…うう…気持ち悪い…


これが二日酔い… なのかな?

うげ〜…

「よお酔っ払い君よお」
この声は…
「悪かったですね、ニタ公さんよう。未成年はそんなもんじゃないの?」
「さぁ。なんでこんな強い酒が用意されたのやら… プププ♪」
えっと… この笑いは…
「おまえが酒強いのに変えたんじゃないのか…?」
「おかげで夢心地だろ?」
こいつは…ホントに猫仙人? ああ、もうすごく笑いこらえてるし… ってか笑ってる。
ふと、なんとなく気になって空を見ると…

ああ良い天気。

じゃなくて…


もうお昼じゃんかよ!
「ねえ… 僕ヤバくない?」
「何がだ?酔いすぎでか?」
んなわけあるかい。
「今頃さ、家出だ〜人さらいだ〜神隠しだ〜 なんて騒いでるよ。 どうすんの?」
「術覚えたら返してやる。術覚えりゃ誤魔化せる。」
「…どのくらいかかる?」
「遅くて2・3月」
「…逃げていい?」
「ゆるさねぇ。」
「早くて?」
「二週間。」
微妙。
「んじゃ… よろしくお願いします。」
仕方ないよ… 帰らせてくれそうにないし…

でもちょっと術って気になるし。

「おう。んじゃ師匠と呼ぶように。」
「は?師匠? 猫に!?」
「お前も猫だ。」
「そうなんだけどさ… なんか嫌じゃない?」
「…知るか。いいから猫に戻れ。 あと俺の前で魔法は禁止。」
「はいはい…」
そういって腕輪に手を伸ばし…

バリバリッ!!
「痛ッ!」

引っ掻かれた。

「何すんだよ!」
「俺の前で魔法使うなっつってんだろうが!」
「はぁ〜!? 今、猫に戻ろうとしたのに!」
「じゃああっち行け。」
「まったく…」
どうやらニタ… じゃなかった。師匠は修行のために魔法を禁止したのではなく、ただ単に魔法が嫌いみたい…

僕はニタから離れ、魔法を解いた。
一気に体が軽くなる。

『戻りまし… 痛ッ』
顔面から一気に転んだ。
『不器用だねぇ』
ニタはいつの間にか煙管を吹かしていた。
『はいはいすみません。酒呑まされたし、体の重さも違うし。 ところで術っていくつあるの?』
『七だ。笛使い、絵師、読心、空間移動、呪術、予知、言語理解。まずお前は、言語理解、笛使いは習わなくて良い。』
『なんで?』
『言語理解はとりあえず省略。やるにしても修行がめんどくさい。」
ものぐさ猫め…
『笛使いは、お前はもうできるはずだ。』
『そうなの?』
『じゃあ10分で吹けるようになれ。』
『んな無茶なぁ…』



―小一時間後…



バタッ…

『お前はホントに猫股か? なんか別の生き物なんじゃないかぁ?」

驚くのも無理はない。
なにせ1時間で七つの術を使えるようになってしまったから。

『疲れた…」

いま僕は、疲れ果てて地面に倒れた所。
『こんな手っ取り早い弟子は初めてだぜ。』
『そこ、褒めるところじゃないの?』
ちなみに、修行途中に2日酔いはニタにどっか吹っ飛ばされてしまった。
『気にすんな。とりあえず山下りていいぞ。』
『そういえばそうですね…』
なんだか早過ぎて虚しいっていうかなんと言うか…
僕は起き上がってから言った。

『もうちょっと居てもいい?』
『何でだ? 今頃、家出だ〜人さらいだ〜神隠しだ〜 なんて騒いでるんだろ?』
『う〜ん… でもなんかもう少しここに居たい気もする。そこらの皆の名前すら聞いてないし。』
『そうか。んならここに居るがいい。』
『うん。』
そう言ってニタは奥にある洞窟へ歩いて行ってしまった。
ニタが去った後、昨日の飲み会でちょっと見た猫達5・6匹が寄って来た。
『あのぅ…』
『うん?』
その内の1匹、白黒の猫が声をかけてきた。
『吉祥殿は… 人であった時の名前は… 『祥吉』だったですか?』
『まあ そうだけど… あれ? どっかで会った… よね!?』
この柄は… いつか見たぞ…
『…影丸?』
『そうです。あの時は、祥吉との名前だったんですよね。お久しぶりです。」
『…えっと……』
なんて言ったらいいんだろう!
影丸は、随分前にペット禁止のアパートで一時期飼っていた猫だ。
飼いきれなくて、親が公園に捨ててきてしまったんだ。
『その… ごめんなさい!』
僕は自分の前足を見ながら言った。
なぜか目を合わせられなかった。
『は?」
影丸が少し面食らったような顔をしている。
周りの猫たちが気を遣ってか、どこかへ歩き去っていった。
『なんで謝るのです? 吉祥殿なにかされましたか?』
『…僕の家で影丸の事を拾ったくせに、また捨ててしまったから… それに僕が影丸のこと虐めてたみたいだから…』

