---------------M-Techビル内部:地上2階---------------


―"ゴウン………ボ、ゴ…… (誰もいない……) ググ・・・・ガコッ!"―


ダクトの中からトイレ内の気配を調べ無人なのを確認すると、
蓋を静かに外して元いた個室へと降り立った。

(今日はこの辺で・・・っと。)

今度は白衣を特殊ビニールの袋で包んで大型掃除機の中に隠し、
ダクトを這ったせいで少し乱れた服装を整える。

「・・・・よし 今日は清掃終了っ!」

少し大きめの声でそういうと、
ドアを開けホールにあるエレベーターへと向かった。



ホールまで行くと、数人の科学者が何かを話していた。

「……ーーで、アイツは隔離される事になったらしい。」
「そうか…まぁ、人を襲っちゃ、仕方ねえか。」
「また新しい材料を探さなきゃいけないのか?……」
「一応、購入資金はあるらしいが……」

(??・・・・・隔離って、さっきの…?)

話が気になったレイは自販機でジュースを買うフリをしながら、
その話に耳を傾けていく。


「で、また奴等から新しいのを買うってのか?」
「イヤ、今度必要なのは純粋な竜族らしい。」
「ドラゴン・・・か。 やっぱ高ぃんだろうなぁ……」
「まぁ、基礎になる材料いなけりゃ研究は出来ないからな……
 少しくらいは上も大目に見てくれるだろうけどよ。」


(フ〜ン……ドラゴン、ねぇ……)

レイがジュースを飲み終わるのと同時に科学者達の話が終わり、
それぞれが思い思いの方向へ散って行く。

(これは使えそうだな・・・・)

空缶をデポジット機に放り込み小銭をポケットに突っ込んで、
エレベーターに乗りそのまま地下駐車場へと向かった。



駐車場へ着くと、さっきよりは車の数が増えていた。
流石に天井が高いだけあり、大型貨物用のトラックも駐車している。

「よっ……と、全部片付い・・・・ん?」

会社のトラックに清掃用具を積み込んでいると、
ふと視界の端に違和感を感じた。

駐車場には複数の車が駐車しているが、ある一角だけ一台も車が無く、
壁際に置かれたコーンやポールもその辺りだけは置かれていない。

(あれは………フ〜ン、そういう事。)

レイは何か分かった様に口の端で笑いながら、
トラックを運転してビルの外へと向かった。



---------------コラーノシティ:路地裏---------------


来る時に頭に叩き込んだ道を戻るように走り、ゼル達が向かった方へと車を走らせ、
そのまま暫く一本道を進むとビルの陰に長身の人影が見えてきた。


「よぅ。どうだった?」
「フフン、バッチリ。……アヤさんは?」
「向こうで待ってる。じゃ、行くぜ。」
「あぁ…そうだね。」


コートのフードを頭から被り、顔を隠したゼルに付いて行くと
アヤの車が駐車場に大胆に停められていた。

「ン・・・・あ、早かったわね。」
「あ、アヤさん……ちょっと大胆すぎない…?」
「別に、今は隠れる必要なんて無いでしょ? 変にコソコソしたら怪しまれるだけよ。」
「んん〜、まぁそうだけど……」
「さ、早く片付けましょ。」

「「・・・・・・・。」」

すっかりアヤのペースに持っていかれた二人はやや渋い顔をしながら、
ビルから持ち帰った“戦利品”を回収し、服を着替えて夫々の車に乗り込む。


そのまま清掃会社まで行きトラックを返却すると、
明日までの時間調整の為に郊外のモーテルに向かった。

「・・・・っと、アヤさん。モーテルに着いたら、ゼルはどうするの?」
「あぁ、平気よ。 そこのオーナーは私の知り合いなの。
 趣味で巨竜の写真を撮ってた事もあるから、ゼルとも普通に話せるわ。」
「ほぉ〜お、そいつぁ度胸のあるヤツだな。」
「ええ。」


郊外の寂れた森林地帯を走り続けると、遠くにモーテルらしき建物が見えてきた。
時代遅れのネオン看板が日の落ちた夜空にひと際目立っている。

「フム……『ザ・ロストフォレスト』ね……そのまんまじゃねえか。」
「それしか思いつかなかったんだって。まぁ、中は広いわよ?」

カーステレオから流れる音楽を聴きながら、
3人はモーテルへと向かって行った。



---------------シティ郊外:モーテル---------------



―"シャアアァーーー………"―



「んむぅ・・・・・・アヤさん、長いなぁ・・・・・」


部屋の中ではレイが一人で、退屈そうにモバイルPCを弄っていた。


3人はモーテルにチェックインし、1階部分の部屋に入った。
ここのオーナーは確かにゼルを見ても驚かず、
逆に「写真を撮らせてくれ」と言って部屋まで着いてきた。

仕方が無いのでゼルはオーナーと写真を撮りに森に行き、
レイはアヤがシャワーを終えるまで部屋で待つ事になったが……


「んんーーー気持ち良い・・・・。
 ココの所忙しかったから、たまにはこういうのも………んッ?」


アヤは何かを感じてシャワーを止め、足元を見た。


―"ポチャ…   ピチャン   パチャンッ…"―


足元に溜まった水溜りを覗き込むと、
周期的に波紋が広がり、それが次第に大きくなってきている。

(!ッ・・・何?!) ―"バタンッ!"―

アヤは反射的にタオルの下に隠した銃を取り、外に飛び出した。

「レイ! この振動はーー」
「ん? あぁ……ゼルがその辺歩き回ってるんでしょ?」
「え・・・・ぜ、ゼルの足音?」
「だよ…。 それよりアヤさん………」
「ん? な、に・・・・・・・・//////////」

