---------------ゼル&レイのパート:地下4階・研究生物保管庫---------------


《………オイ、準備はできたか?》
《・・・・・・・・・ンム・・・・・ん〜・・・・なに?》
《テメェ…こんな時に寝るんじゃねぇッ!!》


グニュッ、ギュムゥッ!…グニィッ………

「うぎゅぅッ!」


《……よぉ、目ェ覚めたか?》
《さ、覚めた・・・・・・・あぅっ・・・・・》

ゼルは胃壁を思い切り収縮させて、
胃の中で眠りこけていたレイを揉み起こした。


あの後、二人を乗せたコンテナはリフトに運ばれ、
実験機材を保管する倉庫へと移動していた。

《ったく!…もう目的地に着いたぜ。》
《ン〜・・・・・あ、そう?……ゼルの中が暖かくてさ。つい……》
《テメェは本当に緊張感無ぇよな……》
《で〜…その周囲はどうなってるの?》
《俺もまだ外に出されてねェが〜〜・・・・・人の気配はしねぇな…》
《じゃあ、吐き出して貰っても平気?》
《ん、まぁ大丈夫だろうな………ングッ……》

ゼルは胃壁を動かしてレイだけを食道まで押し上げ、
コンテナの床に頭を近づけてゆっくりと吐き出した。


グチュゥ………クブ……グパァッ  ―"ズル・・・・・ビチャッ!"―

「う・・・・ぁ・・・・・あうっ」


《オイ、声出すんじゃねぇ!》
《ゴメンッ、つい……》


全身をゼルの体液で濡らしながらレイは音を立てない様に立ち上がり、
コンテナの小窓を少し開けて外の様子を窺った。

《………外には、誰もいないみたいだけど……ガンカメラが2台見える。》
《ガンカメラ?……AI仕様か?》
《そんな感じだね。 ゼルの能力でなんとかならない?》
《ん? カンタンだぜ……  "ヴォウンッ・・・・・・・"  》


ゼルが扱える特殊能力  “Hack・In”  これは自らの意識を無機物に侵入させ、
『生命以外の物』全てを自分の支配下に置き、操る事が出来る。

この能力を前にしてはあらゆるセキュリティも無効化され、
その電子回路内は完全にゼルの支配下に置かれる事になる。


ゼルは精神を集中して自分の意識を体の外へ飛ばし、
ガンカメラと思しき物にリンクさせてAIシステムを操った。

―"ピピ・・・・・・・ピー  パキュ… "―

小さな電子音と共に、カメラのアームが項垂れる様に下を向いた。

《……OK、ダウン出来たみたい。》
《フン、俺のハックに侵入出来ねぇ物は無いさ。》
《あのデータだけは、無理だった見たいだけど〜。》
《グゥ・・・・・それは言うな…》
《じゃあ外に……ん? 鍵がかかってる…。
 ゼル、装備の袋も吐き出してくれる?》
《ん?分かった………ング………カハッ!》

ゼルが吐き出した袋を、レイは音を立てない様に床に並べていく

《あ〜あ、こっちもベチャベチャ。ま、好都合かな…》
《?? ど〜ゆ〜こった?》
《見ててよ……フフフ…》

レイは袋から自分のホルスターベルトだけ取り出すと、
それを身に着けてから両手に魔力を集中させた。

チュプッ パシャ……

すると袋や体に付いていたゼルの体液がレイの両腕に集まり出し、
手のひらを覆う形で凝縮されていく。

《おい……何すんだ?》
《ちょっと下がってて。まだ慣れてないから…》


―"シュプ……  ピュン、パシュゥッ。    ガ・・・・・コンッ!!"―


レイの両手の指から糸の如く超圧縮された水が鞭の様に走り、
コンテナのドアを枠ごと、音も無くバラバラに切り裂いた。

ドアが崩れ落ちる前にレイは外に飛び出し、銃を抜いて周囲を警戒する。

「…………誰もいない、か……。
 ゼル〜、もう出ても大丈夫〜。」
「お、おい……今の水操術かよ? テメェ、水魔法は苦手だっつってただろ?!」
「あ〜…前は苦手だったんだけどね。
 色々と練習してみたら、これくらいは出来る様になったんだ。
 …まぁ、短時間しか持たないけど。」

レイがそう言った直後に両腕の水の塊が砕け、
床に落ちて元の液体に戻ってしまった。

「へぇ…やるじゃねえか。今度の訓練の時ぁ本気で勝負してくれよな。楽しくなりそうだ…♪」
「分かったけど、今は任務の方が先だよ〜」
「フン、俺の腹ん中で居眠りしてたオメェが言える立場かよ。」
「それはお互い様。 ……じゃ、作戦開始だね…」
「あぁ、ブチかますぜェ!」


ゼルは竜人の姿になり、レイに続いてコンテナの外に出た。
二人は素早く装備を整えてアヤの分の装備とビニール袋をポーチにしまい、
部屋の隅にあった研究員用通路の前に移動する。

「んで、これからどうする?」
「先ずは時間合わせをしよ。 後4分位で作動させる。」
「OK・・・じゃ、俺ぁ向こうを見張ってる…」


ゼルは貨物の搬入口、レイは人間用通路のドアに近づき、
警戒をしながらその場で待機した……



---------------アヤのパート:1階・廊下---------------


地上階ではアヤがまだトイレを探していたが、
さして急ぐ様子も無く廊下を歩いている。

(………ホント、男って助平ね…)

