次の日の9:30頃、
3人はモーテルから少し離れた平原にいた。

「………そろそろの筈だが……」
「ん〜、少しくらい遅れても支障はないけど…」
「まぁ、早いにこした事は無いわね。」

3人は時計を見ながら、周囲の音に耳を済ませている。



―"…………ヒュイイィィーーーー………"―



と、上空から甲高いブースター音が聞こえ、
次第にこちらへ向かって来ているのが分かる。

「お、来たな。」
「アレ……ちょっと大き過ぎないかしら…」
「ん〜・・・あれ位が普通じゃない?」


上空を歪んだ影が通り過ぎ、3人の周囲を一度旋回した後
ゆっくりと3人の前に下りていった。

影が地上に近づくと共に影の透明度が少しだけ濃くなり、
その大きな機体の輪郭を現すと乗員用ハッチが開き、フィーが降りて来た。

「先輩、お待たせしました〜!」
「随分とデカイので来たなぁ…」
「それって・・・局長の私物の輸送機じゃない?」
「ハイ、局長に話したら、コレが一番だって貸してくれました。」
「へぇ〜…局長も凄いことしてくれるね〜。」


昨日の夜にレイが考えた潜入方法ーーー
それはアヤが密猟者に変装し、竜の姿に変身したゼルを実験材料として売り、
ビル内部に隠された実験設備に直接潜入するというものだった。

4人は輸送機の荷台に入り、フィーの持ってきた物を確認する。


密猟者が良く使う服装と貨物輸送用のトラックに、その荷台に乗った大型生物用のコンテナ。
軍用の運搬ケースの中にはかなり大きめの透過線屈曲ビニール袋が詰め込まれており、
それ以外にも幾つかの大きなコンテナが置かれている。


「あの〜、どうやって潜入するんですか?」
「ん? フフン、見てれば分かるよ。」

レイは少しニヤけながらフィーに言うとコートを脱ぎ、腰の銃をホルスターごと外す。
ゼルとアヤも自分の装備を外してレイに渡した。

「まずは、装備をビニールに包んで……」
「オイ・・・・少しは小分けにしてくれよな?」
「分かってるって。」

夫々の使用する装備や道具を特殊ビニールに包み、
アヤは密猟者の服に着替え始めた。

「で〜・・・・俺はこの箱ん中に入ればいいのか?」
「そ。もちろん、竜の体になってからね。
 あ、あとゼルの装備も2人のと一緒に運ぶよ。」
「結果的に運ぶのは全部俺じゃねぇか・・・・」
「ん〜…ま、そういう事になる…かな?」
「ったく…反論する気も失せるぜ……」

―"ヴン・・・・・・・シュアッ!!"―


ゼルは観念した様に意識を集中し、竜人から大きな竜の体へ変身する。
そしてコンテナの前に行くとレイが持ってきた袋を受け取り……


ハグッ……ン、ゴクッ…… 「ケホッ」 ングッ……


ビニールに包まれた装備を口に放り込み、飲み込んでいった。

「え、えぇッ?! それ食べちゃうんですかぁ〜?!」
「そ。ゼルの体の中なら、外からはバレないからね。」
「まぁ…そういう事なんだが……ンケホッ!」
「あれ、ちょっと大きかった?」
「大きいも何も、この袋スッゲェ飲み込み辛ぇぞ………ングッ!」
「あら、そうなの? 結構ツルツルしてるけど…」
「喉に張っ付くんだよ・・・・・ゲホッ!」
「あ〜……サラダオイルでも塗っておけば良かったかな。」
「テメェ〜〜・・・・・」

ゼルはその場にあった袋を全部飲み込むと少々苦しそうに喉を摩り、
コンテナの前に立っていたレイを軽く睨み付けた。

「ンプッ……あ〜〜喉痛ぇ〜。」
「ちゃんと喉が潤ってなかったんじゃない?」
「フン! まぁ、今度は大丈夫さ・・・・」
「ん、何…おわぁっ!」

そう言うとゼルはレイを両手で掴み上げ、自分の鼻先に近づけた。

「あう・・・な、何…そのニヤつき顔は…?」
「さっきの袋は“そのまま”だったから喉が痛かったんだ…。
 こうすりゃ、な……」

バクゥ!