呆れた様なレイの視線を辿ると今の自分の格好が理解でき、
アヤは顔が真っ赤になったまま突っ立っている。

「早く着ないと、カゼ引くよ〜…」

レイも多少赤くなりながら、アヤの方を見ずにバスタオルを取って投げた。
飛んできたタオルを受け取るとアヤは逃げるように走り去り……


―"バフッ ドタドタドタ・・・・バタンッ!  キュキ…ドシンッ  バババァン!! "―

「うわきゃあ〜〜〜?!」


バスルームからもの凄く賑やかな音と共にバースト銃声が聞こえ、
レイはもう一度呆れた様にため息をついて呟いた。

「・・・・・銃持ち込む度にやってるよな、アレ・・・・・」



数分後、アヤが着替え終わるのと同時にゼルも帰ってきた。

「ったく、あのオヤジはホンットに竜好きだな…」
「何か注文されたの?」
「竜人のカッコじゃ味気無ェから変身してくれってよ。一時間以上付き合わされたぜ……」
「あら、モテモテじゃない?」
「嬉しく無ぇよ…。」

二人を見てニヤニヤしていたレイだったが、少し真剣な顔になって話し始めた。

「あ〜、皆そろった所でさ〜・・・・ちょっと話があるんだ。」

レイのその言葉を聞いた次の瞬間、アヤは対盗聴妨害装置を手に取り、
ゼルは外に出て周囲を見渡し、レイは窓に近づいて外を確認する。

一瞬で周囲のチェックを終えた3人は部屋の中央に集まり、
レイのPCを覗き込む様に座った。


《今日の成果だけど…局長の言う通り、あそこは実験をしてたよ。》
《実験……生物兵器か?》
《まあ、そんなトコ。他にも、色々とあるけど……》


3人は精神リンクを繋いで、相手の脳内に直接声を送る。
その間にも3人の“実際の口”からは他愛も無い世間話が発せられていく。

《あそこは違法実験と保護生物の非合法売買の巣窟だね。》
《フゥン。…ッつ〜事は魔法生物もいたのか?》
《遺伝子合成で造られたキメラだけどね……。
 あと、案内には書かれてなかったけど、あそこは地下があるよ。》
《地下?……じゃあ、そこに入るルートは分かる?》
《駐車場に、壁に偽装されたエレベーターがあったよ。あれは3〜40tは軽く運べるね。》
《フ〜ン…地下なら範囲は大体想像が付くし、簡単そうね。》
《だが、その地下にどうやって入る? 俺は正面突破で行くのも構わねぇが・・・》
《そこでさ〜……良い案が思いついたんだ。》


そういうとレイはG−PACで使用される隠語を使い、
フィー宛にメールを打って二人に見せた。


『・・・・・・・・・・・・・』

《お、オイ・・・・オメェ本気か?!》
《本気じゃなかったら、こんなコト書かないよ。》
《あら、面白そうじゃない! この方法でやってみましょ♪》
《テメェら……俺の事全ッッ然考えて無ぇだろ!》
《サポートは私達がやるから、大丈夫よ。》
《そういう意味じゃなくてだな・・・・あッ!?》

ゼルが反論している間にレイはメールを送信してしまった。

《これで後は待つだけ〜っと。》
《てめェら、俺の反応楽しんでんなぁ?!…ってか、俺は良いとしてレイはどうすんだ?》
《その時はゼルに………をね。》
《な・・・・・なんつぅ〜事考えやがる…!》
《それでフィーにあんな物を注文したのね?》
《俺ぁもう爆発されんのはゴメンだぞ!》
《大丈夫、ちゃんと安全に運ぶからさ。 フフン、期待してるよ〜♪》


そうこうしてる内に時間は過ぎ、フィーからの返信メールが届いた。
3人は隠語で書かれた文を脳内で訳しながら見ていく。


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先輩、書かれていた物は全部用意できました〜!
あと、変装用のユニフォームも局長が手配してくれました。

輸送機の操縦も先輩の送ってくれた座標設定だけで
自動運転できるみたいですね〜。
これなら私一人でもそっちに向かえそうです。

それでは、現地時間での明日の10時頃にそっちに向かいます!

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《明日の10時、か……。十分だね。》
《じゃあ、それまでのんびりしましょうか。》

その言葉と同時に精神リンクを切って、椅子から立ち上がった。

「んあ〜〜!ッと・・・。 今日はなんだか疲れちまったな……」
「まぁ、今日は貴方も“色々”と動き回ったしね。」
「ウルセェ……」
「ん〜、今度は僕がシャワー浴びてこよっかな〜。」
「お、じゃあ俺も後で入るか〜…」
「・・・・・僕の裸、覗かないでよ?」
「アホかっ!」

モーテルの一室から賑やかな声が響き、
つかの間の平穏な時間を作り出していく。

そして3人は一時の休息を堪能した後、眠りについた。

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