やや距離を置いて、さっきの警備員がアヤの後ろをつけている。
本人は隠れているつもりなのだろうが、その下心のある気配で尾行は完全にバレていた。

(…そろそろ良いかしら…)

アヤは歩く速度を速め、そのままトイレに入っていく。


カチャ バタン。   ―"フィイン…"―


ドアが閉まると同時に奇妙な音が聞こえ、
それに続いて警備員も同じトイレへと入った。

「・・・・・? あの女、どこに行った…?」

室内を見渡すが、入った筈のアヤの姿が見えない。
個室の区切の隙間を覗いても、誰も居なかった。

「………変だな、確かにこのトイレに入ったと思ったが…」

「このスケベ。」

「?! どこに  "ガスッ!"  ぐあ・・・・・」


女性の声と共にトイレの出入口の壁……正確には、
壁に張り付いた透明な影が動き出し、警備員を殴り倒した。

「ホンットに男ってスケベ心しかないのね…」

―"フィイン…"―


高いノイズ音と共に輪郭だけの透明な人影に細い稲妻が走り、
サングラスの様な物を着けたアヤが現れた。

(ま、この下心が無かったら、私も潜入に苦労するんだけどね……)

アヤは警備員の服を探し、持っていた装備を取り上げて、
気絶した警備員をトイレの個室に隠した。

(武器は……グロックとスタンバトン……。
 予備弾は無し…か。 まぁ、何も無いよりはマシね…)

マガジンの残弾を確認し、アヤはドアの陰に隠れて時計を見た。

      [ 00:01:38 ]

タイマー設定にした時計のカウントが減っていく。
それに合わせて、アヤもトイレから出て廊下へ向かった。

そのまま途中の非常階段まで戻り、
階段をゆっくりと上りながらカウントをする。



一方、地下倉庫の二人もドアの前でカウントをしていた。

《そろそろだな……》
《ン、あと…15秒……………8、7、6……》

レイは起爆装置のスイッチを持ち、通路へのドアを開け……



4ーーー3ーーー2ーーー1ーーー0。―"ピッ"―
 

―"ボゴン!"―
     ―"パツッ……"―



配電設備に仕掛けられたC4が爆発しケーブルを切った事で、
辺り一帯の明かりが全て消えた。

「ヨシ・・・・やったな!」
「余裕は無いよ。暫くすれば自動復帰される筈…早くしよう!」
「ああ。」

ゼルとレイはサングラス型の多機能ゴーグルを着け、
暗視モードにして通路を走っていった。



地上階にいたアヤもカウント通りに電気が消えたのを確認すると、
ゴーグルを暗視モードに切り替えて階段の手すりに飛び乗った。

(上手くやった様ね。 私も急がないと……)

