!"―

3人の位置取りが決まった一瞬の隙を突き、
竜が両腕と尻尾を思い切り振り回して3人を払い除けた。


―"ヒュッ  ドゴッ・バシィッ!!"―

「グァッ!」
「うわぁッ!」
「キャァ!」 ―"バパァン!  パスッ。"―


3人は竜の腕と尻尾に思い切り薙ぎ払われ、
アヤが吹き飛ばされながら撃った弾が竜の尻尾にギリギリ着弾した。

「・・・・ックゥ! あの体は伊達じゃネェな…!」
「・・・っと! 危なかったね〜……ん、アヤさん?!」

二人は吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、
ヘリポートの転落防止柵に掴まりなんとかその場に留まる事が出来たが
尻尾に吹き飛ばされたアヤは二人と反対の位置にある柵の向こう側に片手で掴まった状態になっていた。


「アヤッ!」
「私は大丈夫! 奴に弾を当てたから早くッ!」

見ると竜の体に着弾した夫々の弾から発生した幾何学的な模様が竜の全身を包み、
その動きは水中に居るかの如くゆったりしたものになっていた。

「お、おい! 早くったって…どうすりゃ良いんだよ?!」
「気絶する位の攻撃を加えてッ! そうすれば何とかなるわ!」
「んぇッ?! 気絶って〜、そんな攻撃方法持ってないよ!」

二人の体術では竜を気絶させる事は不可能だが、
武器を使ってしまえば気絶どころでは済まないダメージを与えてしまう事になる。
だが二人が悩んでいる内にも竜の体を包んでいる光の文様が僅かではあるが薄れて行き、
竜の動きもそれに伴って少しずつ素早さを取り戻して来る。