ゼルはレイを掴んだまま、その上半身を一気に咥え込んで舐め始めた。


ペロッ…クチュ……ニチュァッ、グチュウ………

「んあっ・・・あうぅ・・・・グゥッ!・・・・・」


自分の体を這う舌の圧力にレイは無意識に声を出してしまう。

「せ、先輩!! 何やってるんですかッ!?」
「ンア? 見りゃ分かんだろ。コイツの体の滑りを良くしてんだよ。」
「レイは何度かゼルに飲まれた事あるから、大丈夫よ。」
「え゛ぇ゛!?……そ、そうだったんですか…?」

アヤがニヤつき、フィーは唖然と見ている中、
ゼルはレイの体を全て口の中に収め全身に唾液を塗って行く。

「アァ・・・・・も、もう十分じゃ・・な・・・・・・アフゥッ・・・・・」
「フン。こいつぁ散々好き勝手やってくれた礼だ。」
「な、なんかレイ先輩……気持ち良さそうな声出してますけど…?」
「前に飲まれた時、『なんだか落ち着いて気持ち良かった』んだって。
 今度フィーも食べて貰えば? ゼルの生態研究も出来るわよ?」
「へ?・・・・い、いえいえ!! 遠慮しときます〜!」

さらりと凄い事を言うアヤを横目に、
ゼルは口内でへたばっているレイを舌を動かして喉の入り口まで運んでいく。

「レイ、間違ってもゼルの中で銃を弄ったりしちゃダメよ?」
「ハァッ・・・・・んな事・・しないよ・・・・ハァ・・・・・」
「んまぁ、俺の胃袋はそれ位じゃケガしねぇがな……」
「み…皆さん、流石〜…ですね……。」

ごく日常的な会話と現在行われている事の凄まじいギャップを感じながら、
フィーは少しだけ3人から離れるように後ずさりする。

「んじゃあ、そろそろ行くぞ〜?」
「ンア・ゥ・・・・・・OK〜・・・・・」

少々気の抜けたレイの返事と共にゼルは頭を少し上に向かせ、
レイをゆっくりと喉の奥へ滑り込ませた。

ジュグ……ズブ…ズリュリュ……グジュッ……

「うっ・・ァ・・・・・・アグ・・・・う・・・・・」

ゼルの喉が膨らみ、ゆっくりと胃の方へ動いていき……


ズプ……クチュ………ズリュッ  "ガンッ!"

「うぁ………   フグッ! 痛っだぁ〜…!」


レイの体が胃袋の中に滑り落ち、胃の底に転がっていた装備品の袋に頭をぶつけた。

「ん? 大丈夫か…?」
「あぅ…だ、だいじょ……おわっ、ゼル!揺す……んブっ!」

グチュ……ムニッ、ボウンッ!………


ゼルが膨らんだお腹を抱えて揺すった為、
胃の中のレイは袋と一緒に胃壁を跳ね回る事になってしまった。

「おっと、すまねぇな。ついやっちまった〜。」
「んぐゥ〜!……今のは絶対わざとだな……」
「二人共こんな所でケンカしても始まらないでしょ?さぁ、早く中に入って。」
「ンア? 分かってる…ったくよぉ……」

ゼルがコンテナに入ったのを確認すると、アヤはそのまま鍵を閉めた。


「……っと、これで準備は完了ね…。
 ゼル、着いたら鎮静剤を打たれてるフリでもしててね。」

「分かった〜。……っとレイ、“アレ”はいつ頃にしたんだ?」

「ん、夜の8時くらい。 一応、無線も稼動させてるけど……
 もし無線が動いたら、ビルに着いてから30分後に・・・ね。」

「判ったわ。 じゃあ、フィーは此処でステルスを起動させたまま待機。
 もし何かあったらレイの無線に連絡して。周波数は140.85よ。」

「了解です! それでは皆さん、がんばって下さい!」


作戦の最終確認をしてからアヤはトラックに乗り込み、
輸送機の外まで下りるとフィーに何かを投げ渡した。

「?……先輩、これなんですか〜?」
「そこのコンテナの鍵よ。戦闘用の装備や機材が入ってるから、
 もし待機中に危険な目に遭ったら使いなさい。」
「あ、有難うございます〜!」
「じゃあ、貴女も気をつけてね。」