―"タンッ! パシッ…  ダンッ! "―

アヤは階段の中央に開いた1m四方の空間を利用し、
上の階の手すりへ前後・左右にジャンプして上っていった。



---------------ゼル&レイのパート:地下4階・研究生物保管庫---------------


地下の二人も暗闇に乗じて通路を突き進んでいく。

何人かとすれ違ったが彼等は暗視装備をしていなかった為、
こちらの姿は気づかれていない。


《オイ、こっちで合ってんだろうな?!》
《間違いないよ。この前入った時はこの方向にーー》


―"パパ…ツ………  パッ!"―

「「…?!」」


その時、蛍光灯がホワホワと点滅し明かりが戻った。
どうやら予定よりも早く電気が復旧してしまった様である。

二人は通路のド真ん中でかなりの人数に見られる事になってしまった。


「!? 誰だお前っ!」
「し…侵入者だッ!」

「クソッ! こうなったら・・・・寝てろテメェらッ!!」

―"ゴス! バゴッ!  バヂヂィッ!!"―


ゼルは目についた相手を片っ端から殴り、放り投げ、
遠くの相手には雷撃をお見舞いして気絶させた。


「ぜ、ゼル〜・・・・・いくらなんでもやり過ぎじゃない…?」

―"ドカッ!  ボコ! ドサッ……"―

「しゃーネェだろ! ……殺した訳じゃねェんだし、関係ねェよ。」

―"ガスッ!  グイ・・・ブゥン!  ドガッ!!"―

「相変わらず強引だな〜…」
「テメェもだろ!」


二人は口論をしながら廊下を走りぬけ、途中で出会う警備員や研究員を殴り倒していく。



暫く進むと、大きな扉を見つけた。
扉には ――『実験設備・機材保管庫』―― と書かれている。

「・・・お、ここもターゲットに入るか…?」
「だね。 とりあえずココも壊して……」

レイは大して気にせず大きな扉を開けた……その中に


≪!? 侵入者を発見ッ!≫

「「あっ?!」」


数十人の武装した警備スタッフが並んでおり、一斉に二人に銃を向けてきた。
二人は苦笑いをしながらゆっくりと部屋の中に入り、片手でドアを閉める。


「あ〜・・・・・やっちゃったね〜………で、やる?」
「だな………んじゃ……行くかッ!」

―"ヒュッ  タン!"―


ゼルのその言葉と共に二人は左右に跳び、
レイは大きな柱の側面に・ゼルは積み上げられたコンテナの側面に“着地”し、

―"ガガガガァン!"―          ―"ドゴォン!!"―


二人の銃が轟音を立てて天井から吊り下げられた電灯を撃ち壊した。
一瞬で室内は暗闇になり、警備員のざわめきだけが聞こえてくる。

「なっ!?  何処だ!」

―"バパンッ バララララッ!  キュン・チュインッ!・・・・・・・・・・"―

闇の中に警備員が撃ったSMGの銃光が閃いて室内を一瞬照らし出し、
広い空間に兆弾の音だけが響き渡った。


「……居なくなった…?」

男達も即座に暗視スコープを装着するが、それには何も映し出されなかった。
自分達の周囲を警戒しながら、部屋の中央に円の様に集まっていく。

「…何処に行った……」
「だがこの位置なら、奴等がどの方向から来ても…」


カツン・・・・・


「?…今の音は……上っ!?」

男達が天井を見上げるのと同時に、
二人は掴んでいた電灯のコードを離して円陣の中央に降りーーー

―"ブァンッ!!"―

一瞬先に着地したゼルが体を回転させ尻尾で男達の足を薙ぎ払った後

―"パシッ ブン!  ズァガガガガガガァン!"―

その勢いのまま、一瞬後に降りてきたレイの足を尻尾で絡め取り、
レイの体を水平に浮き上がる程の速度で回転させると同時に
その体勢のままレイが腰の2丁銃で掃射を行った。

「「「 ウグァッ!! 」」」

レイ自身の身体を使った横薙ぎのタックルで一番手前の奴等を弾き飛ばし、
その一つ奥側にいる相手には弾丸を防弾装備に連続で撃ち込み、
着弾の衝撃でバランスを崩させた。

「な!・・・・・」

一瞬の出来事で反応する事が出来ない警備員を弾き飛ばし、
今度はレイが体を捻って自分の片手を床に突き刺し
振り回された勢いを利用して足を上げ、ゼルを天井に放り上げる。


―"ブゥン・・・  ガッ、 ドゴゴゴォンッッ!!"―


ゼルは天井に足の爪を掛けて逆さにぶら下がった状態で
男達の足下を狙い弾丸を撃ち放った。


―"カッ ボゴァンッ!!"―

「うグァッ!  "ドカッ"  ぐぅ・・・・・」


特殊な液状火薬を用い、グゥスフォーリの銃身長に合わせて合成された早燃性の発射薬により、
ナノマシン制御を利用した『硬質爆薬』で形成された700NE口径の爆裂弾が極音速で撃ち出され、
床に着弾すると同時に炸裂してその爆風と衝撃波で警備員達を吹き飛ばす。



そして、倉庫内は一瞬で二人に制圧されてしまった。


「ん〜……これだけ?」
「らしいな……よっ・・・ッと。 俺達相手じゃ、少な過ぎだったな。」


ゼルは天井から降り、周囲を見渡した。
男達は尾撃とレイの銃弾をアーマー越しに食らい、衝撃で気絶している。
部屋の隅にはグゥスフォーリの爆風で吹き飛ばされた奴等が倒れていた。


「んじゃ、このコンテナも壊しておくか……」
「ん〜・・・そうだね。」

―"シュッ、ヴゥン…………ヴォシュゥゥッッ!!"―


ゼルがコンテナに魔力フィールドを発生させた後、レイが魔力でプラズマを作り出し、
内部を数億℃にまで上昇させて研究機材をコンテナごと消滅させて行った。

「………っフゥ。 これ位かな。」
「だな・・・しかしオメェ、火と雷の魔法だけはやけに得意だよなぁ。」
「まぁ、ね。一番コツを掴み易かったし。」
「そういうモンかねェ・・・?」

一通りコンテナを片付け終えた二人は、
そのまま倉庫の奥にあったドアを抜けて進んでいった。



---------------アヤのパート:非常階段内部---------------


アヤは非常階段中央のスペースを、テンポ良く飛び上がっていく。
途中の階のドア越しに聞こえた会話で警備体制が強化されたのが分かった。

(こんなに早く復旧されるのは予想外だったわ……
 二人とも、上手くやれたかしら…?)


そのまま手すりを飛び上がって行くと、
50階より上に向かう階段が厚い金属製の防護壁で覆われてしまっていた。
周りを見渡すが、壁を開くスイッチらしき物は見当たらない。

(?・・・・・非常階段にこんな物取り付けて、
 これじゃ非常の意味が無いじゃない…………ンッ…………)


―"ヴウゥーー…… バシュゥッ!"―


アヤは自分の体を服ごと赤みを帯びた霧に変形させ、
防護壁の隙間を通り抜けてそのまま上の階へ上がって行った。


―"……シュンッ"―

(……ふぅっ。これって目が回るのよね〜…)


ある程度上った所の踊り場で変身を解き、パネルを見ながら階段を上っていく。


(59〜…60階、か。 此処で良いかな。)

まずはドアの先に意識を集中させて気配を読み取る。

(通路は横長………右に2人、左に1人………ね。
 この気の集まり方からして、恐らく警備員……これ位なら……)


