---------------G−PAC:C棟2階・火器管理室---------------



「おい……そんなに持ってくンかぁ?」

「だってこれ位無いと楽しめそうに無いじゃん。」



火器管理室では、先に着いた2人が任務に使用する物を探していた。

「んーー……よッと!   こんなモンかな…。」

レイは壁に並んだ棚を全て開け、
9mmパラの弾薬ケースを片っ端から作業机の上に並べていく。

「いくらなんでも……この量は持ちきれねェだろ?」

凡そ2000発分はあるケースの山を見て、呆れながらゼルが呟いた。

「大丈夫だって。 アレを使えば〜…」

そう言いながらレイは隣の重火器保管庫に行き、
ゴツイ金属製のバックパックの様な物を持ってくる。

「ン…なんだそりゃ?」
「コレ、この前僕が造ったんだ…自動リロード装置。」
「………ハァ?」

呆れるゼルを横目にレイはバックパックに付いた蓋のような物を開けると、
そこへ9mmパラをガラガラと流し込んでいく。

「お、おい! 溢れ………ない?」

ゼルが呆気に取られている間にも更に弾を注いで行き、
その場にあった2000発以上の弾丸を全て収納してしまった。

「これでよし…っと。」
「ど……どうなってンだ?」
「このバックパック、中は空間圧縮術を応用してかなり大きな機械仕掛けになってて、
 動かすのは僕の精神リンク、動力源は僕の魔力ってワケ。」


そういうとレイはバックパックを背負い、
両腰のホルスターから愛銃のUSP・matchを抜き、軽く腕を動かした。

―"ガシャッ"―

するとバックパックの下側が一部飛び出し、
レイはUSPの底部を飛び出した箇所の両側に押し付け、マガジンキャッチを押す。

―"シュッ チャキッ!"―

小さな機械音がそこから響き、レイは銃を機械から離した。


「?……何だ?」
「ほら、フルロードされてる。」

マガジンを銃から引き抜くと、さっきまで空だった筈のそれには満タンに弾が入っていた。

「ヘェ…早ぇな。空のマガジンに一瞬でネェ〜…」
「さっきのヤツに弾が入ったんじゃないよ。
 これは予めパックの中にセットしておいたマガジン。
 さっきのは、この中に組み込んだリロード装置で装弾されて待機中って事。
 …まあ、ゼルのそれには必要無いかもしれないけど……」

そう言ってレイはゼルの腰に下がるリボルバーを見た。


大柄なゼルに合わせてレイが彼の為に作成したリボルバー、『Gusfooli(グゥスフォーリ)』
“対物・魔獣用拳銃”をコンセプトに作られたそれの外見はS&Wのカスタム品の様であるが、
その材質はゼル自身の血液をレイが魔導科学により凝縮させて
直接銃の形に物体化させた魔導武具である。

その大きさや口径、重量は通常のそれからかけ離れた物であり、
全長は60cmを超え、彼本来の姿である“竜”を象徴しているように見える。


「ン…まぁ、持ち弾が無くなるまで戦闘が長引いた事なんて、今まで無ぇな。」
「用意するに越したコトは無いよ。 ホラ、弾。」

レイは棚の横に掛けてあった丈の長い紺色のロングコートを取ってゼルへ投げる。

「っと、なんだこりゃ…?」

ゼルの身長に合わせてあるそれの裏には、
ジャラジャラと700NE口径の弾が専用のムーンクリップに留められてぶら下がっていた。

「ゼルのは弾が大きいじゃん? 持ち運びし易いように僕が作ったんだ、そのコート。」
「…ま、まぁ便利だが……このデザインって……」


革で出来ている様に見えるそれは表が落ち着いた雰囲気の紺色で、
裏地がやや明るいワインレッドのカラーをしている。


「カッコイイっしょ〜? それも気に入ってるんだ♪
 防弾・防爆効果もあるし、損傷した時はゼルの魔力で自動修復もされるんだ。
 変身した時は魔力に連動して首輪みたいな形になるよ。」
「………んむぅ…。」

やや渋い顔をしながらもゼルはコートを着てみた。
サイズはピッタリと合い、特に動き辛くも感じない。

「着心地はどう?」
「ン……まぁ、悪くは無ぇが……、これじゃあ“悪魔の隻腕”だろ…?」
「そう、それに似せてみたんだ。ゼルって左利きのリボルバー使いだし。」
「そりゃテメェの趣味だろ! ったく……」

そう言いながらレイも手早く準備を整え、自分のコートを着直した。と…


「二人共……準備は終わった?」

アヤが大きなスポーツバッグを持って入ってきた。

「ん? ああ、こっちは終わったぜ。」
「僕も準備OK〜。 アヤさんは?」
「そう。 私も、初期偵察に使えそうな物を…ね。」

そういうとアヤは戸棚を開け、
少量のC4とタイマー機能付きの無線式起爆装置、
ポケットに入る位の小さな密封ケースをバッグに入れた。

「……っと、コレ位ね。 さ、行きましょう。」


それぞれが準備を終え、3人は地下駐車場へと向かった。



---------------G−PAC:C棟地下1階・地下駐車場---------------


3人が駐車場に着くとフィーが待っていた。

「あ、センパイ! 準備オッケーです!」
「アレは完成したかしら?」
「ハイ、全部アヤさんの車に詰め込みました!」

そういうとフィーは制御ブースに向かい、
カタパルトにセットされた青いフォード・ブロンコ4Thを、
発進位置まで移動させて停止させた。

「二人共よく聞いて。まずはコラーノシティの外れに向かうわ。」
「ン?… そんなトコに行って何すんだぁ?」
「そこに局長が手配した清掃会社の人が待ってるのよ。
 とりあえずその人に会わないとね。 今回は人数も多いし、私の車で行くわ。」
「了解〜。 じゃあ行こうか。」