「……クソッ! こうなったら派手な奴をぶち込むしかねェか…!」
「んっ…確かに、これ以上被害は出せないし…」

二人は銃を抜き、竜に向けてトリガーを引き絞ろうとしたーーーその時



―"………ーーーーゥゥゥウウゴオォーーー!!……………"―



一機の偵察用ホバータンクが猛スピードでヘリポートの真上を通過し、
急激で不安定なターンを繰り返しながら方向を変え、またこちらに向かってきた。

「!? な、何だァッ?」
「ちょっ・・・・突っ込んで来る?!」

―"ヒュイイィーーー……ヴォヒュゥンッ!!"―

戻ってきたホバータンクが竜の頭上ギリギリを通過すると同時に急ターンをし、
二人に向き合う形で何とか静止して、異様なマイクのハウリングが周囲に響き渡った。


―"フィキイィィーン!………  【あ、あ〜・・・センパイ、聞こえますかぁ?!】"―

「!!、まさか・・・フィー?!」


スピーカーから聞こえた声に驚きを隠せない二人だったが、
ユラユラと近づいてくる機体の操縦席には確かにフィーの姿があった。

「オイ! 何でテメェが操縦でき・・・・」
【今から援護しますッ!!】
「へっ…?! え、援護って…」


―"ヴィー……ガコ・ガシャッ!"―

ゼルの声を遮る様に大音量でフィーの声が響き渡り、
それと共に機体の下部から20ミリバルカンが稼動し・・・何故か二人に狙いを定めた。

「!! フィー…オート照準切ってない…」
「何ィッ?!」


―"キュゥーーー………ムヴア゛ァァーーー!!!"―
              ―"チュン・バキン・ガラララララララッ!!"―


二人の顔が青ざめると同時に砲身が回転し出し、
装填されていた威嚇・演習用の弾頭が二人めがけ一気に発射された。

「おわああぁぁっ!!」
「だあぁッ! 何処狙ってやがるッ!!」

炸薬の詰められていない弾頭が周囲に兆弾し、
ヘリポート上はさながら線香花火をばら撒いた様に火花が飛び散っていく。


【あっ?! す、すみませんッ! 勝手に先輩達を狙っちゃいました…】

―"キュゥゥ〜……  ガシャッ"―


その事態に何とかフィーも気づいた様で、
慌てた声と共にバルカンが格納され、代わりに小型のデコイ・ミサイルが現れた。


「ッ!、テメェいきなり何しやがんだッ!!」

【ひゃっ! ご、ごめんなさいッ! ちゃんと説明書読んだんですけど〜操作が…】

「せ、説明書って……そんなものドコにあったの?!」

【これは〜その、輸送機のコンテナの中にあって……、
  輸送機のTVで皆さんの活躍を見たので、コレで援護しに来たんです!】


フィーがそう言うと同時にミサイルのアームが動き、
ミサイルを固定しているアームが変な動きをし始めた。


「?! こ、今度は何を…」

【あっ…な、何かのボタンに触っちゃって…画面にいろんなモノが表示されてます〜ッ!】

(画面に…? そうだ、あの弾頭は…!)
「フィー聞こえるッ!? そのままミサイルを発射してッ!」

【えっ?! え〜とぉ…沢山ボタンがあって……あ〜もう! 適当に押しちゃえ〜ッ!】

「あ、ちょっとフィー変な所押したら…?!」


アヤは慌てて制止しようとしたが、
フィーはコンソールに並んだボタンやレバーを片っ端から押して行ってしまった。



―" ガシャ・ヴィー・ボゴォ〜!・ピカッ・ヴァシュンッ!・ボシュッ!! "―



それと同時に機体から車輪が飛び出し、ガトリング砲身が動き、
補助ブースターが作動すると同時に指示用ランプが点滅し、
ミサイルが発射体勢に移行し・・・・・・・フィーが座席ごと真上に撃ち上がった。


「へ・・・? わきゃあ〜〜〜〜!!!」


脱出レバーによって座席ごと打ち上げられたフィーの上昇速度がゼロになった瞬間、
フィーの体が座席から浮き上がり、一瞬空中に留まった後落下を始めた。


「あッ! フィー、座席のベルトしてないわ…」
「何ィッ?! ったくあのドジガキはぁッ!」  ―"バシュゥッ!!"―
「何時もこうなんだからぁッ!!」  ―"ダンッ、タスッ!"―


ゼルはフィーを追う様に上空へ飛び上がり、
レイもそれに続いて操縦者を失った機体へ素早く飛び移り、
座席がないまま立ち乗りをする様に操縦し、機体を水平に保った。

上空に飛び上がったゼルは瞬時にドラゴンへと変身し、
すれ違う様に落下していくフィーを、翼を狭めて急降下しながら追い……


―"バクンッ!"―

「んわぅっ! ・・・・・あ、あれ…ドコここ…?」
「テメェ、アヤの指示を少しは聞けッ!」
「へ……えっ?! ゼルせんぱ・・・んわぁっ!」


屋上に落下する寸前の所でゼルが口で受け止め、そのまま急上昇して体勢を立て直した。
ゼルの頭が真上を向いた事で口内のフィーは慌ててゼルの舌にしがみ付くが、
急激なGが体に掛かり少しずつ喉の方へとずり落ちていく。


「わあぁっ! ぜ、ゼル先輩・・・出してください〜ッ!」
「テメェが居ると戦いに集中出来ねぇ! 腹ン中入ってろ!」

グイッ、ググ・・・・・ゴクンッ!


ゼルは舌にしがみ付いたフィーを上顎に押し付け、
フィーの手を引き剥がす様に舌を動かしてそのまま飲み込んでしまった。

「えっ?! 先輩ちょっ……んきゃああぁぁ〜〜……!」

ヘリポートの上を飛ぶゼルの喉からフィーの叫び声が聞こえ、
その“安全”を確保できた事が分かった。

「フィーはもう大丈夫か〜…んじゃ、コッチも一気に行きますかぁ!」

レイは二人の状況を確認すると機体を操縦し、竜の正面に向かい……


―"ビピッ  ガシャ……ヴァシュ!・ヴァシュンッ!!"―


操縦桿のボタンを押すとアームが下がり、
装着されていた2発のデコイミサイルが竜に向かって飛んで行き


―"ゴガァンッ!・ドゴゥッ!"―

「グガアアァッ!!・・・・・・・グッ・・・ガゥ・・・・・・」


竜の頭と腹部に強烈なパンチを打ち込み、
その衝撃で軌道を逸らしてエレベーターの残骸の山へと突っ込んで止まった。

「よし…やったわ!」

発射の結果を確認すると同時にアヤはヘリポートの上に飛び戻り、
自分の銃と腕に魔力を篭め……

「これで・・・終わりよッ!」

強烈な打撃で意識が朦朧としている竜に向けて、青く輝く魔弾を撃ち放った。



―"ヴァギュンッ!!   バシュ・キュアアァーーー……!!!"―



光が竜に着弾するとその全身を青白い光の球体が包み込み、
その内部から感じる魔力の波動が急激に小さくなっていく。


―"フィィンーー………  ドサッ、カキン・・・・・"―


そして数十秒後、球体の光が弱まるとその中から2人の男が出現し、ヘリポートの床に倒れこんだ。
その様子を見ていた二人も夫々へリポートに着陸し、アヤの傍に駆け寄っていく。