アヤはスタンバトンを脇に挟むように持ちーーー


―"ドガッ!   タッ・・・・ヒュンッ、バヂィッ!"―
「!? 誰だ・・・・グッ!」


ドアを蹴り開け、勢いを乗せたまま通路の左に走りこみ
瞬時に間合いを詰めると同時にバトンの電撃を頭に食らわせ


「! し、侵にゅ」

 ―"……ダンッ!   ボゴッ!!・バジュッ!"―

「うぁ・・・・」
「グゥッ!  うぅ………」


姿勢を低くし、幅跳びの様にジャンプして2人に接近すると
そのまま一人に当て身を、もう一人にバトンを打ち付けた。

「ぐぅっ…こ、の……ウァッ!」
「ちょっと貴方に聞きたい事があるんだけど…良いかしら?」

アヤはあえて当身を食らわせて気絶させなかった男の腕をねじ上げて壁に押し付け、
銃を男の背中に押し当てながら小声で話しかける。

「な、なんだ…?……」
「このビルにあるメインコンピュータの場所を知りたいの。
 貴方なら、何処にあるのか位は知っていそうだったから…」
「メイン…? そ、それはこの先の、E−6の部屋に…」
「・・・そぅ、ありがと。」

―"タスッ"― 「う・・・・・」

アヤは男の後頭部に手刀を食らわせ気絶させると、
足音を立てずに通路を走りぬけ、目的の部屋へと向かった。



一本道の通路を暫く進むと、小部屋の様に広くなった廊下の一箇所に、
何かの制御装置の様な物と電子ロックのドアがあった。

(これは〜、あのドアの開閉装置の様だけど…もう鍵が外れてるわね。)


モニターには [ System:Unlock ] とだけ表示されている。
ドアに触れてみると確かに鍵は掛かっておらず、スムーズに開いた。

先は無機質な感じのする短い一本道の通路になっていたが、
特に監視カメラや警備システムの様な物は見当たらなかった。

(特に何も見当たらないけど……何か、気になる……)

アヤは一度後方を確認すると、ゆっくりと通路に入っていったーーーーと、


―"ピーー  ガコン。  ビピピピッ………"―

「?!」

通路の半ばまで来た時、ブザーと共に前後のドアの手前に隔壁が降り、
左右の壁が淡く光り点滅を始めた。
それと同時に手前の廊下にあったモニターにも変化が現れる。


---------------------------------------------------------

Personal Scanning : Non-registration

Explosive Scanning : Level―2


Code RED ― 〈 GUARD SYSTEM ACTIVATED 〉

---------------------------------------------------------



―"ヴゥォン・・・・・・   ピシュゥッ!!"―

「!」


途端、左右の壁が光り出しアヤを目掛けてレーザーの糸が迫ってきた。

―"グッ ダンッ!"―     ピ…………ポトッ。


アヤは天井に飛び上がり、指を天井の隙間に突き刺して体を持ち上げ水平にすると同時に
動きを追跡してきたレーザーが背中ギリギリの所を通り抜け、ベストの端が切り落とされる。


―"ヴゥーー・・・・・・  ビュイィーーー!!"―


今度は床と天井が光り出し、レーザーが柵の様になって迫ってくる。
アヤは片手に魔力を集中させて光らせ、レーザーの速度に合わせる様に走り出しーーー


―"ビュィッ!"―  「フッ!」  ―"パシッ・・・・・ダン!"―

直前で角度を変え、横に回転し始めたレーザーに合わせて体を捻ると同時に
光らせた手をレーザーに這わせてその熱を掌に吸収し、レーザーの柵の間をすり抜けて着地した。

(フゥン・・・結構な熱量じゃない。これなら…)


今度は通路の入り口側が光り出したのを確認すると出口側の隔壁まで接近し、
熱を帯びた手をレーザーに向けながらもう片手を隔壁に押し付ける。

―"ビィーーー・・・・・・ヴォゥンッ!"―

それと同時にレーザーが発動し、通路の半ば辺りで網目状に変化して接近してきた。

(来たわね・・・・・)

アヤは片手を光らせながらも微動だにせず、レーザーを待ち構えーー


―"ビュゥーーーバチュッ!"―
           ―"ヴァジュウウゥゥゥーーーーッ!!"―


レーザーが手に触れた瞬間に全ての熱を吸収して隔壁に押し付けた側の掌に伝わらせ、
隔壁そのものを部屋の一部ごと溶かし去ってそのまま部屋へと飛び込んだ。


「・・・・・フゥッ。ちょっと強すぎだったかな…?」

アヤは燻っている壁を見ながら、手に纏わり付いている溶けた金属片を
体に残っていた熱を使い、一瞬で蒸発させてしまった。

「まぁ、目的地には辿り着けたわね…」


抜けた先には少し広めの室内になっており、
そこには大型のコンピュータが所狭しと並んでいた。

(・・・・・でもコレ全部確認していくのは辛いわね……。
 ゼルが居ればもう少し楽だったんだけど〜…仕方ないか。)


アヤは手近なコンピュータを起動し、ネットワーク状況等を確認していく。

(……コレは、この建物内部を全て繋げているみたいね。
 ………!、データもあった…後はこれをDLし終わったら……)


制御システムをハッキングして建物全てのネットワークを連結すると
足首に隠していたメモリーユニットをスロットに入れ、
目的のデータをユニットにDLすると同時に、予め用意しておいたプログラムを起動する。