3人はそれぞれの荷物を車に放り込み、
車に乗り込もうとした……と、

「ン…? おい、その車って二人乗りじゃねぇのか?」
「え? あぁ……そういえばそうだったわね…。」

アヤの車は荷物を大量に積めるよう、後部座席が外されている。
更に通常の自動車を改造しただけなのでゼルが座席に座るには少々天井が低い。

「ん〜…じゃあ、トランクにでも乗ってて。貴方が入る位は広いし。」
「………ハァ?!」
「大丈夫よ。中に荷物固定用のバンドがあるから、それ体に巻いて。」
「そういう意味じゃ……って、ちょ・・・・待てよ!」
「さぁ、のんびりしてられないわ。早く乗って。」
「お、オイ!」

ゼルの声を全く気にせず、アヤは車のエンジンを起動する。

「ま……まぁ、アヤさんの車は安定性があるから…」
「グゥッ!〜〜……ったく、俺は荷物かよ…」

レイの言葉にゼルも観念をした様に渋々トランクに乗り込み、
荷物用のバンドを腕と体に巻きつけた。

「ゴメンネ。今度の任務の時は、僕のヤツで行くからさ…」

レイは小声でゼルに謝りながら後部ハッチを閉め、自分は助手席へ乗り込んだ。

「フィー、起動できた?」

アヤが窓から身を乗り出し、制御ブースのフィーに合図を送る。

「ん、と……… ハイ、終わりました〜!」
「OK、じゃ、こっちも…」

アヤはインパネを操作し、モニターに現在状態が映し出されていく。


-------------------------------------------------
現在高度確認:完了   車内重力・気圧調整:完了

現在座標確認:完了   ステルスシールド :ON
-------------------------------------------------


車体が少しずつ浮き上がると同時にタイヤがゆっくりと地面側に90度分倒れ、
床の電磁レールに沿って無音で後退し、射出ユニットにドッキングされた。
それと同時に車体が一瞬光り、輪郭だけを残して透明な影になる。

「さぁ行くわよ。 しっかり掴まって!」
「「…ッツ!」」


―"ガッ カ・カ・カ・カ…………ガシャッ "―


地上へのスロープに繋がるシャッターが開き、駐車場の中まで光が入ってくる。
3人はベルトやバンドを掴み、次にやって来る衝撃に備えた。

「では、いきまーす!」

制御ブースから響くフィーの声と共に車体が進み始め、
アヤはアクセルとブースターのペダルを同時に踏み込んだ。



―――"ヴァギュゥ゛ゥ゛ーーーー・・・・・・・・!!!!!"―――



カタパルトとジェットブースターの推進力が重なり、
凄まじいGと共に車体は空を切り裂き、大気圏を一気に突破して宇宙空間へと到達した。


「・・・・・・フゥっ。 後は目的地に着くまで、待つだけね…」

車を自動航行モードに設定し、アヤは車内で一息つく。


「今回の任務はターゲットの破壊だし、簡単に終わりそうね。」
「そうだね〜。破壊任務はゼルの・・・・・あ。」

二人が後ろを見ると、固定していなかった荷物にゼルが埋もれていた。

「あ〜、ゼル…大丈夫?」
「ングゥ……見りゃ分かんだろッ! ったく…」


レイが座席を乗り越えて、ゼルに積もった荷物を退かして行く。
その途中でケースの蓋が外れ、中からビニールの様な袋の束が転がり出た。

「よっと……ン? アヤさん、この袋は…?」
「ああ、それ。 偵察潜入の時に、貴方に渡そうと思って。」
「……なにコレ?」
「それは一定レベルの透過線を屈曲させて、画像に写らなくする素材で出来てるのよ。
 その中に密封したC4を包めば、透過カメラにも爆発物センサーにも探知されないわ。」

そう言いながらアヤも座席を乗り越え、荷台に散らばった荷物を集め始める。

「コレ…アヤさんが作ったの?」
「作ったのはフィーよ。指示は、私がしたんだけどね。」
「ヘェ〜……あのドジガキも、やる時ぁスゲェな。」

3人はケースの中に入っていたC4を千切って起爆装置を埋め込み、
それを密封ケースに入れてビニール袋で包んだ。

「………これで、今日の分の準備はOKね。」
「あぁ。後は、ブッ壊すだけだな…」
「ま、リラックスしてやろうよ。」


モニターに表示される予定到達距離を見ながら、
3人は目的の星へと向かって行った―――

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