地球・都内の某所にある、無機的な印象を受ける巨大な建造物。 見た感じは巨大な都営施設の様にも見える。 唯一違うのは、そこに出入りする人物の中に人間ではなく、 錆色の体毛をして狼の顔と身体を持った“獣人”と、 硬質な漆黒の皮膚を持ち、金色の鬣を頭髪の様に生やした“竜人”が居る事である。 「……んあ〜〜もぅ! だからゼルと一緒に買い物に行きたくないんだよ〜!」 「シャーねェだろ!! 俺は出無精なんだよ! ってか、オメェもそうだろうが!」 モスグリーンのロングコートを着た獣人とライトブラウンのベストを着た竜人が 両手に沢山の買い物袋を持ち、言い争いながら建物へ入ってゆく。 ---------------G−PAC:地球本部・中央ホール--------------- 巨大な建物の中にはそれなりの人が行き交い、 やはり見た目の印象は市役所か、大型の複合モールの様だ……と、 「あ、センパ〜イ! アヤ先輩がさっき探 "ドベシャッ" あぶっ!」 白衣を着た一人の女性が二人の方へ走って来て、何も無い所でダイナミックにコケた。 「あ……フィー、だいじょぶ…?」 「ったく、そんな変なクツ履いてっからコケんだよ。」 「うぅ〜……レイ先輩、すみません〜…」 レイと呼ばれた獣人が慌てて近づき、フィーと呼ばれた女性を助け起こす。 黒い竜人は、笑いながら二人を見ているだけだ。 「…ふうっ。もう、ゼル先輩ヒドぉい! これ気に入ってるんですよ!」 「そうかぁ? 俺にゃ分かんねェ……」 「まぁ、二人ともケンカしないでさ〜…。で〜、何の話?」 「あ、そうです! アヤ先輩が2人を探してましたよ! また事件なんですか?」 「お! アヤぁ〜? ってコトは、任務の事だなぁ……」 ゼルと呼ばれた竜人は何かを思い出す様にニヤつき、 左側の腰に大胆に下げた巨大なリボルバーを尻尾で抜きクルクルとスピンさせている。 「ゼルぅ〜、こんなトコでそんな物回してると私がココ吹っ飛ばすわよ…?」 と…2人の背後からGジャンを着たプラチナヘアーの女性が現れ、 ゼルの背中にベレッタを突きつけた。 「あ…アヤさん…、俺の皮膚はそんなオモチャじゃ…」 「この弾、レイが作ってくれた最新作よ。貴方の体で試して見ましょうか?…」 「う………いや、その………」 ―"カチッ"― 自分の背後から聞こえたその音に、ゼルの額から一気に汗が吹き出た。 「……な〜んて、今日は冗談よ♪ ちょっと脅かしてみただけ。」 「あ…?………ったく! 心臓に悪いぜ…」 アヤと呼ばれた女性も、自分の銃を指でクルクルと回している。 今度はレイが2人のやり取りをニヤニヤしながら見ていた。 「アヤさんも、もう少しゼルに優しくしてあげないと〜。」 「別にいいでしょ? どうせこんな弾じゃ死なないんだし…」 そう言って、アヤは自分の銃をジャケットのホルスターに納めた。 「……(死ななくてもイテェんだよ)……」 ゼルの呟きが聞こえたかどうかは分からないが、 アヤはゼルを見ながらイタズラっぽく笑っている。 「で〜……僕達を探してたって聞いたけど、なに?」 「え?… あ〜そうそう、忘れてたわ。 局長から連絡が入ったのよ。今回は私達3人でやるらしいわ。」 「O・K〜。んじゃ、またひと暴れ出来るって訳だなァ…」 「ええ、まあね。 装備は自由、任務の内容はターゲット施設の破壊との事よ。」 3人はその場で、簡略に作戦内容を確認する。 「……みなさん、カッコイイです〜・・・」 会話から外れていたフィーがウットリした表情で3人を見ていた。 「ああ……貴女にも任務で手伝って貰いたい事があるの。先に2番研究室に行ってて。」 「え…? 