それと同時に室内全体のコンピュータも同時に起動し、
全ての画面に [ Auto destruction program - ACTIVATED ] と表示されていった。

暫くすると全てのモニターが端から消えて行き、一番奥にある一つだけが残った。
それと同時に部屋に警報が鳴り響き、アナウンスが流れ始める。


【 中央システムに異常が発生しました 予備制御モードに移行します 】

「!・・・・何?……」


それに伴って部屋の電気が消えて行き、
モニターの電源も落ちてしまい室内は真っ暗となってしまった。

「こうなったら直接破壊するしかないわね……」 ―"ヴォウン!・・・・・"―

ユニットを引き抜きブーツの中に入れると、アヤは魔力で保持していた熱の残りを掌に集め、
高温の球を室内に放り投げると同時に部屋から飛び出しその場に伏せた一瞬後


―"ボゴオォォゥーーーー…………!!!"―


破裂した光球から熱波が溢れ出して部屋に充満し、
室内のコンピュータを焼いて余った勢いでアヤの服も軽く焦がした。

「熱ッ!・・・・・・・んうぅ……ちょっと無茶だったかしら…?」


振り返ると室内のコンピュータは熱波の直撃を受けて外枠ごと変形し、
床や天井から化学繊維の焦げる独特の臭いが漂ってきた。

「……初めからこうすれば早かったかな……ま、どうでも良いか。」

立ち上がって服を整えると、ゴーグルを暗視モードに切り替えて元来た方へ走っていった……



---------------ゼル&レイのパート:地下3階・生態研究エリア---------------


一方、地下の二人も複数の倉庫や実験室を抜けながら、
室内の機器やデータを破壊し続けて地下3階に上って行った。


3階に着いた後も各部屋の設備を破壊しながら、廊下を走っていく。

「オイ、オメェの見た竜ってぇのはこの辺にいるのか?」
「確かこの辺だったと思うよ。この先のC・・・・」

その時通路の明りが全て消え、警報と共にアナウンスが流れて来た。


【 中央システムに異常が発生しました 予備制御モードに移行します 】


「!……何だぁ?」
「静かにッ・・・・・何か聞こえた……」
「聞こえたって…?  ン!……確かに…」

微かだが、硬い何かを叩く様な音と生物の咆哮の様な物が聞こえた。

「! あっちか…」
「だね…行ってみよう。」



二人は闇の中を走りぬけ、音のした方へと走っていく。
少し進むと、大きな金属製の扉がひしゃげる様に開いているのを見つけた。

「何だぁこりゃ…? 相当な力で殴られた様だが…」
「・・・・・多分ココに、あのドラゴンが隔離されてたんだ。」

室内を見渡すと、広い空間の中央に電磁フィールド式の拘束装置があった。

「あぁ、さっきの停電でコイツが停止しちまったのか…」

ゼルは装置のポールに近づいて状態を調べている。

「んむぅ・・・・・ココにはターゲット指定物は無さそうだね〜……んっ?」
「あ、どうした?」
「イヤ、今何か聞こえ……………!、向こうにいる…」
「向こうって・・・・そっちか!」

二人は廊下へ戻り、音のした方向を確認する。
と、その時新たな警報が鳴り響くと共に、廊下に明りが戻った。


【 A級非常事態を感知しました 機密保持プログラムを起動します 】


「! 非常事態・・・って、あの竜の事か?」
「かもしれないね…」
「とりあえず向こうに・・・・・ンあ?!」


―"………………カンーーカンッーーガンッーーガコンーーガシャン!ーー"―


奇妙な音に振り返ると、背後から隔壁が次々と廊下を遮断してきた。

「クソッ、走るぞ!」
「おわわあぁッ!」

二人は前に向き直ると下りていく隔壁から逃げる様に廊下を走り、
音が聞こえた方へと走っていく。

「お、おい!先が分かれてるぞッ!」
「んぅ・・・・・右ッ!」


―"ガシャン!・・・・ビュィッ!!"―

「…ッツ!」


突き当たりのT字路を横に飛ぶと同時に全ての隔壁が降り、
二人が曲がり角を通り抜けた直後に天井からレーザーの柵が発生し、通路を遮った。


「・・・・くぅっ、物凄ぇレベルの厳重さだ…。コイツぁ〜…ん、レイ?!」
「あ、アハハ・・・・ちょっと、掠っちゃって…直ぐ治るよ。」

見るとレイの片足と尻尾からプスプスと煙が上がり重度の火傷を負っていたが、
数秒後には火傷の跡も判らない程に傷が自動修復されていった。

「…テメェの回復力は異常だな……」
「ゼルだってコレ位直ぐに治るじゃん? さ、行くよ〜!」
「あ、オイ! ったく…!」


2人はそのまま通路を走りぬけ、閉鎖された部屋のドアをゼルの銃で撃ち壊しながら進み、
地下1階の駐車場へと辿り着いた。

「ココぁ……あの駐車場か?」
「そう、みたいだけど〜…ここも封鎖されてるね。」


辺りを見渡すと自分達の乗ってきたトラックが目に入ったが、
そこにアヤの姿は無く、外への出入口も頑丈そうな隔壁で遮られていた。
二人は出入口付近の壁を調べていくが何処も厚く、簡単に破壊できそうな箇所は見当たらない。