《祥が虐めたから影丸が凶暴化して弟にも被害が行くから捨てたんだ。》

姉の言葉が頭に浮かんだ。
『ああ、その事ですか。』
影丸は、気にする様子もなく言った。
『大丈夫ですよ。そんな昔のこと。』
むしろ笑顔だ。
『…そんな甘くないでしょ?僕のやったこと…』
僕はうつむいたまま聞いた。
姉によると、僕は仔猫だった影丸の尻尾をつかみ振り回したそうだった。
『吉祥殿は小さかったのですから!私もこうして無事ですから!』
『だって!今たまたま無事なんでしょ? もしも… こ…… 殺していたら!』
影丸の顔が少しずつ曇っていった。
『…吉祥殿、お許しください。』
パンッ!!
『…!!』
僕は影丸に本気で殴られた。
『猫たちのマナーを存知ないからかもしれないですが、猫の気遣いを無視しようなど最低です!!』
それも僕の無神経さによって。
『…ごめん。』
ホントに申し訳なくて頭を下げた。
『…いまの行為をお許しください。』
影丸が深々と頭を下げた。
『そんな… 僕が悪かったんだから。許すよ。』
『ありがとうございます。』
『てか、なんでさっきから敬語で僕の方が目上みたいな話し方なの?』
『えっ!? ご存じないのですか?』
ものすごい驚かれた。
『吉祥殿は猫仙人なのですよ。』
『は!?』
同じくらい驚いた。
『なんで? 来たばっかりだし修行も終わったばっかりなのに』
『ニタ殿は、弟子が来たら即引退だ! っていつも言ってましたが…』
勝手に決めてるよまったく。
『悪いけど、ここにはいられないと思うよ。まだ人間のとこでやることがあるから。』
『そうですか。久しぶりに会えたのに、残念です。』
『ごめんね… 影丸は修行中?』
『はい。読心術が生まれつきで、他には言語理解と笛使いが使えるようになりました。今は呪術の修行中です。』
そう言って、日本語で続けた。
「吉祥殿は修行が早く済んだみたいでしたが、どうですか?」
日本語で応答
「全部終わらせた。」
『えっ…』
影丸は文字通り目を見開いた。
気づくとさっき立ち去った猫たちも戻ってきていて驚きの声を上げている。
『あのね、案外楽にできたのよ… ぽんぽんぽーんって…』
『吉祥殿、 それかなりすごいことですよ。』
影丸がそっと話した。
『修行はニタ殿でも丸1日かかったんですよ。なのにそれを1時間だなんて。』
周りの猫たちがうんうんと頷いた。
『…師匠が1日? すごくない!?』
『えっと… あの…ですからすごいのが吉祥殿であって、』
『なんで僕?』
周りの猫たちがクスクス笑っている。
『…ニタ殿は1日。吉祥殿は1時間。』
『…ああ、そういう事か…』
なんだかぼうっとしてた。
すると影丸の後ろにいた白黒の猫が言った。
『吉祥殿眠いんじゃないですか? 判断力やらいろいろ欠けてきております。』
『…確かにそうかも。 よく考えたら半日以上寝てないわ… 飯も食ってない…』
酔っぱらって倒れたから。何も食べる前にね! と心の中で付け加えておいた。
しかし、残念ながら皆様は読心術を習得していらっしゃるので、聞こえたらしくクスクス笑っている。
『では、少し早く山を降りた方が良いですよ。下の皆様も心配なさってるでしょう。』
『分かった。師匠に声かけた方がいい?』
『イタズラされる前に帰っちゃった方がいいんじゃないっすか?』
また別の猫が答えた。
『…そうするよ。うん。』
そう言ってから覚えたばっかりの術を使った。

化身術 ―自分自身を5段階で化かすことができる。3段階目が丁度いいだろう。

頭の中に、人間姿の自分をイメージする。

化けろ!

僕の体を煙が包んだ。

修行の甲斐があったみたい。
うまく化けられた。しかも耳や目は猫の時と同じようにしっかり聞こえて見えている。

「それじゃ、帰るね。」

人間の声はよく通る。
どこからか修行猫たちが湧いてきた。

『お元気で〜!』
『また寄ってくださいね〜!』
『いつか師事してくださいね〜!』
いずれも猫語だが、聴力は猫のままなので、すべて理解できた。
僕は来た坂道を下っていった。

『この度はありがとうございました〜〜!!』
「・・・!」
僕は足を止めた。

玉吉…

『わざわざ連れてきていただきありがとうございました〜〜!!』
「…逆だよ!お前が僕をここに連れてきてくれたんだよ! 僕が感謝しなくちゃいけないんだよ! ありがとうな〜〜!!!」

ぼくと玉吉は、お互いに見つめあった。

2匹の目に少し涙が浮かんだ。


そうして僕は山を下った。

―猫股としての誇りを胸に抱いて…

 

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