私ですか? ・・・ハ、ハイ! 頑張りますッ!」 「じゃあ…2人とも、後で会いましょう。」 アヤは何かを書いた紙切れをフィーに渡し、地下駐車場の方へと歩いていく。 「それじゃ、僕達は局長のトコに行こっか。」 「そーだな…。おうフィー! こいつ、俺の部屋に運んどいてくれや。ほれレイ、オメェのも貸せっ。」 「え? あ!……」 ゼルは買い物袋を次々とフィーに投げ渡し、 レイの持っていた分も取り上げてフィーの方へ投げた。 「わきゃっ?! こ、こんなにですかぁ〜〜?! あぐっ。」 フィーは大量に放り投げられた買い物袋を受け止めきれず、 袋につぶされる様に倒れてしまった。 「あ〜ぁ……だいじょぶ?」 「うぅ……いくらなんでも、こんなにいっぱいは……」 慌ててレイが駆け寄り、大きな袋を退かして行く。 山積みになった袋を全て退けると一番下でフィーが伸びていた。 手を差し伸べて起こそうとしたが…… 「行くぜ〜レイ。早く行かないとまた局長にどやされるぞ。」 「えっ?!、あ〜〜……フィー、あそこに部隊の皆がいるから、手伝って貰うといいよ…それじゃ!」 「あ、あ〜〜! センパイィ〜〜〜!!」 フィーの声がホールに木霊する中二人は逃げる様に飛び上がり、 2階部分の手すりを掴んでは飛び上がって直接3階に着いた。 廊下を走りながら以前時間に遅れた時の事を思い出し、少しだけ2人の足が速まる。 タダでさえ低い給料なのに、さらに減給されるのだけはゴメンだ。 「……でも、フィーの体にアレは流石にキツイと思うけど…」 「ココでやってくにゃあな、体力付けなきゃダメなんだよ。イイ運動にはなるぜ。」 「・・・・・・・。」 ---------------G−PAC:B棟3階・局長室--------------- 2分後、2人は金属製の厳つい自動ドアの前にいた。 「間に合ったな。」 「だね…。 あ、アヤさんも来た。」 ―"シュン・・・・・キュキイイィィーーー!!"― 廊下の向こうから非常識な速さでこちらに駆けて来る人影が見え、 目の前でブーツから煙を上げながら止まった。 「!!〜〜〜………ケホッ。」 「………凄っげぇ音………」 周囲に焼けたゴムの臭いと耳を刺す様なブレーキ(?)音が響くが、、 アヤ本人は大して気にする様子も無い。 「ん・・・・・何、どうしたの?」 「何って……その速度、速すぎンだろ。」 「…今の足の動き、僕より速い……ケホッ。」 「私はヴァンパイアよ? 魔力で筋力を上げただけ。 レイ、貴方だってヴァンパイアの血入ってるんだから、これ位出来るでしょ? ……ま、皆揃ったんだから、行きましょう。」 どこか不満顔の二人を横目に、 アヤがドアの横に付いたインターホンを押し、3人が声を合わせる。 「綾音・ツェルゴヴィッチ」 「レイ・カーティス」 「クライゼル・アーミテイジ」 『以上3名、参りました。』 ―【・・・入れ。】― ――"シュアッ"―― インターホンから男の声が響き、金属の自動ドアが開いて3人が中に入って行く。 「今日は遅刻しなかった様だな。」 大型のモニターとファイル棚が並んだ部屋の中央に、 黒いスーツに身を包みサングラスをかけ、金髪をオールバックにした男性が立っている。 「そりゃあ急いだぜ〜。 また減給されちゃたまんねぇからな〜…」 ゼルが思い切り皮肉っぽく言うと、左右にいたレイとアヤが同時に肘で小突いた。 「お前が時間を守ってくれさえすれば減給もしないんだがなぁ…。」 「それで……局長、今回の任務は…?」 「あぁ・・・・・これが、ターゲットとその区域だ。」 部屋を半分ほど覆う大型モニターに大きなビルが映し出された。 