「・・・チッ、こうなったらこの壁を直接ブチ抜いーー」
「ン………待って、今何か…」
「あ? どうした。」
「・・・・・気のせい、かな…。今誰かが居た様な感じが・・・」

レイは周囲を見渡しながら駐車場の中央へと歩いていき、ゼルもそれに付いて行くーーと、


―"ヴィーー・ガシャッ。"―  『動くな!』

「「?!ッ」」


モーター音と共に駐車場の大きな柱の一部が扉の様に開き、
そこから重武装した警備員・・・いや、特殊部隊が次々と出現して二人を取り囲んだ。

「警告する、装備を捨てて投降しろ。従わない場合は射殺する!」

二人を包囲した隊員全員がSMGを構え、ゆっくりと近づいてくる。

「あ〜・・・またやっちゃったね……」
「ったく、テメェといるといつもこうだぜ……」

二人はゆっくりと歩き出し、向き合う形に立ってお互いを見つめた。

「オイ何をやってる、武器を捨てろ!」

「・・・・・フン、どうした…撃たねぇのか?」
「ゼル、あまり挑発するような事言うなって、いつもアヤさんに言われてるじゃんか……」

「この…動くなッ!」


二人は互いの“顔”を見つめ合いながら銃に手を伸ばし……


「!!」 ―"バァンッ!"―

二人の後ろ背後から放たれた弾丸を

―"ヴンッ、   ヒュ…  バスッ!  「グアァッ!」 "―

互いのサングラスに映った自分達の背後の状況を察し、
同時に体を逸らせて弾丸を避け同士討ちを誘った。


「な・・・・何・・・?」
「う、撃てッ!!」

一瞬遅れて他のメンバーも応戦をし始めるが、

―"クン、 バスッ!"―     ―"ヒュッ、パシ。"―

二人は体を瞬間的に伏せて全方位から放たれた弾丸をかわし、
ゼルはレイに弾のクリップを投げ渡すと同時にグゥスフォーリを抜き


―"グ・・・ダンッ!   ガツッ、ドゴゴゴゴォンッッ!!!"―

天井まで飛び上がり周囲の柱の“出入口付近”に向けて弾を撃ち込み


―"カシッ・ジャラ…"―

      ―"ヒュッ!"―

          ―"チャキ・カシンッ!"―

自らを落下させながらシリンダーの薬莢を抜き、
それに合わせて地上のレイがクリップをゼルの銃目掛けて投げ、空のシリンダーに装填させて、

―"グイッ  ドゴゴゴゴォンッッ!!!"―
―"ポゥ・・・・・ブゥアッッ!"―

『ぬぅわっ!?』

ゼルは落下しながら空中で体を回転させつつ残りの柱を撃ち抜き、
レイが魔力で風を操り周囲にいる警備員達のバランスを崩させーーー

「行くゼッ!」
「OK!」

―"ヴン・・・・バヂ、ボヒュッ    ドゴォッ!!"―


ゼルの着地と同時に二人は背中合わせで空間の重力を部分的に操作して
辺りに飛び散った柱の瓦礫を高速で飛び交わせ、
それを弾丸の代わりにして周囲の警備員に連続で打ち当てていった。


『うぐぁッ!・・・・・・グ・・・・ゥ・・・・・・』

―"パチッ  ゴトッ……"―


二人の手から軽く稲妻が光ると、宙に浮いていた瓦礫が一斉に床に落ちた。


「……フゥッ。 これで邪魔は入らねぇな。」
「そうみたい・・・だね。 でもあんな場所が通路になってるなんて…」


破壊した柱を見ると、その全ての側面が隠し扉の様になっており、
その内部がエレベーターの様な構造になっているのが判った。

二人は壊れた柱に寄り掛かりながら次の行動を考えていく。

「で・・・・今度はどうするよ?」
「ん〜…先ずはあの竜を探すのが先決だけど、ドコに行ったのか分かんないし……」
「だな〜…どうするか・・・・ン?」
「何?」
「イヤ、今あのドアにな……」

そう言いながらゼルは駐車場の隅にあったドアを見る。
と同時にそのドアが開き、白衣を着た男が飛び出してきた。

「くそっ! 一体何が起こっ………ん?! 誰だお前達は!」

男が周囲を見渡し、ついさっき駐車場で起きた騒動に気づく。

「テメェこそ誰だ? 人が考え事してる時に喧しくしやがって…」
「あぁ、あの人は此処の研究チーフだよ。前に“会った”事あるし。」
「チーフ? ・・・じゃあテメェがこの研究所のリーダー格か…。」