アヤはそのままトラックを飛ばし、
国道から逸れた細い道を走りながらコラーノシティへと向かった。



---------------コラーノシティ:中央地区・裏道---------------


アヤは街の大通りを迂回し、人通りの少ない道を選んで走って行く。
密猟者に変装しているからには、目立つ行動は出来ない。

トラックを運転しながら精神リンクを使い、荷台の二人に話しかける。


《レイ、ゼル…聞こえる?》

《聞こえるよ〜。》  《こっちも聞こえてるぜ。》

《私は局長からの別指令でビルの中を探索するわ。
 貴方達が先に任務を成功させたら、私のバックアップをお願い。》

《OK〜。指令って…この前僕達があそこにハッキングした時に見つけた、
 あの変なデータの事?》

《ええ…。あれをベースに戦闘プログラムを組まれたら拙いわ。》

《まぁ、そうだろぅな…。俺の能力でも完全にデータが隔離されていて
 局の端末からじゃ『何かがある』事ぐれぇしか分からなかった…。
 あそこまで厳重にされてりゃ、その価値もなんとなく分かるぜ。》

《だから、私がターゲットに到着するまで、陽動を頼むわね。》

《了解〜》  《まかせとけ!》



3人はリンクを繋いだままビルへ向かい、レイから教わった裏口へ回る。
駐車場の入り口辺りまで来ると、警備員がトラックに近づいてきた。

「ん?・・・おい! 何の用だ?」
「ここの会社に売りたい物があるの。」
「何?……お前、何処から聞いた?」
「私達の情報網を甘く見ないで欲しいわ…」
「………判った。担当者に連絡してみよう。 積荷は?」
「この辺りじゃ滅多に手に入らないヤツよ。」

警備員はアヤとトラックの荷台を交互に見た後、
アヤに無言で駐車場の停車位置を指差した。


アヤはそのまま進み、指示された場所にトラックを停めた。と……


―"ガゴッ! ヴゥ゛ィィーーー………"―


停車したスペースが丸ごと壁の奥に入り込み、
貨物エレベーターの様に地下へと下りていく。


《!・・・・なるほど、これがそのエレベーターって事ね。》
《そ。昨日来た時も帰る時も、この場所だけは車が無かったからね。》
《音からすると……結構下がってるみてぇだな。》
《そうね……今は地下3階……より下かしら。》
《じゃあ、俺は黙ってるからな。しっかりやってくれよ、アヤさん!》
《分かってるわ。 じゃあ、そっちも宜しくね。》
《ああ、任せとけ。》



―"ヴゥーーーー………ガゴンッ!"―


3人の話が終わると同時にエレベーターが停止し、
横にスライドするように動いていく。

そのまま巨大な格納庫の様な場所まで移動すると、
白衣を着た男性が数人、こちらに歩いてきた。

「……連絡は受けている。今回の品は何だ?」
「この星では、恐らく手に入らないわよ………ホラ。」

アヤはコンテナの小窓を開いてその中身を見せた。
その中ではゼルがコンテナの床に寝そべり、目を瞑っている。

「なっ……ドラゴン!? これは…純血なのか?!」
「ええ。ラクベス星で捕獲した個体だから、魔力もある程度は持っている筈よ」
「……よし、分かった。700万ユーロでどうだ?!」
「ン〜……750♪」
「うグ・・・・・な、730!」
「……ま、OKね。じゃあこの竜は730万で貴方達に売るわ。」

買値が決まると即座に白衣の男達が探知機とスキャン装置を取り出し、
コンテナの外からゼルの身体とコンテナ内を調べていく。

「コイツは〜…静かだが、寝ているのか?」
「いいえ、特殊麻酔で一時的に自我を消しているだけよ。
 効果はまだ1時間位は残っているでしょうけど…」
「成程・・・・・む、これは…?」
「あぁ…この竜、狩りをしてる最中に捕らえたから〜…
 その時に食べていた獲物じゃない?」

アヤがスキャン画面を覗くと、ゼルの胃袋の中で丸まっているレイが映っていた。
しかし特殊ビニールに包まれている装備品は一切映っていない。

「ふむ…狼か何かのようだな……まあいい、今回は助かった。 また頼む。」
「こちらこそ・・・また質の良いヤツを捕まえたら、買取を宜しくね。」

一通り積荷の検査を終えると電磁クレーンを稼動させ、
ゼルの入ったコンテナを専用リフトに乗せて運んで行く。


アヤは報酬の入ったケースを受け取るとトラックに乗り込み、
エレベーターで一旦駐車場まで戻った後、
トラックから降りて何かを探し始めた。

「……ん? あんた、どうした?」
「ちょっとトイレ貸して欲しいんだけど、何処にあるのかしら?」
「へ? あ、あぁ…それならそこの通路を進んで、
 T字路を左に行った所にあるが…男用しかないぞ?」
「個室はあるでしょ? それで十分よ。」


特に気にする様子も見せず、アヤは通路に入っていった。
その後ろ姿をいやらしい目つきで眺める警備員に気づきながら……

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