[陛下、心の準備はいいですね?] 『良いも悪いもある?早めに終わらせてよね?』 場所は、先ほどの坂道を少し下った所にあった空き地。 ニタは、見たくないとだけ言って空間移動を使ってどこかへ行ってしまった。 レオンが、魔法を解いた。 この時、魔法と術の違いが少し分かった。 魔法は光。術は煙。 これらが大きくかかわっている… 気がした。 そんな事を考えている内にレオンは龍になりきっていた。 [やっぱり猫族は食欲をそそられますね。] ちょっと毛が逆立ったが、冗談として受け流した。 『…ロッソ村でもう猫は食べさせないからね。』 そうしないと、僕はもう立場が無くなる。そして、あっちの世界で生きていけなくなる。 [これですべてが分かるのですから…] レオンの目は、悲しみと苦痛で歪んでいた。自分の王を疑うなんてできないのだろう。 『じゃあ… いいよ。』 僕はそう言ってレオンに背を向けた。 目が合っているとなんだか気まずい。 王と家来の関係なのに、こんな事してるから。 [始めますよ…] そっと呟いた。 僕は背を向けたまま黙っていた。 猫は、見なくても風の動きや匂いで背後の敵を察知することができる。 でも、この全ての感覚をオフにした。 ただ目をつむって黙っていた。 ―怖くないのか? ―いつでも殺すことができるんだぜ? ―あいつのあの態度見たかよ? 自分の頭に良くない考えが浮かんだ。 大丈夫だ。レオンは自分を支持してくれている。 頭の中から不吉な考えを追いやった。 その瞬間、体を何かに打ち上げられ体が宙に浮いた。 そうして… バクゥ!!!! 一瞬で暗い世界へ連れ去られた。 ※ ※ ※ おい! おい!! お前!! 何やってんだよ! こんなあっさり死んじまうのかよ!! こんなあっさり子供を置いていくのかよ!! …こんなにあっさり…… ※ ※ ※ グチュグチュ…… 『…』 暗い胃袋の中。 胃壁が不気味に動き、胃液を出している。 『レオン…?』 そう言ったつもりだが、声が掠れてゼェゼェと風が通るだけだった。 『レオン…!!』 体の外から返事が聞こえてこない。 『レオン!! レオン!! 出してよ! 死んじゃう!!』 落ち着け! 体のどこかからそう悲鳴が上がった。 でもダメ。死んでしまう!!! 『レオン! レオン! 助けて!!』 声が出ないどころか、体が動かない。力がどこにも入らない。 胃液の溜まってきた胃の底で横たわってるしかできないのだ! 『レオン… レオン… レオ…ン…』 唯でさえ掠れ声だったものがもっと遠くなっていっている。 気がつくと、自分はすごく泣いていた。 ずっと。ずっと。目が覚める前から。 胃液の中に涙が落ち、見えなくなった。 ポタポタと… ずっと。 そのときふっと蘇った。 体が宙に浮き、暗闇に送り込まれた後の、真の暗闇の中での言葉を。 ”こんなにあっさり死んじまうのかよ!!” 自分は、声を上げずに号泣しながら、大きく息を吸った。 『助けてぇ!!!!!!…』 大きく声が響き渡った。 [何事ですか!?] 横たわって動けない自分に、全方向から響き渡って来る。 驚いてはいるものの、声には大きな安心感が含まれていた。 その安心感を受け取り、僕は力が抜けてしまった。 グチャッ… 胃液の中に、僅かに起こしてた頭を沈めてしまった。 また僕は… 目を覚ますだろうか…? |