「何だと?!・・・・そうか、この騒ぎは貴様等の仕業だなっ!!」

男は白衣のポケットから銃を抜き二人に向けるが、
二人はそんな事を意に介さずに話を続けていく。

「テメェがチーフだってんなら、今暴走中のヘンな竜を何とかする方法も知ってんだろ。」

「竜?・・・貴様等の狙いはキメラか! アレは渡さんぞ!」

「あのねぇ・・・渡さんって言ってもその竜が勝手に暴れまわってるんじゃ、
 その状態を解決するのが先だと思うけど?…」

「む?……フン、私はあのキメラを操れる。
 アイツが近くに来さえすれば、私の操作で貴様等を襲わせる事も出来るぞ。」

「ほぉ。 そりゃあどんなトリックだ?
 まさかその顔で魔術が使えるなんて言うんじゃねぇだろうな。」

「魔術?…下らん、そんな物を使わずとも・・・・」

男は白衣の内ポケットに手を入れ、小さな装置を取り出したーーーと、


―"ヴン・・・・・パシッ。"―

「?・・・・な、何…!?」


男とは十数m離れた所に居たレイの掌から赤く光る霧が発生し、
その光が男の持つ装置へと一瞬で伸びて行き、
光に引っ張られる様にしてレイの手の中へと装置が移動した。

「…フゥン、自分はこんなモノを作っておいて、
 あの騒動の時には一切使いませんでしたねぇ〜…」

レイは興味深そうに装置を眺めながらも、
その声のトーンが低く・冷たさを感じさせるものになっていく。

「な、何故お前があの事を知っている?!
 止めろ、それはまだ試作段階だ・・・・奴がどんな反応をするのか分からん!!」

「へぇ…そんなモノを持ち歩いて、「自分は大丈夫だ」なんて言うんですか…。
 よくもそこまで自信たっぷりで居られますね〜…。」

―"ヒュッ   カコン。"―

「・・・・・?!」


レイは持っていた装置を男の足元へ放り投げた。

「あ、オイ! 何アイツに返してんだよ?」
「その装置は彼の方が使い方知ってるでしょ? それに………これから忙しくなりそうだしね。」
「ンあ? どういう意味・・・・っと、成る程な…。」

二人が顔を見合わせ、何かを悟ると同時に駐車場の床が微かに振動し、
それに伴って硬い物が崩れる様な音も響いてくる。

「?!・・・・な、なんだこの音は……?」

「何だはねぇだろ。わざわざテメェを追って来てくれた奴によ…」



―"ゴツ…  ……ゴガン…… ガラ・ゴト………ドゴォンッッ!!!"―



二人が駐車場の壁を見ると同時に轟音が響き渡り、
以前見た時よりも更に変異が進んだキメラ・ドラゴンが姿を現した。

「な・・・・こ、こんなに進化が進んでいるとは…!」


竜の外見は全身の皮膚が更に人間に近いものに変化し、
その体から感じる魔力の量も上昇していた。


「コイツぁ結構なオオモノだな……ポイントが高そうだ。」
「だね…。 ま、あの人の装置の出来を見てからにしよっか…」

ゼルとレイは竜とは少し離れた位置で柱に寄りかかりながらも、
神経を研ぎ澄まして隙を見せずに様子を見ていく。
二人の視線の先では男が装置を拾い直し操作しているが、
竜は全く反応を見せずにゆっくりと男に近づいていく。

「む…くそっ、制御が利かん! お前の獲物は奴等だ、私じゃないっ!」

男は二人のいる方に装置を投げつけ竜の注意を逸らそうとするが、
竜は横目で二人を見るだけにとどまり、そのまま男を追う様に歩いていく。

「オイ、アレ・・・・どうする?」
「ん〜…別に良いんじゃない? 自業自得だよ。
 それに……後でも助けられそうだし。」
「はぁ? どういう意味だ?」
「見てれば分かるよ……」

二人が話している間にも竜は男を駐車場の隅に追い詰め、
その巨体で逃げ道を塞ぎながら迫っていった。

「私は違う奴等だッ! ぐ・・・・クソッ!」

男は竜に銃を向けようとするが……

―"ドシィッ!"―  「ふぐァ…!」

軽く振った竜の腕が男に当たり、体を吹き飛ばして壁に叩き付けた。
全身に走る衝撃に男はその場に崩れ落ちる様に座り込んでいる。

竜はゆっくりと倒れている男に近づき、両手で鷲掴みにし……


「グル、ゴウゥ……」

ガブゥッ!!

「ひぎぁああぁぁッ!!」


男の体を牙で挟み込む様に銜え込み、
顎に力を入れて男の胴体に食い込ませていく。


「グウゥ、グォルル…」

ハグッ、クチャ……ググッ……

「ぐあァッ! や、やめてく・・・ ギャァ!!」


竜は男の体を甚振る様に噛み締めながらゆっくりと頭を持ち上げ、
舌の上を滑らせて男の体を全て口の中に収め……


ゴクゥッ!!


動きの止まった男の体を喉の奥に滑り込ませて、
そのまま一気に飲み込んでしまった。


クチュ……ズリュ、ズブッ………グニュッ


竜の喉が大きく膨らみ微かに動いて、
喉の中で男が暴れているのが分るが竜は微動だにせず、
男が喉を下っていくのを楽しんでいる様にも見える。


「グゥ、ウルルゥ……」

ズリュ………ズプ、ドチャッ。


そして男を胃の中へ納めると一瞬お腹が大きく膨らむものの、
直ぐに萎む様に膨らみが消えていき、十数秒後には元の大きさに戻ってしまった。

それと同時に、やや離れた所に居た二人にも竜の“変化”が伝わってくる。


「ン!………成る程な。」
「でしょ? ま、とりあえず行動不能にすれば、後はアヤさんに〜…ね。」
「チッ、手加減すんのは苦手なんだがな…」
「これも練習のウチ。さ、行くよ!」