その横には実験装置の様な物と、それの研究コードらしきデータが映っている。 「これは〜……Corano(コラーノ)・シティにある、マレンダ・テックの本社?」 「ああ。先日、この企業が違法な生体実験をしているとの情報が寄せられた。」 「情報って…またガセじゃねえのかぁ?………ンギッ!!」 既に脱力モードに入ってしまっているゼルの足を 隣にいたアヤがブーツのヒールでさり気なく踏み付けた。 「すみません……で、今回の任務エリア破壊との事ですが…私達に、そのビルを?」 「正確には、この内部にある研究設備の停止・もしくは破壊だ。」 「……あのぉ〜、割り込んですみませんが、本当にソコなんですか? なんだか、僕達が行ったら……とんでもないコトになりそうなんですけど〜…」 今回の作戦区域がある場所は大都市の中心に位置する建物の内部。 周囲から“歩く爆弾”と呼ばれるメンバーが3人で行ったら、 この建物は100%無事では済まない事が判っていた。 「その点は問題無い。この辺り一帯の建物は、 明日の午後7時から一斉点検の為に閉鎖される事が分かった。 本格的な作戦を開始するには、その時刻に合わせなければならない。 勿論、君達が潜入出来るよう用意も整えてある。」 「用意……ですか?」 「ああ。あのビルは清掃員を外部から雇っている。 レイ…まずは君が人間の姿になり、清掃員として潜入・偵察してきてくれ。 その後、レイの情報を元に潜入を開始しろ。」 「ふぅん……成る程ねー。 確かに今のままのレイは色々な事で有名になってるし、 私は裏の世界で顔が知れてるから表向きの変装はし難いし…… ゼルの見た目じゃあ目立ち過ぎだしね。」 そう言ってアヤはゼルを見上げた。 背丈が頭の部分まででも218Cmあるゼルは、 今も天井から垂れ下がったケーブルに角が引っ掛かりそうになっている。 「ゲフンッ ………それとこの会社宛てに数週間前から、 様々な魔法生物が搬送されている事も判った。 詳しくは判らないが、各地のハンターから魔法生物を違法に購入している様だ。 恐らくはそれらを使って遺伝子研究や生体実験をしているのだろう。 可能ならば、偵察潜入の際に確認して欲しい。 ……まぁ、基本的な内容は以上だ。 今回は施設の破壊任務だからな、追加報酬はターゲットポイントの換金制という事になる。」 「リョウカイ〜。 んじゃ、俺も装備を整えておくか〜…」 「私は局長ともう少し話があるから、レイも先に行ってて。」 「ウン、分かった。 それではミッションを開始してきます」 「ああ。頼んだぞ。」 アヤを残し2人は火器管理室へと向かった。 そして部屋に残った2人は――― 「それで…? 私は何をすれば良いの?」 「拙い事だ………『アジーン』の力を解析された。」 「……まさか、追跡されてたってワケ? 彼に限ってそんな事は無いと思うけど…?」 「どうやら独自に保有する衛星で探知していたらしい。 今までの一部の行動データがあのビルに保管されている事が判った。」 「バックアップは? 彼のデータなら、それ位はしてるんじゃない?」 「いや、それはない。レイとゼルが此処から直接ハックして調べてくれた。 詳細は分からなかったが、データは今の所あのビルに存在する一つだけだ。」 「…分かった。まぁ、2人がいるから、失敗はしないでしょうけど。」 「気を付けろ、他の奴等もデータを狙っているからな…。 俺の所はまだ安全だが、これからどうなるかは判らん。」 「了解。貴方も、探知されないよう気を付けてね、ウェスカー。」 ウェスカーと呼ばれた男――局長からメモリーユニットを受け取り、アヤは部屋から出て行った。 |