「ンッ・・・お、上手くやった様だな…」
「よっ…と。 ふぅ……ちゃんと分離できたね〜。」

レイは倒れている二人の男…研究所のチーフと実験室で飲み込まれた男に近づき、
二人の体の様子や健康状態を調べていく。


「んァ? そっちはさっきの奴だが…もう一人居たのか?」

「ン、そう…偵察潜入の時に襲われてるのを見たし…
 まぁ、あの時にドラゴンの性質も理解したんだけどね。」

「さっきからあの竜に感じていた変な気配は…この二人だったのね。」

「そ。元が複数の遺伝子データを合成したキメラだからね…。
 一定レベル以上の生命力を持つ個体は単に融合するだけで、
 完全には取り込めなかったんだと思う。」

「ったく、こいつ等のせいで散々時間食っちまったぜ……」

「まぁ、そうボヤかない………………ン…?」


レイは男達の横に落ちていた、水晶の様な光沢を持ったゴルフボール大の球体を拾い上げた。

「? レイ、それは何…?」
「コレは……今回の“証拠”かなぁ…♪」
「ハァン・・・証拠ねぇ…。 まぁ、指示された事ぁ片付いたし、そろそろ帰るとすっか…」

ゼルはドラゴンの体のまま伸びをし、周囲を軽く見渡した。
フィーの先ほどの大暴れがあったせいか何時の間にかヘリの群は居なくなっており、
今なら大して騒がれずに帰還できそうな状況だ。

「ん〜…この二人も健康に問題はなさそうだし、後は警察に任せた方が面倒も無さそうだね。」

レイは横目で倒れている男達を見ると水晶球をポケットにしまい、
座席の無い偵察機に立ち乗りをする状態で乗り込んだ。

「じゃあ私達も帰りましょうか…。」
「だな。」

ゼルとアヤもレイに続いてヘリポートの端へ歩き出した・・・・・と、


(ちょ、ちょっと先輩〜! 私はどうなるんですかぁ〜?!)


ゼルのお腹からくぐもったフィーの声が響いてきた。

「んァ? あ〜…吐き出すのもメンドくせぇから、テメェはそのまま入ってろ。」
(え、えぇっ!? 暗くて狭くて・・・なんだか怖いですぅ〜!!)

そう言ってゼルは自分のお腹を軽く叩いた。

(んわっ! "ボフン。" んぅ〜…もう! 出してくださいってばぁ〜!)

胃壁が急に動き、フィーはバランスを崩して胃の底に尻もちをついた。
何とか立ち上がり胃壁を叩いてみるが、ゼルは気にする様子も無く翼を広げる。


「俺の背中に乗ってクソ寒い突風受けるよりぁマシだろ? 行くぜ。」

「私は駐車場のトラックを回収してから行くわ。
 この騒動なら、騒ぎに紛れて抜け出すのも簡単そうだし。」

「OK〜。じゃ、あの場所で待ってるよ。」


アヤはそういうと壊れたエレベーターの穴に飛び降り、
レイも偵察機のブースターを稼動させて飛行モードに入った。

(ちょっと・・・私、このまま帰るんですかぁ?!)

「その方が楽だって。ゼルの中なら安全だし、タクシーだと思えば快適だよ?」
「テメェ、言いたい放題言いやがって…」


―"バサァ………バヒュウッ!"―

―"キイィィーー…………ボゴオォーーー!!"―


(さ、寒くても良いですから出してくださいよぉ〜〜〜!!)


ゼルの羽ばたきとホバータンクのブースター音にフィーの叫び声が重なる中、
3人の姿は街のざわめきに溶け込む様に夜空の向こうへと消えていった。

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