―"ギュン!"―
―"ヴゥン………バチ・ボゥッ!"―


二人の気配の変化に竜が向きを変えようとした直後に二人は竜の側面に一瞬で回りこみ、
両手に溜めた雷撃と火炎球を竜に投げつける。が……


―"ヴァフュンッ!!"―

「何ィッ?!」
「無理だ、合わない!」


魔法が竜に触れると同時に急激に威力が弱まって消滅し、
竜の体にはダメージどころか掠り傷一つ付いていなかった。

「クソッ、コイツぁ複数の属性を持ってるぞ!」
「成る程…キメラってのは伊達じゃないね…!」

「グオォアアァァッ!!」

「うおっ!?」
「ぬわぁ・・・・っとォ!」

竜が振り払う様に両腕を振り回し、
二人はあえてその腕に当る様にして体を弾かせ、少し離れた位置に“離脱”した。

「オイどうする? この広さじゃ俺は変身出来ねぇぞ!」
「ん、下手に攻撃して致命傷はマズいし……っとぉ!」

「グオオォォッッ!!」


―"ブンッ・ガゴォンッ!!"―    「グアアッ!・・・・・グゥッ!」


竜が突進をすると同時にレイは走り出し、竜の足の間をスライディングする様にして背後に回った。
勢いがつき過ぎた竜は即座に止まれず、近くの柱に激突して呻いている。

「ん〜…あ、ゼルこれッ!」
「あ?・・・っと、んだぁコレぁ?」
「ゼルの弾! やって!」
「・・・・・OK!」

床を滑りながらレイはポケットからローダーを取り出しゼルに投げ渡した。
と同時に呻いていた竜がこちらに向き直り、またも突進してくる。

ゼルは渡された弾丸を銃に装填し直すとレイに向かっていく竜に狙いを定めーーー


―"バヒュッ・バヒュッ・バヒュッ!"―

               ―"タッ、ヒュン  ドゴッッ!!"―


竜のわき腹に弾丸を撃ち込むと同時にレイが体を回転させて竜の突進をかわし、
その勢いに乗せて竜のわき腹に軽く刺さっていた弾頭に掌打を打ち込んで体内に食い込ませた。と……


「グオゥッ!・・・・・ガ、グゥ・・・・・ウルル・・・・」


急に竜の動きが弱まり、その足取りもフラフラとし始め、
その場に力なく座り込むとそのまま眠ってしまった。

「んあ…? この野郎、どうしたんだ……さっきの弾か?」
「あぁ、あれはグゥスフォーリ用に僕が作った麻酔弾なんだ。
 まだ開発途中だから効果の具合も分らなかったし、弾もさっきので全部なんだけどね…。」
「お、オメェ・・・んなモンに賭けたのかよ!」
「だって、実験する暇なかったんだもん…。 まぁ、成功したみたいだし、良いじゃん?」

そう言ってレイは横目で竜を見た。

見たところ呼吸の乱れ等は無く、床に座り込んだままぐっすりと眠っている。
竜の体に刺さっていた麻酔針も自然に押し出され、今はほぼ外れかかっていた。

「今は、大丈夫そうだが……いつ起きるか分らねェんだろ?」
「それまでにアヤさんを呼べばOKだって。ほらグチグチ考えてないで、行くよ!」
「あ、オィ! ったく!…いつもこうだぜ……」


二人は爆睡中の竜を横目に駐車場の脇にあった非常階段に入り、
その中央のスペースに二人で立つとレイが腰の銃を抜いた。

「んじゃ、一気に行くよ。しっかり掴まって!」
「上り過ぎんなよ?」
「分ってるって……」

―"バシュゥ………ヴォゥン……"―

レイは両手の銃に魔力を集中させ、ゼルがレイを抱き締める様にその体を掴み……

―"ヴァゴォォンッッ!!!"―

自分の足元に凝縮した魔力を打ち出し、
その反動で二人の体を一気にビルの上層階にまで持ち上げ、


―"ガワァンッ!!"―

「んがッ!?!」
「わぐぅっ!!」


そのまま上層階を閉鎖している隔壁に頭をぶつけた。

「あぐぅ〜・・・・・っとと!」

―"ズァン!  タスッ。"―

慌ててレイが銃を横に撃ち、その反動で体を反転させて踊り場に着地する。

「グァァ〜……ッテメェ〜上がり過ぎんなッつっただろぅが!?」
「うぐぅ〜………ゴメン、勢い強すぎた……」

二人は頭を押さえながら立ち上がり、
何とか気を取り直して近くのドアに近づいた。


レイはドアの横に張り付いて通路の先の気配を読み取……

―"ブンッ! ドガァン!!"―

……る前にゼルが思い切りドアを蹴飛ばし、
金属のドアがボール紙の様にひしゃげて通路の先に転がっていった。

「?! な、何やってんの・・・?!」
「コソコソしてる暇あったらさっさとアヤ捜しに行くぞッ!!」

ゼルは怒鳴り付ける様に言うと一人で通路の奥に走って行ってしまった。

「んうぅっ…… (あ〜…完璧に怒ってるな、アレは……) 」

その勢いに少々たじろぎながら、レイもゼルの後について廊下を進んでいった………

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